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68.氷の魔女

「すみません、変な言い方して……」

「い、いえ。私も友達はいないので……何というか、新鮮な気分、です?」


 疑問系でフィルがそんなことを口にする。

 フィルはさらに周囲を見渡しながら続けた。


「……ど、どこから探しましょう?」

「うーん、いなくなったところはこの辺りらしいですけどね」


 サーシャとフィルは二人、路地裏の方を歩いていた。

 大通りから外れて、野良猫が集まる場所にやってきたのだ。

 迷子猫のユーカはよく、この辺りに遊びに来ることが多かったという。

 いなくなった日もこの辺りで姿を目撃されていたのだが、その後の消息は不明――そういう状況だった。


「さすがにこの辺りに痕跡が残っているとは考えにくいですけど、少し歩いて探してみますか」

「そ、そうですね」


 サーシャの提案にフィルが頷く。

 捜索の基本はまず痕跡を探すところから――いなくなったばかりであれば《魔力の痕跡》を追うことはできただろうが、今は細かく現場を見ていく他ない。

 サーシャとフィルは路地裏に積まれた箱や樽などを確認しながら進んでいく。

 時折しゃがみ込むように地面を見て、何かが残っていないかを探す。

 主に、ユーカが残したと思われるものだ。


(……さすがに、毛とかだけだと分からなそうだけど)


 目立ったものがなければ、この辺りでさらに聞き込みをするしかないだろう。まずは現場の状況確認だ。

 ユーカが姿を消した路地裏は何方向かに分かれているが、入り組んではいない。

 路地裏を抜ければすぐに大通りだ――ただ、ここに住む動物達は中々大通りの方には行かないという。

 そもそも、ここのすぐ傍には飲食店もある。

 そこで出た生ゴミをあさるために、生活拠点にしている者達が多いのだ。

 ユーカがここにやってきていたのも、おやつか何かを手に入れるためだった可能性はある。


「だ、誰かに連れ去られた可能性も、ありますね」

「そういう可能性もあるんですよね……。ただ、首輪をしている飼い猫を連れ去るとしたらそれなりにお高い子とかだと思うんですよ」


 聞いている限りでは、ユーカは猫としても珍しい種別ではなかった。

 それこそ、その辺りにいる野良と変わらない――わざわざ、連れ去る理由もないだろう。


(まあ、可愛いから連れていくってこともなくはないだろうけど……)


 誰かの飼っているペットが可愛くて思わず――そんな話も決して聞かないわけではない。

 首輪をしているのならば、人に飼われているというのもよく分かる。

 人に慣れているペットというのは、野良に比べたら飼いやすいというところもあるだろう。


(でも、誰かが連れていったのだとしたら……)


 それこそ、サーシャでも見つけ出すことは困難になる。

 サーシャはそう考えながらも、一先ず痕跡となるものを探す。だが、結果として得られるものはなかった。


「うーん、こうなるとやっぱり聞き込みをしてみるしかないかもしれないですね」

「じ、じゃあ、二手に分かれて聞いてみます、か?」

「あ、それじゃあお願いできますか? すみません、巻き込んでしまって」

「い、いえ。どのみち依頼があれば、いずれ《騎士》の誰かが探すんです――今、私達が探しても同じこと、ですよ」


 フィルの言葉に、サーシャはほっと胸を撫で下ろす。

 出会ったばかりの頃は怯えた様子だったので、少し心配なところもあった。

 だが、こうして話してみるとフィルは良い人だった――サーシャはそう確信する。


「じゃあ、私は向こうで聞き込みをしてみますね!」

「わ、分かりました。私は向こうに行ってみます」


 そうして、サーシャとフィルは分かれて聞き込みを開始することにしたのだった。


   ***


「……」


 サーシャと別れたあと、フィルは考え込むように足を止める。

 そして、おもむろに眼鏡を外した。


「何か?」

「ご報告が」


 フィルのすぐ傍に、人陰があった。

 顔まで布で覆われた服で、その顔を確認することはできない。《第三騎士団》の情報部に所属する人間の中でも、諜報部門に特化した者の正装だった。

 フィルは鋭い視線を現れた人物へ送る。それはまるで、『氷のような視線』であった。


「どの件で?」

「現在、あなたが調査している件で」

「ペットの行方不明の件ですか。耳が早いですね」

「元よりあなたが調査していらしたので。ところで、サーシャ・クルトン団長補佐官はどうでしたか?」

「ああ、ついでなので合流してみました。素直で良い子だと思います」

「そのような調査内容でしたか?」

「……もちろん違いますが、あなたに伝えることでもありませんので」

「それもそうですね。では、こちらからのご報告を。ここより南の方で動きがありました。そこに今回の件も関わっているかもしれません」

「把握しました。後程、クルトン団長補佐官と合流し、そちらに移動します」

「承知しました。フィーリア・クルツ団長補佐官」


 話を終えると、人陰は姿を消す――残されたフィルはため息をついた。


「まったく、情報部の仕事も《経理課》の仕事も大変ですね」


 そこにいたのは、先ほどまで怯えたようにサーシャと一緒にいたフィルではなく、《氷の魔女》の魔女と呼ばれる女性の姿であった。

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