66.迷子の子猫
「ちょっと買いすぎちゃったかな……」
両手に袋を下げた状態で、サーシャは店を出た。
小物が基本だが、色々と目移りしてしまった結果と言えるだろう。
(まあ、この後どこに行く予定もないし――)
「わんちゃん、これくらいの猫ちゃん見なかった……?」
「わう?」
「んん……?」
サーシャの目に映ったのは、クリンに話しかける小さな女の子。まだ五、六歳くらいだろうか。左右に結んだ髪が特徴的だった。
サーシャは女の子の後ろに立って尋ねる。
「どうかした?」
「! お姉ちゃん、この子のお友達?」
「友達っていうか――あ、そうそう。友達だよ」
『飼い主』というのが的確な表現だろうが、この子にとってはまだ『友達』という表現の方がいいらしい。サーシャはそれを理解してすぐに少女に合わせた。
少女はサーシャの前に立つと、
「じゃあじゃあ、これくらいの猫ちゃん見なかった?」
「これくらいの猫……?」
少女の手は少し小さめのボールを表している。
クリンに聞いていた通り、どうやら小さな猫を探しているようだ。
(この感じだと、ペットの猫が迷子になったのかな?)
サーシャは少しだけ視線を周囲に向けるが、少女の両親らしき姿はない。
ひょっとすると、すぐ近くに家があるのかもしれない。
だが、小さな女の子が町中を一人で歩くのは危険だろう。
「えっと、他に特徴とか分かる?」
「んー、黒色で……目が眠そう」
「眠そうな黒猫、ね。見つけたらお姉さんが教えてあげるから、お家はどこ?」
「知らない人にお家教えたらいけないんだって」
「あ、そ、そっか」
(意外としっかりしてる……)
そういう風に教育されているのだろう――だが、一人でペットの猫を探しに来たのだとしたら放っておくわけにもいかない。
「私はサーシャっていうの。あなたは?」
「……ミナ!」
「ミナちゃんね。猫ちゃんは私が探してあげるから」
「! ほんと?」
「うん、その代わり、私と友達になってくれる?」
「友達……それならいいよ!」
「じゃあ、今から私とミナちゃんは友達ね。それなら、家の場所を教えてくれてもいいでしょ?」
「うん! そっちの裏のところ!」
少女――ミナは家の方角を指差す。やはりすぐ近くに家があったようだ。
サーシャは頭の上にクリンを乗せると、ミナの手を取って連れていく。
さすがに『眠そうな黒猫』だけでは情報は少ない――それとなく、両親からも話を聞くつもりだった。
(見つけてあげるとは言ったものの、ペットがいなくなったって取り扱ってくれる部署とかあるのかな……?)
サーシャとて探すつもりはあるが、まず初めに騎士団に連絡するのが一番早いだろう。
もっとも、ペットがいなくなったという事案を取り扱ってくれる部署があるかどうかは確認しなければ分からない。
「猫ちゃんがいなくなったのはいつ頃?」
「二日前から戻ってきてないの」
「普段は近くで放し飼いにしてるってことね。じゃあ、しばらくしたら戻って来るかもしれないから、ミナちゃんは家で待ってて」
「やだ。わたしも探す!」
「でも、ミナちゃんがいなくて猫ちゃんも心配して探しに行っちゃうかもよ?」
「! そうかな……?」
「そうよ。良い子だから、ね?」
「……分かった。じゃあ、これ」
ミナはポケットから、小さなカチューシャを取り出して、サーシャに手渡す。
「これは?」
「ユーカの」
ユーカ――それが猫の名前なのだろう。
サーシャはそれを受け取って、ポケットにしまう。
ミナを家に帰すと、ミナの母親が出迎えてくれた。
母親は母親で、ミナがいなくなったと心配して探しに行こうとしていたらしい。幸いにも、そのタイミングでサーシャがミナを連れ戻した形になる。
サーシャはミナの母親から改めて猫のユーカの特徴を確認した。
「――分かりました。じゃあ、私の方で騎士団には確認しておきますので」
「そんな……見ず知らずの子にそこまで任せるわけには」
「大丈夫ですよ。こう見えても、私も騎士団に所属している身ですので」
「え、まだそんなにお若いのに……?」
「ふふっ、よく言われます!」
笑顔を浮かべて、サーシャはそう答える。……サーシャが属しているのは《魔物》を専門とした《第二騎士団》ではあるが。
「サーシャお姉ちゃん、ユーカのこと、お願いね……?」
「分かった。必ず見つけるからね」
サーシャはミナとそう約束して、その場を後にする。
そこでようやく、サーシャは今後のことを考える。
(……さて、どうしようかな)
一先ずできることは騎士団に確認を取ることだろう。
サーシャはそう考えて、すぐ近くにある騎士団の支部へと向かうことにする。
丁度すぐ近くには、《第三騎士団》の支部がある。騎士団内での役割は《情報部》――諜報活動などを主に扱う部署ではあるが、それなら騎士団についても詳しいはずだ。
サーシャは両手に買い物袋を下げたまま、第三騎士団の支部へと向かったのだった。




