64.サーシャの休日
大仕事を終えてから一週間くらいが過ぎた頃――朝、サーシャは一人部屋にいた。
アウロの持ついくつかの拠点のうちの一つ――昨日の仕事を終えて初めてやってきたところだが、ここにはサーシャの私物は一切ない。
それどころか、久しぶりに使うらしく少し埃っぽいところもあった。
「一先ず、全部の部屋掃除からかな……」
アウロがあまり気にしない性格であるため、サーシャがするしかない。
ため息をつきながらも、サーシャは家の掃除を地道に始めることにした。
一先ずはリビングと自室……それから、アウロの部屋だ。
今日、アウロは仕事で戻って来ることはないと言っていた。
サーシャはアウロの補佐官ではあるが、常日頃から共に行動しているわけではない。
アウロの休日にはサーシャが一人で本部に赴くこともあるし、こうしてサーシャが休みの日にアウロが仕事に出ていることだって珍しくはない。
(息抜きが人の家の掃除っていうのもどうなのかな……)
雑巾を絞りながら、サーシャはそんなことを考える。
元々、休みの日に友人と遊ぶ予定があったかと言えば――そもそもサーシャに友人という友人はいない。それこそ、騎士団に入ってからアルシエという話し相手ができたくらいだ。
別にそれを寂しいと思うこともないが、十五歳の少女の休日としては、少し物足りないところがあるというのも事実である。
(掃除は程々にして買い物にでも――)
「わうっ!」
「あ、こら! そこはまだ掃除してないのに!」
サーシャの考えを遮ったのは、《一角狼》のクリンだった。
埃にまみれたベッドの下からひょっこりと顔を出し、その毛並みにしっかりと埃をつけている。……ある意味、モップの役割を果たしているような感じだった。
「もう、私が掃除している間は大人しくしないとダメだからね?」
「わう?」
サーシャの言葉に、クリンは首をかしげている。
当たり前だが、サーシャの言っていることが理解できているわけではないだろう。
ただ、まだ短い期間とはいえ、一角狼が賢い魔物であるということは、サーシャにも理解できている。
誰にでも懐くというわけではなく、どうやらサーシャを親のように認識しているのは確かなようだ。
勝手にどこかに行くということはなく、サーシャが待っているように言えば大人しくその近くにはいる――少しずつだが、サーシャの言いたいことは何となく察してくれている、というところだ。
(それに、少し大きくなってきたかな?)
元々どれくらいの年齢だったのか分からないが、クリンはおそらく生後一年にも満たないくらいだろう。
大人の一角狼の成長した姿を考えると、クリンもいつ大きくなってもおかしくはない。
もちろん、急に大きくなるわけではないが――それ相応のサイズにはなるだろう。
「大きくなったら、さすがに王都では暮らせないのかな?」
「わうっ」
クリンを抱きかかえて、埃を取りながらそんな風に呟く。
いずれは森に返すことも考える必要はあるだろう。そんな時、サーシャの心の中を過るのは、昔のこと。村を襲った、一角狼のことだ。
……クリンがそんな風になるとは思えないけれど、それでも少し心配がある。
「それまでは、私がしっかりと世話をしないとだね」
サーシャの考えとしては、そうならないように自分でしっかり世話をする――人に慣れた一角狼であれば、きっと襲うようなことはしないだろう。
そんな想いが、サーシャにはあるのだ。
「だから……とりあえず掃除中は大人しくしてて――ん、でも……モップみたいに動いてもらった方が効率いいかな?」
クリンが出てきたところの埃を見ると、毛並みにしっかり巻き取られたためか、割と綺麗になっているのが見えた。むしろ、クリンを野放しにしている方が綺麗になるのでは、という思いがサーシャの中に過ぎる。
「……クリン」
「わう?」
「とりあえず、今日は家の中で遊んでていいよ」
「わうっ!」
こういう時だけ、サーシャの言葉を理解しているかのように大きな返事をして、クリンが飛び出していく。
定期的に埃まみれになったクリンを掃除しながら、サーシャは部屋の掃除を続ける。
(よし……部屋の掃除が終わったら、買い物に行こう)
せっかくの休日なのだから、とサーシャはそんな決意をする。
この辺りにはまだ詳しくはないが、近くに雑貨屋があるのは把握している。
……そこに、ぬいぐるみが売っているという事実も。
「ふふっ、レア物があるといいな」
思わず頬が緩みながら、そんな風にサーシャは呟く。
サーシャの一人の休日は、始まったばかりだった。
更新遅れてすみません!
今回はサーシャのお休みからお話がスタートしていきます!




