55.朝方の
翌日――サーシャは朝方に目を覚ましてすぐに川で顔洗っていた。
本当なら水浴びくらいしてしまいたいところだが、このキャンプ地にいるのは男ばかり。
いくら前世がフォルという男のものであったとして、それはサーシャには関係ない。
男性の裸を見れば、当然動揺くらいはする。
(まあ、そんな見たことはないけど――って、朝から何考えてるんだろ)
パシャリと川の水で顔を洗う。
「タオル、タオル……」
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
サーシャにタオルを手渡してくれたのは、第二騎士団のメンバーの一人だった。
さすがにここにいる全員の名前を覚えることはできていないが、顔くらいは把握している。
昨晩も、何人かに挨拶したくらいだ。
その結果、サーシャも何故か率先して挨拶を受ける側になっていた。
「おはようございます、クルトン騎士団長補佐官」
「おはよう――」
「おはようございます! クルトン補佐官殿!」
「あ、おは――」
「おはようございます!」
(……挨拶が追い付かないんだけど……!?)
気付けばサーシャは、あまり人目に付かないところに逃げ出していた。
どうしてこんなことになっているのだろう。
挨拶されることはむしろ嬉しいくらいだが、どのメンバーもサーシャに対して好意的な感じがひしひしと伝わってくる。
昨日の今日でそんなに好感度が上がるようなことをした覚えはない。
(……でも、きちんと挨拶するのは今日が初めてだし、こういう感じの人が多いのかな? でも、あのアウロさんとレイスさんの隊でこんなに爽やかなのかな……?)
地味に失礼なことを考えながら、サーシャは自身のテントに入って着替え始める。
そこで自分の服装が、かなりの薄着であることに気付く。
(……! 着替えて出ればよかった……! まさか、私の服が薄着だから声かけてくれたわけじゃないよね……?)
そんな邪な考えを持つ騎士は少なくあってほしい、と思いながらサーシャは着替え始める。
今日は、サーシャを主軸とした作戦が決行される。
すでに騎士団のメンバーにも伝わっているだろう――この森にやってきてから、随分とレべルの高い魔法を使うようになっている。
サーシャにとっては負担にはなるが、第二騎士団のメンバーとして活躍できる場所でもあった。
だからこそ、サーシャにも気合いが入る。
(……私が優秀だってことを見せれば、アウロさんも心配するようなこともなくなるだろうし)
補佐官としての優秀さだけではない――まだ、アウロはサーシャのことをどこか子供のように見ている節がある。
実際、サーシャもそればかりは否定できない。
同い年ならばまだ学園で魔法を習っているレベルなのだから。
それでも、サーシャにも補佐官として活動するならば誇りというものは持ちたかった。
アウロの補佐官なのだから、支えられるのではなく支える側にならなければならない、と。
「よしっ」
「準備できたか?」
「っ! アウロさん!?」
不意に後ろから声がかかり、サーシャは驚いて振り返る。
そこにいたのはアウロ――なのだろうが、テントの中には入ってきていない。
サーシャの自室にはノックなしで入ってくるくらいだからと、着替え中のサーシャは条件反射で咄嗟に胸を隠す。
「俺が話すたびに驚いてねえか?」
「い、今着替えてますから、あっち行っててください!」
「中に入るわけじゃねえ。ただ、準備ができてるか聞いただけだ。随分と気合いが入ってるみたいだな」
「っ!」
どうやらサーシャの気合いの声がアウロにも届いていたらしい。
少し恥ずかしい気持ちを抑えながらも、サーシャは答える。
「もちろん、準備もできていますし気合いも入っていますよ」
「そうか。じゃあ早速だが今日の話だが――」
「わああああっ! 着替えてるって言ったじゃないですか!? なに入ってこようとしているんですか!?」
サーシャが慌てて近くにあった物を投げる。
寝る時に使っている猫の顔をしたクッションが宙を舞った。
テントが個室だからと荷物に忍ばしておいたものだが、テント越しにアウロの顔にヒットする。
「準備できてねえじゃねえか」
「心の準備ってことです! とにかく、着替えたら行きますから!」
「ああ、それだけ元気なら大丈夫だな」
そう言い残して、アウロがテントから離れていく。
やはり、サーシャのことを気にかけていたようだ。
一人テントに残されたサーシャは、少し怒ったような表情のまま着替えを始める。
「……まったく、そもそも女の子がいるって分かってるんだから少しくらい気を使っても……って、使ってるから来たんだよね」
これがアウロなりのやり方なのだろう。
アウロがサーシャのことを心配しているのは明白だが、サーシャとしては必要以上に心配してもらいたいとは思わない。
(……お互いに、対等の関係になるために)
かつてフォルがアウロに願い、アウロがフォルに追いついたように――サーシャはサーシャとして、アウロと並び立つ決意をしたのだ。




