49.次の目的
サーシャ達が森に入ってからしばらくして、徐々に魔物の気配が減ってきた。
サーシャは周辺を警戒しつつ、まだ魔法は維持し続けている。
まだ十五歳のサーシャには伸び代がある――ほんの少し前に比べても、魔法を維持できる時間は延びていた。
それでも、二つの魔法を維持するのには負担がかかる。
(《空間把握》の範囲を減らそうかな……ううん、それより《飛剣》が多い、かな)
先ほどのように大群で押し寄せて来ているわけではない。
時折やってくる《黒鎧蟻》に対して攻撃をするだけだ。
戦闘の後半になるにつれて、アウロとサーシャでは討伐数に随分と差が出ていた。
一撃で何体も屠れるアウロに対して、サーシャはミスのないよう慎重な動きを要求される。
もちろん、何も考えずに火の上級魔法を放てばより高い殲滅力を出すことはできる。
フォルならばそれをやるのだろうが――サーシャは違う。
上級魔法はサーシャにとって負担が大きいのもあるが、森への被害を減らすことを配慮しての動きだった。
(まあ、それはアウロさんの攻撃見た後だと複雑だけど……)
サーシャの歩く道は、まるで大型の魔物でも通ったかのようにひらけている。
ひしめき合っていた木々が薙ぎ倒され、森に一つの道ができていた。
縦に振ったときと横に振ったときの道幅がよく分かる――どちらも広い道ではあるが、横はけた違いだった。
魔力を帯びた一撃は、サーシャの知らないアウロが修行の結果得たものだろう。
アウロは魔法について詳しいわけでもなく、簡単な魔法も使えない。
魔法にも得手不得手は当然あって、アウロははっきり言ってしまえば魔法に関しては才能がないのだ。
だが、魔力は保持している。
サーシャから見て、アウロが意図的に魔力を操作している様子はない。
おそらく、感覚だけで調整しているのだろう。
(アウロさんらしいと言えばアウロさんらしいけど……)
サーシャにはできない芸当だった。
(……というか、アウロさん先に行き過ぎじゃ……?)
サーシャが歩いていても追い付かない。
現状、アウロが目指しているのは巣だ。
森の奥地にできているであろう蟻塚――これを破壊しない限りは、また魔物の群れが襲ってくることになる。
(攻撃は止んでるけど……)
まだ巣の規模が分からない以上、どれだけの数が潜んでいるのかも判断できない。
黒鎧蟻は一体一体の強さはそこまで出もないが、軍隊としての強さを持つ。
闇雲に真っ直ぐ進んできた彼らにとっての障害――それが現れたから、急遽攻撃を止めた可能性もある。
そう考えたとき、サーシャは少し歩を早める。
アウロが攻撃を止めたであろうところからは、生い茂った森の中へと入ることになった。
(女の子一人置いていくなんて――って、考えてる場合じゃないよね)
今は仕事の途中だ。
サーシャもそれくらいのことは弁えている。
アウロが付けたマーキングを頼りに進んでいくと、ようやくアウロの背中に追い付いた。
「アウロさん!」
「来たか」
「来たか、じゃないですよ! 一人でどんどん先に行って……!」
「まあ落ち着け。髪にクモの巣ついてんぞ」
そう言いながら、アウロはペリペリとサーシャの髪からつまむようにクモの巣を剥がしていく。
「じ、自分でできますから」
「そうだな。後は風呂にでも入れ」
サーシャの言葉を聞いて、くるりと背中を見せるアウロ。
自分で言っただけに、サーシャは少し複雑な表情でアウロを見る。
(うっ、やるなら全部取ってくれてもいいのに……)
そんなサーシャの気持ちを知らないだろう――アウロはすぐに仕事の話に戻る。
「レイスの奴がすでに先に進んでるな。これなら巣も処理してるかもしれん」
アウロの言葉に、サーシャは少し驚く。
副団長のレイス――確かに第二騎士団の副団長というだけあるのだから、実力はあるのだろう。
だが、これほどの殲滅力を誇るアウロよりも早く行動ができるとは。
「レイス――ファルマー副団長ってすごい方なんですね」
「まあ、実力は本物さ。次の団長はあいつかもしれん」
「次のって……アウロさん辞める予定でもあるんですか?」
「例え話だ。辞める気なんざさらさらねえ」
アウロの返答を聞いて、安堵するサーシャ。
――というより、誘っておいてすぐに辞められたら怒りの方が大きくなるという心配だった。
「とにかく、だ。追いかけるぜ、サーシャ」
「はい。わかりました」
こくりと頷いて、サーシャはアウロに続く。
次の目的は、レイス達との合流だった。




