43.申請の結果
サーシャは一人、審査の結果を待っていた。
騎士団本部の中に、各種申請内容に応じた窓口がある。
普段かかわり合いのある部署と言えば《経理課》だが、いまサーシャがいるのは《監査課》の窓口だった。
騎士の身辺調査といったところも行う部署であり、本部にある『課』のなかでは珍しく第一から第三まである騎士団の部署として所属している。
『第三騎士団』――情報部とも言われる部隊であり、王国においては諜報活動など多岐にわたった仕事をこなす。
昔から存在する騎士団ではあるが、サーシャの過去の記憶――フォルも詳しいことは知らない。
今日は朝から《団長会議》があると、アウロが向かっていった。
そこには、第三騎士団の騎士団長もいるはずだ。
(大丈夫、だよね……?)
長椅子に座って待つサーシャの横で、クリンがサーシャの長い髪の先をおしゃぶりのように銜えて(もしくは『咥えて』)いた。
それにサーシャは気付いておらず、毛先がクリンによってしっとりとさせられていっている。
心配そうにしているサーシャとクリンの光景は色んな意味で目立っていた。
第二騎士団のアウロ・へリオン――《戦神》と呼ばれる彼は第二騎士団に限らず本部の人間達からも畏怖される。
かつて、魔物の軍勢に一人で挑み、血だらけになりながらも戻ってきたアウロが笑っていただとか、そんな噂話が先行しているのだ。
どこからそういう噂話が流れてくるのか――それは定かではないが、少なからずアウロの補佐官であるサーシャもまた、目立つ存在ではある。
あのアウロ・へリオンの補佐官に僅か十五歳で指名され、そのまま騎士団所属となった少女――目立たないはずもない。
見た目は少女だが、あの《戦神》と並び立つ程の実力者――実際、サーシャが主席で入学しているという裏付けの情報まであった。
早い話――サーシャは動向が観察されている状態にあるのだが、そんな事実にサーシャは気付いていない。
窓口で誰かが立つたびにパッとそちらの方を向いては一喜一憂する姿はただの少女と変わらなかった。
(うぅ、意外と時間がかかるんだ……アウロさんは大丈夫だって言ってたし……)
「サーシャ・クルトンさん?」
「は、はいっ!」
勢いよく立ち上がったサーシャは、その場にいた本部の人々の視線を一斉に受ける。
ぶらん、とサーシャの髪に噛みついたままクリンがぶら下がる。
「いた、いたたっ! え、なに?」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、はいっ! 申請の件ですよねっ」
ぶら下がったクリンをそのままに、サーシャが窓口へと向かう。
担当の受付の若い男性が一枚の紙をサーシャの前に差し出す。
「《一角狼》の幼体の保護の件ですが、こちら許可が下りました。その証明書になります」
「! あ、ありがとうございますっ」
サーシャは心配していたが、滞りなく申請が通ったとのことだ。
これで、サーシャは正式に騎士団からクリンの面倒を見ることを認められたことになる。
サーシャがクリンにその喜びを伝えようとするが、
「あ、あれ、クリン!?」
「……その、一角狼の子供でしたらあなたの背中に」
「……へ? 背中って――あ、道理で痛いと思った……!」
サーシャがクリンを背中から引き剥がして床に置く。
噛み噛みとされていた毛先は涎にまみれているが、サーシャはそれには気づいていない。
「もう、こういうことしたら『めっ』、だよ?」
「わうっ」
「……あの、申請内容について一応確認させていただきたい点がございまして」
「っ! す、すみません……!」
思わずクリンを注意することを優先してしまったが、まだ話の途中だった。
サーシャは受付の男性が指差した項目に目を通す。
「現在のお住まいについてですが……アウロ・へリオン騎士団長と同じお住まいということで宜しかったでしょうか?」
「――」
サーシャの動きが一瞬止まる。
別に慌てるような話ではない。
あくまで同じ場所で暮らしているというだけ――その確認であり、それ以上でもそれ以下でもない。
サーシャは努めて冷静に、答えた。
「そ、そうですけど……っ?」
何か悪いですか、とでも言いたげな感じになってしまい――微妙な雰囲気がその場に流れることになってしまった。
最強の傭兵が引退するので、その傭兵に育てられた少女は王都で暮らすことになりました
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強い系主人公が活躍?する予定の気分で更新の新作です。
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