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40.ハンバーグ

 ケーキを食べ終えて、さらにアルシエの家でハンバーグ作りの練習をする――それだけ帰る時間は遅くなっていた。

 日が暮れる前ではあるが、サーシャが帰宅するとアウロが顔を出した。


「遅かったな」

「色々と準備に手間取ってしまって……あ、クリンは大丈夫ですか?」

「ああ、あの犬っころなら元気だぜ」


 出掛ける前にアウロにクリンのことは任せていた。

 まだ小さいとはいえ、一角狼の子供だ。

 アウロがいるから一先ず心配はしていなかったが。


「――で、飯の準備はすぐできるのか? もう腹減ってるからよ」

「え、まだ夕方前くらいですけど……」

「お前が飯作るって言うからよ、てっきり昼飯も作るのかと思って待ってたんだよ」

「……あっ!」


 サーシャは昼頃にあった違和感を思い出す。

 ――今日のご飯はサーシャが作る、そうアウロと約束していたのだ。

 別にそれは、夕食のことだけを指す言葉ではない。

 サーシャは自分の言ったことをすっかり忘れていた。


「……え、えっと、すぐに作りますっ」

「別に急かしてねえからよ」


 アウロはそう言うが、サーシャが帰ってきてすぐに顔を出したあたり空腹なのは間違いない。

 アウロが空腹のときにサーシャはケーキを食べて満足していたという事実に罪悪感を覚えつつ、サーシャは急ぎ調理の準備を始めた。

 サーシャが来てから使われるようになった調理器具の数々――手入れはされていないのかと思ったが、アウロはどうやら武器も含めたこういう器具の整備をするのは好きらしい。

 サーシャは買った食材を広げて準備に取り掛かる。

 アルシエから作り方も、もらったレシピもある。

 実際にアルシエの家で作って成功だってしている。


(成功率はおよそ六十パーセント……でも、それだけあれば十分っ)


 何も十分ではないが、サーシャはまずハンバーグの種を作り始める。

 実際、ハンバーグを作る上では一番重要なところだ。

 基本となる挽肉はすでに調理済みと言ってもいい。

 サーシャがやるべきことはまず玉ねぎのみじん切りだった。

 野菜にも種類はあるが、やはりハンバーグには玉ねぎが一番合う。

 サーシャは包丁を握りしめると、玉ねぎを切り始めるが――


「……何で見ているんですか?」


 ふと視線が気になって、サーシャは声をかけた。

 調理をするサーシャの姿を、アウロがじっと見てきていたのだ。


「いや、どういう風に作るのか気になってな」

「……信用していませんね?」

「そんなことはねえが」

「だ、だったら出来るまでのお楽しみです! はい、そっちで待っていてくださいっ」


 サーシャはアウロを台所から追い出す。

 アウロもサーシャの言うことは素直に聞いてリビングの方へと戻っていく。

 気を取り直して、サーシャは再び包丁を取った。

 料理の基本についてサーシャは知らないわけではない。

 包丁を持たない方の手は猫の手と言って、指を折り曲げて玉ねぎにあてがう。

 包丁の刃のない部分には人差し指を添えて、サーシャは玉ねぎを切り始める。

 料理については簡単なものが多いだけで、サーシャは別に包丁が扱えないというわけではない。

 四等分にした玉ねぎをそのまま微塵切りにしていく。


(うっ、どうして玉ねぎは目にしみるんだろう……)


 そんな疑問を感じつつ、涙目になりながらサーシャは調理を進めた。


(それと玉ねぎは……)


 アルシエから教わったのは玉ねぎを炒める場合と炒めない場合――それによってもハンバーグの味や食感は変わってくるという。

 これを聞いただけでも中々料理とは奥深いものだ、とサーシャは感じていた。


(食感か甘みか……デザートは甘い方が好きだけどハンバーグは食感があった方がいい、かな)


 アウロにどっちが好きか、と聞いてもどっちでもいいと返ってくる予想しかできなかった。

 サーシャは生の玉ねぎをハンバーグの種に混ぜるという選択に出る。

 卵に玉ねぎを挽肉に混ぜて、サーシャが次に取り出したのは食パンだった。

 少量の牛乳にちぎった食パンを浸してサーシャはそれをつなぎとする。

 それをこねれば、ハンバーグの種が出来上がるのだ。


「……次は空気を抜くところ」


 ハンバーグの種を両手でキャッチボールすることで中の空気を抜く。

 この工程はハンバーグには必要だ。

 左右よりも上下でキャッチボールをする方がいい、とアルシエは言っていた。

 ただ、これが意外と難しい。

 サーシャはそもそも、同い年の人と比べても手の大きさも小さい。

 さすがにいきなり上下でキャッチボールするような技術はない――ないのだが。

 スッとサーシャは両手を前に出す。


(魔力の使い方なら、私も自信はあるんだよね)


 両手の先に魔力を込める。

 魔力はその性質を変えることで、例えば吸いつくような使い方もすることができる。

 サーシャの小さな手でも、それなりに大きなハンバーグをキャッチすることができるようになる。


(この要領なら……!)


 魔力を使ってハンバーグを作る時点で相当本気だが、サーシャはそのあたり気にしていない。

 調理ではないが、魔力や魔法を使うことで薬の調合などを魔導師は行う。

 ちなみに、調理の成功率六十パーセントはこの過程で完璧さを求めるあまり魔力を使っていることに起因する。

 はっきり言って、ハンバーグを作るのに魔力を使ったことがある人間はサーシャくらいのものだろう。

 完璧を求めるあまり、逆に成功率を下げているのだ。

 だが、幾度と繰り返した練習によって、サーシャはハンバーグの空気を抜くという点において高い集中力を誇っていた。

 魔力の微細な流れも、サーシャはしっかりと把握してハンバーグのキャッチボールを始める。

 そして、空気が抜けたかどうかはハンバーグの種の中を流れる魔力によって把握できる。

 サーシャの目は、その魔力の流れを見ているのだった。


(――なんで私、ハンバーグ作るのにこんな本気なんだろう……)


 その事実に気付いてしまったのは、ハンバーグの種が出来上がる瞬間だった。

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