マッハ!!!!!!!!
マッハ!!!!!!!!
公開年:2003年
監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ
キャスト:トニ・ジャー、ペットターイ・ウォンカムラオ、プマワーリー・ヨートカモン、チャタポン・パンタナアンクーン、等
今回紹介する映画は「マッハ!」です。本当は「!」が8つあるけどめんどくさいので書きません。配給会社の圧が強すぎですね。ちなみに原題は「Ong Bak」で、タイ語で傷付いた(Bak) 仏像(Ong)とかの意味を持つらしいです。
アクション映画が好き? ならばこいつを観なあ!!!!!!!!
という訳で、「CG無し」、「ワイヤー無し」、「早回し無し」、「スタントマン無し」、「最強の格闘技ムエタイを使う」、という五つのアクション公約を宣伝文句に、宣伝以上にムエタイでバンコクを暴れ回るのがこの「マッハ!」というタイ製のアクション映画です。
(本当はやられ役はスタントマン併用だったり演出の一部にCG使ってるけど、まあ主人公のアクションに直結してる訳じゃないのでOKです)
ストーリーは至って単純、主人公のティンが住むタイの地方のノンプラドゥ村、そこで人々に崇められていた仏像の頭が何物かに盗まれまれ、それを取り戻しにティンはムエタイを武器に悪徳仏像収集家へと一人立ち向かう、といういかにもアクションの為のシンプルな王道そのものですね。
主演はトニー・ジャー、10代より古式ムエタイや映画のスタントを習い、この「マッハ!」でデビューを果たし、その後「マッハ!」の続編や「トム・ヤム・クン!」でも主演を果たし、ハリウッドでも「トリプルX 再起動」や「ワイルド・スピード SKY MISSION」に出演してたり、今のアクション映画界隈でも特に存在感のある一人だと思います。
最近は「トリプル・スレット」でイコ・ウワイス、タイガー・チェン、スコット・アドキンス、マイケル・ジェイ・ホワイト……といったマーシャルアーツ系のアクション俳優達と共演したり、「モンスターハンター」の実写版に出演決定で大変盛り上がっています。
(公開されてる実写モンハンのビジュアル見てみ、あれ絶対成功するから)
監督はプラッチャヤー・ピンゲーオ、タイ出身の映画監督・プロデューサー・脚本家で、2000年代初頭からタイ製アクション映画を発展させてきた第一人者でもあります。トニー・ジャーも後の「トム・ヤム・クン!」や「マッハ!無限大」でまたタッグを組んだりもしてたり。
ストーリーこそ単純ですが、ムエタイは勿論、武器に逃走劇やカーチェイスまでとにかくアクションの極意が詰まった映画となっており、その魅力を余すことなく伝えていきたいと思います。
序盤の方では華麗なパルクールも見せつけてくれます。本当にワイヤー無しかってくらいの跳躍力だわ、障害物避けるのがとにかくスレスレで危なっかしく、しかも80年代のジャッキー映画みたいに別アングルで何度か同じシーン流して印象づけてくれたり(笑)
同じく最初の方で、ひょんな事から違法格闘賭博クラブで戦うシーンはもうムエタイの技が華麗で敵を一掃するのは見てて楽しいですね。特にこの映画は先進国の人々を相手にして倒すといういかにも愛国的な要素が含まれてて、自国文化の誇りってのを感じます。
タイ人を舐めきった白人のチンピラだったり、勝つために手段を選ばない凶人だったり、個人的には日本人のヤンキーをボコボコにするシーンが好きです。ムエタイがいかに攻防一体の技術を持つのかが分かるんですよね。
ところで、武術や格闘技における攻撃のタイミングはご存知ですか? 相手の攻撃を受け止めたり、躱して反撃するというのは皆さんも思い浮かぶかと思います。
そこへ更に進むとどうなるか、「止め」です。例えば相手のパンチに対してその上腕を殴り止めたり、相手のキックに対してその腿を蹴り止めたり、攻撃を攻撃で止めるという訳ですね。しかも普通に打つより相対速度が速いので当然威力もある。
強い武術家や格闘家は特にこの技術に長けてて、トニー・ジャーも相手の蹴りを靴裏や膝のガードで止めて反撃するという最小限の動きを最大限活用するのが流石ですね。
他にもボクシングでも使われるパリィや肘による防御、またムエタイはルール上肩プッシュがOKなので肩を押して相手にパンチを打たせないといった事も可能です。
中盤では「トゥクトゥク」という三輪タクシーでのカーチェイスもありますが、こちらも見応えがありました。カーチェイスって特に舞台とする地域の特徴が浮き出るんですが、スラムが蔓延ってたり建設が途中だったりで未開のタイという地の雰囲気が味わえるシーンでもありますな。乱暴な乗り方するわちゃんと景気良く落下させるわ爆発させるわで安心です。タイのチンピラってこわい。
しかしこの作品、裏社会が舞台なのもあってかやたら賭博が出て来たり、金癖が悪いキャラクターが主人公と行動を共にしたりするんですが、元々タイではギャンブルが盛んでムエタイも国技であると同時に国家認定の賭博でもあるんですよね。
また、ギャンブル好きなタイの人々はそれ故に日々の行いを大切にする事も多く、徳を積むために小鳥を買って逃がすという事までするそうで。
賭博と直接関係する訳じゃありませんが、ムエタイやラウェイ(世界一危険といわれる、ムエタイに似たミャンマーの格闘技)の選手も謙虚さや日頃からの礼節が求められたり、仏教やインド由来の神教の因果の信仰というのが人々の心にも染み着いているみたいですね。
終盤の方のアクションはムエタイは勿論、敵味方双方の殺意がめっちゃ高い。従来のカンフー映画さながらの攻防一体の動きは当然ながら、多くの格闘技では禁止されている肘や膝を使った重くて速い一撃は見てるだけでたまらんですね。特に肘や膝は人間の骨の中でも尖ってて、痛めにくく初心者でも威力が出やすいという特性があります。
他にもこれでもかと連打させて相手を崩すローキック、体重ごと繰り出す前蹴り合戦、リズムを利用した段階的なフェイント、棍に剣に短棒二刀流……しかもトニー・ジャーもやられ役も実際に攻撃の一部を打たれてるというからヤバい。回し蹴りも縦に横に斜めに全方位繰り出す魅せもあります。
トニー・ジャー自身がスタント努めている事もあってカットが少なく、全身の姿勢をくまなく映しムエタイのポーズを印象付けるカメラワークも見事です。
この作品は先述の通り、良いことをすれば良いことに巡り、悪い事をすれば罰が当たる、仏教的な「因果」という当然ながらの昔からの言い伝えとでもいうか、タイという未開の地の文化というものも少なからず伝わってくるんですよね。
マッハ!は村で崇められている仏像を守るストーリーですが、序盤の村の人々の悲しさからいかに仏が信仰されていたのかも分かるし、冒頭には村の祭りだったり物語の「ゴール」として出家といった概念も取り入れている辺りは愛国的ともいえる作品でもあります。特に中盤からは同じ村を出て都会で遊び明け暮れる人物が相棒として活躍しますが、彼が改心に至るまでのドラマも見ものですね。
余談ですが、タイは仏教国であると同時にインドの神話も混じっており、托鉢だの修行とかインドの神様達を題材にした人形劇もあったり、煌びやかな建物の装飾はインドと似てるし、ムエタイの型にも神話がモチーフとなっているものもあるんですよね。
この辺りってかつてアニミズムと仏教が融合した日本の文化に似てるなあと個人的に思ったり、あとムエタイやラウェイの選手が試合前に行う舞踊「ワイクルー」(ワイ:合掌 クルー:師)も特徴的で、日本の相撲と同様、格闘技であると同時に神事としての要素が強かったりします。
ところで、筆者は色々な格闘技や武術が好きですが、最近は特にムエタイにハマってまして(それでこのレビューを書いた)、一昔前に活躍したブアカーオやらウィラサクレックとか、あと格闘系YouTuberの試合見たり、自分でもスタミナが持たん癖にシャドウボクシングトレーニングしてる限りです(笑)
特に古式ムエタイより締めや固め技を取っ払って打撃に特化した現代式ムエタイは覚えるのが結構簡単で、蹴りの練習は腹筋が付くのでオススメです。そこで、ここからはムエタイのちょっとした格闘技術について語ったりしてみます。
ムエタイのルーツは中国武術と同じく、紀元前からインドに存在する武術、カリラパヤットとされており、仏教やインド神話の伝来と同時に伝播されたといわれています。アユタヤ朝がタイを支配していた十六世紀頃には東南アジアで戦争が行われ、ここで様々な武術が取り入れられ研究され、そして現在でいう古式ムエタイ(ムエボーラン、ムエカッチュアとも呼ぶ)が生まれたといわれています。
他にも東南アジアではボッカタオ、クラビー・クラボーン、シラット、カリ(の原型)、といった武術もあちこちに存在しており、いずれも戦争で生まれたと共に洗練された武術です。起源が同じなので色々と似通った部分もあるんですよね。
古式ムエタイは武器の併用、柔術や合気道のような投げ・固め・締め技も強く、これまたトニー・ジャー主演の「トム・ヤム・クン」という映画で象の鼻を模した柔軟な動きで関節技を次々と決めていく様は爽快です。
まあ戦争となればそりゃ何でもありですわな。ちなみに生き残る事を重視してか回し蹴りのような隙の大きな技は発展しなかったそうな。
続編の「マッハ!弐」(ストーリー的な繋がりは皆無)ではそんな古式ムエタイが生まれた16世紀アユタヤ朝が舞台ですが、こちらも殺意高い多彩な武器術に酔拳や洪家拳や日本刀といったまさに何でもありなアクションもまたオススメです。
話は戻って、そして古式ムエタイから危険な投げや固め技を取っ払って打撃競技化されたものが現在のムエタイという訳です。
現代式ムエタイでも肘やプッシュや膝を使った攻防一体の動きは洗練されており、相手の力をコントロールする首相撲やこかしには柔術のエッセンスも、何より覚える事が比較的少ないという簡単さもあります。
相手の腕を掴み引き寄せて食らわせたり、肩を押して出鼻をくじいたり、首相撲で腕を制圧してから膝蹴り……他の格闘技ではルール上禁止されている技術も魅力的です。
(筆者もいつしか別に格闘技術を語っていくエッセイ書こうかなとも思ったり……)
と、半分以上ムエタイの事しか語ってないレビューでしたが、いかがだったでしょうか? このレビューで「マッハ!」は勿論、ムエタイやタイ文化に興味を持ったりして頂けると嬉しいです。まあ今回はそっちが目的な部分が多いですけどね(笑)
という訳で皆も家で膝蹴りの練習をやってみよう。あと仏と象と故郷は大切にしようね。