第9地区
第9地区
2009年公開
監督:ニール・ブロムカンプ
製作:ピーター・ジャクソン
出演:シャールト・コプリー、等
今回紹介する映画は「第9地区」です。
南アフリカ共和国の映画監督、ニール・ブロムカンプの長編映画デビュー作で、興行的に成功を収めながら批評家の支持率も90%を誇り、アカデミー賞も4つ獲得していました。
内容としてはかつての南アフリカ共和国で行われていた差別のアパルトヘイトを題材にし、残虐描写も非常に多いものとなっています。
物語は1982年、南アフリカ共和国のヨハネスブルクに突如巨大な宇宙船が出現しました。しかし宇宙船は浮いたまま何も起こらず、人類が調査しに行きます。そこで発見されたのは大量のエイリアンの難民で、支配層は既に死に、宇宙船は故障していました。
人類はエイリアン達用の管理・監視のために「第9地区」を設けましたが、エイリアンと地域住民との間ではしょっちゅうトラブルが起こっていました。果てはエイリアン達に外見や文化的違いから「エビ」という蔑称まで付け……
と、ここまでが物語が始まるに至るまでの歴史的流れで、ドキュメンタリー風な説明がリアリティを与えてくれます。
かつての南アフリカはアパルトヘイト政策での非白人をケープタウンの第6地区への強制移住政策を行っていました。それらの政策を始めとして反発した住民と白人との間ではいざこざが何度も起こりました。
そして、物語の序盤ではエイリアンの管理を行う機関が、エイリアン達を更に厳重な管理体制を行うために「第10地区」へ強制移住させようと目論んでいました。
主人公のヴィガスという機関の一員が、エイリアン達に移住の説得を兼ねつつ監視に第9地区を訪れます。
ここからエイリアン達の境遇が良く読み取れてきます。ゴミの山から何かを漁ったり、説得に来たヴィガス達に反発し襲おうとしたり、ドキュメンタリー風な演出もあって、貧しい紛争地域の住民を見ている様でした。
一方、ヴィガスの方はエイリアンに嫌悪感を抱いていました。一応話し合おうとはするのですが、不審な行為には疑い強く、無許可で卵を生んだエイリアンに対しては面白半分で卵を全て燃やしました。
自分の住居や職業は勝手に決められ、逆らえば殺され……搾取や制限は人種差別だけでなく、あらゆる昔の王権国家が行ってきた事でした。政権を持つ者達は自分の地位を失うことを何よりも恐れたのです。
反乱を起こすのは決まって政策に不満を持つ頭の良い者です。それはエイリアンであれど例外ではありませんでした。
ヴィガスはある時、電子機器や化学実験装置を使うエイリアン、クリストファーを発見し調べました。頭が良いと思われ、特に疑います。そして謎の液体を発見し、誤って中身の液体をほんの少量でしたが、浴びてしまいました。
調査を終えたヴィガスは帰りますが、黒い血を吐いたり爪が剥がれたり、体調不良を訴え、しまいにはめまいがして倒れてしまいます。
ヴィガスは病院で目覚めました。すると、体の一部がエイリアンになっていたのです。
ここからが一番人種差別の残酷な部分が浮き出ているようでした。
とある軍需会社に連れ去られたヴィガスは、エイリアンの兵器研究の為に勝手に命令を強制されます。
しかもこの場合ヴィガス自身ではなく、ヴィガスの兵器を扱えるという要素だけが軍需会社にとって価値のある部分であり、ヴィガスはまるでただこき使われる奴隷、まさに商品となってしまったのです。
もしも一夜にして姿が豹変してしまったら周囲はどんな反応をするだろうか。ある者は突き放し、ある者は嫌悪感を……人類とは差別する動物でもあります。差別の本質は物事を区別する事に過ぎませんが、それを悪用しようとしたずる賢い奴が更に差別を生み出しました。いつの時代でも悪用する者は居るのです。
そしてヴィガスは軍需会社の研究施設をなんとか抜け出し、自分がエイリアンの姿になりかけた原因と思われる液体を持っていたエイリアン、クリストファーの元へ行きました。
クリストファーはその液体を利用して地下に埋まっている小型宇宙船を起動させ、空中の母艦に乗り込んで地球から脱出しようと企んでいたのです。エイリアンの姿になっているヴィガスを治せる技術もあると聞き、二人は協力します。
ここである一派として、エイリアン相手に非合法の商売を行うナイジェリア人が重要な役割を持ちます。
かつてヨーロッパ人がアフリカに足を踏み入れた時、まずは比較的友好的な沿岸部の黒人を発見しました。次にあまり友好的とは言えない内陸部の黒人を発見しました。(やはり村のそれぞれでの対立というものが今でも強いらしいですからね)
ヨーロッパ人は、沿岸部黒人に頼んで内陸部の黒人狩りを実行しました。そして沿岸部黒人はアメリカに奴隷となった内陸部黒人を売り込むという商売を行っていました。ナイジェリアも奴隷狩りを行っていた地域の一つです。(詳しく言えば、ヨーロッパの武器をアフリカに売り、アフリカの奴隷をアメリカに売り、そしてアメリカの砂糖をヨーロッパに売る、という三角貿易を行っていました)
エイリアンの武器を安く買い取るナイジェリア人はまさに歴史の繰り返しでもあるようでした。
強力なエイリアンの武器を扱える二人は研究施設を突破し、見事液体を取り戻しました。そして小型船を起動させましたが、エイリアン管理組織に撃ち落とされます。
クリストファーは母船を遠隔起動させ子船を回収させようと試みますが、管理組織が阻止しようとします。
ここからはCMでも話題になった搭乗型二足歩行ロボットの戦闘シーンです。もうエイリアンの武器の強力な事。過剰な流血や肉体欠損は当たり前、電子レンジに入れた卵みたいに肉体を粉々にしたり、磁力で敵の弾を一箇所に集めて発射したり、果ては板野サーカスまで……
人間側も優秀な奴が居て、南アフリカの変態兵器が輝いていました。20mm対物ライフルまで出ていましたからね。
ストーリーに関してはネタバレが危ないのでこれ以上は控えさせて頂きます。
ただ、終始はドキュメンタリー風で、リアリティ溢れるものとなっていました。
第9地区に関しては風刺そのものの価値が最高に光っていました。しかも風刺としての価値を生かしつつ設定に新鮮さを持たせ、一つのエンターテイメント大作としても成功した訳です。(実際ブロムカンプ監督は作品を政治的なものとしてではなく、エンターテイメントだと言い切っていますし)
私が思うに、良い作品というのは何かしら一つの「訴え」があります。この第9地区だって一つの差別を起源とする「訴え」を持っています。(特にブロムカンプ監督の作品はどれもこういった強みがあるんです)
その「訴え」の示す何かを深く突き詰めるのもまた、映画の一つの楽しみ方だと思うのです。
という訳で今回もここまでお読み頂きありがとうございました。
陰湿な背景ごと吹き飛ばす豪快なバトルも最高です。