4 一歩進んで
お久しぶりの投稿です! 実はこれが完結したら出そうと思ってる小説の設定を深く掘り下げてました……タハハ。
精一杯の力──といっても5歳のお姫様の腕力なのだが──で食器を地面に叩き落として部屋を出たルルシャロワは、スッキリした頭でことの事の重大さを理解した。
ルルシャロワと義母の関係は悪くない。だが、父と比べれば悪い方だろう。さらに言えばルルシャロワは前妻の娘。毎朝のお食事会も半分義務のようなものだろう。
そう考えるとどうなのだろうか、あの義母の前であんな態度をとって大丈夫なのだろうか。そして義母に無断でリーナを連れてきてしまったこと。これから行おうとしていることは、義母の怒りを買わないだろうか?
(まずいことになったぁ……!)
頭のなかと同じようにルルシャロワは今すぐしゃがんで頭を抱えたい衝動に駈られる。
「あの、姫様……?」
そんなフリーズ状態のルルシャロワに恐る恐る……といった体で話しかけてくるリーナ。本来なら何もないときにメイドから話しかけるなどあってはならないことだ。まぁ、子供である上に前世を思い出したルルシャロワとしては気にするべき点ではないのだけれど。
「え? ……ええ、なにかしら?」
「あの……えっと……」
よくわかっていない様子のルルシャロワの前で、リーナは勢いよく頭を下げた。
「ありがとう、ございます……」
リーナ、本名イリーナ=ミル=リィシャは年不相応に聡明だった。自分の半分にも満たない子供が、自分のことを救ったということを理解できる程度には。
常日頃から王妃付きの侍女として仕えているリーナの周りには、毒婦しかいないと言っても過言では無いだろう。だからこそルルシャロワに助けられたことをありがたく思えるのだ。
これがただの貴族の娘ならルルシャロワに八つ当たりをしていたところだ。
「別にわたくしはたいしたことはしていませんわ。のぶれすおぶりーじゅですの」
そうしてくるっと前を向いて歩き始めた。平然を装ってはいるが口許はにまにまと緩んでいる。自分が何と言われようとリーナを助けられたから良いじゃないか、と。
「あ、の……姫様?」
「どうかしたのリーナ?」
「どちらへ、向かってらっしゃるのですか? あの、この先には……」
ルルシャロワは目的もなく歩き続けてきたわけではない。しっかりとした目的があって歩いているのだ。
「どうかしたのリーナ?」
「い、いえなんでも……」
子供のルルシャロワにはまだ広く、高く、そして長い通路の真ん中を、リーナを従えて確かに進んでいく。道行くにつれ、兵士たちの数も増え、やがて二人の兵士が警護している一際大きな扉の前へたどり着いた。
「あの、ここって……!」
やはり気づいていたらしい。まだ十歳で、国王に謁見したこともないだろうリーナをわざわざ連れてきたのには意味がある。たとえ国王がとんでもない暴君であっても。
ルルシャロワは嘲笑った。あのとき、火刑に処された時のように。
先ほどの食事は衝動的に起こしたこと。だけど、例えそれが原因でも、今回初めて自分から改善のために動いたのだ。
「そう、ここはわがくにの国王へいかのしつむ室。これからお父様にじかだんぱんをしに行くのですもの」
声も出せずに固まったリーナを他所に、ルルシャロワは躊躇いもなく扉を四回叩いた。
「ルルシャロワ=デ=ルイワナ=シャロリュワーニュでs──!」
舌ったらずで大きな声もろくに出せないルルシャロワの声はしっかりと中に届いたらしい。
「うぐぅっ!」
扉が内側から開き、中から突っ込んできた人影が瞬く間にルルシャロワを捕まえたのだ。
「ルシャた~んっ! パパに会いたくなって訪ねてきてくれたのかなぁ!? パパ嬉しい~!」
「……!? っ……! ……っ!! ………………!!!!!」
「お仕事放り出してお茶会でも開くぅ!? パパはルシャたんのためなら何でもしちゃうよっ!」
「……!! っ…………」
言わずもがな、これがこの国の王、アレクサンドリア=デ=ザクシャ=シャロリュワーニュであり。現在進行形で抱き潰されているルルシャロワの死の原因となる大きな枷である。
(ヤバイヤバイ吐く吐く吐く吐く吐く吐く……!! だれかぁぁぁあ)