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王女な私は死にたくない  作者: 大久保周
王場内革命編
3/7

3 小首を傾げて絶対零度

 生前の、つまるところ前前世のルルシャロワは平凡な人だった。普通の女の子のように可愛いものが好きだったし、ピーマンとにんじんは結局最後まで食べられなかった。人並みに恋もしたし、友達もそれなりに居た。


 そんなルルシャロワが大嫌いなものがひとつある。


 それは、クスクス笑いである。


 いじめの象徴とも言えるクスクス笑い。平凡な少女だったルルシャロワは悪く言えば地味な部類に入っていた。無理に会わせてまで友達と仲良くする気はなかったから、パリピな感じの女の子たちとは相容れなかった。それもあってか……クラスでもいじめられたりするようなことがあった。


 悪口は許そう。何故本人の前で堂々と言えないのだ、と心で憤ってやればよいのだから。

 だけどクスクス笑いはいけない。虫の羽音のようにネチネチネチネチ続くうざったいものであるからだ。


 結局のところ、二回の転生を果たした彼女の精神は前前世の時、彼女が「日本人」であった頃の精神を土台として積み重ねで出来ているのだろう。


 ルルシャロワには「日本人」だった頃の記憶は断片的にしか残っていないが嫌なことというのは連鎖して蘇るものだ。よく見なければ分からないほど微かに彼女の手は震えている。


 さて、現在の状況を見直してみよう。義母が見ていないからといって足をぷらぷらさせているルルシャロワ。テーブルを挟んでその前にいるのは、自分がナイフを落としたことを棚にあげてメイドを叱りつける義母。その目線の先に、先輩メイドに足を引っ掛けられて叱られている、どじっ子メイドちゃんことリーナ。そして少し離れて並んで立っている五人の先輩メイドたち。表情はクスクス笑いばーじょん。


 苛ついたルルシャロワが起こした行動は。



 ガッシャァァン!!



 と勢いよく食べ終わったお皿を地面に叩き落としたこと。それがメイドたちには酷くスローモーションに見えた。並べられた銀のナイフとフォーク、先程までメインディッシュが乗っていた自身の給料の何十倍かの食器たちがすべて、目の前に叩き落とされたのだ。


 静まり返った室内を、視線が地面の皿からゆっくりとルルシャロワに移る。ルルシャロワは左手を頬に当てて小首を傾げて口を開いた。



「あら、手がすべってしまいましたわ」



 笑顔だったルルシャロワはゆっくりと目を開いた。


 右腕を使って器用に遠くまで皿を飛ばしたので、どこからどう見ても手が滑った、というわけではないのだが……。誰も口を開けない。室内は完全にルルシャロワの手中にあった。



「そこのあなたたち、片付けておいて? もちろん床もね? わたくしは服も汚れてふかいだから着替えます。ではお母様、次はこのようなそそうが無いように致しますのでぜひ、また食事をごいっしょさせてくださいませ。行くわよリーナ」


「……は、はいっ!?」



 未だ放心状態の義母に優雅なお辞儀をすると、リーナに一目やり、髪を翻して去っていった。残された者は皆思うだろう。「これが五歳児のやることか」と。


 メイドたちがルルシャロワに抱いた感情は畏れ。声をかけられたとき、ルルシャロワと一度だけ目があったけれどその瞳に映っていたのは不快という感情。気分を損ねてしまったのだ、と齢五歳の少女に思い知らされたのだった。


 彼女たちの放心状態は、音を聞き付けた騎士が部屋に入るまで続いた。

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