5「おなかがすかない薬」
5「おなかがすかない薬」
「あー、おなかすいた!」、助手の富田林はそう言って、鞄からアンパンを出してほおばった。
「さっき食べたばかりじゃないか。お昼を食べて、まだ、二時間しか経っていないぞ」と博士は富田林に注意した。
「だって、すぐにおなかが減っちゃうんです。『おなかがすかない薬』なんてありませんか?」と富田林が尋ねた。
「あるにはあるんだが……」
「え! あるんですか! それなら早く言ってくださいよ。おなかがすくと、イライラしちゃって」
「私が五十年の歳月をかけて、二年前に完成させたのだが、まだ試していないのだ」
「じゃ、僕が実験台になりますよ」
博士は富田林に「おなかがすかない薬」をわたし、富田林はそれを飲んだ。
三時間後……
「富田林くん、薬の効果は……」と博士が問いかけようとしたとき、「何だ、また食べてるじゃないか!」
「そうなんです。(ムシャムシャ)……食欲が止まらなくて……(ムシャ)、もう三時間食べっぱなし(ムシャムシャ)……です」
「そんなにおなかがすくのか。逆効果だ。すまない。その薬は失敗だ」
「いいえ、おなかはすいてないんですけど……(ムシャ)、食欲が止まらなくて、(ムシャムシャ)……食べ続けてるので、おなかはすかないんですよ」、富田林は食べ続けながら答えた。
「『おなかがすかない薬』。薬は完成した!」、博士は小さくガッツポーズをとった。