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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第一章 超絶不運の始まり編
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第五話 出会いは大抵、不運から始まる


「俺……死んだのか? もしかしてここ地獄?」


 息を整えながら、自分とその周囲を確認する。



(いや違う。服もナイフも、カバンもある。痛みも疲れもある。ついさっきの俺の状態だ。俺は生きてる……はず)


 念のため悠磨はリュックを下ろし、中身を確認する。買ったばかりのマンガ、さっきパクったハンドガン、その他諸々(もろもろ)ちゃんと入っていた。

 ここで立ち上がると、違和感を感じる。



「ん……? 身体が妙に軽い……?」


 手足を軽く動かし、自分の状態を確認した。

 疲労は残っているものの、身体がなぜか軽い。


 再び周囲を見回す。



「そういえば、ここはどこだ? まさか……異世界か?」


 ここで、悠磨の頭はマンガ脳モードに切り替わる。



(確かに、異世界転生モノだとボーナスもらって、パワーアップってのはよくある。だが、俺は運が悪いから、そんな都合のいいことは起きない。ていうかそれ以前に、死んでないから転生じゃなくて転移だろ。だとすれば、パワーアップじゃねえな……多分)


 これまで読んできたマンガやアニメの記憶をフル動員して、その答えを導きだそうとした。


(他に考えられるのは、重力が地球より小さい、か。となると、ここ別の惑星? 俺はワープでもしたのか?)



 ここで今度は、理系脳モードになって、理論的になにが起こったのか分析、推測しよう試みる。



(じゃあどうやって転移するんだ? どうやってワープするんだ?)


 だが、転移やワープの原理など知っているはずもないし、実在するかどうかも分からない。


(それならワームホールか? 違う、あれは重力が滅茶苦茶強すぎて質量が正の物質(ふつうのモン)は押し潰されるはずだ。そんな気配はなかったし……)


 昔、彼が読んだ相対性理論やワームホールなどの本について、何かヒントがあるのではないかと必死に記憶を探る。

 ワームホールは理論上の話で、実際に発見されたことはない。だがもしあると仮定した場合、この内部に超巨大な重力が働いて、ワームホール自体が潰れてしまう。そこで周囲に斥力を及ぼすエキゾチック物質を満たして、ワームホールが潰れないようにすれば、人間や宇宙船が通れるかもしれない。

 ここまで思い出して、これまで起きたことと照らし合わせると、重大な見落としに気づく。


(つーかそれ以前に宇宙空間での話だろ。俺は地球の中心に落ちてったからコレも違うな。もしワームホールだったら世紀の大発見なんだけどな。結局…………どれも理論的に証明できねえ)


 幾多もの謎が重なり、脳が疲れたのか、考えることをやめてしまう。

 悠磨は疲れ切った声で、


「じゃあここはどこだよ。どうやってきたんだよ」


 返事なんかあるはずもない、と思っていた。すると突然――――



「きゃあぁぁ!」


 女の子の悲鳴が、右隣の岩の向こうから、こっちに近づいてくるように聞こえてくる。

 ぶつかると思い、避ける準備をした。



 悠磨が見たのは、藍色のロングヘアーの女の子。そして右手に鞘のない、刃がむき出しの刀らしきもの。

 それを持ったまま走ってくる。


 だがここで、なにかにつまずいたのか、転んでしまう。

 刀が手から離れ、悠磨に向かって――――



「あっぶな……!」


 刀は、バックステップでかろうじて避けられた。

 だが、避けた先にその女の子がいて、さすがにどうにもできず、上からのしかかられて――――





 視界は真っ暗。顔には柔らかい感触のものが乗っかっていて――


「い、いやぁぁぁぁ!」


 彼女が叫び、慌てて飛び起き、


「そ……その、えっと…………」


 顔を真っ赤にして動揺している。 


 客観的に見れば、ラッキースケベだろ! 運いいじゃねーかコノヤロー! なんて思うだろう。ラッキーとつくくらいだし。

 だが悠磨にとっては、


(また不運かよ! というかアンラッキースケベだよ! またヤツが――)


 そのヤツ(・・)は、ドスドスと足音を立てて、大きく口を開いて――――




 悠磨に突進してきた。何故かその女の子ではなく、悠磨に向かってくる。

 

 手と足に力を入れ、地面を強く押し出し、すかさず横に転がって回避、からの瞬時に起き上がり。

 そして次への警戒。


 そのモンスターは、さっきまで悠磨を追いかけていたヤツと同一の生物かどうかは分からないが、ティラノサウルスに似た形に大きな口と、ほとんど同じ見た目だ。

 モンスターはグルルと唸り、ゆっくりとこちらに振り向く。

 


 ふと、悠磨の頭の中で、嫌な記憶が浮かび上がってしまう。

 それは、中三の頃、今と似たように、勢いよくぶつかってきて――――


「チッ。ヤなこと思い出しちまった」

「わ、わたしの……む……胸触ってなに言ってるの!?」

「いや、ぶつかったのそっちですよね……」


 頭に浮かんだ嫌な記憶を振り払い、切り替える。

 そして口癖なせいか、もしくは不運のせいか、思っていたことを無意識に口に出してしまう。



「俺は運が悪いから、アンラッキー対策もアンラッキー後の対処も慣れてんだ。簡単に喰われて――」

「ちょっと! わたしのむ……胸触ったのがアンラッキーだっていうの!?」


(……そういういみじゃねえェェェ!)


 今度は口に出さず、心の中でツッコんだ。



(俺はおまえとぶつかって、しかもモンスターに喰われそうになったこと言ってんのに! 落ち着けよ! 状況を把握してくれよ! 空気読めよ! ていうか、それまだ引きずってんのかよ……)


 とりあえず冷静に返答をする。


「いや、違います」

「じゃあ……ラッキーなの!?」

「いや、そうじゃなくて……」

「ど……どっちなの!?」

「…………」


 らちが明かないと思い、無言になる。

 そして悠磨はズボンのポケットからサバイバルナイフを取り出し、臨戦態勢に入る。



「一旦落ち着け! そんで早く逃げろ!」


 彼も後で、隙を見て逃げるつもりだった。だが……



「あ、足くじいちゃって、その……」

「………………」




 さっきとは違う、それ以上に嫌な記憶が頭のなかでフラッシュバックする。

 だが、今はそんなことしてる場合じゃないと、頭をぶるぶると振る。

 それでも、勝手に脳内再生されていく。



 悠磨は考える。敵を見ながら、その記憶を再生しながら。




 ――俺一人だったら逃げてる。さっきまでと同じように。生き延びるために。



 俺は運が悪いから、こんな状況に巻き込まれるし、助けようが助けまいがその先はたいていバッドエンド。



 助けて後悔したことも、助けないで後悔したこともある。




 でも……



 出来るのに、それだけの実力があったのに。

 なのに、何もしないで逃げたあの時ほど、辛いことはない。




 だけど……



 じゃあなんで、今まで必死に逃げてきた。




 けれど……それでも…………いや、だからこそ……



 終わりにしよう。






 もう……逃げるのはやめだ。



 俺は戦う。

 敵の強さは全くの未知数。この装備での勝率は、非常に低い。

 



 だけど……どんな不運も、実力でくつがえす。それがいつもの俺だろ。



 前を向け。



 不運に向き合え。不運に抗え。不運を……ねじ伏せろ。



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