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第十話 情けは不運の為ならず

 



 夢幻組の連中を返り討ちにした次の日。何事も無かったかのように悠磨もみずなも登校していた。

 どうやら昨日の事件は公にされず、今朝の全校集会で不審者への注意喚起がされただけで終わった。理事長による後処理のおかげだろう。


 1限が終わった後、トイレに向かった。

 用を足している最中、横から話しかけられる。



「なあ、ちょっと相談があるんだがいいか?」


 神妙な様子のかなただった。対して悠磨は、あくびしながら振り向く。



「寝不足か?」

「まあな。で、どうした?」

「さっきのことでさ、ちょっとあってな」


 少し俯き、ためらいがちに口を開く。



「俺の友達が、なんか怪しいやつに話しかけられてて、付いて行きそうになってよ」


 不穏なことを口にした。



「んで俺が話しかけに行ったらどっかに行ったんだけどさ。その友達に聞いたら大丈夫としか言ってくれねえし。どうしたらいいと思う?」

「一緒に帰るとかすりゃいいんじゃね? あとは警察とかに相談するとか」

「やっぱそうだよなあ」



 ありきたりではあるが、これだけの情報ではそのくらいしか言えなかった。


「家近いし、そうすっか。ありがとな、話聞いてくれて」

「大した答えにはなんなかったが、まあ、おまえも気をつけろよ」


 そう言って、かなたは席に戻った。




 ※  ※  ※




 席で一人昼食をとり、予鈴がなるまで机に突っ伏して仮眠をとる。

 昼休みが終わりに差し掛かる頃。次は家庭科で、移動教室の時間。

 そろそろ動くか、と席を立って、廊下に出たタイミングで背後から話しかけられる。



「あの、少しいいかな」


 明るめの栗色の髪の毛で、制服を少し着崩した女子が、サイドテールを揺らしながら近寄ってくる。



「こないだはありがとね!」

「……?」


 何のことかわからず、悠磨は首を傾げる。



「あ、えーと、階段で落ちそうになった時の…」

「あぁ、それか」


 どうやら思い出した様子。



「それで、これはお礼」


 そう言って、クッキーを手渡された。


「あと、今日の放課後時間ある?」


(そもそも名前なんだっけ)


 そう思っていた時、



「琴吹ちとむって言います。改めてありがとう、天倉くん!」


(エスパーかな?)


 表情に出したつもりはなかったつもり。礼儀正しさや喋り方から相当コミュ力が高いと悠磨は感じていた。


 それと同時に気づく。

 この前、例の先輩が出した名前ではないか、と。



「今日は時間取れそうにないが、礼ならこれで十分だ。こちらこそありがとう」


 そう言って、その場から去った。

 彼女は、何かを言いたげな表情をしていたが、なんとなく距離を詰められたくないと思い、気づかないふりをした。




 ※  ※  ※




 時間は経って、放課後。

 みずなは、またこの場所に戻って来た。


 普通なら、トラウマになって二度とこの場所に来れなくてもおかしくない。

 しかし、彼女は強かった。



 そして、昨日の出来事を思い出す。


 ―――「一緒に来てもらおうか」


 どうして、なんだろうと。

 様々な疑問が浮かぶ。けれど、考えるだけでは何も分からない。

 何か、手掛かりが欲しい。そう思ったのは、自分のためであり、同時に悠磨のためでもあるのだろう。


 地面に目を向ける。ぬかるんだ土に残った足跡や、踏み荒らされた木の枝や葉っぱがかすかに残っている。だがそれだけでは彼女にとっては何にもならない。


 落とし物があれば、例えば学生証でもあれば、有力な情報になる。とはいえ、そう都合良く見つかるとは彼女も思ってはいない。


 それでも草木を掻き分け、探している。

 ふと、視線を感じて振り返る。


 昨日の事があってか。勘の鋭さは、さらに磨きがかかっていた。


 一瞬だった。岩陰に一人。顔は見えない。

 かろうじて視認できたのは、全身真っ黒な服装。



 透明化した人間、ではない。

 けれど、ユーくんでもない。


 犯人は現場に戻る。そんな言葉を知ってか知らずか。

 何か関連があるに違いない。

 そう思い、危険だとは分かりつつも、距離を少しずつ詰めていく。

 木刀を両手に持ち、臨戦態勢。


 あと3歩ほどになって、一気に間合いを詰めた。

 しかし、そこにはもう誰もいなかった。


 幽霊でも見たのか、それともただの勘違いか。


 様々な疑問が彼女の頭に浮かぶ。でも、情報が全く足りず、解決する術も無い。

 何処となく違和感を感じつつも、何もできないもどかしさを抱えてその場に踏み止まっていた。




 ※  ※  ※




 バイトでも探さなきゃなあ、商店街の店を見て回る。

 スタッフ募集中の張り紙はチラホラあるものの、どれもピンと来ない様子。

 すると、琴吹ちとむと出会った。



「あ、偶然だね!」


 一人でお買い物をしていた様子。手提げには、野菜や肉など食材がたくさん入っているのが見えた。



「そうだ! ちょっと時間とれない?」

「少しなら。で、要件は?」

「えっとね、買いたいものがあるんだけど、一人一個で……」

「なるほど。そういうあれか。別に構わないが」

「ありがと! じゃあさっそく」


 そう言って、少し歩き、八百屋を通りかかった時。



「あら、ちとむちゃん!」

「あ、おばちゃん!」


 店の従業員の女性に話しかけられた。


「今日は色々安いよ。買ってかない?」

「そうなんですか? じゃあちょっとだけ」



 店に入っていく。


「いらっしゃい、ってあらあら、恋人? お似合いねえ」

「ちょ、違いますって! 友達ですよ!」

「またまた〜。いいんだよ隠さなくたって」

「もう、違いますってばー」



 他愛もない世間話を始めて、一瞬にして悠磨の存在は忘れ去られていた。

 ずっと隣で聞くのもなんだかなあ。と思った悠磨は適当に野菜を眺めていた。

 にんじん、じゃがいも、たまねぎ、トマト、きゅうり。見知ったものばかり。さすがに驚きはしなくなったが、ここは日本じゃないし、異世界なら未知の食材くらいあってもいいだろ、なんて心の中でちょっとした不満を漏らしていた。

 

 喋り声の聞こえる方に再び視線を向けると、様々な野菜を袋に詰めていき、



「弟と妹は元気かい。食べ盛りなんだから、ほら、おまけ」


 八百屋のおばちゃんはそう言って、野菜の詰め合わせを手渡していた。



「いいんですか、こんなに!」

「いいのよ。お母さんにもよろしく伝えといてね」

「はい! ありがとうございます!」


 お喋りの内容が少し聞こえる程度の距離で待っていた悠磨に駆け寄り、



「ごめんね。待たせちゃって。あと変な勘違いされちゃって」

「別にいいが。それより、買いたい物があるんじゃなかったのでは?」

「え……あ!」


 時計を見て驚きの声を上げる。



「急がないと。でも、どうしよ……」


 その時、悠磨は、彼女が持つ野菜が詰め込まれた袋を手に取る。ちとむは呆気にとられた表情を浮かべ、固まっていた。



「急ぐんだろ」

「あ、うん。ありがと」


 その一言で意識を現実に引き戻す。そして、すぐさま急ぎ足で次の目的地へ向かった。

 到着まで10分ほどかかった。そこには様々な種類の店が集まる複合施設。その中のスーパーマーケット二人は入っていった。


 琴吹は目的の棚まで迷うことなく向かい、悠磨もそのあとを付いていった。



「よかった。間に合った!」


 どうやら目的の品はゲットできたようだ。

 カゴにはみりんなどの調味料が入っている。

 悠磨も同じ物を手に取り、カゴ置き場へ向かい、戻って来る。



「ごめんね。ここまで付き合わせちゃって」

「問題無い。ちょうど俺も買う物あったし」


 そう言う悠磨のカゴには、ケチャップや卵が入っていた。

 カゴを取りに行くついでに手に取った。


 その中を琴吹は見て、話かける。



「天倉くんって料理するの? オムライスとか作れるの?」

「まあな。そっちは?」

「うん。あたしも料理するよ。家族みんなの分作ってるんだ」


 学生ながら、その働きぶりに悠磨は感心していた。

 ふと、先程の商店街でのやりとりを思い出し、それとなく訊いてみる。



「そういや、弟と妹、とか言ってたな。5人家族か?」

「うん。弟と妹が二人ずついるんだ」

「ん? 親はどうした?」


 ちとむの顔が曇る。



「えっと……お母さんは、入院中で。お父さんは、仕事行ったきりずっと帰ってこなくて……」

「そうか。苦労してんだな」


 ちとむは、悠磨の視線が少しだけ優しくなったような気がして、少し笑顔を取り戻した。



 会計を済ませて、帰路に着く。



「じゃ、私こっちだから」


 そう言って、彼女は指差した交差点の角を曲がり、振り返る。



「今日はほんとにありがと!」

「このくらいなら問題無い」

「えっと、お礼に……じゃあこれを」


 そう言ってたくさん野菜が詰まった袋を手渡そうとする。



「俺一人じゃ腐っちまう。こんだけで十分だ」


 あんな話を聞いた後では、受け取ろうという気にはなれない。

 だが、後で借りを返す名目で絡まれるのも面倒だ。

 ちょうどいい塩梅だと、袋に手を突っ込み、みかん一個をもらっていった。


 ちとむは、笑顔で手を振った。



「じゃあね。また学校で」


 そう言う彼女に、みかんをまだ持っている右手を軽く挙げて、家へと向かった。




 ※  ※  ※




 家に着くと、制服から適当に買った中古オンボロ服に着替えて、家を出る。


(親父が帰ってこない、か。せっかくだ。少し調べるか)


 そう思い、向かったのは路地裏の喫茶店。以前来た所だ。



「いらっしゃいませ」


 声の主は、前と変わらず老店長だ。やはり、他の従業員はいない様子。彼は悠磨の顔を見ても表情を変えることはなかった。

 とりあえず、アイスコーヒーを頼んで期を待つ。



「お待たせしました。アイスコーヒーです」

「どうも」


 前と変わらず美味しかった。金欠のためか、惜しむようにちまちまと味わって飲んでいる。



 二、三分ほど過ぎた頃。

 半分くらい飲み、そろそろ訊くか、と思い口を開こうとしたその時だ。


 ドアが開く音がした。店長が入口に目をやる。


 こんなこじんまりとした店に来るのか。しかもこのタイミングで、と。

 相変わらず俺は運が悪いなあ、と悠磨は思いながら振り向き、どんな客かを確認する。



 目が合う。

 さすがの悠磨も予期していなかったのか。

 反射的に立ち上がった瞬間、右から衝撃が。


 吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。


 だが苦しんでいる暇など無い。

 二撃目は、もう目の前。

 何処からともなく現れたナイフが悠磨へ向かう。


 地面に転がり、躱す。

 しかし、腹部に衝撃が走る。予期せぬ来客は一瞬の隙に接近しており、ボールを蹴るように脚を振り抜いた。


 このままではその繰り返しになってしまう。

 受け身をとり、四本脚で立つ獣のような体勢で敵に目を向けた。



「ハハッ、貴様の前世はホントに犬ってか!」


 嘲笑い、言い放つ。



「まさか、こんなに早く再開できるとはな」


 対して悠磨は冷静に返す。

 その視線の先。

 そこにいた人物は、悠磨が数多の理由で追いかけていた者だ。



「こないだの傷は治ったか、ワープ使い」

「安心しろ。やり返すまで治さないつもりだ。忘れないためにな!」


 見せつけながら、一瞬だけ怒気と殺気を振り撒くその相手は。

 そう、試験官を処分した男で、久藤みずなに何かしらの因縁を持つ重要人物。

 そして。



 日本に戻るための手段(・・・・・・・・・・)として、現状最も近い解答である。



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