第七話 袖振り合うも不運の縁
教室に戻り、学校や授業についての説明が終わり、今度は体育館へ移動する。
今日はこの後、学校生活や部活紹介のオリエンテーションがある。
それらが終わり、教室へ戻る途中、信崎に話しかけられた。
「なあ天倉、部活決めたか?」
「いや、まだ」
「今までなんかやってたか?」
「まぁ、一応サッカーを」
「マジか! 実はオレも」
嬉しそうに話す信崎。
ちなみに悠磨は中学ではサッカー部に所属していた。
「とりあえず、サッカー部に仮入するけど、一緒に行かね?」
信崎は悠磨を誘う。断る理由は無かったので、
「まあ、いいけど」
「よしきた! んじゃまた後で」
それだけ言うと信崎は、別の人を誘いに向かった。
※ ※ ※
昼を過ぎた放課後。今日から仮入部開始という事で、どの部活も盛り上がっている。
悠磨と信崎は放課後、部室へ向かった。
グラウンドは限りがあるので、曜日によって使用できる部活が変わる。ちなみに今日は野球部や陸上部の日で、サッカー部は外周&筋トレデー。
そのためなのかどうかは知らないが、4人しかいなかった。
「少なっ! え、こんだけ!?」
部長が驚くが、他の部員はボール触れなきゃこんな感じだろ、などと喋り合っていた。
「信埼、他は誘ってねぇのか?」
「違うとこ行っちまった。走んのやだっつって」
「一緒に行きゃ良かったじゃん」
「いや知らなかったんだよ」
「気づけよ。つーか逆に誘われてねぇの?」
「まあ、そうだな。けどいいんだよ。明日になりゃ来るだろ」
「……おまえ、意外と友達少ない?」
「んなこたねえよ。つかオメェに言われたくねえわ」
と、喋っていたら部長に「ついてきて」と言われたがそれだけで、自己紹介的なのは特に無くヌルっと始まった。
※ ※ ※
普段通りのメニューである外周が終わり、次は筋トレが始まる。
その間の休憩時間に、信崎が話しかけてくる。
「ちょっといいか」
彼に疲労の色は見えず、それどころか真剣な表情だ。
「竜殺しとか、試験官潰しとか、いろんな噂立ってるけど……どれがホントなんだ?」
「直球だな」
「いや、まぁ。回りくどいの苦手だからな」
この二つは一応事実である。実際、ドラゴンは倒したし、試験官を――というより試験官の金的を潰したから。
少しばかりの沈黙の後、悠磨は無表情のまま答える。
「さぁ? 想像にお任せするよ」
「いや、でもさ」
「噂なんてほっときゃ勝手に消える。悪口言われても気にしねぇし」
「そうか? んでもよ……」
「ほら、始まるからさっさと行こうぜ」
まだ何かを言いかけた信崎だったが、悠磨は話を切った。
そういった不運に、誰かを巻き込ませないという意図が、彼にはあったから。
※ ※ ※
筋トレも終わると1年は解散となった。2、3年生はこの後も体幹やラダートレーニングなど続いている。
予想以上に早く終わり、暇になった悠磨は信崎らと別れ、図書館へ向かった。
今は魔法系が気になってはいるが、あまり他の人には知られたくない、そう思っていた悠磨は物理や経済などの本もついでに持ち出し、真ん中に魔法の本を、適当に選んだ本で挟んで読書スペースへと運ぶ。
だが、悠磨以外には誰もいなかった。
(あれ、誰もいねぇじゃん)
放課後なら自習したり本を読んだりするため、静かな場所を求め何人か来ると思っていたらしい。
だが、いないならそれはそれで都合がいいと、一人静かに本を読み始めた。
――そして30分後。二冊目を読み終え、ふと顔を上げると、
「やぁ」
女子が目の前にいた。黒髪と茶髪が入り混じったショートヘアに、ピンクのヘアバンドが巻かれている。
(気づかなかったのか、この俺が?)
無表情を維持しているが、内心は少し焦った様子。
とりあえず悠磨は、無言で軽く会釈し、本を持ってその場を立ち去ろうとする。
だが、その女子に呼び止められた。
「天倉悠磨くん。あなたにインタビューしてもいいかしら?」
「……誰ですか? あとなぜ自分です?」
怪しい奴だな、と疑惑の眼差しを向け聞き返す悠磨。
「いろんな噂を聞きつけて、私の好奇心がウズウズしてね。あ、私は新聞部の熊沢はるかと申します。ちなみに2年」
自己紹介を終えた彼女はメモ帳を取り出し、フフフと微笑みだした。
こんな面倒なこと、いつもなら無視するところ。だが、
(こいつ……いい情報源になりそうだな)
彼にも思惑があるようだ。
少し考える素振りを見せた後、
「分かりました。では外で」
「うっし!」
突然の女子らしからぬガッツポーズと声に驚きつつも悠磨は本を戻し、熊沢と一緒に外へ出た。
図書館を出ると、廊下で彼女は
「せっかくだから部室に来ないかしら?」
「かまいませんよ」
そのまま部室に連れてこられた悠磨は、中に入って席に座る。
「にしても意外ね。てっきり私は断られるかと思ったわ」
「情報交換が目的です。自分も訊きたいことがあるので」
「ほう……。もしや、私の秘蔵コレクションを狙っているのか?」
「……?」
突如目を光らせてニヤリと笑う彼女だが、悠磨は心当たりがないため、首を傾げる。
その様子を見て熊沢は、白と判断して、切り替える。
「私の勘違いみたいね。えっとじゃ、最初の質問」
手作りっぽいマイクを向けながら、彼女は言った。
「熊殺し、竜殺し、試験官潰し、いろんなあだ名が付いてるけど、どれが本当?」
(またそれかよ)
さっきと似たような問いだった。それでも邪険せずに、淡々と悠磨は答える。
「多分だいたい事実です」
「え……マジ?」
「はい」
すると熊沢はペンを走らせ、メモ帳に何かを書き込んだ。
そして、顔を上げると再び悠磨に問いかける。
「あとそうだね……人質ごと殺したってホント?」
「なんですかそれ……。あ、入学試験の話ですか」
うんと頷いた熊沢は、鋭い視線で悠磨の目を覗き込んだ。
「その話はデマですかね」
「あら意外」
悠磨が「何故?」と顔で問うと、彼女は微笑みながらこう答える。
「あなたなら、やりかねないかと」
(コイツん中の、俺の印象ってどうなっていやがる?)
と、彼は気になった。なので会話で上手く引き出せるかどうか、試してみるか、と考える。
そして悠磨が何かを言いかける前に、熊沢が先に訊いた。
「それに、正直に話してくれることに驚きました。男って普通、見え張ったり強がったりするのでは?」
「女子も大して変わらないと思うんですが。それにそもそも、嘘つく理由が特にないので。リスクリターンを考慮するなら、話せる事実は話しておいた方が都合がいいです」
「ふむふむ。つまりあなたは理知的で血も涙も無い冷血人間だと」
「……えっと、ツッコむべきですか?」
どうしてその結論に至ったのかと、飛躍し過ぎだろと思ったが、面倒くさくなってスルーした。
「あと、さっきから思ってる事あるのですが、訊いてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「お嬢様っぽい喋り方、違和感しかないです。キャラ作ってるのか知りませんが」
「その方が先輩らしいでしょ?」
「……」
あまりにも堂々とした即答に、困惑し黙り込む悠磨。
が、その反応が彼女には気に食わなかったようで、
「あ、その顔! もしかして幼児体型とかおもったでしょ」
「別に……」
悠磨は気にも留めなかったが、本人は小柄であどけなさが残る身体を気にしていたらしい。
「ホントに~?」
「見た目で判断すんなって、よく言われてきましたので。どんな先輩であれ、一応敬います」
「一応ってなに一応って!! ていうか誰にそのこと言われたの?」
「おじいちゃんかおばあちゃんか、お父さんかお母さんか……」
「適当じゃないの!」
「崩れてきてますよ」
「ハッ……! もしかして嵌めた?」
「いえ、自爆しただけですよね」
無表情を保ち平然としている悠磨をじーっと睨む彼女は、やがてメモ帳にいろいろ書き込み
「ふう。次の質問」
落ち着きを取り戻して、次に移った。
「久藤みずなとは付き合ってるの?」
「いや、別に」
普通に返した。
が、熊沢は諦めずにニヤニヤしながらしつこく追求しだす。
「ホントに~? あんなに一緒にいたのに?」
「はい」
「あらそう。で実際は?」
「あいつとは知り合い。そんだけです」
厳密には師弟関係だが、あいにくとネタにされそうな事は教えないようだ。
ここでふと、引っかかりを感じる。
(一緒にいた? 人目の付くとこで長時間いたか? 学校じゃあんまし関わってねぇぞ。入学前は商店街とか普通に通ってたしな……)
「一緒にいた、とおっしゃりましたが、具体的にいつの話ですか?」
ここはあえて聞くことにした。
「ちょっとカマかけてみた」
「えぇ……」
呆れて一言呟き、ため息を吐くと
「そもそも新入生の事なんて、そんなに詳しくないわよ。だからこうして話聞きたいのよ」
「じゃあ何で俺の事はそんなに知ってんですか」
「だって、私は噂を聞きつけただけで――」
「言っておきますが、学校ではみずなと一緒にいませんよ?」
その言葉は、悠磨は学校以外での事を何故知っているんだ、という意図を含んで発したのだ。だがしかし、
「あらあら、てことは外でイチャコラしてるのね?」
「そーいう意味じゃねぇよ……」
どうにも話が進まず、嫌気が差して呟く悠磨。
ちょっと威圧した程度では動じない。素直に直球で訊くかと考え、
「結局あなたは何がしたいんですか」
語気強めで発するが、熊沢は気にすることなくさらにニヤつき顔で、
「学校で久藤さんとイチャイチャして?」
「お断りです」
「もしくは琴吹さんと」
「お断りです、って誰ですかその人」
「あら知らないの? 1年で人気の女子よ。もう既にあなたは会ってるわよ」
「知らないです。あと、どういう意図があるんですかこの質問」
すると熊沢は「わかってないな」と言わんばかりの表情で、
「噂だらけで顔もイケてるし、お金になる」
「やっぱ金ですか。あとイケメン探してんなら他を当たってください。自分じゃなくてソイツを誰かとくっつけさせてください」
とはいえ、たかが部活動でそう簡単にお金を得られるとは思っていない。適当にあしらいつつ、何かしら裏があるに違いないと彼は疑り深く彼女を観察すると、
「あ、じゃあそうしよ」
(え、切り替え早っ)
意外にもすんなりと受け入れたようだ。
「中学でも人気者だった彼にしようかな。じゃあ天倉くん、信崎くん呼んできて? 写真撮りたいから」
「なぜ?」
いきなり知り合いの名前が発せられ、疑問に感じる悠磨。さらに、既に知り合いかのように話を進められ、その点も含めて気になる。
きっと部活の様子でも見ていたのだろう、非常に限られた交友関係から情報を聞き出したいのだろう、そう悠磨は考えていた。
しかし、次のセリフは彼の予想からかなり外れたものだった。
「男同士の禁断の愛! ボーイズラッヴ! 注目度高めのお二人なら絶対売れる!」
「…………ちょと待て」
「すっかり忘れてたわ。これ、一部の女子に超売れるし、あと目の保養にもなるわ」
悠磨はゾッと凍るような悪寒を感じていた。
「おい、だから――」
「大丈夫! 私、BLもイケるくちだから」
「訊いてないです……」
全くこっちの話を聞いてくれず様子は無い。これはもう無理、と判断した悠磨は、
「もういい。帰ります」
若干イラついた態度を見せ、会話を終わりにするつもりだ。しかし
「あらいいの? 私、新聞部よ?」
「……それで?」
どうせ捏造記事作るなどと言って脅すつもりだろう、と思っていた。
「テキトーな新聞作って広めれば、あなたはたちまち有名人」
「だから何ですか。別に俺はこの学校にこだわっていませんし。居づらくなったら学校辞めりゃいいだけですので」
予想通りの展開に、悠磨は冷静に、しかし口調は若干荒っぽく対処した。
「そんじゃ、俺は帰――」
「いやだァァァ辞めないで帰らないでェェェェェ!!!」
「え、ちょまっ……!?」
号泣しながらしがみついてくる熊沢。さすがの変わりっぷりに悠磨は驚き固まるしかできなかった。
「もうさっきから何なんすか。つーか先輩は何がしたいんすか」
「私は! もっとイチャイチャが見たい! 特にイケメンと美人の!!」
「ならターゲット変えてください。そもそも俺はイケメンじゃないです!」
「だってあなたが一番面白そうだし」
あからさまに嫌な顔を悠磨が浮かべると、
「その顔がいいのよ。そのやさぐれた少年って感じ!!」
「……まぁ、目が死んでるのは自覚してるが」
そんなこんなで、引き剥がして後で面倒事になるのも嫌だしと、仕方なく席に戻る。
とっとと満足して帰らせてくれと思いながら、質問攻めをテキトーにあしらい続け、30分後……。
「お金も欲しい! いろいろ売って稼いで、新しいカメラ欲しい!!」
「ゲスいな」
ため口で話せるくらいには打ち解けていた。
「ううぉぉぉぉん――!! 私は誰かがイチャイチャイチャコラしてるトコ見てニヤニヤしたいだけなのに――!! なんでそんなにガード固いのよ天倉くんも久藤さんもおおお!!」
「…………」
(大体分かってきたぞコイツの事。アレだな、出来る人を装ったゲスいポンコツ女子だな)
悠磨の中で、勝手に変な評価をされた。




