プロローグ
魔法が使えると知った時、まず何をしたいか? どんな魔法が使えるようになりたいか?
男の子なら誰しも一度は考えてしまうようなものだ。子どもの純粋無垢な夢然り、自分を特別だと思い込んでかっこよさを追求したもの然り。
例えば、全てを焼き尽くす暗黒の炎。
例えば、電光石火の如き超速の電撃。
例えば、自由気ままに舞う空中飛行。
例えば、摂理を覆す無敵の再生能力。
例えば、どんな壁も越える空間移動。
悠磨も男の子だ。少年だ。やってみたいことなんて、わんさかあるに違いない。
さらにマンガやアニメを愛する彼だ。人前では絶対に出さないが、闇だの漆黒だのを好む、中二病気質でもある。
そして彼は、一番やりたかったのを実行に移した。
腰を落とし、半身になりつつ両手を身体の右側に持ってくる。
手のひらはくっつけず、間にエネルギーを溜めるようなフォーム。
そして周囲に人がいないかもう一度確認し、叫ぶ――――
「かーめー〇ーめー波ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
波ァァァ、波ァー、はー、……。
山にいるからなのか、やまびこが帰ってきた。
ここはいつもの公園ではなく、公園から少し離れた所に位置する山。
木や草がそこらじゅうに生い茂り、斜面の傾きも急なとこが多いが、まばらにある程度平らな場所や整えられた道が存在する。それなりに人の手も加わってるらしい。
そして彼がやったのは、言わずと知れた例のアレだ。もはや魔法ですらなかった、いや常人からすればマンガの必殺技なんて全部魔法だと言えるかもしれないが。
そこは一旦置いておくとして、ともかく好奇心を抑えられなかったのだ。
さらには、ジャ〇プの続きが読めないストレスを、こうして発散しているらしい。危険だ。危険極まりない。いろんな意味で。
「……だめだこりゃ。手からエネルギーが離れねぇ」
しかし思い通りにはいかなかった。
青白い輝きを発しながら、エネルギーを溜めるまでは良かった。けれども放出が上手くいかない。
二、三繰り返すが、同じ事の繰り返しに終わった。
何か原因があるのでは、と考えると、
(魔法だから、もっと魔法陣を強くイメージせにゃあかんってか?)
さっきまでは、エネルギーの集合体の中央に申し訳程度にイメージしていた。魔法陣のイメージなしで魔法発動は不可、とこの前検証したからだ。
気を改めてもう一度。
腕を突き出したところに魔法陣を。そこからエネルギーが放出されるように。
悠磨の知ってるそれと全く同じイメージではないが、成功させたい気持ちでいっぱいだった。
そしてもう一度、声に出す。
「かーめー〇ーめー」
この段階で、腰を落とし、身体の右側に手を、その両手にエネルギーを溜めるようなイメージで、
「波ァァァァァァァ!!」
と叫ぶも、エネルギーの集合体は手元から離れなかった。
「手から離れてくんねぇんじゃ直接ぶつけて攻撃か? ったく、それじゃか〇はめ波じゃなくて螺〇丸だろ……」
すると、何かひらめいた様子。
「そうだ! なんなら〇旋丸もやるか! 使える技は多いに越したことはねぇ!」
思い立ったら即実行。
右の掌を上に向け、渦を描いて球状のようなイメージをする。
(……やっぱ声無しじゃ無理か)
理想は本物通り、発動させてからぶつける瞬間に技名を叫ぶことだった。
けれども魔法の性質上、そうはさせてくれない。
これぐらいはしょうがないか、と心の内で思いながら、はっきりした口調で叫ぶ。
「〇旋丸!!」
悠磨の理想とは少し違い、魔法陣が描かれてはいるものの、技そのものは概ねイメージ通り。
渦を巻いた球状のエネルギーが、風を纏う。
だが、あまりにも味気なくてため息が出てしまった。本物の方は水風船やゴムボール使って修行してたのに、あっさり成功してしまうと面白くねぇ、とつい思ってしまう。なんだかんだ言って、マンガの影響受けすぎなのだ。努力の過程すら楽しめる部分は、評価に値すると思うが。
いや、一周回ってバカなだけだ。
とはいえ、成功しているのは形だけ。肝心の中身、つまり威力はまだ分からない。
そこでどの程度か知りたくて、視界に入った木の枝や大きめの石にぶつけようと走り出し、
「あ……」
足元の出っ張っていた石につまずいた。
顔面から激突しそうなところを、腕で受け身を取りなんとか防いだ。
しかし右手に作ったエネルギーの集合体は無い。
どこいったんだ、と顔を上げると、それが視界に移った。
球はふわふわと緩い速度で飛んでいき、十メートル辺りで速度がしだいに遅くなっていく。二秒ほどそこで静止した次の瞬間、
「え、ちょま――」
勢いよく加速しながら悠磨の方へと戻ってきた。咄嗟の判断で防御の魔法を繰り出す。
「シールド!!」
だがシールドはたった一秒だけ耐えた後、砕け散った。
イメージが相当強かったのか、威力も大きいようだ。
悠磨は反射的に身体を逸らして回避。
しかし、まるでゴムひもにでも繋がれたように悠磨へと戻ってくる。
シールドでは防げない。ならばと――
「螺旋〇!!」
同じものをぶつける他無かった。二つの渦巻くエネルギー弾は互いに拮抗し、やがて爆発を起こした。彼は大きく吹っ飛ばされて、
「おが……ッ!!」
情けない声を発しながら、木に打ち付けられた。
「え、何なんこれ……? マジ何だ今の……」
手から離れるイメージはしてなかったのに離れた。
だが、運が悪かったで片づけられる話ではない。すぐに原因解明のため思考に耽る。
(何で上手くいかないんだ。飛んでほしい時に飛ばないで、飛ばさねぇようにしたら飛んでって。何だ魔法って天の邪鬼さんか? それとも何? 著作権侵害とやらで成功させねぇってか!? いいよだったら何が何でも成功させてやる!!)
相変わらず彼の思考回路は意味不明だが、どうやらやる気をさらに出した様子だ。
「必殺技がダメってんなら、まず変身技パクってやる!!」
いやパクる言うな。
と、誰もツッコんでくれる人はおらず、悠磨はどんどん突き進んでいく。
「はぁァァァ!!」
叫びつつ全身に力を入れて、それっぽいポーズを取るも、何も起こらない。
声がダメなのか、と考えた悠磨は大きく息を吸い、吐き出すように言い放つ。
「超サ〇ヤ人!!」
もろに名前を叫んだ。しかし金髪にもならず、何一つオーラなんて出やしなかった。
(文字数足りねぇとか? ならば――)
「オレはおこったぞ――――!!!!! フ〇ーザァァァァァァァ!!!!!」
名シーンの再現。しかし何も起こらない。
(まだ足りねぇのか? もっと力入れて、イメージ強く、はっきりさせるなら……)
「クリ〇ンのことか――――――――――――――――っ!!!!!」
だから名シーン再現すれば出来るとは言ってないのに。いや誰も言ってないな。
ツッコミ役がいないせいだろう、妄想の暴走は止まることをしなかった。
「……ふぅ。よし次は…………」
どうあがいても成功のビジョンが見えなかったのか。こういう時は相変わらず、諦めるのが早い。
サクッと切り替え、腕を組みつつ次のアイデアを思案している。
するとガサガサ、と草むらの揺れる音がした。
人の気配は感じてなかった。何者だ、と警戒態勢になる。
「ニャー」
「…………」
やせいのくろねこがあらわれた。
「黒猫……くろ……装飾銃……あ、そうだ!! レールガンとか特殊弾とか作ろうっと」
切り替え早すぎ諦め早すぎそして急にマイナーに早変わり。
というかそれ以前に、いかにもでベタなこの感じ。突然靴紐が切れるとか、湯呑みが割れるとかと同類の不吉の予兆。
彼は気付いているのか。
もしくはこの猫自身が『不吉を届けに来たぜ』とでも言うのではないのか、いやさすがにそれは無いだろう。
けれど今のテンション、慎重さが大幅に欠落した状態で気づくはずも無く、
「フッ、おまえも一人か。惹かれ合ったんかな。けど孤独こそ最強と思わねぇか、黒猫よ」
この中二病は、いきなりワケも分からないことを言い出した。
表向きはこんな醜態を一切晒さず、孤高は至高、ダークヒーロー最高、不運故に悲観的に考える事が多い、と高二病チックな思考と行動が多い。半分演技で、半分は素だが。
けれど一人になった途端これだ。中二病と高二病が半分ずつくらい混じったのが彼だ。残念具合がひどいな。
そして中二半兼高二半にキングボンビーを添えて、アホで包みこまれたこのバカはテンション変わらず次の事を考える。
「とりあえず弾作るか。そうすりゃ弾代は浮くし」
弾を作るイメージで、叫ぶ。
「バレット!」
だが、弾は三秒経たずしてフッと消えた。
(魔法を留めるっつーのが俺はまだできねぇっぽいな。慣れとか、そういう感じか?)
今度は銃を構えたまま、発射のイメージで、
「んー……あ、ブラスト!」
技名が思いつかなかったのか、しばらく考えたのちに超適当に声に出した。
しかし、何も起こらない。
「いや、まだだ。次は炎を撃つか? いやビリビリ弾、レールガンで……いやいやクネクネ動く弾もアリだし、やっぱこういう時はいろんな種類の特殊弾作って……特殊弾と言やぁ、グローブに炎で……炎で飛んだり、なら武空術にした方が……とにかく死ぬ気で試しまくるぜ!!」
急に子どもみたいにはしゃぎ出して、またまたバカな実験を始めた。
※ ※ ※
思いつく限り試し、勢い任せのせいで勢いよく爆発して吹っ飛ばされたり、勢い余って木に激突したり、と。
三時間が過ぎた。
「俺、何してんだろ……」
冷静さを取り戻し、何ともいえない喪失感が漂う。
「…………はぁ、アホくさ。筋トレしよ」
やっぱもっと現実的な事するか、と夢に思いを馳せて現実逃避していた自分を引き戻し、木にぶら下がったり逆立ちしたりと筋トレし始めた。




