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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
36/49

エピローグ

 

 悠磨はガックリとうなだれていた。



「一週間過ぎちまったクソが……」



 悠磨は、絶望していた。

 一体何に対してなのか。それは――――――――




















「ジャ〇プ、見逃しちまったじゃねぇか」


 来週の予告ページを開きながら、早く読みたいという途轍もない焦燥に駆られていた。

 そう、何としてでも地球に帰りたい一番の理由がこれだ。



「この俺が……発売日に見れない、だと!? 何故……何故こうなったァァァァァァァ!!!」


 よほどの事なのだろう、叫ばずにはいられなかったようだ。


 だが彼も気づいているはずだ。時間の進み方が同じであれば金曜日になることを。

 今地球のコンビニに行っても立ち読み尽くされたフニャフニャの某雑誌(ジ〇ンプ)しか残ってないというか次の日になればフラゲできる場所だってある。彼は発売日に買う派だが、フラゲした奴らのネタバレくらってムカついた事もあって、それでもなお発売日に買う事を続けていた。

 早く入手するのはもちろん、遅れることだってしなかった。雨の日も風の日も、台風の日もテストの日も、当日に買い逃すことはしなかった。行きつけの本屋が運悪く売り切れだった日は、何キロチャリを漕いででも探し回ったものだ。だがまあ実際、売り切れるのは長期連載の伝説級のマンガが完結したときくらいだったが。


 と、そんな地球での思い出に思いを馳せていると、じわじわと湧き出す感情。

 早く読みたいのも当然あるが、それだけではなく、

 


「次の月曜までに帰る方法見つけなければ……!! あーチッッックショーがァァァ!! 一週分()見逃すなんて何たる失態ッ!! 不覚ッ!!」


 ずっと続けてきたことが、こんな不運のせいで途絶えてしまったのだ。悔しくないワケがない。

 しかし理事長によって『外』への脱出手段が封じられ、おまけに地球へ帰る手掛かりは掴めずに終わってしまっている。



「電子書籍なら一応読める……けど、何が何でも紙の方を買いてぇ! とすりゃ、ネットで買うしかねぇか。いやいや、一週間で帰れなかったらの話だかなら!」


 別に誰もいないのだから、言い訳する必要は無いのだが。



「つーかどーすりゃーいいんだァァァァァァァ!!!! 夢オチとかになんねぇかな、いやなれ! はい三、二、一でドン!」


 しかし当然、何も起こらない。かなり荒れ狂ってきているが、周りに見ている者が誰もいないからか、自分の状態が分かっていても自制しようとしなかった。



「あーじれったい!! 外行って何かしよう!!」


 ドアを開けると、外はあいにくの雨。ザーザーとそれなりに降っている。



「あっそうですかハイハイ、俺は運が悪いなあ!」


 口癖を呟き、その後レインコートを着て外へ出た。




 ※  ※  ※




 午後七時。

 水たまりがあちこちに出来るほど雨が降り続く中、悠磨は公園にいる。一人でのトレーニング中だ。



(右腕は、もう問題無さそうだな)


 木刀を振り回して、右腕の感触を確かめている。

 ドラゴンの火炎球をまともに喰らって火傷をし、毒棘が刺さって痺れも生じたはずなのに、相変わらず人間離れした回復力を持っている。というより、彼の持論ではしっかりメシ食ってしっかり寝ればいいんだと。試験終了後の三日間はちゃんと休息をとれたおかげだろう。



 今は七時を過ぎて、五分以上経っている。ちなみに試験の日までは毎日この時間、みずなと修行していた。ふと、それを思い出した悠磨は、濡れた髪をいじりながらいろいろと考え始める。



(ま、雨だし、来るこたぁねぇだろ。ちょうどいい機会だ。水魔法でも検証してみっか)


 すると、バシャバシャと水を弾きつつ走る音が耳に入る。しかもこちらに向かってきているようだ。

 誰だ、と思って首を向けると、



「あ、いた」


 フラグが立ったと言うべきか、そこにいたのはみずなだ。



「やっぱりここだったんだ。さっき何か叫んで、そのまま外に出たから……」

「え、もしかして聞いてた?」

「え、ええっと……じゃんぷとかなんとか」

「全部丸聞こえだったんかい!!」


 どうやら、悠磨の奇声は全て聞かれていたようだ。

 ため息をつき、頭に手をつける悠磨。そしてこんなことは家ではもうやるまい、と心に決めた。

 気を取り直し、今度はみずなへ質問する。



「んで、今日は何をしに?」

「え、えっと……修行、じゃないの?」

「あれ? 俺はてっきり、試験までかと思ってたんだが」

「え? そんなのいやだよ! もっといろいろ教わりたいし!」


 すごい意欲だな、と悠磨は感心する。



「んでも、今はおまえの木刀持ってきてねぇぞ?」

「いいよ、わたしの買ってきたから」

「こりゃ、ずいぶんなやる気だこと」


 悠磨が、試験までと決めていたのは本当だ。 

 彼は、これから自分で考えて出来るように、そういう教え方をメインに行ってきた。

 ただ教えるだけでは成長しない、そして教えるゴールをきっちり定めて、ちゃんと独り立ちをさせなければならない。これが彼なりの持論だ。


 そもそも一週間で全てを教えるつもりはなく、これからのためを考えたものだ。

 あと、一週間で地球に帰るつもりだったわけで。



「ま、いっか。んじゃ、始めるぞ」

「え……?」

「そのやる気に免じて、もうしばらくは、師匠の役目を果たすか」


 どうせ帰れないしと、師弟関係は継続する。それはみずなにとって嬉しかったらしく、満足そうに微笑んだ。




 ※  ※  ※




 十分ほどの模擬戦をやった後、雨が一層激しさを増したので、一旦木の影で休憩込みの雨宿りをする。

 ぼうっと天を仰ぎながら、



(いつ止むんだ、つーか雨は天然か、人工的に作ってんのか、海はどこ?)


 そう考えていると、みずなが下から覗き込むように、悠磨の顔を見上げ、



「何で……あんな演技したの?」

「ん……?」


 唐突に質問を投げかける。さすがの悠磨もいきなり過ぎて戸惑うが、訊きたいことは倒れたのも演技なのか、だと思い、



「うーん、半分は、だな。腹減ってたのは事実だし」

「あーそっちじゃなくて……」


 どうやら違ったようだ。



「あ、えっと……その、試験官だった人と話してる時、怖がらせたり、怒らせたりとかして」


 それは前にも言ったような気が、と感じつつも彼はちゃんと答える。



「ああ、あのスタイルが一番ピッタリだったんだよ。敵に揺さぶりかけるにはな」

「えっと、それだけ(・・・・)じゃないよね?」


 するとみずなは真面目な顔になり、ハッキリかつ落ち着いた口調で言葉を続ける。

 


「みんなユーくんばっかりに目が行ってた。だからわたしだって動けたし、だから、ユーくんが悪い人みたいな、そんな感じの演技してたの?」

「へぇ、それで?」


 軽くとぼけたフリをしても、みずなは真っ直ぐ瞳を向けながら問い掛ける。



「だってユーくん、悪い人じゃないし。だから納得いかないもん。みんなに嫌われたり、スパイの人に攻撃されたりするの」

「んでも、そっちの方が手っ取り早かったしな。それに俺は運が悪いから、目的のためなら非難されたり殺されかけたりすんのも厭わねぇ。結果的に、誰も死なずに済んだんだしよ」

「えっと……そうなんだけど、その……」



 今度はみずなは、何か躊躇いもあるかのように、ゆっくり口を開く。



「あのスパイの人の事、少しだけかばってたよね?」

「………………」


 悠磨は絶句した。それはあまりにも的外れだからなのか、それとも的確過ぎたのか。


 正直言いたくないが、誤魔化し通すのは無理か――と判断した悠磨は、平常心を装って口を開いた。



「……まず、どうしてそんな考えに至った?」


 だが口調は、僅かに焦りを含んでいた。



「えっと、なんかスパイの人、ユーくんと戦っている時以外は、『本当はこんな事したくない』って顔してたし……多分ユーくんもこのこと、気づいてたと思うから……あ、でも悪い人みたいなことユーくんが喋ったら、あの人本気で怒ってたけど……だからその……えっと……あれ?」


 だんだんと歯切れが悪くなっていく。やはりと言うべきか、何故こうしたのかという理由が分かっていなかったようだ。



「60点」

「え……?」


 突然、点数を言い放つ悠磨に対し、みずなは少し戸惑う様子。



「いい観察眼だなぁ。大事な情報知らねぇくせに、だいたい当たってやがるよ。つーか……何でそこまで気づいちゃうんだよ……しかも言われちゃうと、余計恥ずいじゃんか」


 彼は落ち込むように嘆いていた。



「えっと……その、そういうの見たらわかっちゃうというか何というか……」

「見たまんまコピるといい、隠し事に気づくといい、ホントにいい眼をしてんだな」

「う、うん……」


 歯切れの悪い様子で、言えない何かがあるんだろうな、と悟った悠磨は再び口を開く。



「まあとにかくだ。この理由ワケは、今はまだ言えねぇ。事が済んだら話すから、気になるかもしんねぇがちっとばかし待ってくれ」

「う……うん、わかった」


 みずなはスッキリしない様子だが、一応の納得はしてくれた。




 ※  ※  ※




 午後八時。ビショビショに濡れたまま帰宅。


 レインコートを着ていたが、激しい運動のせいで中まで雨が入ってしまったようだ。


 動いている最中は暑かったものの、時間が経てば汗によってさらに身体は冷えていく。ビュウと吹く風に悠磨は「さみぃー」と呟きながら、部屋のドアを開けた。


 中を見た途端、彼は口をあんぐりと開けて固まってしまった。


 視界には、いったい何が映っていたのか。




「……ウソ、だろ…………」



 屋根からポタポタと落ちる雫。雨漏りしていた。しかし悠磨を硬直させたのはそこではない。


 落下地点に何があるか。それは例の雑誌(ジャ〇プ)


 雨漏りはそこだけだ。腐食したのか、ネズミなどにかじられたのか、原因はまだハッキリとしない。

 だが一つ言えること、それは、




「何で……見事なまでのジャストヒットしてやがんだよォォォォォォォォ!!!!」


 不運オブザ不運。

 よりによって自分がいない時間、さらには雨漏りの箇所。もはや奇跡と言ってもいいほどに偶然が重なったのだ。全くもって良き出来事ではないが。


 ものすごい焦りが生じ、すぐにそこからどかそうと持ち上げた途端――



「フギャアァァァァァァァ!!?」


 ビリっと、不穏な音がした。悠磨の口から、さらに奇声が漏れる。



「もうヤダ……一番大事な宝物なのに、どうして……どうしてこうなった」


 立ち読み尽くされて無いのに、自分の購入した物なのにフニャフニャにされたのだ。

 その濡れた某雑誌を手に持ちながら、頬から雫が垂れる。

 それは涙ではなく、外の雨で濡れたままの髪からたまたま流れただけだったが、正直悠磨は泣きたい気分だった。



 次のセリフは、悲しみと落胆と、ここに来てから一番暗い感情が渦巻き、それを吹き飛ばすほどの怒りが湧き出して生んだものだった。



「あーあァ! 俺は……運が悪いなあ!」





 ――To be continued


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