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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
35/49

第九話 「不運」と書いて「ベタ」と読む

 



 少し迷ったが、とりあえず念押しの情報収集として、学校に行った。

 というより、これを無視して『外』へ出ようとしたら、余計な面倒事に巻き込まれる、と彼の直感が告げたのもある。



 歩いている最中、理事長との会話を録音しておこうと思い、だが会った後では起動する隙が無いのではと考え、到着の三分前に録音ボタンを押した。



 夕焼けが照らす中、校門に人影。視界に入ったのは、悠磨もよく知る人物だ。



「やあやあ、お久しぶり~」

「不合格者に何の用ですか」


 開口一番に、そう言い放った。


 理事長が一人、門に寄っかかる形で悠磨の到着を待っていたようだ。いつからここに居たかは知る由もないが。



「それじゃ、ちょっと中でおしゃべりでもしようか」


 早速学校の中へ案内され、前と同じように理事長室へと入った。すると、



 ビビビビビビ――――。何かの警告音が鳴り響く。



「あれ? もしかして今、電子機器とか持ってる?」

「ああ、はい」


 もしや、と思う悠磨。

  


「あーゴメンね。最近、ちょっといろいろあってね。そういうの入れないようにしてんだ」

「そうですか」


 普通に一言、そう返事した。スマホは、理事長室の隣の部屋に置くよう指示される。


 しかし、この前来た時も持ちっぱなしだったが、こんなブザー音は無かった。



(チッ、早速こっちの動向読まれたのかよ)


 どうやら悠磨が録音して、後々利用しようと考えていた事を予測されたらしい。



(けど、俺が録音すると分かっているっつーことは、事件で何が起こったかそれなりに知ってるっつーわけだ。なら、それを逆手に取るまでだ)



 悠磨は、『スパイを入れてしまった』、そして『試験中に事件が起きた』という理事長の弱みを握っている。この二つを上手く使い、揺さぶりをかけ、少しでも多くの情報を入手したいようだ。



 テーブルを挟んで二つのソファにそれぞれ向かい合って座る。

 テーブルの上には湯呑みが置いてあり、中には緑茶が入っていた。しかも、まだ入れたてかのように湯気が上がっている。来るタイミングを読んでいたのか、もしくは他の誰かが入れたのかは分からないが。


 その熱々のお茶を一口飲んだ理事長は、湯呑みをそっとテーブルに置き、口を開いた。



「さて、何から訊こうかなぁ」


 どうやら理事長の目的は、先日の事件について知りたいからだろう。悠磨はそう思った。




「何でキミは久藤君の護衛みたいなことしてるんだい」


 いきなり予想外の質問だった。表情は一切変化させなかったが、内心は結構驚いたようだ。



 そして悠磨は、即答することができなかった。

 考えてみれば、なぜこんなことをしているのか、自分でもよく分かってない。

 理屈的に考えて、人と仲良くなるのは自ら不運の要素を増やしてるだけ。

 そのうえ、自分の不運に人を巻き込んでしまう。そうやって迷惑をかけるのは彼自身だって望んでないし、それで大けが、最悪の場合、死に追いやってしまったら、その人家族や友人などの関係者からさらに非難され、余計な不運を増やしかねない。というか、以前にも似たことが起きていた。



 そう、過去にあったのだ。



 ――ジジジ、ザザザ、と頭に浮かぶ映像。

 ――それは、自分の小さな手に、したたる真紅の流体と、生暖かい感触。



(チッ、今は出てくんな)


 すぐさま振り払い、悠磨は何一つ態度を変えず、冷静さを保ったまま口にする。



「そうですね。やらずに後悔するより、やって後悔する方が良いから、ってとこです」

もう(・・)見たくない、からかな?」


 含みのある言い方で、煽りにも取られかねないセリフ。

 それに対して悠磨は、冷たい視線を浴びせながら、静かに言い放つ。



「これ以上は、野暮ってモンですよ」

「うん、そうだね。そうするよ~」



 あっさりと引いてくれたようだ。


「さてと。話は変わるけど――」


 だが次の言葉は、悠磨にとって非常によろしくないものだった。



「キミ~、借りたお金はどうしたのかな~?」

「…………」


 痛い所を突かれる。予想通りではあるが。



「あれ~? 確か、うまく稼いで返すとか言ってたけど、ホントにだいじょうぶなのかい? 学校に入れなかったら、外にも出られないよ。多分キミは、『外』でマセイを狩りまくってお金を稼ごうと考えてるみたいだけど、生徒でもハンターでもないキミは『外』に出れないよ」

「それはもちろん承知しています」


 だが、悠磨はこれを訊いてくるのは想定していたため、既に反論の準備は整っていた。



「そもそも、あなたがスパイを見逃すような事をしなければ、こんなにお金を使わずに済みましたが」

「ほう。そーかそーか」


 早速こちらも、相手の攻めを利用し、痛いとこを突きに出る。



「試験官というのは受験生の不正行為を抑えるのもありますが、『外』においては安全を保障すべき存在だと自分は思います。このような不祥事があったというのに対して、どうお考えで?」

「ほうほう、言いたいことはわかるよ。けどね、僕もこうみえて忙しいんだよ? 試験官の選定は確かに、僕の確認不足もあるかもしれない。けれども、知ってるでしょ? この街のハンターは少ないって」

「だからこそ、その隙を敵に突かれたのでは?」

「ほほう、容赦ない物言いだねぇ」


 理事長は批判されていると自覚していながら、ヘラヘラした様子だ。

 対して悠磨は、目を細めて厳しい視線を向けながら、 


「スパイが潜入するってことは、それほどに大きな『何か』があるのではないですか?」

「うーん、そうかなぁ? これといってすごいものは、この街には無いけどなぁ」

「犠牲者はいなかったといえど、非常に危険な目に遭いましたからね。それなりの責任を取ってもらわないと、こちらとしても納得できないので」

「ふむふむ。じゃあ――」


 理事長は少し溜め、落ち着いた口調で言葉を続ける。



「例えば、僕がそのスパイの仲間を捕まえた、と言ったら?」

「……なるほど」


 少しばかり驚くが、それを一切顔に出さず、短く返した。



「それとね、僕にだって守秘義務はあるんだ。言えるのはここまでだね」


 それが事実・・だとしたら納得のいく理由にはなる。だからこそ、そこを悠磨は攻めにいった。



「それとこれとは話が別では? 現に受験生らを危険に晒した、というのは事実ですから。自分への説明がそれだけなのは一旦置いとくとして、被害に遭った受験生へ、特に保護者に対してはどういった説明をなさるのですか? 自分がもし親だったら、包み隠さず全て話してもらわないと納得できないですね。なにせ、自分の子が心配になりますから」

「いや~なかなか鋭い指摘だね~」

「そこまで考えが至らなかった、なんてことは、まさかですけど、無いですよねぇ?」


 嫌味ったらしく、そう告げる悠磨。ねちねちと執拗に攻めて、少しでも情報をかっさらいたいようだ。



「心配ありがとね。けどね、それはもう解決済みなんだ~」

「……それは本当ですか?」

「もちろん! 実は合格通知書が来るの三日後って言ったじゃん? アレ、実は嘘なんだ」

「……またウソをきますか」


 悠磨は呆れるように呟く。



「ちゃんと説明すると、あの事件の次の日にはみんなのとこに届いたんだ」

「自分のとこには来てませんでしたが? その話もウソなのでは?」


 悠磨も一応、毎日ポストを確認していた。試験から三日後の朝に届いた、というのは間違いない。

 ちゃんとした事実をもとに、論理的思考で冷静な状態を保ちつつ悠磨は訊き出したが、理事長のヘラヘラした態度は崩れなかった。



「正確に言うと、キミ以外のとこ、だね」

「どういった理由で?」

「僕が全ての家を一つ一つ回って、謝罪してきたからさ」

「自分のとこには来てませんが?」

「そりゃそうさ! だって、キミの分(・・・・)まで謝罪してきたんだから」


 思い当たる節はある。もちろん、スパイとの戦闘時の事だ。



「ホント、大変だったんだからね~。特にメンタルケアとか」

「それはドラゴンが一番の原因では?」

「人質に取られた女の子にも、同じことが言えるかい?」


 また、痛いトコを突かれた。

 けれども、まだ反論の余地はある。



「もう一度言いますが、スパイの潜入を許してしまったから、こうなったのでは?」

「いや~なかなかキツいこと言われちゃった~」


 そう言いつつも、理事長は若干だが真面目な顔になった。



「とはいえ、スパイの目的を知りたかったから、ちょっとだけ泳がせておいたんだ。その分の代償は、予想してたし、もう払った。ここまで言えば、文句はないでしょ? それに――」


 次のセリフは、またしても悠磨の予想から外れたものだった。



「キミも同じ立場だったら、きっとこうするよ。なにせ、僕とキミは似たもの同士だからね。だからキミが僕を責めるには、筋違い、じゃないかな」

「…………」


 似てるとは心外だ、彼はついそう思ってしまった悠磨。



「どうして似てると、考えたのですか?」

「同族嫌悪って言葉、知ってるかい?」

「……それだけですか、根拠は」

「聞いたよ~。スパイとの会話とか。僕もキミの立場だったら、同じことするだろうね」

「……」


 非常に、反論しづらい言い分だ。



「僕もこれ以上は言えないよ。キミが最初の事、全て話さなかったように、僕だって隠したいことはあるからね」

「…………そうですか」


 これ以上返す言葉が見つからず、それしか言えなかった。

 最初から、布石は打たれていた。要するに、もっと聞きたかったら自分の事も話せよと、暗に示しているのだ。それに気づかないほど、悠磨は馬鹿ではない。


 その上、自分も先程、今のと同じように問い詰めた。だからって、彼と同じ手を使うだろうか。しかも、ここまで上手く。

 揺さぶりを掛けにいっても、紙一重で見事に躱される。そう感じるほどに、今の駆け引きは手ごたえが無かったようだ。




「さて、話を一旦戻すけど――」


 悠磨が湯呑みに口を付けた途端、そう話しかけ、



「借りたお金はどうしたのかな?」


 予想通り、そこに戻された。



「むしろ、その仕事分の経費って事でチャラにしても良いのでは?」

「フフッ、確かにそうだね。その話は一旦置いておくか」


(まさかそっちからそう来るとは……!)


 先ほどまで、あれだけ悟らせずに話題を逸らそうとしてたのだ。にもかかわらず、戻したと思ったら今度はあちらから下げたのだ。

 だが、こちらが忘れた頃に掘り返すであろう、そう考えつつ警戒しつつ、お茶をまた一口飲んで一息ついた。



「さーてと。それじゃ、本題に移るね」


 悠磨がごくりと喉を鳴らす。それはお茶を飲み込んだだけであって、焦りなどは大して無い。



「悠磨くん、この学校に入ってくれない」


 今お茶を口に含んでいたら、きっと噴き出していただろう。それくらいに驚いたのだ。一切表には出なかったが。



「不合格者に何言ってんですか。冗談はほどほどにしてください」

「え~僕は真面目に言ったつもりなんだけどなぁ」




 すると理事長が、ニヤニヤしながら口を開く。



「あ~そうそう、今年の不合格者、キミだけだったよ」

「へぇ、そうですか」


 あまり関心のない素振りを見せる悠磨。これは焦らすための心理攻撃だな、と思ったらしい。



「筆記は社会以外は満点! でも実技でまさかの0点! しかも試験官をぶっ飛ばしたり、股間を蹴ったり、股間を蹴ったり……ぶふっ、あはははは!!」


 急に爆笑しだした理事長。



「あ~ゆかいゆかい。前代未聞だよ~この学校で落ちた人は」

「え……」


 一瞬だけ理事長の言ったことを理解できず、そして、



(そっちかよ!)


 心の中で激しくツッコミ、一瞬でその熱を冷ます。

 悠磨は、まさかの学校初の不合格者だったらしい。


 急に噴き出して笑ったのは、二度も言った股間の方では無く、悠磨が落ちた事の方だ。

 こういったどうでもいいところで、地味に誤解を招きかねない発言をしてくる。が、深く考え過ぎるな、と思って悠磨は、冷静に会話を続ける。



「要するに、ここは滑り止めってワケですか」

「そうだよ~! 僕って優しいよね?」


 皮肉混じりに言ったはずだが、ヒラリと見事に流された。



「でも、それなのに落ちちゃうなんてね」

「あなたが不正かましたんじゃないんですか?」

「そうだよ~」


 どう反論するか、そしてそこからどう突いていくか考えていたが、あっさり認めるとは予想外で、呆気に取られる。

 が、ここを突くべきと瞬時に切り替え、



「なら尚更なおさらおかしいですよね? わざと落として、しかも入って欲しい、とおっしゃるのは」

「何でだと思う?」

「もうその手には乗りません。時間が惜しいので、早く理由を教えてください」

「また僕がウソつくかもしれないよ?」

「そしたらあなたの信用がさらに落ちるだけです」

「キミもあの時は、いっぱいウソついてたじゃん? それに僕は、理事長でもあり、この街のリーダー的存在でもあるんだ。こないだの受験生たちやここの住人に訊いて回ったら、どっちの方が信用されないかわかるかい?」

「他の人がそうでも、自分の理事長への信用はガタ落ちしますがね」

「どうせ最初から信じてないでしょ、僕のこと。表面的・・・には。それでも、部屋やお金を貸しているんだ。そしてキミはその借りを返さなくちゃね。というわけで、その借りを返すためにも――」


 理事長が若干溜める。もうとっくに、悠磨は次のセリフが読めていた。



「この学校に入学してくれない?」

「不合格者に何言ってんですか」


 しつこい勧誘みたいなこの発言にはさすがに、イラつきを隠せなかった。



「あなた、さっき言いましたよね? 不正をしたと。意図的に落としておきながら、入学してほしいと頼むのは、いったいどういったご了見で?」

「僕だって、それは嘘かもしれないってさっき言ったよね」


 どれが嘘で、どれが事実か悠磨にはほとんど解らない。見破るのにかなり苦戦している。

 けれども焦らずじっくり、揺さぶりを掛けにいく。



「では正直にお答えしましょう。ウソばっかりいている人がトップの学校に入りたいと、自分が考えるとお思いで?」

「あらら。やっぱ僕、信用されてないかねぇ~」

「当然です」

「でもキミだって嘘吐うそつきじゃないかい? 借りたお金、結局返せてないじゃん?」


 さすがにこの理事長相手に、勢いだけで話の主導権を握るのは無理があったようだ。

 しかもここまでの流れで気づいてしまった。もしやここまで、誘導されていたのでは、と。



「これでもかなり節約した方ですよ。あれだけの面倒事――」

「さえ起きなければ、返せたとでも?」


 そして痛いトコその3、を突かれる。



 手っ取り早く稼げるバイトが、もしかしたらあったかもしれない。だが、自分の『ここ』での身分証明書は今は無い。

 学生ではあるが、『この世界』もしくは『この惑星』の学生ではないのだから。そんな怪しい人間でも雇ってくれそうなところは、一応探したが見つからなかったのだ。



「もしかして、全部狙ってました?」

「さて、何のことかね?」


 悔しいが、何も言い返せないのが現状だ。

 いかにも胡散臭く、性格の悪い人だ。もちろんこの事を聞かれる事は事前に予想していた。だが反論の余地は何も無い。


 表向き(・・・)は。



 だがしかし、悠磨の思考を読んでいたかのように、理事長はニヤつき顔で、含みのある言い方で言葉をかける。



「念のために言っておくけど、ここを抜けて『外』に出ようとしてもムダだからね~」

「ハハッ、まさか」


 ホント、まさかね――そう思う悠磨だ。

 無表情で、焦りを一切表に出さず、理事長の口から出る言葉を落ち着いて待つ。



「いろいろ調べて分かったよ。まさか四つの門以外に、外と中を通じる道があったとはねぇ~」

「今まで知らなかったんですか?」

「そうだよ、情報提供・・・・ありがとね~」


 悠磨は理事長に直接教えてはいない。自分でこっそり利用するはずだったのだから。

 何故この事を知っているのか、そう問いたくなるほどに情報収集能力はかなり高いようだ。

 するとここで、ふと思う悠磨。



(ハンター二人か、受験生か。あの時、俺が言ったっちゃ言ったけど……)


 そう、あの時は『俺はどこから嘘をついていたか?』といったセリフを放ったのだ。故に事実かどうか分からない、信憑性皆無の情報のはず。

 おそらくは理事長に、起こったこと全部、ありのまま話してなどといった主旨の質問をされたのだろう。というより、事情聴取とも言い換えられるが。

 録音の手を封じられたのも含め、やはりあの時の出来事はほぼ知っていると見て間違いない。つまりハッタリは通じないな、そう悠磨は考えた。


 さらにもう一つ、思い出す。どこにあるか、は一切口にしていない。

 詳しい場所は知られてないはずだ、と




「いや、まさかあの古本屋の地下(・・・・・・)にあったとはねぇ~」


 ――否、知っていた。


 どうやって知ったんだ、と問いたくなるが、ここは黙っておいた。それを聞いてどうする、と返されるだけだから。


 これは悠磨が力ずくで訊き出した情報だ。ちなみに最初にスパイが吐いた三階はウソ。

 それすら知っていた事に強い疑問を覚えるが、今ハッキリ理解できることが一つ。



 逃げ道は、完全に塞がれてしまった。


 どうやらこの論争も、負けを認めざるを得ないようだ。ものすごく不本意だが。



「キミは信じないだろうけど、僕は信じてるんだよ、キミの事。だから先に裏切って逃げたりしたら何が起こるか、賢いキミなら分かるよね?」


 脅しにもとれる発言を繰り出す理事長。どうやら本気で、今の自分に退路はなさそうだ。




「さて、今僕にたくさん借りができちゃってるね。キミの分の謝罪とかも含めてさ! とりあえず、学校入って頑張ってね!」


 さりげなく学校の入学が決定された。悠磨の意思を一切無視して。

 当然だが、不合格にしておきながら、ここまで入学してと誘うことに、疑念と疑惑ばかりが頭を漂う。



「何度も言いますが、自分、不合格ですけど」

「僕は理事長だから、そんなの関係ないね」

「職権濫用ですね……」


 呆れ口調の、地味な嫌味を放ったが、やはり動揺はしてくれなかった。


 一息()こうと湯呑みを持って、中のお茶を飲みほした悠磨は、次はどうやって情報をもらってやろうかと画策していると、それを邪魔するかのように再び理事長が話しかけてきた。



「せっかく僕がここまでやったんだ。期待してるよ」


(てめェが一体何をやったんだ)


 心の中では怒り口調でツッコむが、それを口にはしない。



「善処します」


 一応丁寧にそう告げると、



「いや~でも頑張って返そうとでも返そうとしても返せず、今日の分を返せる日がきたとしても、その前に新しく借りを作っちゃうだろうし、そうやって僕たち、ずぶずぶの腐れ縁になると思うんだよねぇ~」


 あまりにもひどい言い方だったので、今日一絶対零冷たい度の如き視線を浴びせてやった。

 相当言われたくなかった類のセリフだった。




 ※  ※  ※




 数時間が経ち、外は真っ暗になっていた。



(報酬は入学、か。結局まともな情報得られんどころか、逃げの手も封じられちまった……)


 悠磨にとって、わりと最悪の終わり方だったようだ。


理事長アイツ、マジで何考えてんのか読めん。つーかむしろ、こっちの欲しいモンとか全部読まれてる気がしてならねぇ。こりゃ、行かずに脱走した方が良かったかな……)


 そんな無意味な仮定を考える悠磨。



(家とか学校はどうでもよかったんだがな。おまけに地球に帰る手掛かりは一切掴めなかったし。いろいろ隠してるっつーのは直感でわかんだが、どうあがいてもヤツの掌で転がされてるっつー感じがクッソ気にくわねぇ。一旦従うフリでもして、もらえる情報モンもらったらおさらば、としてぇトコなんだがな)


 考え事をしながら歩き、校門に差し掛かったその時――――



(は……っ!)


 一瞬だが、視線を感じた。

 振り向くとその方向には、学校。しかも理事長室だ。



(あんにゃろう、こそこそ俺のこと見やがって……! つーか今の感じ、どっかで……)




 ■■■




 ――――試験三日前。スパイを拘束した時。


 ――――(……!? 誰かいる……!)


 ――――ふと、気配を察知した。だがそれは一瞬の出来事で、すぐに気配が消えた。まるで、遠くからチラ見してきたかのように。




 ■■■




(あん時のアレか!? まさか、だとしたら……)


 最悪の可能性が一つ、頭に浮かぶ。

 全て、見られていたという事。



 仮に見ていたとしたら、知っててこの状況を静観していた、ということになる。

 新たに、嫌な可能性がたくさん浮かぶ。


 拷問時の情報も、何かしらの方法で聞いていたのかもしれない。

 その時こっそり観察していた理由、例えば、悠磨の実力をはかっていたとか。



 もし仮に魔法を使っていたとしたら、ほぼ素人の悠磨にはお手上げだ。解析も、証拠を掴むことも一切できないから。


 想像するだけなら容易だ。遠くの物を見る、音を聞く、透明化する。さらにはどこかに設置して、携帯電話や盗聴器のように安全な場所で聞いたり、などなど。挙げたらキリがない。



(……だとしたら、分が悪すぎだな。こりゃ、学校行かずに脱走しようが無理だったろうな。次は魔法のこときっちり調べてからか、ハンターになって正門から堂々と出るか……クソ、どっちにしろ間に合わねぇじゃねぇか)


 と、前へ向き直りつつ歩き出した瞬間、



「どうわァァァ――!?」


 もう何度目なのだろうか、空き缶踏んですっ転んだ。



「いや……この不運ベタ、何度目だよ!」


 溜まりに溜まった不満、全て吐き出すように言い放った。



「ったく、俺は運が悪いなあ!」




 ※  ※  ※




「ありゃりゃ、気づかれちゃったか」


 カーテンの隙間から、ひっそりと気配を殺していたのにだ。



「うんうん、これは期待以上のこと、してくれそうだねぇ~。これからが楽しみだなぁ」


 誰も聞き取れない、怪しげな独り言をポツリと、彼は呟いたのだった。



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