第九話 「不運」と書いて「ベタ」と読む
少し迷ったが、とりあえず念押しの情報収集として、学校に行った。
というより、これを無視して『外』へ出ようとしたら、余計な面倒事に巻き込まれる、と彼の直感が告げたのもある。
歩いている最中、理事長との会話を録音しておこうと思い、だが会った後では起動する隙が無いのではと考え、到着の三分前に録音ボタンを押した。
夕焼けが照らす中、校門に人影。視界に入ったのは、悠磨もよく知る人物だ。
「やあやあ、お久しぶり~」
「不合格者に何の用ですか」
開口一番に、そう言い放った。
理事長が一人、門に寄っかかる形で悠磨の到着を待っていたようだ。いつからここに居たかは知る由もないが。
「それじゃ、ちょっと中でおしゃべりでもしようか」
早速学校の中へ案内され、前と同じように理事長室へと入った。すると、
ビビビビビビ――――。何かの警告音が鳴り響く。
「あれ? もしかして今、電子機器とか持ってる?」
「ああ、はい」
もしや、と思う悠磨。
「あーゴメンね。最近、ちょっといろいろあってね。そういうの入れないようにしてんだ」
「そうですか」
普通に一言、そう返事した。スマホは、理事長室の隣の部屋に置くよう指示される。
しかし、この前来た時も持ちっぱなしだったが、こんなブザー音は無かった。
(チッ、早速こっちの動向読まれたのかよ)
どうやら悠磨が録音して、後々利用しようと考えていた事を予測されたらしい。
(けど、俺が録音すると分かっているっつーことは、事件で何が起こったかそれなりに知ってるっつーわけだ。なら、それを逆手に取るまでだ)
悠磨は、『スパイを入れてしまった』、そして『試験中に事件が起きた』という理事長の弱みを握っている。この二つを上手く使い、揺さぶりをかけ、少しでも多くの情報を入手したいようだ。
テーブルを挟んで二つのソファにそれぞれ向かい合って座る。
テーブルの上には湯呑みが置いてあり、中には緑茶が入っていた。しかも、まだ入れたてかのように湯気が上がっている。来るタイミングを読んでいたのか、もしくは他の誰かが入れたのかは分からないが。
その熱々のお茶を一口飲んだ理事長は、湯呑みをそっとテーブルに置き、口を開いた。
「さて、何から訊こうかなぁ」
どうやら理事長の目的は、先日の事件について知りたいからだろう。悠磨はそう思った。
「何でキミは久藤君の護衛みたいなことしてるんだい」
いきなり予想外の質問だった。表情は一切変化させなかったが、内心は結構驚いたようだ。
そして悠磨は、即答することができなかった。
考えてみれば、なぜこんなことをしているのか、自分でもよく分かってない。
理屈的に考えて、人と仲良くなるのは自ら不運の要素を増やしてるだけ。
そのうえ、自分の不運に人を巻き込んでしまう。そうやって迷惑をかけるのは彼自身だって望んでないし、それで大けが、最悪の場合、死に追いやってしまったら、その人家族や友人などの関係者からさらに非難され、余計な不運を増やしかねない。というか、以前にも似たことが起きていた。
そう、過去にあったのだ。
――ジジジ、ザザザ、と頭に浮かぶ映像。
――それは、自分の小さな手に、滴る真紅の流体と、生暖かい感触。
(チッ、今は出てくんな)
すぐさま振り払い、悠磨は何一つ態度を変えず、冷静さを保ったまま口にする。
「そうですね。やらずに後悔するより、やって後悔する方が良いから、ってとこです」
「もう見たくない、からかな?」
含みのある言い方で、煽りにも取られかねないセリフ。
それに対して悠磨は、冷たい視線を浴びせながら、静かに言い放つ。
「これ以上は、野暮ってモンですよ」
「うん、そうだね。そうするよ~」
あっさりと引いてくれたようだ。
「さてと。話は変わるけど――」
だが次の言葉は、悠磨にとって非常によろしくないものだった。
「キミ~、借りたお金はどうしたのかな~?」
「…………」
痛い所を突かれる。予想通りではあるが。
「あれ~? 確か、うまく稼いで返すとか言ってたけど、ホントにだいじょうぶなのかい? 学校に入れなかったら、外にも出られないよ。多分キミは、『外』でマセイを狩りまくってお金を稼ごうと考えてるみたいだけど、生徒でもハンターでもないキミは『外』に出れないよ」
「それはもちろん承知しています」
だが、悠磨はこれを訊いてくるのは想定していたため、既に反論の準備は整っていた。
「そもそも、あなたがスパイを見逃すような事をしなければ、こんなにお金を使わずに済みましたが」
「ほう。そーかそーか」
早速こちらも、相手の攻めを利用し、痛いとこを突きに出る。
「試験官というのは受験生の不正行為を抑えるのもありますが、『外』においては安全を保障すべき存在だと自分は思います。このような不祥事があったというのに対して、どうお考えで?」
「ほうほう、言いたいことはわかるよ。けどね、僕もこうみえて忙しいんだよ? 試験官の選定は確かに、僕の確認不足もあるかもしれない。けれども、知ってるでしょ? この街のハンターは少ないって」
「だからこそ、その隙を敵に突かれたのでは?」
「ほほう、容赦ない物言いだねぇ」
理事長は批判されていると自覚していながら、ヘラヘラした様子だ。
対して悠磨は、目を細めて厳しい視線を向けながら、
「スパイが潜入するってことは、それほどに大きな『何か』があるのではないですか?」
「うーん、そうかなぁ? これといってすごいものは、この街には無いけどなぁ」
「犠牲者はいなかったといえど、非常に危険な目に遭いましたからね。それなりの責任を取ってもらわないと、こちらとしても納得できないので」
「ふむふむ。じゃあ――」
理事長は少し溜め、落ち着いた口調で言葉を続ける。
「例えば、僕がそのスパイの仲間を捕まえた、と言ったら?」
「……なるほど」
少しばかり驚くが、それを一切顔に出さず、短く返した。
「それとね、僕にだって守秘義務はあるんだ。言えるのはここまでだね」
それが事実だとしたら納得のいく理由にはなる。だからこそ、そこを悠磨は攻めにいった。
「それとこれとは話が別では? 現に受験生らを危険に晒した、というのは事実ですから。自分への説明がそれだけなのは一旦置いとくとして、被害に遭った受験生へ、特に保護者に対してはどういった説明をなさるのですか? 自分がもし親だったら、包み隠さず全て話してもらわないと納得できないですね。なにせ、自分の子が心配になりますから」
「いや~なかなか鋭い指摘だね~」
「そこまで考えが至らなかった、なんてことは、まさかですけど、無いですよねぇ?」
嫌味ったらしく、そう告げる悠磨。ねちねちと執拗に攻めて、少しでも情報をかっさらいたいようだ。
「心配ありがとね。けどね、それはもう解決済みなんだ~」
「……それは本当ですか?」
「もちろん! 実は合格通知書が来るの三日後って言ったじゃん? アレ、実は嘘なんだ」
「……またウソを吐きますか」
悠磨は呆れるように呟く。
「ちゃんと説明すると、あの事件の次の日にはみんなのとこに届いたんだ」
「自分のとこには来てませんでしたが? その話もウソなのでは?」
悠磨も一応、毎日ポストを確認していた。試験から三日後の朝に届いた、というのは間違いない。
ちゃんとした事実をもとに、論理的思考で冷静な状態を保ちつつ悠磨は訊き出したが、理事長のヘラヘラした態度は崩れなかった。
「正確に言うと、キミ以外のとこ、だね」
「どういった理由で?」
「僕が全ての家を一つ一つ回って、謝罪してきたからさ」
「自分のとこには来てませんが?」
「そりゃそうさ! だって、キミの分まで謝罪してきたんだから」
思い当たる節はある。もちろん、スパイとの戦闘時の事だ。
「ホント、大変だったんだからね~。特にメンタルケアとか」
「それはドラゴンが一番の原因では?」
「人質に取られた女の子にも、同じことが言えるかい?」
また、痛いトコを突かれた。
けれども、まだ反論の余地はある。
「もう一度言いますが、スパイの潜入を許してしまったから、こうなったのでは?」
「いや~なかなかキツいこと言われちゃった~」
そう言いつつも、理事長は若干だが真面目な顔になった。
「とはいえ、スパイの目的を知りたかったから、ちょっとだけ泳がせておいたんだ。その分の代償は、予想してたし、もう払った。ここまで言えば、文句はないでしょ? それに――」
次のセリフは、またしても悠磨の予想から外れたものだった。
「キミも同じ立場だったら、きっとこうするよ。なにせ、僕とキミは似たもの同士だからね。だからキミが僕を責めるには、筋違い、じゃないかな」
「…………」
似てるとは心外だ、彼はついそう思ってしまった悠磨。
「どうして似てると、考えたのですか?」
「同族嫌悪って言葉、知ってるかい?」
「……それだけですか、根拠は」
「聞いたよ~。スパイとの会話とか。僕もキミの立場だったら、同じことするだろうね」
「……」
非常に、反論しづらい言い分だ。
「僕もこれ以上は言えないよ。キミが最初の事、全て話さなかったように、僕だって隠したいことはあるからね」
「…………そうですか」
これ以上返す言葉が見つからず、それしか言えなかった。
最初から、布石は打たれていた。要するに、もっと聞きたかったら自分の事も話せよと、暗に示しているのだ。それに気づかないほど、悠磨は馬鹿ではない。
その上、自分も先程、今のと同じように問い詰めた。だからって、彼と同じ手を使うだろうか。しかも、ここまで上手く。
揺さぶりを掛けにいっても、紙一重で見事に躱される。そう感じるほどに、今の駆け引きは手ごたえが無かったようだ。
「さて、話を一旦戻すけど――」
悠磨が湯呑みに口を付けた途端、そう話しかけ、
「借りたお金はどうしたのかな?」
予想通り、そこに戻された。
「むしろ、その仕事分の経費って事でチャラにしても良いのでは?」
「フフッ、確かにそうだね。その話は一旦置いておくか」
(まさかそっちからそう来るとは……!)
先ほどまで、あれだけ悟らせずに話題を逸らそうとしてたのだ。にもかかわらず、戻したと思ったら今度はあちらから下げたのだ。
だが、こちらが忘れた頃に掘り返すであろう、そう考えつつ警戒しつつ、お茶をまた一口飲んで一息ついた。
「さーてと。それじゃ、本題に移るね」
悠磨がごくりと喉を鳴らす。それはお茶を飲み込んだだけであって、焦りなどは大して無い。
「悠磨くん、この学校に入ってくれない」
今お茶を口に含んでいたら、きっと噴き出していただろう。それくらいに驚いたのだ。一切表には出なかったが。
「不合格者に何言ってんですか。冗談はほどほどにしてください」
「え~僕は真面目に言ったつもりなんだけどなぁ」
すると理事長が、ニヤニヤしながら口を開く。
「あ~そうそう、今年の不合格者、キミだけだったよ」
「へぇ、そうですか」
あまり関心のない素振りを見せる悠磨。これは焦らすための心理攻撃だな、と思ったらしい。
「筆記は社会以外は満点! でも実技でまさかの0点! しかも試験官をぶっ飛ばしたり、股間を蹴ったり、股間を蹴ったり……ぶふっ、あはははは!!」
急に爆笑しだした理事長。
「あ~ゆかいゆかい。前代未聞だよ~この学校で落ちた人は」
「え……」
一瞬だけ理事長の言ったことを理解できず、そして、
(そっちかよ!)
心の中で激しくツッコミ、一瞬でその熱を冷ます。
悠磨は、まさかの学校初の不合格者だったらしい。
急に噴き出して笑ったのは、二度も言った股間の方では無く、悠磨が落ちた事の方だ。
こういったどうでもいいところで、地味に誤解を招きかねない発言をしてくる。が、深く考え過ぎるな、と思って悠磨は、冷静に会話を続ける。
「要するに、ここは滑り止めってワケですか」
「そうだよ~! 僕って優しいよね?」
皮肉混じりに言ったはずだが、ヒラリと見事に流された。
「でも、それなのに落ちちゃうなんてね」
「あなたが不正かましたんじゃないんですか?」
「そうだよ~」
どう反論するか、そしてそこからどう突いていくか考えていたが、あっさり認めるとは予想外で、呆気に取られる。
が、ここを突くべきと瞬時に切り替え、
「なら尚更おかしいですよね? わざと落として、しかも入って欲しい、とおっしゃるのは」
「何でだと思う?」
「もうその手には乗りません。時間が惜しいので、早く理由を教えてください」
「また僕がウソつくかもしれないよ?」
「そしたらあなたの信用がさらに落ちるだけです」
「キミもあの時は、いっぱいウソついてたじゃん? それに僕は、理事長でもあり、この街のリーダー的存在でもあるんだ。こないだの受験生たちやここの住人に訊いて回ったら、どっちの方が信用されないかわかるかい?」
「他の人がそうでも、自分の理事長への信用はガタ落ちしますがね」
「どうせ最初から信じてないでしょ、僕のこと。表面的には。それでも、部屋やお金を貸しているんだ。そしてキミはその借りを返さなくちゃね。というわけで、その借りを返すためにも――」
理事長が若干溜める。もうとっくに、悠磨は次のセリフが読めていた。
「この学校に入学してくれない?」
「不合格者に何言ってんですか」
しつこい勧誘みたいなこの発言にはさすがに、イラつきを隠せなかった。
「あなた、さっき言いましたよね? 不正をしたと。意図的に落としておきながら、入学してほしいと頼むのは、いったいどういったご了見で?」
「僕だって、それは嘘かもしれないってさっき言ったよね」
どれが嘘で、どれが事実か悠磨にはほとんど解らない。見破るのにかなり苦戦している。
けれども焦らずじっくり、揺さぶりを掛けにいく。
「では正直にお答えしましょう。ウソばっかり吐いている人が頭の学校に入りたいと、自分が考えるとお思いで?」
「あらら。やっぱ僕、信用されてないかねぇ~」
「当然です」
「でもキミだって嘘吐きじゃないかい? 借りたお金、結局返せてないじゃん?」
さすがにこの理事長相手に、勢いだけで話の主導権を握るのは無理があったようだ。
しかもここまでの流れで気づいてしまった。もしやここまで、誘導されていたのでは、と。
「これでもかなり節約した方ですよ。あれだけの面倒事――」
「さえ起きなければ、返せたとでも?」
そして痛いトコその3、を突かれる。
手っ取り早く稼げるバイトが、もしかしたらあったかもしれない。だが、自分の『ここ』での身分証明書は今は無い。
学生ではあるが、『この世界』もしくは『この惑星』の学生ではないのだから。そんな怪しい人間でも雇ってくれそうなところは、一応探したが見つからなかったのだ。
「もしかして、全部狙ってました?」
「さて、何のことかね?」
悔しいが、何も言い返せないのが現状だ。
いかにも胡散臭く、性格の悪い人だ。もちろんこの事を聞かれる事は事前に予想していた。だが反論の余地は何も無い。
表向きは。
だがしかし、悠磨の思考を読んでいたかのように、理事長はニヤつき顔で、含みのある言い方で言葉をかける。
「念のために言っておくけど、ここを抜けて『外』に出ようとしてもムダだからね~」
「ハハッ、まさか」
ホント、まさかね――そう思う悠磨だ。
無表情で、焦りを一切表に出さず、理事長の口から出る言葉を落ち着いて待つ。
「いろいろ調べて分かったよ。まさか四つの門以外に、外と中を通じる道があったとはねぇ~」
「今まで知らなかったんですか?」
「そうだよ、情報提供ありがとね~」
悠磨は理事長に直接教えてはいない。自分でこっそり利用するはずだったのだから。
何故この事を知っているのか、そう問いたくなるほどに情報収集能力はかなり高いようだ。
するとここで、ふと思う悠磨。
(ハンター二人か、受験生か。あの時、俺が言ったっちゃ言ったけど……)
そう、あの時は『俺はどこから嘘をついていたか?』といったセリフを放ったのだ。故に事実かどうか分からない、信憑性皆無の情報のはず。
おそらくは理事長に、起こったこと全部、ありのまま話してなどといった主旨の質問をされたのだろう。というより、事情聴取とも言い換えられるが。
録音の手を封じられたのも含め、やはりあの時の出来事はほぼ知っていると見て間違いない。つまりハッタリは通じないな、そう悠磨は考えた。
さらにもう一つ、思い出す。どこにあるか、は一切口にしていない。
詳しい場所は知られてないはずだ、と
「いや、まさかあの古本屋の地下にあったとはねぇ~」
――否、知っていた。
どうやって知ったんだ、と問いたくなるが、ここは黙っておいた。それを聞いてどうする、と返されるだけだから。
これは悠磨が力ずくで訊き出した情報だ。ちなみに最初にスパイが吐いた三階はウソ。
それすら知っていた事に強い疑問を覚えるが、今ハッキリ理解できることが一つ。
逃げ道は、完全に塞がれてしまった。
どうやらこの論争も、負けを認めざるを得ないようだ。ものすごく不本意だが。
「キミは信じないだろうけど、僕は信じてるんだよ、キミの事。だから先に裏切って逃げたりしたら何が起こるか、賢いキミなら分かるよね?」
脅しにもとれる発言を繰り出す理事長。どうやら本気で、今の自分に退路はなさそうだ。
「さて、今僕にたくさん借りができちゃってるね。キミの分の謝罪とかも含めてさ! とりあえず、学校入って頑張ってね!」
さりげなく学校の入学が決定された。悠磨の意思を一切無視して。
当然だが、不合格にしておきながら、ここまで入学してと誘うことに、疑念と疑惑ばかりが頭を漂う。
「何度も言いますが、自分、不合格ですけど」
「僕は理事長だから、そんなの関係ないね」
「職権濫用ですね……」
呆れ口調の、地味な嫌味を放ったが、やはり動揺はしてくれなかった。
一息吐こうと湯呑みを持って、中のお茶を飲みほした悠磨は、次はどうやって情報をもらってやろうかと画策していると、それを邪魔するかのように再び理事長が話しかけてきた。
「せっかく僕がここまでやったんだ。期待してるよ」
(てめェが一体何をやったんだ)
心の中では怒り口調でツッコむが、それを口にはしない。
「善処します」
一応丁寧にそう告げると、
「いや~でも頑張って返そうとでも返そうとしても返せず、今日の分を返せる日がきたとしても、その前に新しく借りを作っちゃうだろうし、そうやって僕たち、ずぶずぶの腐れ縁になると思うんだよねぇ~」
あまりにもひどい言い方だったので、今日一絶対零冷たい度の如き視線を浴びせてやった。
相当言われたくなかった類のセリフだった。
※ ※ ※
数時間が経ち、外は真っ暗になっていた。
(報酬は入学、か。結局まともな情報得られんどころか、逃げの手も封じられちまった……)
悠磨にとって、わりと最悪の終わり方だったようだ。
(理事長、マジで何考えてんのか読めん。つーかむしろ、こっちの欲しいモンとか全部読まれてる気がしてならねぇ。こりゃ、行かずに脱走した方が良かったかな……)
そんな無意味な仮定を考える悠磨。
(家とか学校はどうでもよかったんだがな。おまけに地球に帰る手掛かりは一切掴めなかったし。いろいろ隠してるっつーのは直感でわかんだが、どうあがいてもヤツの掌で転がされてるっつー感じがクッソ気にくわねぇ。一旦従うフリでもして、もらえる情報もらったらおさらば、としてぇトコなんだがな)
考え事をしながら歩き、校門に差し掛かったその時――――
(は……っ!)
一瞬だが、視線を感じた。
振り向くとその方向には、学校。しかも理事長室だ。
(あんにゃろう、こそこそ俺のこと見やがって……! つーか今の感じ、どっかで……)
■■■
――――試験三日前。スパイを拘束した時。
――――(……!? 誰かいる……!)
――――ふと、気配を察知した。だがそれは一瞬の出来事で、すぐに気配が消えた。まるで、遠くからチラ見してきたかのように。
■■■
(あん時のアレか!? まさか、だとしたら……)
最悪の可能性が一つ、頭に浮かぶ。
全て、見られていたという事。
仮に見ていたとしたら、知っててこの状況を静観していた、ということになる。
新たに、嫌な可能性がたくさん浮かぶ。
拷問時の情報も、何かしらの方法で聞いていたのかもしれない。
その時こっそり観察していた理由、例えば、悠磨の実力をはかっていたとか。
もし仮に魔法を使っていたとしたら、ほぼ素人の悠磨にはお手上げだ。解析も、証拠を掴むことも一切できないから。
想像するだけなら容易だ。遠くの物を見る、音を聞く、透明化する。さらにはどこかに設置して、携帯電話や盗聴器のように安全な場所で聞いたり、などなど。挙げたらキリがない。
(……だとしたら、分が悪すぎだな。こりゃ、学校行かずに脱走しようが無理だったろうな。次は魔法のこときっちり調べてからか、ハンターになって正門から堂々と出るか……クソ、どっちにしろ間に合わねぇじゃねぇか)
と、前へ向き直りつつ歩き出した瞬間、
「どうわァァァ――!?」
もう何度目なのだろうか、空き缶踏んですっ転んだ。
「いや……この不運、何度目だよ!」
溜まりに溜まった不満、全て吐き出すように言い放った。
「ったく、俺は運が悪いなあ!」
※ ※ ※
「ありゃりゃ、気づかれちゃったか」
カーテンの隙間から、ひっそりと気配を殺していたのにだ。
「うんうん、これは期待以上のこと、してくれそうだねぇ~。これからが楽しみだなぁ」
誰も聞き取れない、怪しげな独り言をポツリと、彼は呟いたのだった。




