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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
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第八話 自ら招く不運、どうせ望まずしてやって来るからと

 


「オイ、誰か縄とか縛るモン持ってる人いねェか?」


 突然声をかけられて、呆然と戦いを見ていた人たちはハッと意識が戻った様子だ。



「ンだよ。誰も持ってねェのか? そんじゃ、コイツの四肢へし折って運ぶか」


 何度目かも分からない狂気の発言に、周囲の人たちはまたも動揺と驚愕を顔に浮かべる。

 やがて二人のハンターが近づき、うち一人、今は試験官の大剣使いが話しかけた。



「さすがにそこまでやる必要は――」

「オイオイ、人殺しに同情するつもりかァ?」


 戦闘が終わったにもかかわらず、今度は別の人にまで敵意を向けるような発言をした悠磨。

 突然の事に、驚くのも無理はない。



「いや、そういうつもりでは――」

「それとも、アンタもコイツの仲間かァ?」

「ち、違うぞ! 俺はこの人なんか知らな――」

「冗談ですよ」

「………………は?」


 いきなり悠磨の口調も雰囲気も変わる。あまりの唐突な変化にハンターの二人どころか、大半の受験生もポカンとした表情で、呆けるしかできなかった。



「ふぅー。やっぱ、あの演技は疲れるなあ」

「は、なっ……!?」

「まさか、全部本気だと思ってました? っつーことは、そんだけ演技力が高かったってことか。いやーよかったよかった」


 残虐的な笑みは見る影も無くなり、代わりに浮かんでいるのは真顔だった。

 そんな気の抜けた態度に思わず、



「「い……い、いいわけねえだろォォォ!!」


 ハンター二人が、声を揃えてツッコんだ。



「焦ったんだからな、今! 俺まで殺されるかと思って!!」

「そうっスよ! メッチャビビったっスよ!?」

「あーそれはすいません。けど念のため、このスパイの仲間が他に紛れ込んでないか確認したかったので。反応を見る限りじゃ、いないようですね」

「ま、待て待て。反応をって、見ただけで分かんのか!?」

「ある程度は、ですよ」


 と、会話が成立していることに悠磨は意外感を覚えるが、どうせなら今ここで、と口を開く。



「あ、そうそう。理事長の何とかってやつもウソです。自分はただの受験生ですから」

「……は? いやいやまさか? じゃあ何で?」

「いやホントですってば。ただ自分、運悪く変なスパイに絡まれ、変な事件に巻き込まれて、だからちょっと仕返ししただけです」

「「これのどこがちょっとだよ!!」」

「まあまあ落ち着いてください」


 あっさりネタバラシをすると、驚愕の声がハンター二人だけでなく受験生たちからも上がる。

 けど、嘘をついていたはずなのに、今のセリフも嘘かもしれないのに、この反応が予想外だったのか、悠磨も戸惑ってしまう。 


 当然、悠磨に対しての疑念が晴れない受験生もそれなりにいる。その事にもちろん気づいている彼は若干の自虐的な笑みを浮かべつつ、




「それにしても、自分のことは疑わないんですか? あれだけウソ散々つきましたのに」


 わざわざ言わなくてもいい事を口にした。自分から言い出すのか、と疑いを向けていた受験生らは驚愕し、固唾を飲んでハンターの返答を見守る。

 するとそのハンターの大剣使いは、一瞬にして真面目な顔になり、落ち着き払った口調で、



「前にも助けてもらったし、今回はドラゴンを倒した。スパイの事だって全部知っていて、ここにいるみんなのために戦ってくれた。それだけで十分信用に値する」


 真っ直ぐ悠磨を見つめたまま、真っすぐで主人公じみた発言に対し、



「……聞いてるこっちが恥ずかしくなってきましたよ」


 悠磨は呆れと恥じらいを少し含んだ口調でそう呟いた。

 周囲が落ち着きを取り戻し、静寂が訪れる。会話がようやく一区切りついたのもあっての事だろう。

 ふと、彼は思う。



(そういや、この二人ちゃんと俺の話聞いてくれんじゃん。よかったよかった)


 特に驚いたのはそこだったらしい。 



(つーか、もっと酷い事態になると思っていろいろ策練って準備したのに、ほとんどムダになっちまったなぁ)


 人の話を聞かないからこそ、問答無用と自分へ攻撃しに来ると想定していた。なので逃走の手段も用意していたらしい。




 あくびをしながら考え事をしているとそこへ、みずなが近づき、悠磨へ話しかける。



「ねぇ、ユーく……師匠」

「え、今何で言い換えた?」


 悠磨は疑問を口にするが、みずなは無視して訊ねる。



「わたしって……役に立った?」

「ん? ああ、そうだな」


 短い言葉でそう返すと、安心したように微笑んだ。

 だが他にも聞きたいことがあったのだろう、みずなは再び彼へ問う。



「それと……やっぱり演技だったんだ」

「え、気づいてたんか? いつから?」


 さすがにこれには驚き、訊き返すと、



「えっと……服斬って、師匠のしゃべり方が変わったあたりから……」

「……はい!?」


 色々と予想外過ぎて悠磨の思考が数秒固まり、



「ほとんど最初ハナっからじゃん! んだよ、やっぱ知り合いには気づかれるレベルか……」


 はぁ、とため息をつく。さっきまでとは打って変わって心情を包み隠さず様子だ。

 それを見てみずなは満足そうに微笑み、



「だってわたし、ユーくんの弟子だもん!」


 胸を張って、自信ありげな声でそう言った。

 すると悠磨は、少し疑問強めの口調で、



「おや? ずいぶん調子に乗ってるな? 一人前って認めたつもりはねぇぞ?」

「う……うぅ……」


 今度は一瞬にしてシュン、と落ち込んでしまったようだ。

 その様子を見て悠磨は、やれやれと首を横に振りつつ呟いた。



「ま、今日くらいはいいか」


 そんな他愛もないおしゃべりをしていたその時――――




 パタリ――と、前から地面に倒れる悠磨。

 まるで全てを出し切り、力尽きたかのように。



「え…………」


 何の前触れもない、あまりにも突発的な出来事に、みずなだけでなくハンター二人も、受験生らも驚く。



「ドラゴンの毒、か……」

「え、毒……!? う、うそ…………」


 うつ伏せになった悠磨のそばで、みずなは慌てて膝をついてしゃがむ。

 彼女の顔には焦りの色が強く浮かび上がっていた。 



「ヤベぇ……て、死にそう……」

「え、やだよ! まだ死んじゃ……!!」


 段々と弱々しく変わっていく悠磨の声。

 ここで彼は、弟子へ最後に何かを言い残すのか。















「腹減って、死にそう」

「……………………ふぇ?」


 受験生のほとんどが、こう思った。「今何って言った?」と。

 当然みずなも同じことを思い、口にする。



「え、と……今何て言ったの……?」

「おなかがすいて、ちからがでないー」

「………………………………」


 その場にいた全員が、ポカンと開いた口が塞がらなかった。



「ちょ、ちょっと……もう! まぎらわしいこと言わないでよ……!!」


 ぷんすかと、みずなが可愛く怒った口調でそう言うが、悠磨はさらっとスルーし、



「えっと、みずなでいいや。俺のリュックとって来てくれ。そん中にメシ入ってるから」

「え、えっ……え? どこ?」

「あっちの、森の草むらに隠してある」

「うん、わかった!」


 方角を指さしながら悠磨がそう言うと、みずなは二つ返事で、すぐさま立ち上がって走り出した。



(けど念入りに隠したし、すぐには見つけらんねぇか)



 しかし、この彼の予想に反し、一分もしない内にみずなはリュックを持って戻って来た。さすがの悠磨も早っ、と心の中で驚き呟く。



「すまん、助かった」


 早速リュックのチャックを開け、取り出したのはカ〇〇ー〇イトの箱。いざという時の保存食として常に持ち歩いていたが、



「こんな早くに消費しちまうとは。ったく、俺は運が悪いなあ」


 二本二袋入りだが、残り一袋になってしまったのを、非常に惜しんでいるようだ。



「ていうか、さっき言ってた毒とか、平気なの……?」

「ちゃんとメシ食っときゃ、何とかなる。ま、最近金欠でまともに食ってねぇし、おまけに今日の昼抜いてきちまったしな」

「え……どうなってるの、師匠の身体……」

「さぁ、俺も知らん」


 呆れるように呟くみずなと、あっけらかんとした悠磨。その二人の会話には誰も入ってこなかった。というより、入りづらかったのだろう。もしくは、悠磨の態度の急激すぎる変化っぷりに、誰一人として脳がついていけなかったのだろう。


 おなかが減ったのは事実だが、この場の不穏な空気をリセットするための演技、でもあったのだろう。そして、この事に気づいているのはみずなだけ。だからなのか、悠磨に上手く合わせていたのかもしれない。



 サクサクと心地いい音を立てながら二本を二十秒も経たずして食べ終え、



「よし、一応復活!」


 と、跳ね起きながら軽い口調で言うと、視界にハンター二人が話し合っているのが映った。

 するとその話し合いが終わったのだろうか、再び悠磨へと詰め寄り、話しかける。



「結局オレ達って意味あったっスか?」

「実は一人で全部解決できたんじゃあないのか?」


 ハンター二人が自信なさげな声でそう放つ。何を話し合っていたのか、この質問の主旨は何なのか一切不明だが、とりあえず謙虚に返しておこうと考えた。



「いや、自分一人では厳しかったっすね。仮にあのドラゴン倒せたとしても、この裏切り者捕らえられるほどの体力残らなかったでしょうし。このスパイも、かなりの手練れだったんで」


 控えめな口調で、そう告げると、



「いやいや、また謙遜してるんっスか?」

「もう少し自信もっていいんだぞ。なんせ、あの『クマタロウ』も、このドラゴンも倒したんだから」

「いえいえ、あなた達みたいな優秀なハンターがいてくれたおかげです」


 悠磨の褒め返しを一切無視して、ひたすらしゃべり続ける。



「こんなに強いんだから、一緒にチーム組まないっスか?」

「そうだな。お前がいれば、心強い」

「いや、自分まだプロですらないので、そういった話は正規の手順をまず踏んでから……」


 それでも当たり前の理由で、丁重にお断りするが、



「で、チームの登録とかって必要あるっスか?」

「任意と書いてあったが、そういやまだやってなかったな、俺達も。報酬の分配とかのために、一応すべきだな」


(最後まで聞いてくんねぇかなぁ!? さっき俺と会話できてたアレは何だったの!?)


 心の中で、激しくツッコんだ。

 途中から返答になってない。一方的に喋っているだけの状態だ。


 もう無駄だと悟ったのか、悠磨は話題を切り替える。



「それより早く帰りましょうよ。みんな疲れているでしょうし、それにさっき聞こえたマセイの咆哮――」

「そういや、この後どうするんっスかね」

「とりあえずまず、帰らないとな」


(だから俺の話聞けやァァァ!!)


 悠磨の心の叫びは、言おうが言わまいが関係なく二人に届かなかった。


 ちなみに、みずなとハンター二人以外の受験生達の内半数以上は、悠磨から距離を置いている。

 怯え、戸惑い、不安、その色は様々。




 捕らえたスパイの男は、悠磨がリュックから出した縄で縛り、運んだ。

 一体どれだけの物が入っているのか、そう不思議に思うみずなだが、今は訊かずにただリュックをじっと見つめる。


 試験の処理については、当然といえば当然だが、学校に戻ってからとなった。




 ※  ※  ※




 ――――数時間後。


 全員が学校に着くと、すぐに人数確認が行われた。

 その後、関係者たちの審議により、試験は一時中止。明日行われる予定だった残り半数の実技試験は延期もしくは中止になるんだと。


 捕らえたスパイは試験官のハンター二人によって牢屋に入れられた。両腕を非常に痛がっていたので、悠磨は情けでもかけたのか、常備している包帯と落ちていた木の板で一応の処置として、右腕をギプスのように固定してあげた。



 解散した後、悠磨は帰り道を歩いていると、ふとこんなことを思う。


(そういや、あん時潰したのがもう一人の方だったら、こんなクソ目立ってメンドいことにならなかったのに。いつも通りハズレ引いちまったんだな)


 二手に分かれた後、もう一方のスパイである試験官を捕らえていれば――と無意味な想像をしていた。



「ホント、俺は運が悪いなあ」


 天を仰ぎながら、悠磨はため息交じりに呟いた。

 だが大事なのは、そこからにの切り替え。ただネガティブに流すだけでは、何も進展しない。



(さてと、終わった事どうこう言ってもしゃあねぇ。他の謎も解いていかなきゃな)


 周りの不運に警戒しつつも、思考にふけっていく。



(まずスパイの男たち(アイツら)の雇い主、の使い方がなってねぇだろ。せっかくあんだけの戦闘力持ってんのに、活かし方がまるでなっちゃいねぇ。それ以外ができねぇっつーのにそれ以外ばっか押し付けちゃ、意味無ぇんだろうに)


 今疑問を置いているのは敵の幹部など上に位置する人間に対してだ。どんな組織なのか、大きいのか小さいのか、そんなことはほぼ知り得ていないが、用心するに越したことはない、と。

 なんて思慮深い少年なのだろうか。いや、不運故の経験が、彼をそうさせているのだろう。 



(そもそもプロ(・・)のスパイじゃねぇだろ。何でだ? やっぱ囮か? 素人アマチュアなら切り捨てるのも容易だろうが……いや、まともに情報渡さなければバレるこたぁねぇし、ウソの情報を広めるっつー手もアリだしな)


 気になったことはメモしつつ、いろんな店にも立ち寄り、結局家に着いたのは八時過ぎだった。




 ※  ※  ※




 試験から三日後。

 結果の通知が来た。あまりにも早くて驚く。採点とか間に合ったのか、などといった疑問が生じると同時に、一つの可能性を考えた。



(もしや……事件あったせいで全員合格とか)


 封筒を開けて、中の紙を見る。そこに映るのは、





 ――――『不合格』



「ぶっ……あっははは――――!!」 


 思わず噴き出して笑う悠磨。落ちたことに対して、落ち込む様子は微塵もなかった。



 実はまだ地球にいた頃、高校受験の試験では、前の席の人がカンニングペーパーを落とし、それが運悪く悠磨の机の下へ滑り込んできたせいで、彼がカンニングの疑いをかけられてしまい、失格となってしまった。

 見事にとばっちりを受け、弁解の余地もなく落とされ、結局地元の偏差値底辺不良校に入る羽目となったのだ。


 ま、今となっては関係のない話だが。



(さてと。『外』に脱走かな、こりゃ)


 そもそも彼に入学したいという気持ちは無い。

 もうここ、『中』にいる目的は無いから、と。だからって脱走するか普通、と常識人なら思うだろう。



(あー、さっさと地球に帰りてぇ)


 とにかく一刻も早く『地球』、もしくは『現実世界』へ帰りたいらしい。

 一見ヘラヘラとしているが、実は内心かなり焦っているのだ。



 スパイの持っていた銃やナイフ、タガーもくすねたまま。武器はある上に、それなりの情報もあるので、『外』で生き延びるには十分だ。

 ただ『中』が嫌、というわけではない。『外』だって危険だから、長期のサバイバル生活がしたいなんても思ってない。



 だが、今脱走すればスパイの謎は解けないままとなってしまう。それでは運が悪い悠磨にとっては不安要素となり得る故に、看過できぬものではないのか。



(脱出経路は、スパイが使おうとしてたアレを使うとして、その後だな……)


 否、もう『中』に用はないから、関係ないからどうでもいい様子だ。

 早速気持ちを切り替え、頭の中で計画を立てていく。



(俺がここに来た時の場所、まずはそこ行くから……つーかあそこって何かあったっけ? ワープゲート的なモンとか見えなかったし、いや、周期的に現れるとかの可能性もあるはずだ)


 両手で持っていた紙から左手が離れ、無意識に顎をさする。考え事する時の癖なのだろう。

 悠磨は次に、脳内で過去の映像をどうにか再生しようと試みる。


(どうやって飛ばされたっけ? そういや、穴に落ちて、真っ暗からいきなり光って……)


 だが肝心のところで目を瞑ってしまったため、これ以上のヒントは記憶から掘り起こすのは出来なかった。


(さてと。原理とかも結局分からず終いか。俺は運が悪いから、真っ直ぐ地球帰れねぇだろうし、下手すりゃ他の惑星にでも飛ばされちまうだろうな。魔法やら魔法素やらが絡んでそうだが、そこら辺は現地で解析でもするとして……まず行かなきゃ何も始まんねぇ)


 身体を伸ばしつつ、ゆっくり息を吐いた後、



「うし、行くか!」


 静かに短く、そう発した。


 すると突然、ヒラリと紙が落ちる。二枚重なっていたようだ。

 不合格なら、入学手続きの書類などあるはずがない。これは何だ、と書いてある文字を目で追っていく。


 理事長から、学校に来いとのことだった。



「落ちたから学校に来いって、聞いたことねぇぞ……」





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