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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
33/49

第七話 不運を告げる、終幕の雄叫び

 



 ■■■




 それなりに離れた所から戦闘を眺めていたハンター二人。緊張で顔が強張りつつも、互いに話し合っていた。 



「何で彼は銃を使わないんスか?」

「距離が近すぎて、撃つ隙が無いんだ。むしろ試験官――いや、スパイはそこを突くつもりかもしれない」

「くっ! 俺たちが戦えれば……!」

「ダメだ。二人とも格が違い過ぎる。仮に俺らが万全だったとしても、あんな素早く高度な戦い方、俺らには無理だ」

「なのに彼はあのドラゴンと戦った後で、ケガも疲労もあるんスよ! どうして――」

「もしや、最初から知ってたのか? ずっと休んでたのは、竜が出る事もスパイが紛れ込んでるのも、両方知ってたからなのか!?」

「あいつ、何者っスか?」

「ついこの前まで『外』の人間だったはずだ。それなのに、誰なんだ。一体彼は、何なんだ……!」


 だが、その疑問には誰一人として答えなかった。耳に入ってくるのは、刃同士がぶつかり合う金属音だけ。



「結局俺たちは、どうすればいいんスか!?」

「攻撃してきたら止める。俺らは受験生たちを守るだけ、ただそれだけだ」




 ■■■




 戦闘が始まった途端に、冷静になったスパイの男は、仲間の敵討ちという強い怒りを上手く抑えていた。


 足やナイフの攻撃に気を取られれば、すぐに銃で撃ち抜かれる。いくら丈夫な防具といえど、あれだけドラゴンを苦しめた威力の高い銃ではいとも容易く撃ち抜いてくるだろう。たとえフェイントっぽくても、一番警戒すべきなのはコレだ、と。


 空中に跳び上がりながら銃口を向けられ、スパイはギョッと身体が固まってしまう。


 がしかし、いつ撃つかと思えば、引き金を引こうとする気配が無い。

 悠磨の身体が、硬直する。

 さらに、彼の顔に焦りの色が浮かんだのが視界に入る。



(来た。最大のチャンス……!!)



 ドラゴンの棘による毒。獲物を麻痺させる効果があり、普段は遅効性、ウロコが黒く染まった時、言い換えると怒り状態の時、即効性。運が悪ければその両方が起きる。

 毒は時間が経つと強さが増す。ドラゴンに殺された人間から検出して判明したらしい。


 その情報はスパイとして入手していたもので、どの書物にも無いものだ。


 ずっと観察していたため、尻尾による攻撃を喰らっていたのは知っている。そして毒によって麻痺を起こしていたような様子は、遠くからではっきりとではないが、見られなかった。



 そして浮かぶ苦悶の表情。今戦っている相手――天倉悠磨の身体に今、毒が回ったんだと、毒の効果が発揮されたと、直感的にそう感じた。

 ずっと待っていた、最大のチャンス。



「もらったああああ!!」


 スパイがしっかりとタガーを握りしめ、渾身の刺突。

 鋭い切っ先が皮膚を裂き、血飛沫を舞わせた。




「な……!?」


 驚愕の声が漏れる。しかしそれは悠磨ではなく、スパイから。


 この攻撃を悠磨は、右手で受け止めたのだ。掌で、素手でだ。しかも刀身の部分をだ。

 手の平から血が流れ出す。それでも痛みを堪え、毒の痺れをもねじ伏せるように強く握る。



(な、何故動ける!? 猛毒だぞ……!!)


 その心の叫びを喉の奥で押し留めて、焦りを一瞬で振り払う。


 ならば、と繰り出す右手の横薙ぎ。

 悠磨が左手に持つ拳銃は下を向いている。撃つより早く手を刺し、あわよくば指を切り落とそうと狙っていた。次の瞬間――





 スゥーっ、と拳銃が落ちていった。ずっと銃に意識を向けていたせいか、落下していく過程を無意識に目で追ってしまう。その間、自分の右手が何をするのか忘れていたのか、力なく流れた。



 悠磨は左手から拳銃を、手放した。ただ、そこに置くように。

 開いた手で、敵の手首を掴んだその刹那――――





 膝を曲げ、強烈な膝蹴り。右の手首を確実に狙った、強烈な衝撃が加わる。

 ゴキッ、と骨のひび割れるような、鈍い音が弾けた。



「があぁぁぁぁ――――!!?」


 手を下へと押さえつけるようにしつつ、膝で蹴り上げたことにより手は、くの字みたいに折れ曲がった。握る力が弱まり、敵の右手からタガーが滑り落ちる。


 スパイは完全に意表を突かれた。が、瞬時に間合いを取り、体勢を立て直す。よほど鍛えられているのか、もしくはこういった状況に慣れているようだ。


 しかし、驚きは隠せなかった。不意を突かれた事、それだけではない。



「くっ……な、何故動けるんだ! 毒を喰らったはずなのに! 貴様はもう限界のはずだ!」 


 スパイの男から冷静さが失われていき、焦りと驚きの色が濃く浮かび上がる。

 対して悠磨は、平然とした態度のままフッと笑う。



「気合いってやつ?」

「ふざけんなよ貴様ァ!!」


 余裕の笑みを浮かべながら、ホルスターに拳銃をしまう悠磨。もはや銃を使うまでも無い――という事ではない。

 足元に落ちている敵の使っていたタガーの端を足で踏み、回転させがら少し浮かせる。そこからグリップの部分を蹴り上げ、クルクルと宙を舞うナイフを、空中でキャッチした。

 今度は悠磨が二刀流になった。スパイの男は折れた腕により、しかめっ面を浮かべつつも左手で構える。




 すると唐突に、悠磨は強い笑顔を浮かべる。

 痺れを、歯をくいしばって強引に捩じ伏せたのだ。



(こりゃ、長期戦はヤベぇかもな。知らねぇ毒相手じゃ、俺の身体は和らげる程度しか(・・・・)出来ねぇみてぇだし。しゃあねぇ、ソッコーでケリつけに行くか)


 毒には強いと自負していたが、考えを改めた。油断大敵だ、不運ならなおさら、と彼は自分に言い聞かせる。


 数刻の思考の後、今度は悠磨が間合いを詰めようとした瞬間、敵は懐から何かを取り出す。

 それは、拳銃だった。しかも折ったはずの右腕で持ち、左手で支えつつ引き金を引く。



「死ねえええ――!」


 敵の声と同時に、どデカイ発砲音が響き渡る。

 さすがのこれも、二重の意味で予想外だった――――





「な……!?」


 はずだ、と敵は考えていた。だがしかし、驚愕の表情をさらしたはスパイの方だった。


 敵が引き金を引くより早く、左手のナイフを落とし、二連の早撃ち(クイックドロー)。敵の拳銃を、銃口と持ち手を撃ち抜いた。


 定石通りにいこうが虚を突こうが、悠磨はとても冷静に対処。



 すぐさまこの硬直時間に一発、足を狙う。


 しかし痺れによって、指先にしっかり力が入らず、若干トリガーを引くのに数コンマ遅れが生じた。

 敵も切り替えが早く、地を蹴って左へサイドステップ。銃弾はほんの僅かに掠めたが、運が良かったのか、服を裂いただけでダメージは無い模様。



 それでも隙を知られぬようにと、足を止め、不気味に微笑む。



「てめェの言いたかったセリフは、『銃を持ってるのは貴様だけではない!』ってとこかァ?」

「くっ、貴様ァ!!」


 全て読んでいたと言わんばかりの、嘲笑うようにそう告げた。

 その余裕綽々たる態度に、顔を真っ赤に染めるスパイ。


 再び銃をしまい、自ら落としたナイフを拾い上げ、敵に向かって猛スピードで接近したその時――――






 グルォォォォォ――――。

 轟く雄叫びは、新たなる不運を呼ぶ前触れか。


 これまでに聞いた事のあるクマタロウやドラゴンのとは違い、若干機械じみた音だ。



 ドラゴンの事もあり、受験生達とハンター二人は反射的に音のする方角へ振り向いた。

 だが、耳に入っていながらも目の前から視線を逸らさなかった者が二名。


 キインッ、と刃物同士がぶつかり合い、金属音が響く。



「みんなアッチ向いてっぜ。てめェは気にならねぇんかァ?」

「そんな隙はもう与えないし、もう不意打ちは通じん!」

「ハッ、お互いさまだろーが」


 戦いの気を削ぐどころか、むしろ利用しようと企んでいた。両者共にだ。


 すると、敵がバックステップで距離を取る。

 今までとは真逆の行動に、悠磨はどんな意図があるか考えつつ拳銃を構えようとして、



(ヤベッ!)


 二つの自らの過ちに気づく。一瞬判断に迷い、だがそれを悟らせまいと思いついた策を実行に移した。




 ※  ※  ※




 咆哮に、振り向くハンター二人。受験生らも同時に。



「な、何だ! また敵か!?」


 あまりにも唐突だった上に、少し前にはドラゴンの乱入まであったのだ。驚き振り向くのも無理はない。

 だが今回に限っては、そちらを警戒すべきではなかった。



「な、しまった!」


 いつの間にか接近していた主任の試験官、もといスパイの男。

 敵は槍使いを蹴り飛ばす。身体は前に倒れ、もう一人のプロハンターである大剣使いに衝突する。


 ハンター二人がよろけている隙にスパイは、受験生から女子を一人、人質にとる。右腕で身体を押さえつつ、ナイフを首元に向けてだ。



 だが、そうすると気づいたと同時に悠磨は、拳銃をスパイに向けていた。



「こ、こいつを殺されたくなかったら、武器を捨てろ!」

「追い込まれて、ヤケクソになったかァ?」



 悠磨は、わらっている。人質を取られてるとは到底思えないような、余裕綽々の態度。

 その姿勢を崩さないまま、平然と敵に銃を向ける。



「どっちが速ェか試してみっかァ?」

「貴様のそれは六発しか撃てない。今その中身は空だ。その程度のウソは通じないぞ!」


 意外にもそれに気づいていた事に、悠磨は心の中で少し驚いた。だが、その程度で上から目線の態度は崩れない。



「へぇ、数えてたんだ。でもよォ、敵がいるの分かってて、簡単に弱点を把握されるようなこと、すると思うかァ?」

「何が言いたい」

「てめェは弾薬をリロードした瞬間を、全て見れたのか? 一つたりとも見落としてないと、自身持って言えんのかァ?」

「なっ……!」


 不気味な笑みを浮かべながら、彼は顎を少し引いて、真っすぐ敵を見つめる。

 だがそれでも、自分の方が優位な状況にあると強調するためか、スパイの男は動揺を隠すようにはっきりと声を上げる。



「き、貴様ァ! 立場が分かっているのか!」 

「はァ? わかってねェのはてめェの方だろ。余計な罪、増やしてェのか? そいつを殺そうが殺すまいが、俺はてめェを殺せるし、逆にてめェは俺を殺すどころか傷一つ付けられねェ。どっちが有利なのか、理解できてんのかァ?」

「人質はどうでもいいのか!」

「全員殺すとかほざいてた奴が、今更なに言ってんだ? それに仇討ちはもう終わりかァ?」


 ロクでもない彼の発言が、周囲を凍り付かせる。

 だが悠磨は、



(チッ、一発も入ってねぇのに気づかれてたか。どうする。一瞬で一発だけリロードするか?)


 ハッタリだった。


(人質を無視して突っ込むか、素早くリロードして撃つか……まだ弾薬はポケットに入ってたな。注意を右手からそらして、ナイフも落とし、もっかい弾丸打ち上げるか……いや、不意打ち系の技は二度目は通じねぇ。にしてもコイツ、ずいぶんと顔色悪いな)


 引き金に指を掛けて銃口を向けたまま、しかし脳は状況を冷静に分析する。きちんと敵を観察しながら。



演技・・は続けるとして、このまんまでもっかい動揺を誘えるか? いや、ムズイか。俺が油断してる、その隙を突いてやる、とか思ってくれた方がやりやすかったんだがな)


「どうした! 本当にあるなら早く撃てよ。ビビってんのか? それとも本当は無いんじゃねえか?」


 今度はスパイからの挑発だ。少しでも自分の方が立場が上だ、と思わせるためだろう。



(しゃあねぇ。この手もあんまし使いたくなかったんだがな……)


 有利なのか不利なのか非常に分かりづらいこの状況の中、心理的優位を保って揺さぶりをかけるために、さらに異常な言葉の追撃をかます。



「いーや、ただ殺すのはチョぉット俺の流儀に反するんだよなァ。だってさァ、一発で死んじゃったら、何の苦痛も感じずに終わっちまうじゃん。それじゃあダメなんだよ。もっとじっくり痛めつけて、早く死にてェと思わせるくらいにさ。目ン玉くりぬいて、耳引きちぎって、手足を切断して、はらわたえぐり取って……あ、でもそれじゃ失血して死んじゃうか。ならとりあえず四肢へし折って、それともさっきみてェに蹴り入れてやろうか。今度はちゃんと睾丸タマァ潰してやるからさ」

「な……ぁ…………!」


 先ほどまでの濁り口調から一転、爽やかに、息するようにさらりと恐ろし過ぎる発言をした悠磨。狂気の度合いは、先程までより増している。



 対して試験官は再び、股間がうずく。それは興奮ではなく、圧倒的恐怖と苦痛。

 先ほどの忘れていた痛みがよみがえったかのように震え、足を無意識のうちに閉じてしまった。


 その敵だけでなく、周りの人たちも絶句するほかなかった。ゾワっと背筋に悪寒が走る。

 手の動き、声のトーン、表情、全てが狂気に満ちたものだった。悪魔だの魔王だの、そんな単純な言葉で片付くようなものではなかった。



「き、き貴様……かなり狂ってる……!」

「俺が普通だと、そう思ってたかァ?」



 毒による痺れ、ドラゴンとの戦闘の疲れ、痛みそれらを全て完璧に近い演技で隠し、ひたすら敵の精神こころを揺さぶる。途轍もない胆力だ。



(さて、だいぶ動揺を誘えたな。こっからどうすっかな。やっぱ弾薬一発空にはじいて、その隙にリロードして撃ちぬくか……人質の無事を考えると、難易度クソ高ぇな)


 ほとんどはアドリブだった。予想はしていても、予定通りではなかったからだ。



(さて、不運な俺が、どこまでやれるか…………えっ?)


 果たして彼の最後の疑問は、一体何を指した言葉なのだろうか。




 ※  ※  ※




 ――――『俺は運が悪いから、何かしら面倒事が起きて変なとこに行ったりするかもしんねぇ。だから……その……要するにだ。俺の事は気にせず、自分の事に集中しとけよ』


 ふと、みずなの脳裏に浮かぶ、映像。それは悠磨のセリフ。


 これってもしかして、と思うみずな。最初から知ってたのでは、と。 


 ――ユーくんが注意を引き付けてるから、今のうちになんとかしろってこと? でも、さっき言ってたことって……このことだよね。最初から全部知ってたから、今こうしてるんだよね。でも、わたしなんかに……


 と、そんな消極的な感情を振り払おうと、彼女は無意識に首を振る。



 ――ユーくんも今だって、疲れてるはずなのに……あんなに苦しそうな表情(・・・・・・・)してるのに……!


 悠磨の演技をあっさりと見抜いていた唯一の弟子。

 しかし、それに気づいたことが、みずなを動かすトリガーとなり、




 ――ううん、目の前の人助けられなくて、何が友達を助けるだ、なんて師匠に言われちゃう。そうだよ、今ここで、わたしが頑張らなきゃ……!


 疲労の溜まった脚に、「動いて!」と願いを掛けるように力をめる。




 ――わたしだって、強くならなきゃダメなんだ。何も出来ないままじゃきっとダメなんだ。

 もう、戻りたくない。だから、変わらなきゃ……自分で、変えていかなきゃ!


 自分に強く、強く言い聞かせ、身体を奮い立たせる。



 ――今、今しか無い! わたしが、ユーくんのために、師匠のために出来ること……!



 音を立てないように、そうっと地面に武器の長刀を置いた。

 静かに燃ゆる思いを、悠磨と同じよう表に出さず、死角から気配を殺し、ゆっくりと近づく。スパイの男は、みずなの接近には気付かない様子だ。


 さらに驚くことに、周囲の受験生、ハンター二人でさえも気づかない。幸運と言うべきか、もしくは悠磨がほぼ全て自分へ注意の向く行動をしてくれたおかげだろう。




 いけると思ったタイミングで、しっかりと敵を見て突撃。

 左に持つタガーを、人質から遠ざけるように勢いよく引っ張った。




「な、貴様! 何しやがる!?」


 敵の意識はやはり完全に悠磨の方に向いていたため、みずなの接近には全く気付いてなかった。


 危険な得物タガーを遠ざけ、片手で押さえる。

 驚いて、対処し切れない内にと、すかさず人質を捕まえてる右腕の手首を引っ張り、



「があああああ――ッ!」


 悠磨が既に折っていたので、力を加えれば当然痛みは増す。

 力ずくで人質を解放。何と大胆で、勇気ある行動なのか。

 が、称賛される間も、落ち着く間もなく、敵意は悠磨からみずなへ移り、



「クソッ!! こうなれば、まず貴様からだ!」

「…………!」


 声を上げる暇さえ与えぬまま、左手のタガーがみずなに迫ったその刹那――――






「ぐ……があぁぁぁ!!」


 悲鳴をあげたのは、スパイの方だった。

 ドンと、乾いた銃声と共に、左手は撃ち抜かれた。タガーはその勢いで吹っ飛ばされる。



「オイオイ、一番警戒してたんじゃねェのか、拳銃コレによォ!」


 悠磨は、みずなと敵が取っ組み合いになった隙に、タガーとナイフを手放して二発リロード。

 すぐさま敵へ接近。両手ともにまともに使える状況じゃないため、距離を置いて戦う必要性なんか無い。



 激痛に両手を互いに押さえてしまい、苦痛の表情を浮かべるスパイの男。それでも降参する気配は無く、向かって来た悠磨へ迎撃するつもりだ。



「く……いい加減くたばれえぇ!!!」


 右足での回し蹴り。武道の心得でもあるのだろう、しっかり踏み込んでの力強い振り。

 だが読んでいた、と余裕の笑みを浮かべながら悠磨はかがんで――というより滑りながら躱し、左足で回転スライディング。



「なぁ……!?」


 片足しか地面に着いてない状態で、転ばせるのは容易だった。

 そして、悠磨は回転の勢いを緩めず、かつ右手の平と左足と右膝を地面につけ、左手のハンドガンを強く握りしめ――――



「ごがっ…………!?」


 顔面めがけて思いっきり殴りつけた。遠距離武器である拳銃で殴られるのは、さすがに予想外だったらしく、戸惑いと驚きの表情を隠せなかった。


 重量にして、約一・五キログラム。

 背中から地面に叩き落されて、「がはっ」と息が詰まるような声を出し、硬直する。



 唐突に銃を手放したり、銃で殴ったり、つくづく定石通りの行動をしない悠磨。いや、銃に必要以上に警戒していたからこそ、それを逆手に取って対処したのだ。



 両手は激痛、つい二の腕で立ちあがろうとするが、隙だらけ。

 それを悠磨は見逃すはずもなく、回転の勢いを利用して素早く立ち上がる。


 敵がどうにか上半身を起こした時、そこには影ができて――――




 顔面へ、かかと落とし。

 ズドンッ――と容赦のない一撃。



「が……ぶ……ぐふっ…………」



 まぶたはほとんど閉じられ、頬にあざができている。ドボドボと流れ出る血は、鼻からのものだ。

 朦朧(もうろう)としていた意識はやがて失い、完全に気絶する。




「せっかく強ぇのに、もったいない野郎だ」


 まるで称賛と憐れみを含んだセリフを、普段通りの声で言い放った。


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