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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
30/49

第四話 不運に抗え

 



 拳銃を向けられたドラゴンは、その脅威を知ってか怯んでいた。

 ここまで戦って、気づかない悠磨ではなかった。



(やっぱコイツ……意外と賢いな)


 ただ本能のままに喰らい付こうとしてきた『ガルギイ』とは全く違い、確実に彼を仕留めようと仕掛け、攻撃を繰り出す。つまり、理性や知能といったものが有るということだ。


 様子をうかがにらみ合いが続く中、先に動き出したのは悠磨だった。



(弾薬は空っぽだけど、ハンパな知能じゃそうなるよな!)


 銃を突き出したまま走り、右手の剣を後ろに引く。

 力を溜めた後、鋭く一直線に刺突。狙ったのは敵の左眼。


 しかしドラゴンは大口を開け、剣ごと噛み砕くかの如く顎を勢いよく閉じる。が、それを悠磨は右に避ける。

 噛み付き攻撃は空を切って、牙同士が擦れた耳障りな音が響く。顔をしかめつつも、下顎したあご狙って突き刺し、振り上げた。



「チッ……浅い」


 命中こそしたものの、皮膚を少し裂いて、数滴の血を垂らすだけに終わってしまう。


 今度はドラゴンが足を曲げ、ジャンプ。彼をその屈強な足で踏み付けようとしたのだろう。

 だが悠磨は、寸前で離れるように回転し、避けた。


 しかし敵は倒れ込むようにドスンと響かせ地面を揺らし、共に発生した突風が乾いた砂を撒き散らす。けれども悠磨は、



(それは知ってる(・・・・)


 左腕を額に付けつつ、ほぼ目を閉じながら接近。一度『クマタロウ』にやられたからこそ、例え違う相手だとしても同じ手は喰らわない。

 左の翼膜へ水平斬り、袈裟けさ斬り、と連撃を叩き込む。視覚はほとんど使わず、聴覚を頼りに攻撃を繰り出していたのだ。


 やがて砂煙が晴れていく。その間に翼膜の面積は半分ほどに減っていた。


 視界が良好になった瞬間、悠磨は敵の首を目掛けて一閃。空中にいた時に斬り刻んだ部位で、血が固まった様子。

 一点への集中攻撃で一気に決着をつける――つもりだった。



「ウソ、だろ……!」


 狙い通りの位置にヒットし、剣が砕け散った(・・・・・・・)。パキィィン――と、派手な音を立てて。



 空中でひたすらに斬りつけた首の部分に、赤と黒の混ざった、かさぶたのようなものが張り付いている。実はかなり頑丈になっているのだが、ここを悠磨は自分が作り出した弱点、と勘違いしてしまった。

 明らかに人間のかさぶたほどの硬さではないし、これまでに戦った『ガルギイ』や『クマタロウ』にはこんなのは無かった。つまり、このマセイ特有の能力かもしれない。



 と、そんな冷静な分析が、命取りとなってしまう。不運は、三度みたびやって来た。


 身体を回転させ、尻尾での攻撃。太くてリーチの長く、避ける間もない速度で悠磨に迫る。


 想定外の事態に目を見張って、異常なほどに加速された思考がゆっくりと動くかのように錯覚し、しかし身体は殆ど置き去りにされ、



「くっ…………!」


 悠磨は咄嗟に後方へ下がって、腹を腕でガードしつつ攻撃そのものの威力を若干軽減するので精一杯だった。だが――



「がは…………ッ!!」


 追撃とは、敵の攻撃だけにあらず。

 数メートルも吹っ飛ばされ、空中で身動きが取れず、その勢いのまま背中を頑丈な岩に叩きつけられた。

 一瞬呼吸が止まり、口から血がほとばしる。


 動きの止まった彼へと、ドラゴンは雄叫びを上げながら、追い打ちの突進。


 悠磨は痛みを頭から追い出すように意識を敵へ向ける。

 まず拳銃のリロード。左ではなく、右のポケットから三発弾薬を取り出して装塡。狙いは敵の左眼。

 しかし一発撃つも、ドラゴンは頭をかがめて躱した。


 それでも悠磨は動揺せず、もう一度銃を構える。今度は両手で持ち、脳天目掛けて引き金を引いた。

 だがそれすら読み切っていたのか、横に大きく跳んで避けられた。猛スピードで走りながら避けるのは、例え弾丸だとしても予測できれば容易かもしれない。一発・・ならば。


 ドラゴンの火炎連弾の如く、一発目は誘導。

 冷静に放った二発目は狙い通り、左眼に命中した。



『グガアァァァ――!』


 視覚の機能を完全に失い、竜の全力疾走はつまずき、バランスを崩す。

 悠磨はよろよろとふらつきながらも右に回転して避けた。ドラゴンは倒れこんで、悠磨が打ち付けられた岩に勢いよく顔面衝突。

 巨大で頑丈なその岩を頭だけ貫き、ドラゴンは身動きが取れなくなった。


 倒れたとき突風が発生し、ドラゴンから遠ざかっていきながら転がっていく。

 それなりに離れた所で起き上がると、今さらながら右腕の異変に気づく。



「…………ッ!」


 浅くも棘が刺さっていたのだ。サイズは、シャー芯程度の太さで、長さは見えている部分だけで三センチほど。恐らくは尻尾に生えていたもの。つまりは彼を吹っ飛ばした尻尾回転攻撃の時だろう。


 悠磨は左手で何の躊躇いも無く抜き取った。その棘を捨て、したたるる血を左手で軽く押さえる。

 すると突然、右腕だけ若干の痺れを感じ始める。火傷や貫通した痛みだけ、とは思っていないようで、



(毒か? ま、この程度なら問題ねぇな)


 その毒も、どんな種類か知らないはずなのに「問題ない」と割り切れるほど、身体の丈夫さには自信があるらしい。


 今度は腕を血を絞るようにと、さっきまでと逆の動作をする悠磨。毒を少しでも排出しようと思っての行動だろう。そのまま、砕けた剣を放置して試験官たちが固まっている場所へ早歩きで向かった。




 ※  ※  ※




「ど、どうした急に?」


 悠磨はもたもたしていた主任の試験官の目の前に立つ。

 すると、相手が目上の人と分かっていながら、ぶっきらぼうに言い放つ。



「その剣貸せ」

「だ、ダメだこれは!」


 試験官は拒否を示した。

 だが、それを想定していたのか、悠磨は何も言い返さなかった。とその時、



「な……! 何すんだ!」


 無言のまま、背中に掛けてあるその大剣を掴むが、それを試験官は振りほどこうとする。



「何でそこまで怒るんですかね?」

「この剣は私のだ!!」

「意味分かんないんですけど」


 あえて口調を変えて、ほんの少し丁寧に訊くも、強情な態度を崩さなかった。

 この状況でそんな主張をすることに疑問を覚えるのは当然だった。だが一刻を争う事態なので、深く追求する時間は無い。


 今度は鋭い目つきになり、威圧感のある声で言い放つ。



「じゃあてめェがアイツと戦え」

「し、しかし……」

「どっちにすんだ早くしろ」


 猛獣の如く睨み付けるも、煮え切らない返事しかしなかった。

 すると悠磨はしびれを切らしたのか――――



「おぐぅふううぅぅ――――…………!!?」


 

 急所へ強烈な、必殺の一撃。

 チーンという効果音がよく似合う、しかしギャグでは済まないほどの衝撃。


 要するに、試験官の両足の間を何の躊躇も無く蹴り上げた。そして目玉が飛びそうなほどの激痛に、顔面蒼白になったのだ。



 大半の人は試験官が死角となり、何が起きたのか分からぬままだったが、その瞬間を目撃した数人は、顔を青ざめた。


 激痛の走る箇所を手で押さえながら、苦悶の表情を浮かべてうずくまる。泡を吹いて気絶、とまではいかなかったが、もはやまともに立ち上がれる状態ではない様子。


 だが悠磨は、そんなことお構いなしに試験官の肩を踏み付け、無防備となった背中に手を伸ばし、大剣を鞘から抜き取った。

 重量感のあるそれを両手で持ち、ドラゴンの方へ向き直る。すると試験官が蹲ったまま睨み上げ、苦しんだ様子のまま口を開く。



「うぅ――ぐ……き、貴様ァ! ぅ……な、何す、る――」

「そんなに死にてェなら、てめェだけここでくたばれ」


 相手が試験官にもかかわらず冷酷に告げ、そして、


「おめェらもだ。邪魔だから逃げるなり隠れるなりしてくれ」


 他の受験生に向かってそう言い残し、悠磨は大剣を持って、ドラゴンに向かって走っていった。




 ※  ※  ※




 ドラゴンの首は埋まったままだった。その隙に悠磨は走りながらリロードする。

 だが、残り五十メートルを切ったところでドラゴンは岩から脱出してしまう。ブルブルと首を振って石屑を落とし、こちらをギロッ、と視覚が復活したかのように振り向く。


 敵の両眼は固まって赤みを帯び、さらに潰したはずの眼球が再生していた。右翼は、枝のように複数に分かれた凝血が切断部分をなんとか繋ぎ合わせた状態。


 悠磨は口に溜まった血をペッと吐き出し、そのずっしりと重い大剣を両手で持ちながら、フルスピードで走る。対してドラゴンは、咆哮を上げて突進。



 両者がぶつかる寸前、悠磨は地面を滑るようにスライディング。剣を真上から約四十五度後ろに傾けながら、傷をあえて浅めに入れた。

 どのくらい深く入れると――出血させると、異常に硬くなるほどの凝固をみせるか調べるため、そして抵抗を強くしてスライディングの勢いを弱め過ぎないようにするため。


 微かに血は垂れるも、固まる様子はない。致命傷にしか反応しない、と悠磨は推測した。

 そのまま敵の後方へ回る。が、ドラゴンは軽く首を後ろへ捻り、彼を見るや否や、尻尾を、力を溜めるように曲げ、薙ぎ払う。


 剣の腹を向け、ガード態勢に入りつつタイミングを合わせて後ろへ跳ぶ。

 だが、尻尾の動きは悠磨の予想に反して、大剣に当たる直前で上へと振り上がっていく。その瞬間――



「くっ……!」


 重力によってさらに加速された、強烈な振り下ろし。

 想定外の攻撃をしてきたせいか、悠磨は判断に数コンマの遅れが生じ、回避が間に合わず、剣の腹で正面から受け止めるしか無かった。


 歯を食いしばって耐えるが、衝突した時の衝撃だけで片膝がついてしまう。

 刀身に頭も付け、必死に押し返そうと全身で持ち上げにいこうとするが、尻尾の重みは全く緩まない。どれだけ踏ん張っても、彼の身体が沈んでいくばかり。まるでプレス機かのように、力強く押し潰しにかかる。


 判断を変更し、どのタイミングで横へ脱出しようか迷っていたその時――――




『グルギャアァ――!?』


 唐突に、ドラゴンの喚き声が耳に入る。



「空にいなけりゃ、こっちのもんだ!」

「アンタ一人に頼るワケにはいかないっスよ!」


 ハンター二人が、敵の頭へ武器を突き刺したのだ。そのおかげで怯んだ隙に、悠磨は若干押し返して横へ転がった。

 すぐさま起き上がり、息を整えながら状況の確認。


 ハンター二人は互いに一定の距離を保ち、ドラゴンの出方を窺っている様子。

 対してドラゴンは二人を見た後、槍持ちへと振り向く。



「オイ、無理すんじゃねぇぞ!」


 悠磨が無意識にそう発したものの全く耳を傾けず、息ぴったりの連携でガンガン攻めていった。

 その方法は至って単純。一人が注意を引き付け、逸れた方のもう一人は側面から攻撃。



「ったく、聞いちゃいねぇ。ま、後で礼は言っとかなきゃな」


 今のうちにと、気づかぬ間に蓄積された疲労を、呼吸によってある程度回復させていく。

 やがて心身共に落ち着きを取り戻し、息の整った悠磨は、攻撃に加わろうと近づいたその時、ドラゴンは翼を羽ばたかせる。


 なんと、その翼で飛び上がろうとしていた。


 確かに右翼の付け根部分が血によって固まり、繋がってはいる。悠磨は完全に斬り落とせはしなかった。ウロコと翼膜の部分も硬かったのだ。

 とはいえ、動作部分さえ切断しておけばもう空中戦はないと考えていたが、ここまでは読み切れなかった。



(コイツ、まだ飛べんのかよ……! クソッ!)


 戸惑いが生じ、足を止めてしまった。その間にもドラゴンは少しずつ上昇していく。

 だが悠磨はすかさず切り替え、拳銃のリロードをしようと弾薬を取り出したその刹那――――




「おらああああ――!」


 一人が槍使いを大剣に乗せて、力いっぱい振り上げて上空へ飛ばし、


「逃がさないっスよ!!」


 飛んでったもう一人のハンターが槍をドラゴンの頭にぶっ刺した。

 顎を貫通して口内へと届き、ドラゴンの口から血がこぼれ出す。

 ギリギリのバランスを保っていたためか容易に体勢は崩れ、敵は悲鳴のような声を漏らし、落下した。


 さすがの悠磨も、これは予想外だ。



「なんて無茶しやがる……」

「ユーくんも、でしょ!」


 思わず呟いた独り言に、女子の声が反応する。振り返って見ると、そこにいたのはみずなだった。



「オイ、ここは危ねぇから離れろって――」

「私も戦う。だって、ユーくんの弟子だから!」


 悠磨が最後まで言葉を続けるより先に、みずながはっきりした口調でそう告げた。

 初めて会った時に比べて、自身に満ち溢れた表情をしていた。

 ここまでの闘志を見せている者に逃げろ、なんて野暮というもの。なので悠磨は態度を変える。



「ま、よくビビらず来れたモンだな」

「師匠の方が、十倍怖いもん!」

「……ハハッ、そうかよ!」


 予想しなかった答えが返ってきたためか、笑い声と共に、嬉しさと呆れと面白さと、様々な感情が複雑に絡み合っていた。



「そんじゃ、俺から言うのは一つ。躊躇いと迷いは捨てろ。そんで――」


 少し溜めてから、落ち着いた口調で言い放つ。


「死ぬな」

「二つだよね?」


 間髪入れずにツッコミを入れるみずな。

 それでも悠磨は、不敵に微笑み、


「そうだ、な!」


 その声と共に、師弟コンビは駆け出した。



 みずなは長刀を、悠磨は大剣を持ち、敵の注意が逸れている内に接近し、一閃。


 さらに彼女は側面から接近し、右翼や腹へ次々と斬り刻んでいく。

 悠磨との修行の成果なのか、その連撃には迷いも隙も無く、洗練された動きだ。



「やああぁぁ!」


 最後の力強い一撃が深く入り、ウロコを一つ斬り落とした。無視できなくなったのか、ドラゴンは彼女へと振り向いたその時、



「おらあああ!」

「うおりゃあああ!!」


 ハンター二人が、その隙を突いて斬撃を叩き込んだ。

 三人が囲んで攻める中、悠磨はバックステップで一旦距離を置いて拳銃を持ち、詰まっていたのも含めて全て排莢し、手早く六発のリロードを済ます。


 三方向からの攻撃に、ドラゴンは対処し切れていなかった。反撃はことごとく躱され、刻まれる傷は増えていく一方。

 すると敵はまとめて蹴散らそうと、身体を回転させた。

 轟、とうなる烈風の如く、竜の尻尾がみずなへ迫り、



「え、ひゃぁ――!!」


 みずなは叫び声を上げながらしゃがんだ。悠磨が反射的に慌てて駆け寄るが、明らかに援護が間に合わない距離。そして――――




(なんつー偶然だよ……)


 悠磨には絶対に起こらないような奇跡を目の当たりにした。


 みずなはしゃがむと同時に長刀を上向きに、刀身が尻尾に向かうように持っていた。 

 勢いよく振り回されたその尾は、スパッと、ただそこにあった刃に切断された。


 悠磨は呆れ笑いを浮かべながら走っていて、



(うっ……! ったく、俺は運が悪いなあ)


 切断面から噴き出た鮮血を、彼はみずなの身代わりの如く頭から浴びてしまった。

 ため息をつきながら首振りと手で血を払い落とし、みずなの側に近寄って声を掛けた。



「まだ戦えるか?」

「う、うん……平気」


 ドラゴンが悠磨たちから遠ざかるように下がり、動きを止める。尻尾を斬り落とされたことにより、悠磨とみずなへの警戒もより一層強くなったようだ。


 やがてその切断面も、首や翼同様に凝固していく。

 長期戦はこちらが不利、全身が異常硬化するより早く決着を付けなければ――ずっとそう考えていた悠磨は、あることに気づく。



(もしやこいつ、じっとしてなきゃ(・・・・・・・・)硬くできねぇんじゃねぇのか?)


 飛んでいる間も、銃弾は一度も弾かれる様子は無かった。右翼はかなりの傷を負っていたはずなのにだ。

 空中戦で斬り刻んだ首は撃ち落とした後だ。ただ、その時も翼が硬くなる様子は無かった。


 翼と眼はドラゴンが岩に突っ込んでいたときだろう。おそらくその時に回復に専念していた。だからあれだけの力を持っていながら、岩からの脱出には悠磨が戻ってこれるだけの時間がかかった。

 さらに今、目を凝らすと、槍使いが貫いた顎と口も段々と硬化し始めている。



(そうか。休んでる時に、ケガした部分が異様に硬くなるだけじゃねぇか。不死がどうとか言ってたが。そんなモン、どシンプルでいいぜ)


 回復にも相当のエネルギーやスタミナを使う。だから再生中は攻撃できない。そうだとしたら、取るべき行動は単純明快。



(要するに、休む暇与えなきゃいいんだな! んで、こういうのは出血多量じゃなくて、命そのものぶっ潰しゃいい)


 悠磨の考えた作戦は至ってシンプル。ひたすら攻撃し続け、弱った瞬間に腹部を斬り裂いて、固くなるより先に臓器や器官を全部潰す。


 手数を増やすために、何をするか。またみずなの刀を借りて双剣スタイル、なんかより有効な手段。

 弟子にも戦わせること。



「よし。行くぞみずな!」


 悠磨はやると言ったら最後までやれ、との意図で放った言葉を、


「うん!」


 一瞬の沈黙の後、パッと明るい表情を浮かべて返事をした。

 みずなはその時初めて、師匠に認められたような気がして、満ち溢れてくる勇気が、恐怖心を追い出した。

 解釈は違えど、結果的に良しか。



 悠磨とみずなが、真正面から接近。

 ドラゴンは凝血再生を止め、走ろうとして、



『グガアァ!?』


 突然脚だけの動きが止まり、体が前に倒れ込む。


「今のうちっス!!」

「トドメを刺せ!!」


 ハンター二人が左脚には大剣を、右脚には槍を突き刺し、動きを止めたのだ。



(人の話は聞かねぇくせに、いっちょ前なことしやがって……!)


 そんなことを心の中で呟きながら、フッと笑う。同時に、このチャンス、無駄にはしない――と思った。

 悠磨が右から、みずなが左からふくらみながら走る。

 敵は頭だけで体を起こし、悠磨の方へ向きつつ、口に炎を溜める様子。



「やっぱ俺か。来るなら来やがれ!」


 大きく口を開け、火炎球の八連弾が悠磨に襲い掛かる。

 走って向かいながら、右に左にステップで六発回避し、七発目を回転で避け、八発目は起き上がりからのジャンプ、そして刀身を向けて、空中でいなして軌道を逸らすと同時にスレスレで躱した。


 残り三十メートルを切った。三秒あれば届く、と思ったその刹那――――




 一直線に、灼熱の火炎放射。

 最後の切り札と思われる、スタミナ効率を無視しての攻撃。


 しかし悠磨の直感が反応し、考えるより先に右へ方向変換を行っていた。

 だがドラゴンも、燃やし尽くそうと放ちながら首は悠磨を追っていく。

 距離が近づきたせいか、逃げようも、首の可動範囲を出るより先に喰らうかと思われたその瞬間――――




「やあぁ――ッ!!」

『ガグゥゥ――――!』


 みずなの一撃が先に届き、火炎放射を止めた。

 心の中でナイス、と彼女を褒めながら、この隙に悠磨は接近。


 みずなは右手で、悠磨は左手で武器を持ちながら、次々と斬撃を繰り出す。

 二人の連撃はとどまる事を知らず、頭から首、胴体へと凄まじい勢いで斬り刻んでいく。

 二人とも剣を片手持ちで小刻みに斬り裂きつつ、もう一方の手でバランスを取ったり敵の身体を掴んだりと、器用に一分の隙も無い動きを生み出していた。なおかつ硬化した箇所に当てぬようにだ。

 そして、ここぞという時に両手持ちで力強い一閃。


 みずなは腹部を、悠磨はジャンプして背中へ。


 悠磨は走った勢いのまま跳び上がり、身体を反転させながら大剣を振り下ろす。

 重量感のある剣が、一直線にウロコを斬り裂いていく。



 重く、深く、鋭く、速く。固めようと傷口に付着する赤色の液体ごと吹き飛ばすほどの、台風さながら怒涛の攻撃。


 息ピッタリな剣撃の嵐は、赤色の雨を降らせた。

 溢れ出す血潮は、地面へと溜まっていく。体から離れてしまえば、傷痕を防ぐことは出来ない。

 生命力が尽きれば、待つのは死のみ。だが、悠磨の頭に失血死での決着は無い。


 ドラゴンは横向きに倒れる。だがピクリと、まだ微かに動いた。



(まだだ!)


 大剣を右手持ちに変え、腹部を突き刺す。先程での攻撃で作り出した傷をさらに深く抉り、はらわたが視認できるようになった。

 すると漂う、鼻を刺すような刺激臭。それは斬り裂いた器官からの匂いで、魔法素含んだものと分かるや否や――



「シールド!」


 防御用の魔法を、この状況で発動した。


 悠磨から見て左側に発生した傘状の透明壁は、勢いよく噴出する血を自分が被らず、かつ外へ流すようにコントロールした。

 敵のエネルギー源と推測される魔法素を消費しつつ、中がある程度見やすくなり、腹の中が露わになる。

 他の臓器の位置を瞬時に把握した悠磨は、拳銃を左手で持ち、シールドと大剣の隙間へ腕を伸ばした。


 六発の銃声が、轟く。



 ドラゴンは断末魔のような弱々しい声を上げ、それでも微かに体を動かして抵抗しようともがく。

 が、心臓と言うべきか、核と言うべきか、生を維持するための器官は完全に機能を失ったのだ。



 静寂が、辺り一帯に訪れる。

 敵は、完全に息絶えた。



 悠磨は倒れ込んだドラゴンの首を、大剣で斬り落とした。そして顔色一つ変えず、色々剥ぎ取っていく。

 ここまでするか、と誰もが思うくらい、念入りに死んだか確認したかったのだろう。

 切断面からドロドロと粘り気のある液体が流れ出し、真っ赤な水溜りをつくる。それは固まる事なく、乾いた砂が徐々に吸い込んでいた。



「飛べねぇドラゴンも、強かったな」


 ポツリと小声で、謎の台詞を言い残した。




 ※  ※  ※




 ドラゴンと戦った悠磨たち四人は、他の受験生らがいる場所へゆっくり歩いて向かう。

 途中で悠磨は「ちょっくら忘れモン取ってくる」と言って、リュックを取りに行く。

 ハンター二人とみずなは、受験生らが集まっているところへ先に戻った。

 


「よし、これで終わりっスね」

「ふう、何とかなったな」


 ハンター二人が安堵の息を漏らす。受験生たちも、歓声を上げる。

 試験の事は頭に無いと思われるほどの、和やかなムードに包まれていた。




「いーや、まだ終わってねぇぞ?」


 いつの間にか戻ってきた悠磨が、そう言った。


 ドラゴンはピクリとも動く様子は無いし、他のマセイも見当たらない。

 もう終わったから、と受験生らも安心している。そして同時にこいつは何を言ってんだ、と彼らは思っていた。



 だが、そういった感情が表に出てない人がいる。

 それは悠磨――だけではない。

 心の底から安心していない(・・・)人間は、悠磨の視点から自分含めて二人。


 ニヤリと、不気味に微笑みながら悠磨は歩く。その人間へ向かって。表向きには笑い、しかし焦りを含んで、次の行動を迷っているその人間へ。彼はそいつの前で立ち止まり、顔を上げて目を合わせる。


 瞬間、右手に持った大剣を、真っ二つに断ち割らん勢いで水平に一閃。

 誰もが驚愕の声を漏らす中、剣の切先が、そいつの服を斬り裂いた。



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