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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
29/49

第三話 不運はいつも死と隣り合わせ

 

 


 ■■■




 ――――二日前。悠磨は図書館でマセイに関する様々な資料を集め、調べていた。


 前に戦ったことのある『ガルギイ』や『クマタロウ』だけでなく、他のマセイもある限りの本を棚から取ってざっと見ていく。


 気になるのはメモしながら、パラパラめくっていくと、ふと目につく。

 ファンタジーならではの生き物、ドラゴン。



「……これ、リオ〇〇スじゃね?」


 思わず呟いてしまった感想は、普通なのか。それともズレているのか。


 ともかく、彼もファンタジー大好き少年。やはりというべきか、強く惹かれ、調べずにはいられなかった。

 その本だけでなく、他の資料もないかと隈なく探しては調べる。生息地、習性、性格、餌、攻撃方法など。


 ただ、情報が錯綜さくそうしていた。同一のマセイかどうかは不明だが。

 ある本にはドラゴン、別の本には火竜、また別の本にはワイバーンと。

 ただ、どの書物にも共通して言えるのは、一度も倒されたことがない、そして生きて帰ってこれたのは極々わずか、ということ。


 出会ってしまい、運よく生還できた人からの話から作られた情報だろうが、それぞれ著者や遭遇した場所など、本によってバラバラ。


 目撃情報は、ゲートから遠く離れた、熟練のハンターでもあまり行かないような場所ではあるが、悠磨のいる東の地域含めた、東西南北全てにおいて。


 攻撃については、赤い鱗が単純に示す通り、炎を使う。火を使う竜だから火竜、と安直に付けられた名前でその小説のような本内では呼ばれていた。


 また別の本――大きめでカラーを使った目立つ表紙の雑誌は、伝説の火竜特集という見出しの記事があった。斬っても斬っても一向に死ななかっだの、他の仲間が負傷したため戦略的撤退を「仕方なく」行っただの、もう少しで討伐できただの、段々胡散臭さが増していった。

 この手の雑誌は誇張が多いからな、と思いながら冷めた目で読み進めていく。




 最後に一つ、ものすごくどうでもいい余談だが、『リオ〇〇ス』という記述は一つたりとも存在しなかった。




 ■■■




 六発撃ち終えると、悠磨はさっと排莢してポケットから弾薬を取り出し、右手でシリンダーに装塡。走りながら。

 リロードを瞬時に済ませ、再び翼を、特に動かすための神経や筋肉が詰まっている付け根部分に狙いを定める。

 それを繰り返し、発砲数が二十三を過ぎたその時、



『グギャッ――!』


 右翼の動きが硬直した。左翼を懸命に羽搏はばたかせるが、片方だけであの重さを浮かせることは出来ない。

 そして落下していく。悠磨はその微かな異変を瞬時に察知し、急降下を始める前にドラゴンへ全速力で距離を詰めていった。


 腰の剣に手をかけ、十メートル切ったところで剣を抜き出す。自分の手でしっかりと研いだ刃が、出番を待ち構えていたかのようにギラりと光を反射させた。


 だが敵は、地面に触れる直前で態勢を立てなおし、また空高くへと飛び上がっていく。



 そうはさせん、と悠磨は銃を撃ち放った。だが一段と、ドラゴンの羽ばたきが速くなる。その不規則な動きが空気の流れを乱したせいか、弾丸は当たらなかった。



(たまには突進とかしてこいよ。いつまでも空にいやがって……!)


 よほど地面が嫌っているのか、一向に地に足を着けようとしない。

 あれほど大きな体を持ちながら飛び続けるのは相当体力を消耗するはず。にもかかわらず、空中からただひたすらに火炎球を吐き続ける。



(そんなに地上が嫌かよ。なら意地でも引きずり落としてやる)


 ひたすら逃げ回って、疲れて降りてきた所を狙う長期戦も考えていたが、ドラゴンの体力の限界が全く読めない以上、彼の方が不利。


 足元にも警戒しながら走る。こんな状況で足元を何かに引っ掛けて、その隙に命を落とすなんてシャレにならない。こんな状況で、そんな失敗はしない。もうあんな不運には引っかかんねぇ――と思いながら、残りの一発を撃つと、弾倉が空になる。


 再装塡のために排莢しようするが、一発だけシリンダーに張り付いてしまってなかなか落ちなかった。



「チッ! だから嫌いなんだよこういうタイプは……」


 このマグナム弾というのは、発射圧力が高い分、強固に張り付いて排出が困難になる事がある。むしろ今までスムーズに排莢できた事が不思議なくらいに。


 これも不運というべきか、もしくはこの銃しか使えなかったことに不運というべきか。

 排莢に手間取り、リロードすら行えず一秒ほど足が止まってしまう。悠磨の意識はほとんど手元の拳銃に向いていた。


 たかが一秒、されど一秒。

 敵はその隙を突くように、ほとんど溜めや予備動作のない火炎球の連弾。間合いを詰めていたため、かなりの至近距離。



「ヤベッ……!」


 悠磨はバックしつつ右へ左へと回避していく。


 四発は左右に、五発目はしゃがんで躱す。だがその低い位置へ六発目。

 悠磨の正面より若干右側に逸れていたのを瞬時に確認し、すぐさま地を強く蹴り左へ回転して避ける。

 彼が元いた位置を、火の玉が通り過ぎていく。

 あと数コンマ遅れれば火だるまになっていたのか、と考える余裕は無かった。顔を上げると――――




(なっ……!)


 目の前にはもう既に、灼熱を帯びし弾丸が迫っていた。誘導していたかのような六発。本命は最後の二発だろうか。


 起き上がると同時に直撃するだろう。かといってこのまましゃがんでいても直撃は免れない。全てを予測してたかのような精度の高い攻撃。

 じゃあもう一度回転する、なんてことも出来ない。七発目の隣には八発目が、仮に避けられても確実に直撃する最後に放ったトドメの大型火炎球。

 これより早くても遅くてもダメ。それほどにドラゴンの放つタイミングが完璧だった。


 左がダメなら右は――物理的に不可能だ。確かに逃げ道はそれしかない。だが身体の回転の勢いが止まりきっていなかったのだ。ブレーキをかけて逆へ動くより早く食らってしまうに違いない。


 咄嗟とっさの判断で、悠磨は右ポケットに手を突っ込み、何かを放り投げる。

 魔法素含んだ臓器を詰め込んだ、予備の袋。いざという時のために持っていたのだ。ただし大きさは、コンビニのビニール袋ほど。


 シールドを発動しようとして、悠磨は気づいてしまった。

 練習したおかげで、発動しきるタイムは二秒弱まで縮んだ。だが、それでは間に合わない。仮に発動が間に合っても、これほど少量の魔法素で作るシールドでは防ぎ切れない。



 為すすべもなく、そしてとうとう、悠磨の実力は、不運に負け―――




 ■■■




 ――――公園での、魔法の実験調査中


「あ……ぶねェェェ! 何なんだ今のは!?」



 ――――マセイの剥ぎ取り中


(そういや何で魔法同士がぶつかって爆発すんだ? 火と火の時だけか?)




 ■■■




 走馬灯の如く脳内で今までの出来事が巡る。


 手が、脳が、喉が、動いた。

 直感が、生き延びるための選択肢を見つけたかのように。



「ファイヤァァァ――!!」


 手刀のようにそれを貫き、手を開く。突き刺すように前に出すと同時に叫んだ。

 魔法素を含んだマセイの臓器を、パンパンになるまで詰め込んでいた。おかげで刺したら破裂し、簡単に割れた。

 多量の鮮血と臭いが吹き溢れ、同時に手から魔法陣が描かれ――――



 斜めの魔法陣から、上向きにメラメラと燃える火。

 炎魔法は、一秒立たずして発動。

 巨大な敵の火炎球と衝突した瞬間、発生した爆発。



「…………ッ!!」


 悠磨は足に力を入れ、その大きすぎる爆発と一緒に後ろへ飛んだ。いや、この場合は吹っ飛ばされた、の方が正しいか。

 さらにその爆発は、ドラゴンの火炎球を防ぎきるとまではいかなかったが、わずかに軌道を逸らした。


 魔法同士がぶつかり合えば、火の場合は衝突後に膨大なエネルギー生まれて爆発する。

 失敗の産物とはいえ、悠磨はそれを知っていたから、この手を利用した。



 咄嗟の判断によって一命をとりとめるも、当然ながら無傷のはずがない。しかし火炎球の直撃よりはかなりマシだった。既に経験済みだということもあってかもしれないが。


 乾いた砂が爆風によって舞う中、うつ伏せになった身体をすぐに起こし、最も爆発に近かった右手を、開いたり閉じたりと動かして感触を確かめる。



(……問題ねぇな)


 ジリッと刺すようなやけどの痛みが残るが、剣を持って振り回すのに支障は無いと判断した。

 身体状況を確認し終えるや否や、ドラゴンへ振り向く。


 しかし、敵は悠磨ではなく、受験生達の方へ振り向き、翼をはためかせながらゆっくり動いていく。

 彼の事を見向きもしない。先程の攻撃で仕留めたと確信し、興味は他へと移ったのだろうか。



(今ので……俺を倒したと思ってんのか?)


 口から炎が溢れ出す。高火力の一撃と思わせるほど、じっくり溜めていた。

 遠く離れたところにいるその人たちは、ドラゴンの動向にやっと気づいてか慌てふためき、逃げ惑う。もう間に合わないと感じてか、そこで倒れ込む人もいる。



(あっちに撃つつもりか……!!)


 悠磨は一瞬見て気づき、容易に予想できた。あれが撃ち放たれれば少なくとも数人、最悪ほぼ全員が殺されると。



「よそ見すんじゃねぇ。てめェの相手は……俺だ」


 排莢できず詰まっているのは無視。二発を一瞬で装塡し、銃口を右翼から、敵の右眼に向ける。



「させねぇ、ぞ!」


 溜め中で、動いていない頭の側面にある右眼に命中させるのは、動かない的に当てるのは――――



『グギャァァァ!!』


 悠磨にとっては容易だった。距離があっても、的がとても小さくても。

 ドラゴンは行動を阻害された上に眼を潰されたせいでバランスを崩し、真っ逆さまに地面へ激突した。


 すかさず悠磨は接近。このチャンスを見逃したりはしない。

 だが、敵はもう一度翼を広げ、脚を曲げてジャンプし再び空へ――――




『ギュギャァァァ――!!』

「逃がすかよ!」


 竜の悲鳴らしき咆哮が響いた。


 悠磨はドラゴンが飛び上がる直前に勢いよく跳んで、剣を敵の右眼狙って突き刺した。深く、弾丸によって潰れた眼球を抉るように刺さり、鮮血が飛び散る。

 だが、眼を刺されたままドラゴンは、空高く飛びあがってしまい、刺した剣に捕まっている悠磨ごと体を浮かせた。

 悠磨は宙ぶらりんの体勢から、左手のハンドガンを左太ももにあるポーチにしっかりと入れ、身体を持ち上げてドラゴンの首に乗っかり、剣を眼から抜き取る。

 空いた左手で銀色の首輪らしき物体とドラゴンの首の間、そのわずかな隙間に入れて掴まった。


 そして、ひたすら斬る、斬る、斬る。


 ドラゴンは振り落とそうと身体を左右に揺らしたり、猛烈な勢いで回転させたりと、必死に暴れる。

 だがそれに負けまいと悠磨は両足を鱗のデコボコに引っ掛け、右手以外で振り落とされないようにしつつ、首の腹側、白い皮膚で防御の弱そうな部分をただひたすらに斬る。


 敵はさらなる咆哮を上げながら、何度も暴れて、回転する。それでも悠磨は落ちない。

 その握力は、竜も剣も離さない。

 返り血を顔に浴びながらも、斬撃は緩まない。


 今度は首を彼の方へ向け、噛み付きに来る。それを悠磨は背中へ移動し、攻撃範囲から出た。

 すると、敵は唸りながら、口に炎を溜める。火炎球を放つための予備動作。


 彼は剣を鞘に収め、手足でウロコに掴まりながら素早く移動。

 三発目は、避けた先に右翼へ当たるよう誘導し、見事ヒット。


 ただでさえ傷だらけの翼に、自ら追い撃ちをかけたドラゴンは弱ったのか、動きがおとなしくなる。


 悠磨は再び剣を鞘に収め、右手で掴まり、左手で今度はズボンのポケットから三発の弾薬を取り出し、自分の歯に挟む。

 銃を持ってシリンダーを開け、足に当ててロッドを押し、排莢。そして口で加えたまま弾薬を一発ずつ装塡し、顎に押し付けシリンダーを閉じる。

 不安定な状況の中、超危険な方法にもかかわらず、五秒でリロードを済ませた。


 その間に羽搏はばたきを再開させた右翼へ、半身になって正確に撃ち込む。

 三発の弾丸は、さらに狙ったところを抉って肉片と鮮血を撒き散らし、最後の一発はり込んだ。


 いよいよ右翼の動作がおかしくなり、飛ぶ機能を狂わせる。


 悠磨はその隙に右翼へ接近。

 その付け根、翼を動かす筋肉らしき部位へ剣を振り下ろし、切り裂き、突き刺した。

 翼を慌ただしく動かしつつ尻尾で攻撃しようとするも、彼には届かない。


 今度は確実に当てられると考えたのか、ドラゴンは右翼に生えた、太く鋭利な爪で攻撃して振り落とそうと悠磨へ向かって素早く振り――



(それを待ってたぞ!)


 不気味に口の端を吊り上げながら、左翼に寄りつつ迫ってきた翼爪をスレスレで躱した。

 攻撃から、元に戻そうと止まったその刹那――――




『グガァッ!?』


 誰が、こんなことを予想しただろうか。

 悠磨は翼と胴体を剣で串刺しにしたのだ。

 翼は半分に折れ曲がって、飛べなくなり、一気に落ちていく。


 ビュービューと唸る風の抵抗音は、重力による加速でさらに激しさを増す。

 そんな中悠磨は、地面へ激突する寸前で剣を抜き取った。

 剣に付いた血を横に払って飛ばし、背中に掴まったまま飛び降りる態勢を整える。


 するとドラゴンは再び羽ばたいた。寸前で落下は止まってしまう。

 しかしそれすら想定内だったのか、悠磨は何の迷いも無く右翼の付け根まで移動。

 胴体から外れかけていた、筋肉や神経が詰まっている太い部分へ力強く剣を振り下ろし、完全に切断。


 悠磨の狙いは、二度と飛べない状態(・・・・・・・・・)で引きずり落とす事。


 水平斬り。からの振り払うように一閃。

 さらなる連撃が、翼膜をボロボロに。

 一切機能しなくなった右翼が風にあおられながら、ドラゴンは落下していく。悠磨は途中で飛び降りた。


 ドスン――と大きな音を響かせ、砂埃が辺り一帯を覆う。

 二、三メートルほどからなので、落下によるダメージは大きく出来なかったが、その分悠磨はより安全に着地できた。空中での戦闘は、二分ほど。


 咆哮が空気を震わせる。

 赤寄りだった黒赤のウロコは、憤怒を示すかのように真っ黒に染まっていく。活性化でもしたのだろう。

 それでも悠磨は、慌てる様子などない。



「これでてめェの無双タイムは終わりだ」


 ニヤリと、獰猛どうもうな微笑を浮かべた。そして左手に拳銃を持ち、ドラゴンへと向けたまま冷静な口調で、



「さあ、実力勝負といこうじゃねぇか」


 敵へ向けるように、かつ自分に言い聞かせるように、その台詞セリフを言い放った。



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