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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
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第二話 備えあれば不運なし……だろうか

 



 強大な熱と光を持った火炎球は、生徒たちへと迫り、その刹那――――



「シールドォォォ!!」


 数人の悲鳴と一人の変わった叫び声(・・・)、そして黒煙と爆発が辺りを覆った。


 一瞬の爆発音の後、静寂が周囲を包み、やがて煙が晴れていく。



「いきなり危ねぇなあ! ったく、念のため練習して正解だったみてぇだな」


 そこにいたのは、試験中一匹たりとも狩っていない受験生、悠磨だった。

 火炎球に対し真っすぐ向かい合って、剣を横向きで盾にしつつ防御魔法を発動していた。

 そのシールドは、炎の球に対しぶつかり合い同時に、余計なエネルギーはまるで雨を弾き、地面へと受け流す傘のように、自分たちの外へ逃がした。爆発と黒煙に覆われたものの、結果は無傷で済んだのだ。


 助けられた受験生らは、何が起こったのか分からず放心状態になっていた。

 やがてハッと我に返り、礼を言おうと口を開く。が、



「あり……が……」

「あ、うっぷ……」


 その目に映ったのは、とてもヒーローとは思えないほどに衝撃、いや刺激が強すぎる光景だった。

 彼の手には、ドロドロと濃く粘り気のある鮮血と共に、肉片らしきものが付着していた。さらに漂う血生臭さと刺激臭が、安堵などどいう感情を与えてくれるはずも無く、むしろ不気味さと残酷さを際立たせる。

 そのせいか、吐き気を催したり、中には恐怖を恐怖で上塗りされ、彼に対して震えてしまって失神する者もいた。


 悠磨はドラゴンが現れるまでずっと、ビニール袋にマセイの死体から剥ぎ取った臓器を詰めていた。それらを、生暖かく不快な感触をものともせず押し潰した。ブクシャァァ――と、非常に気味の悪い音を立てて。


 それを火炎球が迫る直前に目の前に放り投げ、剣で斬り裂く。

 そこから魔法素が多量に放出され、悠磨の「シールド」を形作ったのだ。


 悠磨はドロドロになった手を見て、表情一つ変えずにビニール手袋を取って捨てる。

 そして背後の動揺した空気を察知し、振り返ってみると、



(この程度で吐くのかよ。ホントにハンター志望者なんか?)


 その辛辣なコメントは声に出さず、心の中に留めた。


 身体の奥深くにあるもののため、しっかり見るのは研究者などだろう。牙や皮ならまだしも、臓器類はハンターが直接必要となることはあまり考えられない。だがそこまで過剰な反応するのか悠磨は疑問に感じていた。

 しかし彼は気付いていない。この行動の意味を、誰一人として理解してない事を。ぞくりと悪寒が走るほどに、極めて異常なたたずまいをしている事を。



 その一連の出来事に受験生どころか試験官さえ硬直し、呆然としている中、ただ一人、ドラゴンへ向かって走っていく。


 それは勿論、あの火炎球に正面から立ち向かっていった少年、天倉悠磨。


 悠磨は全力で走りながら、左の太ももに付けてあるホルスター代わりのポーチから拳銃(・・)を素早く取り出し、それをドラゴンへ向ける。

 左手だけで持ち、引き金に指を掛ける。銃口は、頭の辺りを指している。


 誰からも見えない彼の顔には、恐れとは対極の、待ち望んでいたかのような微笑が浮かんでいた。



「ホント、俺は運が悪いなあ!」




 ■■■




 ――――ドラゴンが出現する十五分前。マセイ漁りの最中。


 一枚目のゴミ袋がギリギリ縛れる程度までいっぱいになったので、リュックを下ろし、二枚目の袋を取り出す。


 再び剥ぎ取っては詰めてを繰り返しながら、頭の中で思い出したように様々なことを考えていた。


(そういや、やっぱりおかしいよな。あん時の)


 それは拉致られた日の、初めてマセイに遭遇した時のことを指している。


 頭でその時の映像を流し、そして感じたのは、はじかれ方に違和感があった事。何度も会って、戦ったこともある今だから気づいたのだろう。



(何で金属みてぇな音出しながら弾かれた? 特段皮膚が硬いやつじゃねぇ。妙だったのは、弾丸食らった跡が欠片もない。擦り傷もない。実際には当たってなかったんじゃねぇか? 何かしらの、見えねぇ鎧のようなモンがあって、それがきれいに弾いていたんじゃねぇのか?)


 悠磨はそう推測していた。

 だとすれば、結論は一つ。


 地球と、この世界の違い。それすなわち、魔法素。


(〇〇オンにはトリ〇〇しかり、〇能力には念〇力然り、オ〇〇ル細胞には〇ラク〇細胞然り。普通の攻撃が効かねぇヤツには、そいつと同じモンぶつけりゃいいだけだ。じゃあ、あのモンスターは何だ? モンスターの細胞か、魔法素しか考えられねぇ)


 マンガなどをたくさん読んできた悠磨は、そう思っていた。

 推測に引っ張ってきた情報はフィクションだが、馬鹿には出来ない。こうやって解決のヒントになりうるかもしれないからだ。



(ま、効かねぇ原因が魔法素とあのモンスターの細胞くらいしか思いつかねぇが、細胞なら武器は生体兵器とかそんなトコだろ)


 と、ここまで思案を巡らしていたが、連想してか別の事を考え始める。



(おんなじモンのぶつけ合いと言やぁ、何で魔法同士がぶつかって爆発すんだ? 火と火の時だけか?)


 初めての魔法実験時の出来事が頭をよぎる。


 シールドを完成させてから防ぐ手段は生まれた。だがシールドとファイアボールをぶつけても、爆発は起きるがシールドは問題なかった。

 しかし前に失敗した時の爆発は大き過ぎた。その疑問にこのタイミングで気づいてしまったのだ。


(衝突のエネルギーとかそんなとこか。ま、こういうのは戻ってからやるか)


 その話題は区切りを付けて、元の思考路線に切り替える。



 最初の戦闘の時も、ナイフは目にダメージが通った。その時はまだ、皮膚は硬いが目などの弱点はある――くらいにしか思っていなかった。

 もしこの世界に飛ばされる前、地球で同じことをやっていたらナイフの方が砕けていたかもしれない。あくまで仮定の話だが。 

 目だったが、ナイフは通った。あのみずなの刀も、ハンターの大剣も通った。魔法を発動した形跡はないし、細胞による拒絶反応的なことも起きない。

 弾薬や銃がある。魔法のほうがコストも低く、便利。弾切れやリロードといったデメリットが無くなる。にもかかわらず存在している。

 この世界の『外』では魔法が使えない。法律ではなく、物理的に。主な原因は魔法素が足りない。だが発動の兆しだけはある。


 これらの情報から、悠磨はこう推測する。


 ――魔法素に触れていれば、ダメージは通る。そのために剣や刀に魔法素の成分を含ませる、もしくは空気中に存在する魔法素を、武器に付着させる。

 だがナイフは柔らかいはずの目に斬りつけても大ダメージとはならなかった。一方、みずなの刀は皮膚にもかかわらず数撃で倒せるほど強力。

 ココ、つまり『外』の魔法素は少ない。だから魔法素の濃度が濃い『中』で作った武器なら加工時に魔法素も一緒に取り込むはず。

 簡潔にまとめると、魔法素の壁さえ突破すれば、剣撃であれ銃弾であれ、本領発揮してくれる。



 少ない情報を強引にまとめ上げた仮説だが、その結論は――――



 ■■■




『グギャッ!』


 僅かな出血とドラゴンの悲鳴が、その解を証明した。

 悠磨はホルダーから拳銃を取り出し、一発撃った弾丸が下あごに命中。



(チッ! 外れた(・・・)か。眼ェ狙ったはずなんだがな)


 だが悠磨にとっては、狙い通りではなかった。敵の左眼を撃ち抜くつもりだったのだ。

 リスク高めてでも近づかなければ当たらない、とでも思ったのか、走る勢いを全く緩ませず、彼はドラゴンへ接近していく。


 左手には黒色で装弾数六発の回転式拳銃リボルバー、右手は腰の鞘に収まっている剣をすぐ抜き出せるよう準備した状態。言い換えれば手ぶらということだが。


 敵はさっきの弾丸に当たって、優雅に滑空していた状態から、一瞬だけ態勢を崩して若干落ちた。だが再び羽ばたいてホバリングをする。


 ドラゴンはギロッと睨むように悠磨へと目を向ける。そして、閉じた口から炎が噴き出るのが、悠磨の視界に映ったその瞬間――



 放たれた火炎球が、目にも留まらぬ速さで悠磨へと迫る。


 だが、これを反射的に、左に回転しながら躱す。地面に直撃した灼熱の弾は、ボッと雑草に着火し、灰だけを残して消え去った。

 すぐさま起き上がり、再びドラゴンへと接近しながら、左手の銃を敵の右翼に向ける。狙いは動かすための神経や筋肉が詰まっていると思われる翼の付け根部分。

 真っ直ぐ走りながら、引き金を引いた。ど派手な銃声を響かせながらシリンダーは一つ隣へ回転。


 しかし、その弾丸は翼膜を貫通した。

 ほとんどダメージは無かったようだ。



(やっぱブレるな。左下か)


 たった二発で、今手に持っている銃がどのくらいブレるか把握したのだ。

 そして立て続けに二発、敵の右翼の、付け根部分に当たるように放つと――――



「グギャアァァ!!」


(よし。ヒット)


 二連の弾丸は悠磨にとって思惑通りの働きをした。


 どのくらいブレて、どのくらい狙いをズラす(・・・)か感覚で覚え、修正。

 たった三発目で――しかし悠磨にとってはやっと――狙い通りの命中。



 それでも悠磨は平静を保ったまま、残りの三発を立て続けに発射。さっきと同じところへ撃ち込んだ。


 ドン、ドンとの銃声が竜の叫び声にほぼ掻き消されていくが、その声はまるで、痛みで泣き喚くかのようだ。

 つまりは、かなり効いているのだ。翼の動作部分を、その神経を響かせているのだろう。


 この銃が使う弾薬は44マグナム。簡潔に説明すると、威力がかなりデカい。弾丸の重量や初速も比較的デカい。ただし反動や発砲音もかなりデカい。

 そして彼が今使っているリボルバーは、ダブル・アクション。要は引き金を引くだけでシリンダーが回転するので、一発撃つたびに撃鉄げきてつを起こす必要があるシングル・アクションとは違い、片手での連射が可能。

 ならばダブルアクションの方がいいじゃないか、と思えるが実はデメリットも存在する。

 重くストロークの長い引き金を引き切らなければならない上に、命中精度が下がる。はっきり言って玄人向き。



 そんな強力な攻撃でも、二発では落とせなかったが、怯ませた。

 あと何発で撃ち落とせるか分からないが、当然ながら弾薬には限りがある。



(弾薬が切れる前に、撃ち落とす!)


 ドラゴンが怯んでいるその隙に接近しつつ、シリンダーを横に振りだして、銃を逆さにしつつ前方に突き出たエジェクターロッドを手前に押し、排莢。弾薬をポーチから取り出し、一弾ずつ装塡。


 スイングアウト式と言って、シリンダーを横に振りだして排莢し、弾薬の装填を行うもの。空になった薬莢は、逆さにするだけでは落ちず、シリンダー前方に突き出たエジェクターロッドを手前に押すことでまとめて排出できる。 

 問題は装填の方だ。一弾ずつ手で詰めていくため、時間がかかる上に、隙は大きい。



 しかし悠磨は、すごく手慣れた様子でリロードを済ませた。その間、たったの三秒。

 ドラゴンの怯みが終わったとほぼ同時に、連続で撃ち放つ。



 二発がヒットし、一発は避けられた。動き出した直後に悠磨は撃つのをやめる。弾薬の数は限りがあるため、無駄にはできないからだ。



 ドラゴンはこれ以上近づかせまいと、火炎球を再び放った。

 悠磨は円弧を描くように走っていく。その悠磨の軌跡に、火の玉が着弾し、わずかな草にでも着火したのか、メラメラと燃えている。

 ドラゴンの攻撃精度はかなり高め。少しでも走る速度を緩めれば、直撃しかねない。


 接近は無理と判断し、悠磨は後方からの攻めに切り替える。

 だが敵の側面へ移動しようとするも、ドラゴンは羽ばたきながら全身を少しずつ回転。どうしても背後どころか側面にすら回れず、攻撃チャンスはなかなか来ない。



 すると敵は身体を大きく反らした。何かを溜める様子。一見隙だらけだが、悠磨は撃たず、後方へ下がって行く。同時にポーチへ拳銃をしまった。

 視覚や聴覚、神経という神経を鋭く研ぎ澄ます。悠磨は回避態勢に入っていた。


 火炎球の六連弾。ただ、それぞれの大きさや速度がちょっとずつ違っていた。


 それを悠磨は最初の予備動作から撃ち放つ瞬間まで冷静に観察。そして即座に行動へ移る。

 五発は横方向に全力疾走で振り切る。しかし、六発目の最後に放った攻撃は大玉でスピードが速く、避けきれない。

 と、それを知っていたかのように足を止める。五発目を避けた直後だ。

 走った向きから右後方へ、あえて近づくようにサイドステップ。ほんの僅かに浮いた足が地に着いた刹那、腰を低くし、地面を強く蹴ってスレスレのタイミングで回転回避。


 結果、全弾を紙一重で躱し切った。



 何故あの隙に銃を撃たなかったのか。

 まず、敵の『正確な』情報が少なすぎたこと。情報の差は戦力の差。つまりは、どういう攻撃をするか、それを知っているか否かで有利不利は大きく変わる。だからこそ、一つの判断ミスが命とりとなる。そんな不運に負けないために、慎重になるべき時は慎重になる。

 あとは、彼の直感。かなり危険だ、と身体で察知したのだろう。



 その六連弾が止んだ瞬間、ドラゴンは息を整えるようにその場でホバリングを続ける。大技後の反動、とでも言うべきか。


 悠磨はその隙を見逃すはずも無く、一気に接近。

 ポーチの拳銃に手を掛け、翼の付け根へ三発の正確な早撃ち(クイックドロー)。見事にヒットし、右翼の動きを鈍らせるものの、落下するには至らなかった。


 悠磨が再びリロードし終えた瞬間、ドラゴンは銃弾を避けるためにと不規則に飛び回る。



「この銃、思ったより反動がちとキチいな」


 そう言いつつも、走りながら、片手で、ほぼ狙い通りの所へ命中。この拳銃の重量は約一・五キログラムもあり、連射すれば銃が暴れてしまうほど、デカい反動があるにもかかわらずだ。

 彼は運が悪いから、適当に撃って当たるはずがない。それ以前に、銃というものは静止したまま両手で撃っても、簡単に狙った通りの所へはいかない。

 ならば彼の実力か。彼の実力は、如何様いかようなものなのか。

 そして、これらは一体どこ(・・)で、どのように(・・・・・)入手したのだろうか。



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