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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第二章 入学試験編
27/49

第一話 不運と不穏は似て非なるもの

 



 ―――入学試験前日。


 朝はシールド魔法の練習。


 朝食を食べ終えた後は、試験の準備のために買い出しに向かった。


 前に木刀を購入した武器屋に行って、不運なことに一つも残っていなかった。

 すると、それを見かねた店長が、店の奥から何かを取り出してくる。



「余りモンですまねえが、これ使ってくれ。安くしとくからよ!」


 そう言って渡されたものを悠磨は受け取り、鞘から抜き出す。

 鉄製のごく普通の直剣。しかも若干刃こぼれしていた。だが、わがままを言える立場ではない。前もって買っておけばよかっただけの話なのだから。

 後は粒度が中くらいの砥石があったためそれも購入。もちろん剣を研ぐために。


 それを終えて次に向かったのは、最初に見つけた立派な建物の本屋。その二階にある雑貨屋に寄って、ポーチを買った。

 余談だが、マンガは無かった。その時の感情は……言うまでもないだろう。 


 午後七時の、みずなとの修行は軽めに済ませた。次の日に疲れが残っていたら本末転倒だから。

 帰り道、商店街が夜の明かりで賑わう中、安売りされた弁当などを目ざとく見つけては買っていた。

 やがて商店街を抜けると、一転してわびしくなり、人通りがほとんどなくなった。そんな時、悠磨はどう言うべきか考えた後、話しかける。



「さて、これまでの修行はどうだった?」

「え……? えっと……」


 うつむいて数秒考え、みずなは口を開く。


「……きつかった」

「そう言うと思った」


 悠磨は予想通りの答えに、微笑しながらそう言った。

 だが、みずなの言葉はまだ続きがあった。



「あと……私って強くなれたかなぁ?」


 自信なさげに、そう口にしたみずな。



「何を言い出すかと思えば、そんなことか。ま、ずっと俺と戦ってちゃ気づかねぇのも無理はねぇか。でも『これだけ努力したんだ』って誇れるくらいには強くなってんだ。もっと自信持っていいぞ。どうせ明日になりゃ分かることだし」

「え……あ、ありがと」


 みずなは、パッと表情が明るくなると同時に、むずがゆい感情も湧き出ていた。ここまでストレートに彼から褒められたことが無く、慣れていなかったせいだろうか。

 一方悠磨は、若干躊躇った後に、こう言い出す。



「あと一つ、言っときてぇことがある」


 そして悠磨はみずなと横並びになったまま、冷静な口調で言葉を続ける。


「俺は運が悪いから、何かしら面倒事が起きて変なとこに行ったりするかもしんねぇ。だから……その……要するにだ。俺の事は気にせず、自分の事に集中しとけよ」

「え……?」

「そういうワケだ。頑張れよ」

「え、う……うん…………」


 そんなことを告げた後、家に帰った。

 みずなはいきなり訳の分からない事を言われて戸惑うが、彼に強引に押し切られ、曖昧に返事する他なかった。




 ※  ※  ※




 試験初日は、筆記試験。

 今住んでるアパートのポストに、受験の詳細などが書かれた書類が入っていた。実は既に、理事長と会話した時に全てもらっていたが。

 それに従い、学校に行き、指定された座席に座る。

 試験科目は、国語、数学、理科、社会の四つ。英語は無い、というよりこの世界に英語があるかどうか悠磨は知らないが。さらに、全学科同時に行なっている。レベルで言えば、日本の公立高校入試とそれほど変わらなかった。


 悠磨の出来は、自身が思うには、社会以外は良かったんだと。




 ※  ※  ※




 試験二日目は、ハンター科の実技試験。

 大剣、斧、槍、短剣など様々な装備をした受験生たち。緊張する人もいれば、我こそはと意気込んでいる人もいる。


 受験生三十人と試験官三人が一斉に『外』に出る。悠磨とみずなにとっては一週間ぶりだ。


 トンネルを潜り抜けた先には、『中』とは全く違う景色が広がっていた。

 相変わらずの荒れ果てた、殺伐とした空気を漂わせる荒野と、怪しげな雰囲気を纏う赤と黒の空。真っ直ぐ先には、一度入れば二度と出れない迷宮の森かと思わせる森林地帯。



 時間は午後二時。強いマセイが出にくい時間と言われている。とはいえ、奥に進み過ぎれば、前みたくクマタロウなどの強敵はいるが。


 魔法素まほうそ吸収式きゅうしゅうしき生物せいぶつ。通称、マセイ。


 悠磨はモンスターと言っていたが、正式名称は存在してた。

 ちなみに『中』にいるのは、ほぼ全てが非魔法素吸収式生物。これといった略称は無いらしい。

 野生動物や、豚や牛といった家畜などがそれに当たる。ごくわずかだが、研究のために捕獲されたマセイも存在する。


 このマセイという生き物は、午前中は餌を食べるため、獰猛どうもうになりやすい。雑食なので、人間も喰われる可能性はある。

 一日三食かどうかは種類にもよるが、午後に入ると大半は栄養を蓄積し終えて、大人しくなる傾向にある。そのため、危険度が減る今が、試験や試験の練習を行うのに最も適した時間なのだ。



 一番最初に出会い、散々追ってきたのは、『ガルギイ』と名付けられている。『クマタロウ』よりはマシだな、と悠磨は思った。

 そのガルギイは、肉食寄りの雑食である。普段は他のマセイを喰らうが、獲物が近くに無い場合はその辺の草木や石なども喰う。


 クマタロウは、縄張り意識が途轍とてつもなく高い。だから一歩間違えて踏み入ってしまえば、死ぬまで執念深く追い続ける。入ってきたものを餌とするから。

 だが、生息地は本来は森のもっと奥深くで、この前出会った所は普通縄張りを張るような場所では無い。



 ちなみに、これらの情報を知ったのは三日前。図書館で調べ物をしている最中に見つけた。

 それらの事を記憶領域から引き出して、頭の中で情報整理を行っていると、みずなが何かを躊躇っているような表情で近づいてくる。



「あの……頑張ろうね!」

「ん? あ、ああ」



 二日前の言葉を覚えてて言ったのかどうか分からず、返事に少し戸惑った悠磨。もしかしたら彼女なりの、この前の返答かもしれない、とその時彼は感じていた。




 ※  ※  ※




 今年の実技試験は、マセイの討伐だけと予定されている。

 採点基準は、討伐数と討伐方法の二つに大きく分けられている。

 討伐数は非常に単純で、多ければ多いほど点が高くなる。つまりは早い者勝ちとなるわけだ。

 討伐方法は、例えば弱点を突いて一撃で倒す、手や足など削って仕留めやすくしてから倒す、数人で連携して倒す、などなど。いわゆる工夫点だ。協力して倒せば全員に点は入るが、分割される。

 なお、減点対象として他人の邪魔や横取りをした場合が当たる。だが、ピンチになっている人の手助けであれば、その限りでは無い。

 もちろん、本当に危険が迫った場合は試験官が介入する。それが一番大きな減点となる。

 装備や持ち物、服装は自由。ただし武器等の貸し出しはなく、全て自分で用意しなければならない。



 これらの実技試験概要が記載されたプリントを悠磨は今日の朝にも確認し、移動中の現在も頭の中でおさらいしていた。


 外の出入り口から離れ、森を超えた先へと進んで行く。

 悠磨はこれといった緊張は特にしておらず、いつも通り不運の警戒。


 本来なら出入り口付近のはずだが、一匹もいなかったので、奥へ進む事になった。

 いつもはおとなしめの草食系のマセイが多数存在する。実際、肉の部分は食用としても使えるので、専門の業者に売って稼ぐことが出来る。初心者ハンターは、仕事が無い時はこれを食うか売るかして生活しているらしい。



 十五分ほど歩き、目的地に着くと、入口付近とは打って変わってマセイの大群がいた。

 主任の試験官から受験者一人一人に1から順番に書かれたゼッケンが配られた。

 試験官は三人。うち二人は、この前会ったプロのハンターで、補佐となっている。彼らは全員、評価用の紙を持っている。武器も装備しながら。


 どうやら受験者多数により、今日と明日に分けられているようだ。今ここにいるのは三十人。一クラス分といったところ。

 今日と明日だとすれば、受験者の合計は約六十人だろう。日本のと比べると、ハンター科というのを考慮にいれても、確かに少ないと感じている。理事長の言っていた通り、噂に踊らされて別のとこへ流れたのかもしれない。


 これらの見た限りの情報で、悠磨にも思うところがあった。



(あのさぁ、バッカじゃねぇの!? 筆記ならまだしも、この実技は何で三十人をたった三人の試験官で見てんだよ。明らかに足りねぇだろ。まさか、人手不足? ハンターが少ねぇとかなんか、理事長アイツ言ってたけどさ。それでも別ンとこから引っ張ってくるなりしろよ。安全面がなってねぇよ。非合理的過ぎんだろ。誰だ指揮ってるヤツは。もっと考えろよ……ってか理事長の仕事だろ。アイツ何してんの?)


 内心は、だいぶ怒り口調になっている。が、監督者が少ないのは、悠磨にとって都合が良い事もいくつかあったのだ。当たり前だが、カンニングなどの不正行為がしやすいとかそういった事ではない。


 試験官がやがて「試験開始!」と合図し、受験生達は一斉にスタートした。

 皆が先に狩ろうとマセイの大群へ向かって行く中、悠磨は試験官含めた全員から見られてないうちに、こっそりと小声で唱える。


「(ファイヤー)」


 炎は一切発生しなかったが、一瞬だけかなり薄っすらと、ほとんど見えないレベルだったが魔法陣が浮かび上がった。



(魔法素が枯渇してるっつーことか?)


 すると、振り返った主任の試験官は悠磨が動いていない事に気付き、近づいて声を掛けてくる。



「君、どうした? 試験はもう始まってるぞ」

「あー、今ちょっと腹痛いんで。収まってからそっち行きます」


 超棒読みで、悠磨はそう言った。もちろん嘘だ。


「ふむ、そうか」


 試験官はそれだけ言い残し、採点のためにまた受験生とマセイの集まりへ急いで向かった。

 体調不良者に対して良い反応とは言えないが、悠磨も試験官も承知の上だ。

 なぜなら、一人のために二十九人の正当な評価が出来なくなるような事態は起こしていいはずがないから。


 試験官からも注意が逸れたので、悠磨はやるべき事を為すために、他の受験生が倒したマセイの死体へゆっくり接近。そしてマッチ程度のイメージで、さっきと同じく小声で、


「(ファイヤー)」


 火は『中』での実験の時よりも非常に短い、燃料が残りわずかのライターのような刹那の時だったが発生した。


(こいつらが魔法素吸収してるっつーのはマジみてぇだな)


 マセイ倒して、中身ぶちまけると魔法素は放出される。これは本の通りだった。

 これまでも、何故魔法素が『外』では枯渇しているのかについて考えていた。


(外と中の違い……モンスターか? 他に大きな違いなんて思いつかねぇが……つーか魔法素ってどうやって作られてんだ?)


 さらなる疑問が生まれていくが、今は資料となるものはこれまでの情報を要点的に集めたメモ帳しかない。しかも、その内容はほぼ頭に入っているため、どの道新たに情報を得るには、解剖以外はほぼ不可能。


(いーや、そっちは後だ。まずは今必要なとこから調べねぇとな)


 時間は有限。情報も有限。効率よく事を進めなければ、目的は果たせなくなる。なので、彼は瞬時に切り替える。



(そういや、あの『クマタロウ』ってやつ、風で吹っ飛ばす攻撃使ってたがあれは魔法か? だとしたら、空気中に魔法素ねぇってのも、体内に貯め込んでんっつーのも納得がいく。やっぱりじゃ……)


 試験官の目を盗んでは別の死体へ移動し、今度は「シールド」も使えるか試したりなどした。



(魔法素吸収して、攻撃以外に使わないのか? だとしたら枯渇するほど吸収しなくても……待てよ)


 ふと何かに気づく悠磨。難しい顔をしながら、考え続ける。


(そもそもどうやって吸収すんだ? 呼吸なら……酸素も必要だが、木が少ない。太陽光も微妙。だが酸素は薄くねぇ。こいつら、酸素いるのか? 魔法素が生命エネルギーって線は? うーむ、内臓調べりゃすぐ分かりそうなんだがな……そうだな、とりあえず魔法素大量に含んでる器官から探すか)


 そう思い、前に薬局で購入した大きめのゴミ袋とビニール手袋をリュックから取り出し、それを持ちながら、さらに漁っていった。

 一つ一つ臓器を抉り出しては剣で切り込みを入れ、「シールド」と唱えて発動の度合いを確認していく。

 やがて見つけた魔法素が多く出る臓器を、ある程度血を払ってそれの形や位置を確認。

 その後顔を中に突っ込んで嗅ぐと、ただでさえ血生臭かったのが、


(うっ……!)


 鼻を差すアンモニアのような刺激臭に変わった。おそらく魔法素を多く含む器官からだろう。

 悠磨は息を止め、かつ試験官の注意が逸れている内に剥ぎ取っては、素早く袋に詰め込んでいった。



 一つ言っておくが、死体の剥ぎ取りをしても試験においては一点たりともプラスにならない。


 そもそも今、悠磨は合格したいとは思ってない。それは学校に興味がないとか、あの胡散臭い理事長の話に乗りたくなかったとかではない。

 だが合格したくなければ試験を欠席すればよかったのだが、それも違う。別の情報(・・・・)と、別の目的(・・・・)が、彼をここに動かしていた。




 ※  ※  ※




 三十分が経った。三桁に届きそうなくらいの数が狩られた。

 ちなみに、悠磨はゼロ。

 生きているマセイは、もう見当たらなかった。



「もう少しで、試験を終了する」


 主任試験官が、そう告げる。

 この時悠磨は思った。ちゃんとした試験なのに、時間アバウトすぎだろ、と。


 その試験官は補佐の二人と一緒に時々評価点を確認し合いながら、受験生を見ている。ただし悠磨以外。

 一方受験生たちは、息を切らしたり、余裕な態度を見せていたり、焦っていたりと、人によって様々。友達と喋り合っている人もいる。ちなみにみずなは、やり切った、と清々しい表情を浮かべていた。

 そんな喧騒の中、試験官の終了の合図を待っていたその時――――




「ギュオオオォォォオオォ!!」


 咆哮が、空気を震わせた。不穏な風が吹き荒れる。

 安堵や焦燥、豪胆や謙遜などが、一斉に恐怖の色に染まっていった。


 空を猛スピードで滑空しながら、こちらへと接近。羽ばたいて流れ来る烈風が、生暖かいにも関わらず、試験官含めたほぼ全員の背筋を凍らせた。


 赤と黒の尖ったウロコに覆われた背中。前足と羽が合わさった大きな翼。先端に棘を持った長い尻尾。

 太く、鋭い爪を生やしたその頑強そうな脚は、猛禽類で有名な鷹や鷲のそれと比べようが無いほどの大きさで、一度捕まったら簡単には脱出できないと思わせるほど。



「な……伝説の竜、だと!?」

「あれは……幻の不死鳥!?」


(竜なの? 鳥なの? どっちだよ)


 補佐二人が驚いていたが、悠磨は落ち着きはらった様子でツッコミを入れていた。心の中でだが。

 もちろん、受験生たちにも動揺が走っている。



「ど、ドラゴン!?」

「ワイバーンは、実在してたのか……!」

「なんで、ここにドラゴンが……」

「見た者は誰も生きて帰って来れない、あの火竜……なの!?」

「う、ウソ……」

「ただのリオレ〇スじゃん」

「何故だ、どうして今なんだ……!」


 受験生も試験官も驚き喚いてる中、一人だけのんきな声で違うことを言っていたが、周りの騒々しい声にかき消されて誰も気づかなかった。


 慌てふためき、逃げだす者も、腰を抜かす者もいる。

 主任の試験官は、避難指示さえ出来ず、あんぐりと口を開けたまま呆然としていた。


 やがて、その竜はこちらを一瞥いちべつするや否や、火炎球を吐き放った。



「え、や……」

「きゃあぁぁ!!」

「な、あぁ……!」


 つまずいたのか、恐怖で身動きが取れなくなったのか、その数人の受験生へと襲い掛かる。

 熱を帯びし業火ごうかたまは、地獄へといざなう嫌に不気味な光線を放ち――――




 様々な叫び声と共に、黒煙と爆発が彼らを覆った。




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