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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第一章 超絶不運の始まり編
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第二十話 好奇心猫をも殺す不運

 



「あーやっぱ考えても分からん! やるしかねぇな」


 さっきの録音の実験では、録音したものより、生声の方が明らかに魔法の質が良かった。質とは、


(やっぱ声とかイメージの質が関係ありそうだな)


 今度は魔法素の運動を激しくして熱エネルギーを強くするイメージで、声をはっきりとさせて、



「ファイヤー!」


 三秒ほど魔法の炎が持続した。やはりというか、イメージと声は魔法を発動するうえで重要な点だと分かる。だが、


(録音しても使える理屈が全く分かんねぇが……つーかそもそも、地球の物理法則で考え過ぎだな。ここの新しい理論とか知らねぇが……自分で作るか? それと、これを敵に向けて撃つとか出来ねぇとな。よし、今やっちゃうか? いや、でも……)


 プルプルと身体が震える。試してみたいという好奇心と、俺は運が悪いから慎重になるべきという自制心の葛藤。天使と悪魔のささやきほど大げさなものではないが。



「あ――ッ!! じれったい! もういい、やってやる!!」


 普段は慎重派で、危険かもしれない未知の領域には首を突っ込まない彼だが、珍しく(・・・)耐えきれなかった。さっきまで散々自分に言い訳して躊躇ちゅうちょしていたにもかかわらず、だ。



 右手を前に出し、少し下に傾ける。そして、さっきのように火のイメージを作りつつ、それをボールを形作って飛ばすイメージを頭で想像し、



「ファイアボール!」


 二メートルほど進んだ後、フッと消えた。



(……イメージ力が足りねえのか?)


 すると少々――いや、かなり危険なことかもしれないが、悠磨は「俺は運が悪いから慎重派だ」なんてことが頭から抜け落ちているかのような行動に出る。

 イメージを強めるために、世界一有名な配工管が、火の花をゲットして放つあの火炎球の映像を頭に浮かべて、

 


「ファイアボール!」


 地面でバウンドするイメージも同時にしていた。

 炎の球は五メートルほど進んで、だがバウンドするどころか――



「え、ちょま――」


 悠磨の方へ真っすぐ、勢いよく戻ってくる。

 反射的に右手を前に突き出し、「バーニング!」と叫び、魔法を打ち消そうとする。その恰好はまるで、○○殺し(何とかブレイカー)のよう。



 火炎球と炎魔法がぶつかり合う。

 瞬間、爆発が起きて衝撃で身体が吹っ飛んだ。


 地面に打たれ、二、三回ほどゴロゴロ転がる。

 自分の放った火を直接くらって火だるまになって焼け死ぬ、なんてバカみたいな死に方は避けられた。が、さすがに今のは動揺を隠し切れないほどに焦っていた。



「あ……ぶねェェェ! 何なんだ今のは!?」


 失敗のイメージは無かったはずなのに、失敗した。



(何で……俺の方に戻ってきたんだ!?)


 パッと頭に、四つの可能性が浮かんだ。魔法発動者と魔法に磁石のように引力が作用したのか、見えないバネのようなもので魔法発動者と魔法がつながれているのか、別の何かが必要なのか、それとも単なる不運なのか。


(どっちにしろ、マンガ脳モードじゃ危険だな。イメージが濃い分、失敗したときリスクがデケぇ。かといって理論的にやろうとしても使いモンになんねぇし、定義とか公式も知らねぇし……)


 

 それよりまず、防御用の魔法も使えるようになっておかなくては。そう考えた彼は、


(シールドでいっか)


 サクッと技名を決め、右手を前に出し、透明で薄い円形の壁をイメージし、


「シールド!」


 ところが、何も起きない。



(……え、ダメ? 何で? もしかして、俺は火以外使えねぇとか……いやいやさすがにそれはねぇだろ。何かが足りねぇはず)


 今まで使った魔法を思い出し、発動が出来なかった原因を探す。


(…………魔法陣?)


 パッと思いついたのがそれだったので、今度は手から魔法陣を描いて、さっきのように透明な壁をイメージしながら、



「シールド!」


 手のひらサイズの魔法陣が出現し、その中心から透明膜のようなものが広がっていく。

 上半身は防げるほどの大きさまで広がり、そこで伸びは止まった。

 そこまでの時間は四秒。そこからの持続時間は五秒。


「発動遅っせし小せぇし薄いし、使えねぇ」


 酷評。喜ぶことは一切なく、ただ文句を言っていた。

 当然といえば当然だが、初めから上手くいくと彼は思っていない。



「練習しまくれば、もっとマシにはなるかな」


 ひたすら回数を重ねれば、イメージがより鮮明に、より素早く使えるようになるだろう――と考えた悠磨は、何度か発動練習を行った。




  ※  ※  ※




(よし、実際に試すか)


 辺り一面を見る。そして公園じゅうをくまなく歩きまわり、シールドの練習に使えそうな石を探す。理想は、野球ボールかテニスボールくらいの大きさ。だが、


(無ぇな。公園なんだから、それなりのモンがころがってると思ってたんだがな。ホント、俺は運が悪いなあ)


 すると突然、何かが足に引っかかり、転びそうになる。だがここで悠磨が吐いたセリフは「俺は運が悪いなあ」ではなかった。



「お、あった」


 数センチほど地面から出っ張っている石がそこにあった。地面に埋まってるそれを取ろうとしたが、なかなか抜けない。

 なのでその周りの砂を掘り、数分かけてようやく、若干動かせる状態にはなった。だが押したり引っ張ったりした時の手応えから、大まかなサイズが推測できる。


(いや、これはデカすぎだろ……)


 あくまで推定だが、頭一つ分のサイズ。

 そもそも悠磨が考えていた練習メニューは、石を上になげてシールドで防ぐ。

 だがこれでは投げ上げのですら困難だし、失敗した時のリスクが大きすぎる。



(しゃあねぇ、十円玉でやるか)


 そう思い、ポケットから財布を取り出し、全く輝きのない古い十円玉を取り出す。ちなみにこの世界ではお金としての価値は持たないが、悠磨は捨てずにとっておいている。


 親指で十円玉をはじき、やがて落下を始める。その瞬間――



「シールド!」


 右手を広げて真上に伸ばし、はたから見ればどこぞのヒーローの変身ポーズみたいな恰好で魔法を発動。

 手のひらサイズの魔法陣から、直径は肩幅くらいまでの円形の、透明なシールドが展開される。

 重力に引っ張られて彼へと向かう十円玉はシールドに接触し――




 見事にその十円玉は、悠磨の右の手のひらに着地。


「オイ、十円玉に破られる盾って何ですか?」



 十円玉とシールドがぶつかった瞬間、何の抗力も働かず、何にもなかったかのように通っていった。貫いたではなく、通ったと言った方が正しいのではないかと思ってしまうほど、何の手ごたえも感じなかった。


 その後何度も同じことを繰り返したが、結果も同じことの繰り返し。

 疲れてきたので、ベンチに一旦座り、休憩する。

 はぁ~、とため息をつき、目を閉じて思考にふけようとすると、




「……くん、ユーくん」

「……ん?」

「あ……気づいた」

「あ、みずなか」


 そこにいたのは、ジャージ姿のみずなだった。


「えっと、ユーくん何してたの……?」

「まあ、いろいろ」


 そして悠磨は時計を見る。『18:04』と表示されている。


「今何時か分かるか?」

「え? えっと……さっき時計見た時、一時くらいだったよ」

「そっか」


(時差は……五時間くらいか)


 やっと時間という重要な情報を知ることができた。だが、一つ知ったとなると、今度は新たな疑問が浮かぶ。


(そういや、自転周期はどんくらいだ? 二十四時間でいいのか? 季節とかあんのか?)


 これらの事も彼女に質問しようかと悠磨は一瞬考えたが、やめておいた。正しい答えが返ってくるとは限らない、もしくは無駄に話が延びると思ったから。

 

 代わり……と言うべきかどうかは分からないが、率直な疑問をみずなに訊く。



「それで、何でここにいるんだ?」

「え、えっと……ちょっとお買い物して、その帰りで……」


 右手に大きな袋が一つ、左手に中くらいの袋が二つ、どれもぎゅうぎゅう詰めになるほど物が入っている。


「つーか随分な荷物だな。何買ってたんだ?」

「えっと、買ったのじゃなくて、その……」


 若干だが、躊躇ためらっているかのような表情がみずなの顔に浮かぶ。それを見て、訊いてはいけないものではないのか――と悟り、すぐにやっぱいい、と悠磨が言おうとするより先に、みずなが口を開く。



「くじ引きで当たって、なんかいっぱいもらった……」

「あ、そう……」


 悠磨の予想は外れた。

 どうやら右手の大きな袋は、そのくじ引きで当たったもので、加工食品やお菓子等の詰め合わせらしい。



「ま、ちょうどいいや。今ってヒマか?」

「え、うん……大丈夫だけど……」

「魔法は使えるか?」

「…………え?」


 あまりにも突拍子な質問に、ポカンとした表情でみずなは立っていた。



「いや、あの……魔法って学校で教わんなかったのか?」

「えっと、中学ではまだ……その、高校に入ってからみんな授業でやるから……」

「へぇ、なるほど」


(中学まではやらない、か。それなりに魔法についての情報統制がされてるみてぇだな)


 そんなことを考えながら、みずなの方を見る悠磨。すると突然、彼女をじっと見つめていた。 

 


「え、えっと……どうしたの……?」


 じっくり見つめられれば、当然そう尋ねたくなる。

 だが悠磨は、それでも無言でじっと見る。それは決していやらしい意味ではなく、



「もしや……筋肉痛か?」

「う、うん……」


 どうやら悠磨は、彼女の動きに違和感を感じていたらしい。


 重い荷物を持ちながらも、普通の動きをしようとしていた。

 が、悠磨はそのわずかなぎこちなさを、いとも容易く見破る。



「えっと、筋肉痛だからって、修行無くなったりとかしないよね……?」

「当たり前だ。そんな甘ぇことは俺はしねぇぞ」

「よかった……」


(よかった、だと……?)


 てっきり悠磨は、筋肉痛だから休みたくてそう言ったのかと思っていた。



「その、時間ないから、やっぱり……」

「なるほどな。思ったより自分に厳しく出来るんだな」


 予想以上のやる気に関心する。と同時に、ケア不足や自分の筋力を見誤っているなど、改善すべき点も発見した。

 これらをどうやって伝えようか少し考え、言葉を選んで口を開く。



「動きをコピーできるってのは良いと思うが、身体がそれについていけてねぇな。かといって今から筋トレしても一週間で効果はそんなに出ねぇし……さて、いろいろやっとくか」

「……?」

「今ヒマなんだろ。軽くストレッチでもやっとこう」

「え……? わ、分かった……」




 その後、荷物をベンチに置き、



「一、二、三……」

「うぅ……い、痛っ……!」

「息は止めずにゆっくりはけー。止めたら余計固くなんぞ」


 地面にみずなは座り、悠磨が片手で背中を押す。

 彼の指導のもと柔軟運動を行っている。

 

 みずなは平均よりは柔らかい。柔軟性が無ければ、修行の時あれほど滑らかに動くことは出来なかっただろう。さすが悠磨の動きをコピーしただけのことはある。

 

 そういったことに考えをめぐらせられるくらい、何かと細かいとこに悠磨はよく気づく。そのうえ、ありとあらゆる知識を持っている。そしてそこから、何をすべきかなどといった行動の判断を自分、他人問わず冷静に行える。

 彼の師匠としての技量や器は、申し分ないだろう。



「筋肉痛は動かさねぇと治んねぇからな。これを毎日続けること。あと肉とか魚食って、しっかり寝ろよ」

「う、うん……」



 いや、師匠というより、スポーツインストラクターの方がよっぽど似合っているのかもしれない。





  ※  ※  ※




 軽い運動を終えた後、みずなと別れ、悠磨は家に到着。時刻は『こっち』の時間で三時。


 遅めの昼食を済まし、何をしようかと考えていると、視界に黒いビニール袋が入る。

 それは、『あっち』で購入した物だ。漫画雑誌が一冊、コミック本が六冊。


 色々と忙しくて読むことが出来なかったが、今は少しだけ時間に余裕があるので、ビニールの包装を破いて、ページをめくり始める。





  ※  ※  ※




 ――――約二十分後





(あァァァァァ!! ジャ〇プよ……何でどれも超気になるとこで終わってんだクソがァァァァァァァ!!!!)


 大声で叫びたい衝動をなんとか抑えつつ、悠磨は床を暴れてるかのように転がっていた。


 

(一週間で日本に帰れるか? 帰りてぇよマジで。全部夢オチとかなんねぇかななってくれよホント何で……何でこんないいとこで終わってんだコンチクショォォォォォ!!!!)



 普段なら禁断症状みたいな、ここまでひどい事にはならない。

 だが中途半端なところで終わっていたことによる次週の待ち遠しさに、この世界、もしくはこの星にいては来週号は読めないという事実が、足し算ではなく掛け算並みに不満と渇望を膨れ上がらせる。



「俺は……運が悪いなあ!」


 かなりキレ気味の口調で、そう吐き捨てた。


 その苛立ちを抑えようと、他に入っているコミック本を読んで気分を落ち着けようとする。

 ビニールを破き、表紙をみているとふと、こんなことが頭に浮かぶ。


(本屋とかここ無ぇのか? マンガぐらい置いてあんじゃねぇのか? 探すか? よし探そう)


 日本に似ているんだから、マンガもこの世界にあるはず、と考えて本屋を探しに外へ出た。

 というか、すごい切り替えの早さだ。

 


 

  ※  ※  ※




 いつもの商店街を歩く。すろと、『本』と大きな看板が突っ立っていたおかげで、すぐに見つけることが出来た。

 一階に本屋、二階に雑貨屋の大きめな建物。白色をベースに、緑のラインが引かれた塗装が施してある。なかなかに立派な建物。店の名前は『ブックスミナミ』。

 ふと、ここの印刷技術はどうなってんのか、という疑問が頭をよぎるが、今の彼にとっての問題はそこではない。


 マンガはあるのか無いのか、それが一番知りたかったことであり、ここに来た目的でもある。

 が、しかし、一秒後には最大の問題が変わる。


 入口に立って中をのぞくと、すぐに気づく。人はいない。電気もついてない。

 閉まっていた。定休日だ。

 


(まあいい、明日来ればいいだけだ。本屋くらい他にもあんだろ)


 平静を保ち、別の店を探しに、またしばらく歩き回る。



 商店街の、まだ通ったことのない道を歩いていく。

 だんだんと客通りの少なくなってきている。辺りの店の雰囲気からおそらくあまり栄えていないのだろう、と感じていた。

 するとひっそりと、古びた看板の古本屋があるのを見つける。


 そこは三階建ての雑居ビルの一階にあり、中は人が通る道は四つ。悠磨からするとかなり狭いな、と感じるほど。棚と棚の間は一人分のスペースしかなく、立ち読みされると非常に邪魔。

 現に、四列の通り道は全部立ち読み客が数人いて、隅から隅まで見て回るのは広さに反してだいぶ時間がかかりそうだ、と彼は思う。その時、


「おらー、しっし。買わないんだったら、とっとと帰んな!」


 本屋の店長らしきオバチャンが、はたきを持ちながら立ち読み客を追い払った。

 ぞろぞろと、追い払われた人たちが店から出ていく。

 不運な彼にとって、これはラッキーなのではないのか。



「今掃除中だい。ほらしっし、どいたどいた!」

「あ、はい……」


 否、とばっちりを受けた。悠磨自身もなんとなく予想は付いていた。

 結局ほぼ何もできず店を後にする結果となってしまう。



(あーはいはい、俺は運が悪いなあ)


 あるとか無いとかそれ以前に、どっちなのか知る事すらできなかった。




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