第一話 回想から不運
「またはずれか。ホント、俺は運が悪いなあ」
スマホの画面を見ながら、そう呟いていた。その言葉に、悔しいとか、残念などといった感情は全く含んでいなかった。
ライブのチケットがまた外れた。当たったことは一度もない。だが外れたのは何十回目か、もうわからなくなっていた。
この少年の名は、天倉悠磨。十五歳。
四月の頭で、桜の舞う季節。
そして彼はアパートで一人暮らし。もちろん、ここは日本。
――もうすぐ高校生だが、楽しみだとは全く思っていない。かといって、授業についていけるかとか、友達ができるか、などといった普通の人ならあるような不安や悩みは一切ない。
勉強については全く問題ない。だが、友達は一人もできないと思っている。
理由はいたってシンプル。俺は生まれてからずっと運が悪いから。
空き缶を踏んで転んだり、鳥のフンに当たったりするなんかは全然マシなほうだ。
事故に巻き込まれそうになった回数は軽く三桁を超えている。
誘拐されそうになったり、通り魔に殺されそうになったのも、一回や二回ではない。
さらに、おみくじで一番良かったのは末吉。それがたったの一回。大凶は三回も引いた。他はすべて凶。
大凶を引いたのは、三歳と、六歳の時――そして今年。
三歳には雷に直撃し、死にかけた。
六歳には両親を殺された。
今年は、まだ大きな出来事は起きてない。
俺の不運なエピソードはたくさんあって、やがてそれが広まり、俺を疫病神だ、死神だ、憑りつかれてる、呪われてる、などといって避けられていた。親戚も例外ではなく、俺をアパートで一人暮らしさせてる――いや、隔離しているのもこれが理由の一つだ。
だが、寂しいとは思わない。むしろ独りのほうがいい。独りのほうが落ち着くから。
自分の不運をいつも憎み、そして俺を不幸にし続ける世界を、神をも憎んだ。頼れるのは、運の関与しないもの――つまり物理法則。そして信じられるのは、己の努力と実力。
復讐みたいな動機で、どうしようもない憎しみを抱えたまま、俺は生き続けていた――
というのは数年前の俺。
今も世界に対する憎しみはなくなってはない。だが、とある出会いによって、生きる目的……というか生き続ける意味は増えた。
それがマンガやアニメ、ゲームなどといったものだ。大げさだと思うかもしれないが、もしこれらと出会っていなかったら、生きる意味を完全に失って、自殺していたかもしれない。
俺はマンガやアニメなどから、色んなことを学んだ。単純な知識だけではない。理念、価値観、行動、生き様など。
面白かったり、ワクワクしたり、中には俺の心に深く突き刺さるものもあったりした。
そんなわけで、俺の数少ない趣味は、唯一リラックスできる時間だ。そして生きる理由と言っても過言ではない。
「そういや、今日って月曜か。しかも新刊の発売日だったな。買いに行くか」
今は午後八時過ぎ、外は真っ暗。悠磨は雑誌とマンガの新刊を買いに本屋へ行った。