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絶対不運の実力主義者《アビリティエスト》  作者: Haruma
第一章 超絶不運の始まり編
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第十七話 そして予想外の不運ばかり起こる




 辺り一面真っ暗になり、街灯がつき始めた。

 悠磨は、みずながかなり疲れているように見えたので、



「いったん休憩するか」


 と、声をかける。相当きつかったのか、彼女は息が上がっていて、そのまま地面にペタンと座り込んだ。

 その一方で悠磨は、平然としていた。



 やがて息の整ったみずなは、ベンチに腰掛け、持参してきた水筒を開けて、お茶を飲んでいる。

 それを見ていた悠磨も喉が渇いた、と思って水道を探し始めた。


 水道はあった。腰ぐらいの高さに、肩幅より少し小さい直方体の石。その側面に付いている蛇口は三角形のハンドルで、ここに来る前――日本の公園や学校でよく見た形だ。

 俺は運が悪いのに飲んでも大丈夫か、と一瞬考える。だが、かなり喉が渇いていたので、それどころではなかった。

 実際、最後に飲み物を飲んだのは理事長室でのお湯だ。しかしあの時は、話すことと聞くことに集中してたせいで、一口か二口しか飲めなかった。



(俺は運が悪いから、クソ不味い水が出たりしそうだが、泥水じゃないなら飲むしかねえ。いや、固くて開けらんねえってのもありそうだな)

 


 ところが、予想とは違った不運が起こる。

 水が出てこない。



「………………そうくるか」


 蛇口のハンドルを最大まで回す。だが水は出ない。一度閉めて、再び開ける。やはり水は出てこない。

 今度はパイプを押したり叩いたり、石の方を蹴ったりといろいろ試す。

 だがもう一度開けても、やっぱり水は出なかった。

 故障ではなく、単純に水が通ってないだけなんだろう、と思った。



「マジかよ…………」


 すると、それを見兼ねたみずなが、水筒のコップにお茶を注ぎ、


「えっと……飲む?」

「あ……すまん」


 悠磨はコップを受け取り、それなりに冷えている麦茶を飲む。ごく普通の麦茶だったが、かなりおいしく感じた。



「ありがとな」

「どういた…………」

「……?」


 コップを返した途端、みずなの言葉が急に途切れたので、悠磨は首をかしげる。

 そして彼女は、そのコップをじーっと見つめ、自分がなにをしていたのかを理解したのか、また顔を真っ赤にしていた。



「いや……そ、そういうのじゃなくて…………!」


 みずなは顔を赤く染め、はわわぁ、と動揺して、手をブンブン振り回している。

 さらに、手に持っていた水筒の存在を忘れていたのか、お茶が少しこぼれてしまっている。

 その一方で悠磨は、


(コイツのこと、なんとなく分かってきたぞ。かなりの恥ずかしがり屋だけど天然、ってとこかな)


 ただ冷静に、みずなの性格を分析していた。

 落ち着いた様子の悠磨だが、彼は鈍感ではない。だから、彼女が何に対して動揺しているのかは分かっている。



(コップなんだから、同じところに口を付けなきゃいいだけなのに、何でこんなに慌てる必要があんだ?)


 いや、一周回って鈍感……なのかもしれない。




  ※  ※  ※




 しばらくして、みずなは落ち着きを取り戻した。

 すると突然、予想外の質問をしてくる。

 


「ユーくんってさ、師匠はいたの?」

「ん? ああ」

「どんな人だったの?」


 みずながそう訊くと、


「……かなり強かった」


 その返答にみずなは「ふぅ~ん」と言い、さらに詳しく訊こうとする。

 


「それで、どんな事教わってたの?」


 だがそのセリフに、悠磨は急に暗い顔をしてうつむき、



「今は……ちょっと言えねぇ……」

「え……?」

「でもまあ、いつか話せる時が来たら、話すよ」

「う、うん……わかった」


 これ以上踏み込んではいけないと悟ってくれたのか、みずなは尋ねるのをやめて、切り替える。


「そ、そろそろ修行……再開しない?」


 悠磨は「う~ん」と唸って、 



「だいぶ暗くなったし、今日はここまでにするか」

「え……今いい感じだから……も、もう少し……」

「随分と意欲的だな。それじゃあ、あと――――」


 彼はそう言いながら、腕時計を見る。

 そのデジタル時計は、『2:05』と表示していた。



「…………」


 周囲に時計がないかと、悠磨は辺りを見回した。

 小さめの公園のせいか、時計はなかった。


「みずな。今何時か分かる?」

「ご、ごめん。今は時計……持ってない」


 そう答えたみずなは、彼の腕に気づき、



「あれ? その腕のは……?」

「ああ、コレ壊れたっぽい」


(正確に言えば、ズレてるだけなんだがな)


 悠磨は少し悩んだ。そして、



「仕方ない。あと十分だけな」


 早いうちに買い物を済ませたかったが、弟子のやる気を無下にするのは気が引けると思って、そう言った。

 そして悠磨とみずなは、再び剣を構える。



  ※  ※  ※



 十分後、修行を終えて、二人並んで帰り道を歩く。

 人の気配はほとんど無く、虫の鳴き声だけが聞こえてくる。


 悠磨はいつも通り(・・・・・)足元に注意しながら歩いていた。街灯の明かりが薄暗いせいか、普段より下を向いている。今の状態では、上からカラスのフンでも降ってきたら避けられないだろう。

 そんなことは当然知る由もなく、みずなは話しかけてくる。 



「ユーくんは、どうしてそんなに強いの?」

「さっき言わなかったっけ。運が悪いからって」

「でも、じゃあ……運がいい人は強くなれない?」

「いや、そういう問題じゃなくて……俺の場合はむしろそれくらいしなきゃ生き延びることができねぇくらいひどいモンだったし…………俺のはあまり参考になんねぇな」


 悠磨は自虐的な笑みを浮かべて、淡々と話していた。

 

 

「そんで、どうしてそんなに強さにこだわる?」


 悠磨の質問に対し、みずなは足を止める。

 そして彼女は、少し暗い声で、落ち着いて話を始める。



「実は子どもの頃に、ある友達がいて……」


 みずなは若干気まずそうな顔をしているが、下向きなうえに、街灯はそれほど明るくないため、悠磨はその表情を読み取れなかった。

 だが、今の声の変化とこれまでの情報から、あることを推測していた。



「もしかして……そいつが初代ユーくんってことか?」

「え…………まあ、うん……」


 みずなは驚きと困惑の表情を浮かべたが、やはり悠磨はそれに気づかなかった。


「よくわからないのだけど、ユーく……ゆうし君とそのお父さんが急にこの町から追放されちゃって……」

「てことは、他の町にいるのか」


 彼女は首を振って、



「ううん……外に……」

「え……外? 何か相当な事件でも起こしたのか?」

「そ、そんなことない! ゆうし君も優しかったし、お父さんも町一番の鍛冶屋ってだけですごくいい人だったもん!」


 みずなは、今までで一番大きな声でそう言った。



「あ……ご、ごめん。急に大声出して……」

「い、いや、平気だが」


(今のはちょっとびっくりしたな。あんなにおとなしそうなみずなが、ここまで声を荒げるなんて……)


 さっきまでと雰囲気が違う。それにはもちろん気づいていた。

 様々な疑問が浮かび上がって、尋ねたいことは沢山あったが、今『師匠として』最も知るべきこと、聞くべきことを問う。



「それで、みずなはどうしたい?」

「強くなって……助けに行きたい」

「俺もそこまで詳しくはねぇが、あんだけ過酷な環境だ。まだ生きてるとは限んねぇぞ」

「それでも…………」


 みずなは真っすぐな瞳を向ける。そして穏やかに、しかし芯の通った声で、



「生きてるって信じたい」

「そうか……」


 彼女の決心は固かった。出会ってから一番の意思の表れ、と感じた。

 


「そんな話を聞いちまったら、手伝わねぇわけにはいかなくなったな」

「え……」

「まずは、試験合格しなきゃな。目的があるのはいいことだが、それだけ見て、目の前のことをおろそかにはすんなよ」




 その後、ちょっとした話をしている間に、商店街に着く。木刀を買うために、行きにもここを通っていた。

 悠磨は帰りに食品や、タオルなどの生活用品を買うつもりだった。だが、



「まさか……こんなに早く閉まるとは」


 ここの正確な時間は分からないが、まだ店が閉まる時間じゃないと思っていた。

 しかし、どの店もシャッターは閉まっていて、明かりも消えている。

 悠磨は、はぁーとため息をついた後、

 


「金はあんのに買えねぇ……。なんつーかホント、俺は運が悪いなあ」


 みずなは責任を感じたのか、ただ無言になって、彼の隣を歩くことしかできなかった。




  ※  ※  ※




 やがて家に着き、みずなと別れた。

 別れたと言っても、部屋が隣同士なので、アパートの廊下でだ。


 何も買えなかったので、メシを食うことも、シャワーを浴びることもできない。

 結局床で寝るハメになった。


 さすがに枕は欲しい、と思ってパーカーを脱ぎ、丸めて枕替わりにした。

 そして寝ながらいろいろ考え、口にする。


「しっかし、今日はいろいろあったな」


 たった一日で、たくさんの出来事――――もとい不運が起きた。



「いろいろ謎があるな。結局ここは異世界なのか、別の星なのか……。それにモンスター、理事長、魔法、あの誘拐犯、結界……」


 たった一日で、たくさんの疑問が浮かび上がった。



「あと、明日は買い物して、試験の準備しなきゃな。街の探索して、図書館探さねえと。それと修行も……って、やること多いな」


 切り替えて、翌日のことも考える。



「たった一日で……………………どうしてこうなった」


 ポツリとその一言を漏らした数秒後、まぶたを閉じ、悠磨は眠りに入った。




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