第十五話 不運は忘れた頃にやってくる
「まあ、結果的にここに入れたわけですし、今はあえて気にしません」
それを聞いた理事長は、ニヤニヤしながら話を続ける。
「他に、知りたいことはある?」
「魔法について……ですかね。自分がいたところでは、魔法はなかったので」
「へえ~。どう感じた?」
「やはり、便利だと。モンスターと戦う時に、遠距離から戦うことも、回復もできるので」
すると理事長は、お湯を一口飲んでから、
「たしかに便利だ……と思うじゃん。だけど、ちょっとした欠点があって」
「欠点ですか?」
「そう。魔法は、外では使えないから気をつけてね」
「外では使えない? なぜですか?」
「さあ、どうしてだろうねえ」
「自分で考えろ、ってことですか……。外で法律的に使えないのか、それとも物理的に不可能なのか……。情報が何もないので、何とも言えません。後で調べるので、図書館の場所でも教えていただければいいのですが」
「そ~だね。じゃあ、あとで教えるよ」
悠磨は「ありがとうございます」と礼を言って、お湯を一口飲む。
「他に、僕に頼み事とかある?」
「そうですね……試験までの生活費を貸してください。その後はうまく稼いで、返すので。あと住む場所も」
「いいよ、わかった」
(あっさり承諾してくれたな。いろいろ準備したのに。だが……逆に不自然だ)
これは何か裏がありそう……と勘づいた悠磨は、理事長に追及する。
「あっさりいい、とおっしゃいましたね。自分はてっきり、交換条件など出してくると思ったんですが」
「言ったじゃん。『強い人は大歓迎だ』って」
理事長は意味深な笑みを浮かべながら、話を続ける。
「お金はすぐ用意できるけど、住む場所は……ホントは寮があるけれど、今は予約でいっぱいになっちゃって~。いますぐに入居できるのはちょっと古いアパートだけどいいかな?」
「かまいません。ところで、住民票などの書類はどうすれば……」
「ああ、それは僕がなんとかするよ。理事長権限で、大抵のことはどうにかできるから」
「そうですか。ありがとうございます」
(そろそろ問い詰めるか。俺の事をなぜ知っているのか、コイツの正体は何なのか、暴いてやる)
最後の目的を果たそうと、悠磨は理事長を問い詰めだした。
「先ほど、初めて会った時、ユーマくん、と言いましたよね」
「そうだね」
「その時、『隣のコが言っていた』とおっしゃっていましたよね」
「そうだっけ~」
「はい。実はその隣のコは、自分のことを『ユーくん』と呼んでいました」
「へえ~ずいぶんと仲良くなったんだね」
(あからさまに話をそらそうとしたな)
「それは置いといて、自分が何を言いたいのか分かりますよね?」
理事長の返答はない。なので悠磨は、話を続ける。
「なぜ自分の名前を『ユーマ』だと知っていたのですか。そのうえ、年齢も」
(さあ、コイツはなんて答えるのか)
理事長は、ニヤニヤしながら、
「じゃあ逆に、どうしてだと思う?」
(やっぱそうくるか。なら、ここで揺さぶりをかけてやる!)
そう思い、言葉を選んで、口を開こうとした刹那――
「それにキミさ、僕のこと、信用してないでしょ」
理事長はいきなり、思いもよらないセリフを口にした。
まるで悠磨の心の中を読んだような口ぶりだ。
(……どうする? 正直に言うか、ウソをつくか)
悠磨の出した答えは――
「信用はしていますが、話を全てうのみにしたわけではありません」
「そお~かぁ。それじゃあ問題!」
理事長は急に明るい口調になって、満面の笑みでとんでもないことを喋りだす。
「僕はどこからウソをついたでしょう?」
(なっ……! コイツ……!)
マンガだったら歯ぎしりしながら睨み付ける場面だろうが、悠磨は依然としてポーカーフェイスを保っている。
(どこから……いや、どこでの間違いじゃねえのか? それとも……ウソをついたこと自体ウソって可能性も……じゃあコイツのこのセリフ自体ウソか? なぜこんな、明らかに信用されない態度をとるのか? 動揺させて、話を信じさせないってか? どういう目的で…………クソッ! コイツの考え、全然読めねえ!)
その数秒の思考の後、
「多くの人に聞いたり、調べたりして、情報をすり合わせていけばいいので」
落ち着いた声で、悠磨はそう言った。
それから、他愛もない話を交えながら、お金を貸してもらい、書類と地図、アパートの鍵をもらった。
結局、理事長については何も知ることができなかった。
「ありがとうございました。失礼します」
「それじゃあ、入学試験がんばってね~」
そして、理事長室を出て、悠磨は学校を後にする。
それを窓から見ていた理事長は、
「ククク……やはり、僕の目に狂いはなかった」
不気味な声を発していた。
一方、じっと見つめられていた悠磨は、珍しくその視線に気づけなかった。
※ ※ ※
(とりあえず、しばらくはなんとかなりそうだな)
一安心したのもつかの間、さらなる疑問が頭をよぎる。
(だが、なんで話がスムーズにいった? 最初っからお金も住む場所も準備していたみてえだったし。もしや……俺の考えを読まれてたのか!? しまった! 推薦のこと、すっかり忘れてた! いや、まさか……アイツに誘導されて、クソッ……! 完全にアイツの手のひらで転がされてたってわけか! 結局アイツは何なんだよ!)
街を眺めながら、地図に記されたアパートへ向かう。
(この世界、英語はあるのか? カリキュラム、モンスター、外来語を交えてみたが通じていた。もしないとすれば、日本から直接持ってきた説が濃厚だな)
次々と疑問が湧いてきてなかなかスッキリできず、悠磨は少々イラついていた。そのせいか、足元にあった缶に気づかず、踏んで転んだ。本日二度目。
「……ったく、俺は運が悪いなあ」




