第十四話 思い通りに話が進まないのは不運か
連れてこられた場所は、仮宇土高校の理事長室だった。
テーブルと二つのソファがあり、悠磨と理事長が向かい合って座る。
「え~と、さっそく本題に入るけど、この仮宇土高校に入ってくれない?」
いきなりだったが、断る理由もないし……と思い、
「まあ、他に行く当てもありませんし、自分は構いませんが」
「よかった~。それじゃあ、まず一週間後にある入学試験を受けてもらいたいのだけれど、十五歳だよね」
(コイツ……俺の年齢知ってんのか?)
悠磨は少し警戒を強めながら、話を続ける。
「そうです。ところで、入って欲しいとおっしゃいましたが、推薦入学はないのですか?」
「もしかして、落ちる心配してるの? キミ、頭いいと思うけれど」
「案外バカかもしれませんよ」
(俺は運が悪いから、試験中に何かあって不合格っつー可能性あるし、できれば推薦で入りてえな)
そう考えた悠磨は、少し強めの口調で、
「それに、まだここの事も、試験の内容も詳しく知らないのに、どうやって試験の対策をしろと言うのですか?」
すると理事長は立ち上がり、ポットと湯呑み二つを用意し、お湯を注いでテーブルへと運ぶ。
緑茶じゃねえのかよ、というツッコミはあえてしなかった。
「確かにそうだねえ。試験の概要くらいは伝えておくよ。まずここの高校は普通科、商業科、医学科、ハンター科の四つがある。ちなみにハンターについては知ってるかな?」
「さっきいた二人、確かプロのハンターですよね」
「そう、彼らもここのハンター科の出身なんだ。ここを卒業すると、正式なハンター証をもらえて、自由に外に出て狩りができるんだよ」
「それはつまり、それ以外の人が外に出るには、なんらかの方法で許可をもらって、なおかつプロのハンターと同伴でないといけない。さっきの人たちはそういうことですよね」
すると理事長はお湯を一口飲んだ後、
「そうだよ~。あと、もう一つ補足があって、ハンター科の生徒も、多少の制約はあるけど、それなりに自由に出入りできるよ」
「ということは、ハンター科の倍率はかなり高いのでは? そうなると、ハンター科に自分が入るのは厳しくなると思いますが……」
「あ~そう考えちゃうか~」
「どういうことです?」
「ここの高校のハンター科は、そんなに人気ないんだ」
「どうしてですか?」
「どうしてだと思う?」
(自分で考えろってか…………ん? ここの?)
なにかに気づいた悠磨は、
「『ここの』ってことは他にも高校はあるんですか?」
「あるよ~。ここ以外に三つ」
「だとすれば、その三つがカリキュラム、設備、指導する先生などがここより良くて、多くの受験生がそっちに流れていった、ということですか?」
「へえ~正解だよ。やっぱキミは頭いいじゃん」
(チッ! やっぱコイツ、図ってやがったか)
理事長はまたニヤニヤしながら話を続ける。
「でも、他にもいろいろあるけど、大きな理由がもう一つ」
「それはなんですか?」
「なんだと思う?」
(またそれかよ。早く話を続けてほしいんだがな)
そう思った悠磨は、冷静に返答する。
「もうヒントがないので、思いつかないのですが」
「すご~くシンプルだよ。戦うのが怖い、死にたくない、だからハンターになりたくないってこと」
「確かに、シンプルですね。ですが、収入などは結構いいはずでは。それに、ハンターはむしろ憧れの職業だと思っていたんですが」
「憧れ……かぁ。どうしてそう思ったの?」
「ヒーロー的なイメージがあるので」
「ヒーローかぁ。まあ、間違ってはないかな~」
理事長は「う~ん」とうなり、
「ま、その話はいったん置いといて、報酬についてはかなりいいよ。その代わり、リスクは高いけど」
「報酬ってのは、依頼料だけですか? あのモンスターを倒して、剥ぎ取って持ち帰るのは不可能ですか?」
「う~ん、報酬については、プロになってから話そうか。割と複雑だし。あと、モンスターから剥ぎ取るのは全然だいじょうぶだよ。ただ……」
「ただ?」
「大人数で倒した時とかの剥ぎ取りの配分は、貢献度に応じてか、均等に分けるか決まってないんだよ。それでもめることも多くて、大変なんだよね~」
(一人でやれば問題ねえな。持ち帰るのは可能なのも確認できた)
とりあえず疑問が一つ解消できたので、悠磨は話を変える。
「ところで話を戻しますが、さっき『他の高校に流れた』と言いましたが、結局ほかの高校もハンター不足なのでは?」
「それがね、実はそうでもないんだ。ここ以外のハンター科の志願者数は、ここよりかなり多いよ」
再び違和感に気づいた悠磨は、
「それって、矛盾してません? 『怖いからハンターになりたくない』というのと」
「う~ん、正確に言うと、ここだけなんだよね……」
「ここだけ?」
「そう。ちょっと話が変わるけど、キミはゲートがいくつあるか知ってる?」
「……普通に考えると四つ、ですよね」
「おお、正解。どうしてわかったの?」
(また試してるのかコイツ……!)
だが、コイツに話の主導権を握られるのは癪だと思ってしまった悠磨は、少しためてから、冷静に答える。
「ハンター科の実地訓練があるとすれば、ゲートに近いほうがいいから。さらに、外でなにかが起きた時、ハンターの関係者が近くにいた方がなにかと好都合、だからですか?」
「まあ、それでだいたい合ってるよ。後はねぇ、ゲートから中へモンスターが侵入した時に壁として使われる、と言われているから」
「壁……!? それを言い出したのは理事長、アナタですか?」
「いやいや、僕がそんなことゆうわけないじゃん! そんなことしたらハンター科減っちゃうに決まってんじゃん! ただの噂だよ」
初めて理事長に動揺が見られた。だが、
(図星を指されて、のとは違うな。理事長が犯人じゃなさそうだな)
理事長の顔を見ながら、悠磨は話を続ける。
「ただの噂……ですか。明らかに悪意のある噂、ですね」
「そ~なんだよ~。おかげでここだけ志願者減っちゃって……」
「ほかの高校はどうなんです?」
「そんな噂は全くないし、人気のままだよ」
ため息交じりに、理事長はそう言った。
「結局、理由はそれだけですか? 噂だけで、志願者数が減るとは考えにくいのですが」
「実は……ここのゲート周辺だけ、異様に強いモンスターが多いんだ」
(ここだけ? それって……原因は俺か!? 俺の不運か!?)
そんな疑問を抱いた悠磨は、
「いつぐらいからですか?」
「二、三年ほど前かな」
とりあえず俺のせいじゃねえな……と思い、悠磨はお湯を飲み、一息つく。
「そういえばキミはさっき、クマタロウとも戦ったよね?」
(誰がその名前付けたのか聞きてえが、後にするか)
クマタロウとは、三メートルほどの、クマに似たモンスターだ。
そのダサい名前からは想像できないほど強く、荒々しかった。
「はい、そうです」
「アレね、かなり強いよ。プロのハンター七、八人で何とか倒せるレベル。それで死人が出なかったら、奇跡ってくらいに。なのにキミ一人で倒しちゃうなんて、やっぱキミはすごいね」
(アレって、そんなに……ん? なんでコイツ、俺一人で倒したことを知ってるんだ?)
再び違和感に気づいた悠磨は、理事長に追及する。
「なぜ自分一人で、なのを知っているのですか?」
「え? だってさっき、言い争ってた人達が言ってたじゃん」
「もしかして、ゲートで待ち伏せしてました?」
「どうだと思う?」
(またそうくるかよ。コイツの考えがつかめねえ。それに、さっきから口調をわざと変えてるから、ウソかホントかも全然読めねえ)
初対面でも八割はウソを見破れる自信があった悠磨だったが、コイツは強敵だ……などと思っていた。




