第十話 不運を覆してこそ、本物の実力者
悠磨は一気に接近した。モンスターはグガァ――と声を上げ、左腕で殴り掛かってくる。
その攻撃を、低い姿勢になってかわし、懐に潜り込む。
「はあぁぁ……ッ!」
左手の大剣で右上へ斬り上げる。
その勢いで身体を回転させ、流れるままに右手の刀で同じように斬り上げ。
(攻撃する隙を……与えるな!)
今度は刀と大剣を右肩まで持ち上げ、ななめに振り下ろす。
さらにそこから、居合斬りのように構え、刀で水平斬り。
次々と切り刻まれていき、血飛沫を撒き散らしながら、モンスターはひるんでいた。
怒涛の五連撃。
少し離れた場所から見ているみずなは、悠磨のすざましい連続攻撃に、
「すごい……」
と、感嘆の声をもらしていた。
しかし、ここでモンスターが一歩下がる。
一瞬だが、悠磨の攻撃が止んでしまう。
そのわずかな隙に、右腕で薙ぎ払い攻撃。至近距離からで、避ける間もない速度。
「あぁ……!」
みずなは反射的に目を閉じてしまった。だが――
悠磨はそれをジャンプしながら、左手の大剣で受け流すように、タイミングよく引く。
モンスターの攻撃は、爪と大剣が当たって、ギイン――と不快な音を立てるだけで、悠磨には直接当たらなかった。
また、それによってモーメントが生まれ、身体は扇風機のようにぐるぐると、空中で回転する。風を切る音が、生まれる。
さらに、その勢いを載せ、右手の刀で関節部分と思われる肘に、斬りつける。
刀がえぐりこんだが、身体の回転は止まらない。
だが、悠磨はその勢いのまま大剣を――
「は……あぁぁぁ!!」
渾身の力を込めた一閃が、モンスターの右腕を切断。
切り離された腕は、血を振りまきながら空中を舞う。
「グギャァ――!」
その腕が落ちると同時に、敵はうなり声を上げる。
そして後ろに数歩下がり、距離を取ろうとした。
しかし悠磨は、
「逃がさねぇ!」
着地した瞬間に間合いを詰めて、敵の左脚に右の刀で突き刺し、横一閃。さらにその勢いを載せて回転、大剣と刀で横薙ぎ。三連撃。
モンスターはバランスを崩し、左腕と半分切れた腕で地面につく。
痛みを堪えているかのようなうめき声を、敵は上げている。
その隙に、その左腕へ、刀を右上から左下へと斬り下ろす袈裟斬り。そして両手で同時に水平斬り。皮膚を裂き、肉をも抉り取り、血飛沫を散らす。再び三連撃。
モンスターは完全にバランスを崩し、うつぶせに倒れた。
重く、鋭い十三連撃。敵に大量の出血を負わせていた。
今度は、ウロコのない背中の側面に、二本の剣を突き刺した。
血が飛び出て、その瞬間――
「うおおぉぉぉ……!」
悠磨は走りながら、二本の剣で胴体を切り裂く。
ブシャ――と、勢いよく血が噴き出す。
やがて悠磨はモンスターの頭の隣に来る。
二本の剣を勢いよく抜き、肩に乗せる。
そして、敵の頭へ二本同時に――
「はああぁぁぁぁ……!!」
力を込めて、思いっ切り振り下ろした。
「グ……ギャァ……ァ…………」
モンスターは弱ったような声を出す。
どうやら頭が弱点だったらしく、腹より深くえぐりこむ。
大量の血が噴き出て、悠磨の服や顔につく。
だがそんなことはお構いなしに、手に力を入れ――
力を振り絞り、ねじ込むように突き刺した。
モンスターの顔はぐちゃぐちゃになり、うめき声をあげ、やがて腕や脚がぐったりとして――――
完全に息絶えた。
「つ……強い……!」
「た……助かった……!」
ハンターの二人は驚きの声をあげ、
「よかった……」
みずなは安堵していた。
負傷者を含んだ他の人たちも恐怖から解放され、喜んだり、中には泣いてる人もいた。
(どうにかなったな……)
と、悠磨はそんなことを思っていると、
「ユーくん!」
みずなが駆け寄ってくる。
悠磨は「おいおい、足は大丈夫なのかよ」とツッコもうとしたその瞬間――――
「うっ……」
身体の力が一気に抜けて、悠磨は倒れてしまった。
緊張の糸がとけてしまい、今日の疲れがいっぺんにやってくる。
(ここまで生き残ったのに……ここで倒れたら……)
だが、身体は言うことをきかず、やがて意識が完全に途切れてしまった。