しろくろ物語~セイジャの剣~
おや、セイジャの剣について知りたいのですか?
それなら、ひとつ、伝わっている話がありますよ。
今を遡ること数百年、この国の名前が何度か変わるくらいには昔のこと。
人里離れた山の中に、セイジャの剣を守護する一族が暮らしていました。
次代の守り手候補は二人おり、一人は当代守り手の養い子である白いの、もう一人は一族の長の子である黒いのでした。
この二人、守り手を目指すライバルであるだけでなく、性格的にも正反対で、よく衝突していたそうです。
遠見の魔女様曰く、白いのが「ちゃらおかいけい」で、黒いのが「かたぶつふうきいいんちょう」なんだそうですが、何となく軟派と硬派と言う意味だと思ってますよ。
え?遠見の魔女って何だって?
嫌だなぁ、この里に来たということは遠見の魔女様に用があったんじゃないのですか?
過去と現在、起こったことであれば全てを知っている魔女様ですよ。
えぇと、どこまで話しましたっけ?
白いのと黒いのがいると言うところでしたか。
二人は反目しあいながらも守り手を目指し修行をしていきました。
幼い頃に家族を亡くし、守り手により養われていても、やはり寂しさがある白いの。
セイジャの剣の守り手候補だけでなく一族全体の次期長としての重圧がかかる黒いの。
若さと言うのは良いですね。修行を通してお互いを知るうちに、二人は認め合うようになりました。
さて、ここで終われば、セイジャの剣は今でも封印されて、彼らの子孫が今も剣を守っていたことでしょう。
北にある砂の大地は知っていますか?
当時そこには都があり、とても栄えていたそうです。時の王は、望めばなんでも手に入り、後は永遠の命だけ、と。
永遠の命などありえない?えぇ、永遠かどうかは終わりが無いのだからわかりませんよね。
けれど、限りなく長い時を生きる方法はあったのです。
そう、セイジャの剣です。
「生者の剣は持ち主と認めた者に不老不死を与える」と、長き生を求める王が知ってしまったら、どのようなことが起こるかは想像に容易いでしょう。
一族によりセイジャの剣が封印されるより昔には、剣に認められぬ持ち主が長き生を得るために多くの命を代償としたことから「正邪の剣」とされたこともありました。
その頃の記録が残っていたため、王は血眼になってセイジャの剣を探したのです。
白いのと黒いのが守り手となるための最後の試練は、彼らが成人を迎えた翌年に行うことになっていました。
成人を迎えたあたりから、白いのは考え込むことが多くなっており、黒いのが尋ねても、試練が終わったら話すと言って答えませんでした。
遠見の魔女様曰く「ふらぐ」と言うやつです。
そして最後の試練の日、白いのと黒いのは一族の元を離れて二人とも試練を突破しました。
二人とも突破したのだから、どちらが守り手となるのか、当代の守り手に聞かねばならないと言う黒いのに対して、白いのは守り手となるのは黒いのであると告げました。
ここまできて急に譲られるように守り手になるのではなく、しっかり実力で守り手になりたいと言う黒いの。
白いのは理由を告げようとして、しかし急に驚いたように辺りを見回すと、道が途切れた、と呟きました。
白いのの言葉の意味を尋ねようとする黒いのですが、話よりもすぐに里に戻らなければと白いのに急かされました。
急いで里へと戻った二人ですが、そこで見たのは炎に包まれた里の姿でした。
大慌てで術を展開し炎を消した黒いの。
焼け跡から一族の者を探しますが、息のある者も、魂の残っている者もいませんでした。
突然一族の者たちを失い、呆然としている黒いのに、険しい顔をした白いのはセイジャの剣の様子はどうかと尋ねます。
尋ねられたことで黒いのも気付きました。
セイジャの剣が目覚めようとしていることに。
剣の封印を解いた何者かがこの事態を引き起こしたのです。
二人は封印の祠へと向かいました。
封印の祠は本来であれば守り手の力により一族以外のものが近づくことのできない場所です。
しかし二人のたどり着いたとき、祠の周囲にあるはずの力は無く、禍々しい気配を奥から感じました。
セイジャの剣が封印されているはずの祠の奥には、黒装束の人物が数名おり、その中の一人が剣を持っていました。
近くには当代守り手であった骸も転がっていました。そこにも、もう魂は残っていませんでした。
白いのと黒いのに気付いた黒装束たちは、王の命令でセイジャの剣を探していたこと、守り手の力が弱くなった時を狙って一族の命を刈り取り封印を解くための鍵としたことなど、聞いてもいないのに話したそうです。
そして、一族の生き残りがあっては、この先セイジャの剣がまた封印されてしまうと困るからと襲い掛かってきたのです。
数で勝る黒装束たちですが、白いのと黒いのは一族の敵を討つため、覚悟を決めて戦いました。
そして、全ての力を使いきり、なんとか敵を討つことができました。
敵を討つことができ、一族の者たちの亡骸を土に返してやらなければと祠から出ようとする黒いのですが、白いのは、自分はもう手伝えそうに無いと腕を差し出して見せます。
白いのの身体は、その先からゆっくりと色を喪い朽ちて逝こうとするのです。
慌てる黒いのに、白いのは落ち着いた様子で自分は死人であったのだと伝えます。
白いのは幼い頃に家族を喪い、守り手に育てられました。
しかし、本当は、家族を喪ったその時に白いのも命を落としていました。
守り手が見つけたときには白いのの魂だけが残っていたため、守り手の力により仮初の生を与えられていたのです。
何故そんなことを、と思うでしょう。
黒いのしか守り手候補がいなければ、黒いのは途中で潰れてしまうのではないかと守り手は思っていたのです。
次代の守り手を育てるために必要なものとして拾った白いのですが、育てるうちに情もわきました。
はじめは次代の守り手が決まったら術を解いてしまおうと思っていた守り手は、けれど白いのが成人を迎えたときには、全てを話しました。
そして、もし守り手に何かあっても力を使いきらなければ人としての一生は生きれるようにと、その力の半分を与えたのでした。
守り手の力が万全であれば、セイジャの剣の封印も、里の皆も無事であったはずだと白いのは悔しそうに呟きました。
だから、自分は共にここで朽ちるのだと。
黒いのは驚きました。
驚きましたが、白いのの魂はまだここにあるのです。
かつて守り手が行ったように仮初の生で繋ぎ止めようとしますが、全ての力を使いきった後では上手くいきません。
力が戻るまで待っては白いのの魂はいなくなってしまいます。
このまま朽ちていくのが運命なのだと告げる白いの。
もう少し黒いのが長く生きていたら、それを受け入れ、セイジャの剣を封印していたでしょう。
しかし黒いのは喪うことに耐えられませんでした。
封印の解かれたセイジャの剣。
「生者の剣」は「聖者の剣」でもあることを、セイジャの剣を守護する一族の者として黒いのは知っていました。
セイジャの剣に認められた持ち主は、その力を、命を、他者に与えることが出来たのです。
かつて、多くの命を救った「聖者」は、一族の遠い祖先でもありました。
セイジャの剣を手にした黒いのは、剣に認められ、人の世の流れから切り離されたことを感じました。
ひとつしかないものは困るが、ふたつあるものであれば構わない。
黒いのはセイジャの剣に、白いのを助けるように告げ、朽ちて逝こうとする白いのの身体に剣を突き立てました。
すると白いのはまるで生きているかのような姿に戻ったのです。「ふれっしゅぞんび」です。
その代償に黒いのは片目を喪いました。
白いのは生者の姿に戻りましたが、長く仮初の生で繋ぎ止められた存在であったため、黒いのと同じく人の世の流れからは外れてしまいました。
そうして長きを生きることとなった二人は、セイジャの剣を求める者たちをことごとく撃退しながら各地を巡っているそうです。
え?何でそんなに詳しく伝わっているのかですって?
言ったじゃないですか、起こったことであれば全てを知っている遠見の魔女様が伝えているのですよ。
ですから、滅多な事は考えないほうがいいですよ。
砂の大地をもうひとつ作りたくは無いでしょう?
白いのは黒いのの片目分の価値!ってきっと永遠に弄られる。




