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奴隷商人の存在理由《レーゾンデートル》  作者: 数多ノつるぎ
奴隷と初めての仕事
9/11

引っ越し先でも騒動

 気候がいままでとは大きく変わり、雪が降り積もる北国のような場所に入る。車内も一気に温度が下がり、永貴は車内の暖房のスイッチを入れた。

 徐々に暖かくなっていきさっきまで寒さでうまく動かなかった指も熱を帯びて何事もなく動くようになっていき、エトやイリヤ、恵理那も寒そうに身を縮めていたが、今はこの気候に入る前のように平然と席に座っている。


 この数年で日本、もとい世界中の気候が急激に変化し年中雪が降り積もるような地域が多くできた。日本の最北端はもう周辺の海が凍っているほどらしい、見たことはないが、少し見てみたいとは永貴は思っていた。


「もう少しだな、日も落ちてきたし早く着きたいが――」


「うーんタイミングが悪かったんですかね?」


 永貴が言おうとしていたセリフを代わりにエトが口にする。

 まさにタイミングが悪かったのか、今走っている道周辺がスリップの事故で渋滞してしまっているようだ。車の脇を通り抜けていった救急車などがその事故を物語っていた。

 たぶん興味本位か旅行、あるいはドライブなどのつもりで慣れない道を走ってしまたのだろう。この辺ではよく聞く話のようだ。横で止まっている車の運転手など、またこれかと言わんばかりの顔で慣れたように渋滞が終わるのを待っている。


「うーん、これはどこか近くのコンビニにでも止まれたらいいんだが、高速を抜けてちょっとだし店らしきものはないな」


 どれだけ待っていても前の車が悠々と進むような気配はなく、数分に一回数cm程度進むくらいの速さで進んでいる。先頭に近い車が野次馬でもしているのだろうか。今までの渋滞よりも進む速度が遅すぎる。

 野次馬でなかったら目の前で見た事故に恐れをなしてスピードを出せなくなったのか、とにかく、永貴としては早く進んでほしいと思っていた。


「お、ご主人! 前の車がぞろぞろと進んでますよ!」


 フロントガラスの向こう側を立つようにして見ていたエトが言う。すると、ちょうど前の車のブレーキランプが消えてさっきまでのようにすうっと前に進みだした。


「やっとか、ようやく前に進めるな。エト、しっかり座れよ」


「はい!」


 エトの元気のいい返事と共に車は前へと進みだした。




「よしついたぞ、みんな降りてくれ」


 ザク、ザクと少し硬い雪の上を歩く音がして三人が車から降りる。ハウスにつき、明日の昼に取引先に行くまではここで過ごすことができる。

 あのまま適当な店に止まって車中泊を考えていた永貴としてはほっとした気分だ。車中泊の後にまた運転をして取引先との頭を使った取引など体力が持たない。普段から様々なところに行ってはいるが、睡眠や入浴といった休憩がなければ天才と呼ばれた奴隷商人もぼろが出るというものだ。

 中に入ると永貴は部屋の電気をつけた。二年もほったらかしにしてあった家だ。少し机やソファに埃が溜まっていた。

 ベッドの布団は袋の中に入れてあるので問題なかったが別にすぐに寝るわけではない、といっても今から長居するわけでもないのに掃除をするほど永貴も生真面目な性格ではないからとりあえず一番綺麗な自分の部屋に入った。

 エトたち三人は二年前まで物置のようになっていた部屋を片付けて部屋にすることにいした。自分たちで整理した後に元から家にあった毛布を使って寝るらしい。


「ご主人、これってどこに置いておけばいいんですか?」


 エトが物置の部屋に置いてあった段ボールなどを持ってきて聞いてくる。


「そういうのはリビングの隅にまとめといてくれ、長居しないし特にリビングとかは使う予定はないからな」


 だが放置した部屋の現状を見て、清掃屋を雇おうかと思った。


 翌日はすこし移動して街の中心部にある取引先まで行くことになっている。今からすることも特にないので、軽く風呂を掃除してから湯を沸かして永貴は今日の疲れを落としていた。


「すいません」


 風呂と脱衣所をつなぐ扉の先からエトの声が聞こえる。なにかあったのだろうかと思い、「なにかあったのか」と永貴は聞き返した。


「いつも私はお風呂に入れてもらっているのですけど、二人はどうしたらいいでしょうか? 二人がダメなら私も……」


「なんだそういうことか、別にいいぞ。でも入るときは三人でな」


「わかりましたっ! ありがとうございますご主人」


 そう言って脱衣所からエトが出ていく音がする、楽しそうな足取りで二人にそれを伝えに行ったのだろう。

 まあ明日売りに行くというのに体の汚れを落としていないなど考えられないからな、と永貴は呟いて湯船から体を出した。

 


 それから十数分後、風呂場の隣にある永貴の部屋で耳を澄ますと、隣の風呂場から楽しそうな女の子三人の声がよく聞こえたし、壁に耳を付ければ細かな会話まで聞こえる。

 いい大人と言っても男は男、その状況になって寝るに寝れない永貴は少し頭を悩ましていた。


「俺も一緒に入ればよかったかな……」


 エトなら受け入れてくれそうだなと考えながら、風呂場よりのベッドの上で、永貴は体をできる限り壁から話して目を閉じた――瞬間


「きゃあああああああっ!」


 ガタガタという音と共にイリヤの叫び声、それに次いでエトと恵理那の声も聞こえてきた。

 永貴は寝ようと閉じた目を見開き体を跳ね起こした。そのまま扉を蹴り開けて隣の風呂場に直行する、そして風呂場の扉を開けて飛び込まんほどの勢いで中に入ると――


「いったたたた」


「なにしてんのよエト~」


「お、重いです、助けてくださいー」


 一番下にイリヤ、真ん中にエト、一番上に恵理那がいる感じの三人重なり合うような状態で全員倒れていた。


「はぁ……なにやってんだお前ら」


「あ、ご主人! すいません騒がしかったですか!?」


「いや、とりあえず訳はあとで聞くからどいてやったらどうだ」


 一番下にいるイリヤがそろそろやばい。永貴は恵理那の体を持ち上げてエトを脱衣所に出すと、脱衣かごの中に入っていたエトの拘束具をエトに着けてとりあえず何があったかだけを聞いた。

 どうやら落とした石鹸をイリヤが踏み倒れ、その足に引っかかったエトが倒れるときに恵理那の腕を引っ張ったと、まあなんかあるあるな感じだったらしい。


「まあ怪我とかしてなかったからよかったけどよ、もうちょっと気を付けてくれ」


「すいません」


 顔を下げて申し訳なさそうに謝るエトの後ろで、イリヤと恵理那も小さく頭を下げていた。

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