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奴隷商人の存在理由《レーゾンデートル》  作者: 数多ノつるぎ
奴隷と初めての仕事
8/11

凍えた瞳

 永貴は運転に集中しているように前を見ている永貴は、後ろの二人に横で寝ているエトの過去、自分と出会った理由を話した。


 自分が奴隷商人を始めてから四年経っていること、エトが昔奴隷として雇われていた屋敷で127人全員を惨殺したこと、死刑のはずのエトを国が一般に隠蔽していること、そして永貴へと押し付けるように売ったこと、最後には自分達がどういう関係で二年間をさらっと話した。

 隠すことは隠し、話せることだけを話すとイリヤと恵理那の二人はかなり驚いた顔をした。


「とりあえずこんな感じだよ、俺たちの関係はな」


「そんな……127人も、こんな娘がそんなに殺してるなんて……!?」


 イリヤは目を丸くし、目の前で小さな寝息をたてるエトを見ていた。

 確かに少しだけ見たというだけであっても、エトのような天真爛漫を絵に描いたような女の子が127人の惨殺死体を作り出すような人には見えない。

 奴隷に与えられる罪は多くあるが、中でも裁判をせず死刑確定を宣告されるはずの『主人殺し』を行っているのに今エトは生きて外を歩いている。


「そんな娘をよく一緒に入れますね」


 恵理那はさっきの話を聞いてすぐに驚いた顔をしてはいたが、すぐに冷静な顔になった。


「一応拘束具もついているし、あとこいつは殺人鬼でもないし見てる限りは俺を殺すようなことはないみたいだしな」


「そうなんですか、私だったらそれを聞くとちょっと」


「私も無理です、なにされるかわかったものじゃないですからね」


 永貴としてはエトのことを否定されるのはいい気がしないが、エトのことを見ずただ127人の人間を殺した殺人鬼の奴隷。それだけ聞いたら一緒にいるだなんて誰もが嫌になることも知っている。

 永貴も初めてエトに会った時、エトの過去のことを国の使いから聞いてそんな奴隷と二十四時間を一緒に過ごすなど考えもしなかった。

 定期的なメディカルチェックのために一ヶ月は倉庫に入れず隣、そうでなくとも目に入る位置には置いておくようにと言われた時などこれから拷問を受けるかもしれないというほどの気持ちになったものだ。


「まあな、おっとちょうどパーキングエリアがあるな、少し休憩していくか」


 永貴はハンドルを切り高速道路の途中にあるパーキングエリアへと入っていった。

 今のところ一時間と半分ほど運転しているため、少し落ち着く程度に休憩をとることにし、飲み物を自販機買って車の中に戻ってきた。


「おっと、エト起きろ」


 ずっと寝ていたエトの頭を叩いたり頬を引っ張ったりして起こす。時計を見るとメディカルチェックの時間だ、一応起こしておかないと途中で起きた時がうるさいから咲に起こしておく。


「ふぇ? あれ、ご主人……ここどこ? って私寝ちゃってたんですか!?」


「ああ寝てた、俺がしっかり運転しているのに気持ちよさそうに寝てた」


「すいませんご主人っ! 本っ当にすいませんでした、いつもお世話してもらってるのにこんな時にまで気を抜いてしまうなんて――」


 座っているのに地面に頭をたたきつけんばかりにエトは頭を下げる。本当に、元殺人鬼には見えないな。とイリヤと恵理那は思った。

 そして同時に、なんで殺したのか? という疑問も浮かんだ。だがその疑問をエトにぶつける前に衝撃的な光景が目の前に展開される。


「んんっ……!」


「よし腕を上げろ、車の中だし動きにくいからな――」


 永貴はただメディカルチェックをしているだけだが、そんなことを知りもしない二人は永貴はただ女の子の体を舐めるように触る変態男にしか見えない。


「な、なにをしているんですかっ!?」


 つい声を荒げてしまったイリヤはすぐに黙ってすいませんと首だけを動かして謝った。主人、もとい買われた商人の行動に口出しをするなど、奴隷として言語道断だ。一度でもそれとして家に買われたものなら誰でも知っていることだが、どうもイリヤは反射的に口に出してしまうタイプらしい。あまり奴隷には向かないタイプだ。


「ないって、ああこれはエトの体についてる拘束具のメディカルチェックだ。ほらこれの」


 そう言って永貴はエトのパーカーの腹の部分を胸の少し下のほうまで上げた。

 そこには紫く見えるような黒光りのする金属っぽく、それでいてゴムのようにも見える何かがエトの腹の上を交差するように二本巻き付いているのが見えた。


「よし終わり、とりあえず俺はゴミ捨ててくるから待っててくれ」


 さっき自販機に行ったとき捨てればよかった、と過去の自分に愚痴を言いながら永貴が車の中にあるゴミ袋を持って出ていった。

 さっきはエトは寝ていたが、今は起きているしさっきの反省からして今から寝るなんてことはない。

 そして中にいるのは奴隷三人、売られる奴隷が二人、特別扱いの元殺人鬼が一人。

 つまり三人の車内はかなり気まずい感じになっている。その空気を打ち破ったのは恵理那の一言だった。


「エト、だっけ? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 怖いもの知らずというか、エトには少し上から行くようなトーンでの話し方だ。


「なんですか?」


 エトはそんなことは気にしていないが、イリヤはどうやらエトのことが少し怖いようで振り向いた瞬間少し下がった。


「本当に127人も殺したの?」


 直球ど真ん中のストレートを射抜く質問だった。

 一度捕まりもう一度世に出た殺人鬼に「本当に殺したのか?」などと聞く人間は普通いない。掘り返されたくない日のことを思い出させるような奴はよっぽどの物事に無頓着か、人のことなど何も考えない好奇心で行動するような奴だ。

 だがそう考えるにしては、恵理那はまっすぐな目でエトを見ている。

 横にいるイリヤは怯えているが、エトはその質問に迷うことなく答えた。


「はい、本当です。私は二年前に127人なんてかずは憶えていないですが、買われた家の中にいた人を全員殺しました」


 声のトーンは低い、さっきまでの楽し気な女の子だったのに、今は視線で物を凍らせてしまえるほどに冷たく、凍えた瞳をしている。

 それも、とても寂しそうな。

 向かう恵理那はそのエトの目をまっすぐに見つめる、何かを探るように見続ける。何を考えているかは誰にもわからない。


「そう、ならこれ以上は聞かないわ、私の質問はこれだけよ」


 一気に気が抜けたように目を半開きにして座り直す。どうやら視線で探していたものは見つからなかったらしい。

 イリヤもほっと一安心したように胸に手を当てている。


「はぁ……すいませんエトさん、恵理那さんは悪気があるわけでは――」


「エトでいいですよ、私も奴隷ですし丁寧にならなくても、それに事実です。気にしてません」


 さっきの冷たい目はどこへ行ったのか、イリヤが話しかけるとエトの目はまた透き通った光のある目に戻った。


「は、はい」


「おーい、これ以上遅いと車中泊になるかもしれないから少し急ぐぞ。さすがに深夜に氷の道路みたいな場所は走りたくないからな」


 そう言って話を中断してきた永貴は車のエンジンをかけて振り向いていたエトの頭を前に戻した。

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