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奴隷商人の存在理由《レーゾンデートル》  作者: 数多ノつるぎ
奴隷と初めての仕事
6/11

謝罪とコミュニケーション

「その、なんだエト……」


 言おうとしている言葉かちょっと喉に引っ掛かって出てこない。言おう言おうと思っているのだか永貴はちょっと言いづらいところから上手く言葉すら出てこない。


「どうしたんですかご主人?」


 やっとのことで声を出した永貴にエトは声をかけ返した。

 永貴はあまり聞こえないような声の大きさだったから聞き返されるとは思えず少し困った顔をしている。

 が、聞き返されて数秒後、永貴は口を開いた。


「さっきはな、怒鳴ってすまなかった……」


「え? 気にしてませんよそんなこと! 私が悪かったんですよ、奴隷なのにちゃんと働かなくてご主人様を怒らせてしまって――」


「いや、俺もお前も思うところがあるのはわかってたんだ。でもどうにもな……」


 軽く頭を抱えるような体勢になった永貴はエトの視線を避けるように頭を下げている。それをリビングの真ん中で座りながら聞いていた。永貴が申し訳なさそうにしているのを見ると、さっきまでコートと靴を見て楽しげだった心も少し落ち込んでしまう。


「ご主人……」


 小さく呟いたエトは立ち上がり永貴の近くに立つとそっと永貴が抱え込んだ頭の上から自分の胸に優しく抱え込むように抱いた。


「元気を出してくださいご主人、確かに私はご主人の奴隷ではなく商品ですけど、いつか別れることがあるのはわかってますけど――それでも私はご主人のことを忘れませんしずっと大好きですから」


「ああ、そうだな……」


 抱えていた手をどけて永貴は肩の力を抜く。

 すると永貴の頭の上からなにか柔らかい感触が強く感じられた。言うまでもなく、エトの形のよくほどよくある胸の感触だ。

 相手が奴隷だとか人間だとか関係なくかわいい女の子に抱きしめられているという感覚は男としては感じてしまうところがある。


「なあエト、そろそろ離れてくれないか? ずっとこのままだとちょっと」


 どうにか今感じている興奮を抑え込んで我慢する。

 さすがにここで理性を外してしまっては商人どころか男としてのプライドがダメな気がする。


「うわぁすいませんご主人! 私としたことが嫌でしたよね!? こんな奴隷の私がご主人にこんなことっうわぁ!」


 エトが顔を首まで赤くして急いで離れると後ろの机に気が付かず足を引っ掛けて派手に転んだ。


「バカ野郎、嫌だったら二年もお前と一緒にいねえよ……」


 焦っているエトには聞こえないような声量で永貴はエトの手を掴んで座らせた。


「ありがとう、ございます」


 紅潮した頬はすぐには収まらずエトの顔は赤いままだ。よっぽど無意識にさっきの行動を起こしたのだろう、視線すらしっかり定まっていない。

 それを見ている永貴は今なにかしら行動をさせたらこいつは怪我をするなと思い、座らせたまま永貴はパソコンを起動させた。

 資料のデータを開きさっき仕入れた商品のデータを確認する、もう倉庫には届いているはずだ。


「エト、俺はちょっと倉庫のほうに行ってくるから何かあったら電話で連絡をくれ」


「あ、はい……」


 まだ収まらない熱を覚めるように深呼吸をしたエトは自分の端末の場所に目をやり外へ出ていく永貴を見送った。



 永貴のハウスの横――というより奴隷商が使うハウスの隣にはもう一つ車庫のような倉庫が絶対にある。そこには実際には車庫があるが、その地下、そこには永貴が仕入れた商品が送られてくる。

 出してくれと泣き叫ぶようなものはいない。

 出れないことは知っているし自分はどんな存在かも知っている、だが全員が静まり返った空間というわけでもなく二人以上の奴隷が一つの部屋にいて閉じ込められているということや服装、少ない食料ということ以外は普通の生活をしている感じだ。

 肥え太らせず、痩せすぎず、常に健康ですぐにでも働けるようにするためであり、部屋は三人ほど入って少し狭い程度。ベッドなどがないのは買い手の奴隷の扱いが悪かった時に対応ができなくなるとダメになるので普通よりも少し良くない程度の暮らしをさせている。


「えっと、確かあの部屋にいるはず」


 中に入って右側の一番奥から三つ目の部屋。

 そこに先ほど仕入れた商品の二人が入っているはずだ。


「やあ、確かイリヤと恵理那(えりな)だったか。ちゃんといるみたいだな」


「私たちを買った人ですよね」


 話しかけてきたのは腰まである長い黒髪の少女、恵理那だ。澄んだ目に綺麗伸びた癖のない黒髪。一見すると奴隷には見えない。


「神原永貴だ。商人を初めて四年になる、部屋はどうだ?」


「思っていたよりも普通でした、あなたは奴隷を大事にする人なんですね」


 扉の格子を様りながら言うその言葉に、永貴は違うと首を横に振った。


「奴隷を大事にするんじゃなくて商品を大事にするんだ、売るまでは綺麗に保っておかないといけないからな」


「私は、次はどこに売られるのでしょうか?」


 奥で座っていたイリヤが立ち上がって聞いてくる。金髪碧眼という容姿にしてはかなり流暢な日本語だ。

 次はというところから察するに、一度買い手から商会に売られているようだが、珍しくもないので永貴は普通に聞き流した。


「北のほうだ、細かい場所は言えないが、まあ悪い人ではないと思うがな」


 その言葉を聞いて不安そうだったイリヤの面持ちが少し緩む。きっと前の主人の場所ではあまりいい生活はできていなかったのだろう。

 まあ奴隷なのに生活がいいと思うほうがおかしいが。

 恵理那はどうやら請け負った商人が商会に直接売ったようで主人を持つのは初めてのようだ。それにしては不安の影もなく堂々としているのが不思議だ。

 

「さて、簡単なコミュニケーションがとれたところで出発まであと大体一時間だな。まあすることはないと思うが出る準備しておけ、適当な諸注意は車の中でするから、ああ準備することあった! そこのタンスの中に入ってる服、着といてくれ」


「はい、わかりました」


 永貴が思っていたよりは、いい返事が返ってきた。

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