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奴隷商人の存在理由《レーゾンデートル》  作者: 数多ノつるぎ
奴隷と初めての仕事
4/11

より良い関係を

「――誰だ?」


 近くの曲がり角の奥、一人の杖をついたコートを着た男に声をかける。さっきからずっと、こっちを見ていたことに永貴は気づいていた。

 聞かれた男はその姿を現した。


「すまないね、一連のことは見させてもらったよ……。久しいが、覚えてくれているかな?」


 角から出てきた老人はスーツに合う黒い帽子を脱いで礼儀正しく一礼した。その男を永貴は知っていた。いかにも、自分が今から奴隷を仕入れに行く奴隷商会のをまとめる総会長、心眼と呼ばれる男、王道(おうどう)和夫(かずお)その人だったからだ。


「お、王道総会長!? な、なぜこんなところにいらっしゃるんですか!?」


 さすがの永貴も驚きを隠せず叫んでしまう。なぜなら目の前にいる老いた男がただの老いた男ではなく、取引を担当するものでも商会の案内役でもない。

 商会をとりまとめ、全ての権利を握り、常にその商会の名を世界に轟かせる王道奴隷商会のトップにして世界屈指の実力をもつ奴隷商人だからである。

 その経歴は凄まじく四年でここまで昇り詰めた永貴でさえ頭の上がらぬ存在だ。


「ははは、いやぁ半年ぶりにあの神原永貴が取引にくると聞いたんだ。我慢できずにオランダの支部からすっ飛んで帰ってきてしまったよ」


 はっはっはと笑い飛ばす王道だが、普通の商会のものならたかが一人の奴隷商人が半年ぶりに取引に来たからと言って総会長は顔を出さない。名前を覚えてもらっているならそれだけでも上出来なほどだ。


「そんな、総会長自らがお顔を出さなくても挨拶に行きましたのに、お手数を――」


「そんなことを言うな神原、私は今王道総会長ではなく王道和夫として君とお話しをしに来たんだ」


「いや、それでも俺のような若造が総会長と顔を合わせるなんて」


「頭が固いぞ神原、一人の人間として接した時点で身分など関係ないのだ、君がいつもエトにそうしているようにな」


『心眼の王道』――その異名通りに心の中までもがすべて王道にはお見通しだ。その目利きは人の心を読むだけではなくいい商品、悪い商品、それを外見だけでなく中身までも見通しすべてを決める。王道がいい商品だと一言いっただけででその商品が十倍の値段で売れたというのは有名な話だ。


「エトは、会うのは二年ぶりか……随分と明るくなったものだ、感慨深いねぇ、人の心を読むことができる私でも開けなかった心をたった二年でここまで開いたんだ。もっと自信を持つべきだ」


「そうですか……」


「さあ私の商会に用があるんだろう、車を用意してある、行こうじゃないか」


「え? でも今ここにはエトが――」


「神原、奴隷はどうやって国を渡り、どうやって商会にたどり着く?」


「え、えっと……貨物船にに乗って、トラックですか?」


「それと同じだよ、今からエトを運ぶと考えればいい」


 そう言って近くに停まっていたいかにも高級そうな外車の後部座席に王道は腰かけた。それから窓を開けて「早く乗りなさい」と言わんばかりに手を招いた。

 永貴はエトを連れて車に乗り込む、後部座席は広く、三人で座っても全く狭さを感じなかった。

 エトを端っこに、真ん中に永貴、その横に王道がいる。前の運転席には黒スーツの運転手、助手席にはボディーガードだろうか? 運転手と同じ黒スーツに身を包んだ男が座っていた。


「ご主人、私がいていいんですか?」


 エトが不安そうに、少し上目遣いで問いかけてくる。


「大丈夫、今から行くのは俺たちの目的地だしエトは乗っているんじゃなくて運ばれているんだ」


「そうですか」


 それを聞いて安心したのか、エトの頬を緩んだ。このような車の中で永貴の隣に座っている。それだけでもエトからしたら幸せなことだ、こうやって安心ができるのも永貴が横にいてこそ気を抜くことができる。

 それほどにエトの中では永貴が心の支えになっていた。

 隣の隣にいる王道は無言でエトのことを見ている。緊張が解けて頬の緩んだエトを見て、まるで孫を見るような暖かい目をしていた。


 ――それから十数分



「さあついた、歓迎するよ。ようこそ王道奴隷商会へ!」


 そう言いながら王道が車を出た瞬間従業員が列を成し、そこにまるでレッドカーペットが敷かれているかのような幻覚を覚えるほどに盛大な迎え入れをされていた。

 さすがは商会の総会長だ。と永貴は思った。


「神原永貴様ですね、今日は奴隷の仕入れを言うことで?」


「ああ、数人、予算とかの話は奥でよろしいか?」


「かしこまりました、お連れの方は?」


 車を出る際にエトには深く帽子を被らせた。顔を見せぬようだ、奴隷商会といっても公共の店と同じような扱いを受ける。付き添いに奴隷を付けてあるく輩は少ないが、奴隷に付き添いをさせる場合、顔を見せないこと、喋らせないこと、店への事前報告、裏口から入ることなどめんどくさい決まりがわんさかとある。破れば罰金、罰則の対象にもなる。


「付き添いの奴隷だ、話は通してあると思うが」


「少々お待ちください」


 そういって従業員は奥のほうへ歩いていき名簿から確認をとっている、しっかりと事前に伝えてあるのだから問題ないはずだ。

 数十秒経って従業員が戻ってくる。すると「こちらへどうぞ」と裏口まで案内された。




「では取引の話をしましょう、予算はいくらほどで?」


「今回遠方への売り出しでいいものが欲しくてな、三百万で二人分を考えている」


「かしこまりました、予算にあったリストをご提示します。Na.34~51が予算の範囲内でございます」

 

 そう言って従業員が持っていたリストのページを何枚かめくって机の上に置く。世界に名を轟かせる商会だ。中々いいものを揃えている。その中から最良のものを予算の範囲内で探し出し、その奴隷を最良の金額で仕入れることが大事だ。

 リストとにらめっこを初めて数秒、永貴は四人の奴隷に目を付けた。


「Na.32、44、48、50の実物は見れるだろうか?」


「少々お待ちくださいませ、今運んできます」


 待つこと数分、運ばれてきたのは四人の奴隷たち。短髪の女、腰まで伸びた髪を持つ少女、金髪碧眼の少女、日本人よりの顔をした色の薄いハーフの女性。

 この四人の中から二人を選別する。


「お気に召す商品はございますでしょうか?」


「今回の取引相手は偏食的でな、良いものの基準がわかりづらいんだ、どうも色が薄いほうが好きなのはわかっているのだが、お気に召すものを選ぶとなると48と50なのだが……」


 買い手の心理を読むことが大事なのは商人の間では言うまでもない。だが買い手の気に入るものだけではなく、買い手のために上面でも誠意を見せるというのはもっと大事なことである。

 買い手が細かい要求をしなかった場合決めるのは商人の直感と予測がほとんど。あった時に引き連れている奴隷を見て判断することもある。

 今回の買い手は周りには色の薄い北欧の娘ばかりを買っていた。

 つまり偏食的な買い手が二人買うのならば仕入れるべきは好み二人ではなく、好みに近いが似て非なるものを提供する。こうすることで次の取引がもっと良好に進むのだ。

 商人が自分のことを考えて最良の商品を提供してくれている。そうもわせることができれば勝ち、そこまで行けなければ負け、というシビアな世界なのである。


「44と48だ、この二人を買い取ろう」


「かしこまりました、それでは値段なのですが二人で二百八十万でございます」


 金額が予算を下回る。この時点でほとんどの確率では黒字あ確定するが、万が一のことを考えてもう少し値段を下げるのが永貴のやり方である。


「予算を下回ったのだが、どうだ? 俺は王道商会とのより良い関係を希望するのだが」


「心得ております、では二百六十万、この金額でどうでしょうか?」


「ふむ……ではこれで契約は成立といこう、配送を頼めるか?」


「はい、どこへ配送いたしましょうか?」


「ハウスの隣にある倉庫へ、位置は――」


「知っておりますとも、しっかりと配送いたしましょう」


 半年前に取引した相手に住所を聞かずともさらっと知っていると言えるところが、この商会のすごいところとでもいうのだろうか。

 普通は半年も前の取引相手のデータなどとうに無くなっていてもおかしくはない。


「では、我々はこれで」


 仕入れの話を満足に終わらせることができた永貴は、緊張を解いて商会の裏口へ向かった。

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