02.
薄れた光の中から、一つの人影が立ち上がる。
「今です!」
「おらぁああっ!!」
「【豪爆炎】ッ!!」
聖女の掛け声と同時に、騎士と魔術士はソレに向かって己の持つ最大級の攻撃を仕掛けた。
――が、
魔術士の生み出した灼熱の炎はかき消え、騎士の剣は全くソレには届かない。
「えっ…?」
「そんな…っ」
「うそ、だろ…」
その光景に、三人は真っ青な顔で固まった。
「……クク」
ソレは全身が痺れるように響く声で、静かに低く嗤った。
「クク…ククク…全て…全て、見て…いたぞ?」
ギロリ、と金の瞳が鋭く凶悪な光を宿し、辺りを見渡した。
やがてその眼差しは聖女達を視界に捉え、ひたりと睨み据える。
「貴様等…そう、貴様等だ。貴様等が…」
じくじくと疼く胸に手を当てる。
張り裂けんばかりの悲鳴を上げ、何故と泣き叫ぶ心に、瞳に宿る鋭さを一時緩めて、魔王はそっと語りかけた。
「しばし眠れ、勇者よ」
今までにない穏やかな声で混乱する勇者の意識を無理矢理抑え込み、魔王はまた鋭利な視線を向けた。
「ッ…らぁああっ!!」
「先ずは…貴様か」
素早く斬りかかってきた騎士の攻撃を苦もなくかわし、素手で心臓を突き刺した。
「ぐ…が……はぁ…ァ…ッ……」
「…まず、一人」
背中にいくつかの衝撃を受ける。
その攻撃は大したものではないが、そちらに視線を移す。
「そいつに何すんのよ!離しなさいってのッ!!」
魔術士がとめどなく魔術を放っていた。
腕に刺さったままの騎士を闇に喰わせ、無造作に地面へ投げ捨てて、そちらへと足を向ける。
「次は、貴様か」
「ひっ…!ほ、【炎】!【氷】ッ!ぁ【あら…ひぃっ!!」
近付く途中に拾った剣で首を撥ねた。
撥ねた傷口から闇を侵食させておく。
「…これで、二人」
残りの人間を探す…見つけた。
そいつは、実に醜い顔を晒していた。
「ぇ…何で…何でよッ!こうすれば魔王を完全に倒せるはずでしょぉッ!?なのに、なのになんでこうなるのよッ!!なんでなんでなんで……」
幼子が癇癪を起こしたように怒りに染まりきった真っ赤な醜い顔で喧しく喚く、人間の中では聖女と呼ばれていたらしいモノ。
これ以上見たくも聞いていたくもないほど煩わしいモノを一瞬で闇に屠り、残る一人を…
「魔王、様…ですか?」
背後の空間から静かな声がした。
そこには、人間からにすれば見た目は二十代前半ほどの青年がいた。
「イヴァか。どうした」
「どうした、はこちらの質問です。一体どうしたのですかそのお姿は」
長年の付き合いのせいでわかる、礼儀正しく淡々とした声音の中に滲む確かな苛立ちに、背筋が自然と伸びた。
「さて、魔王様?お早く城へご帰還下さい。そして、その姿についての説明を」
「む…まぁ、よいか。わかった、戻る」
あと一人いたような気がしたが、どうやら気のせいだったようだ。
これからのことも含め、とりあえずは我が城へと帰るとしよう。