01.
長い長い旅を終え、これでようやく帰れるのだと思いました。
そんな俺は現在、フルボッコにあっています。
俺はこの世界での7年前にこの世界とは違う場所から召喚されました。
召喚した方々は口々に俺の事を勇者と呼び、状況が解らず慌てふためいていた俺は、いつの間にやら周りを固められ、不老にされ、召喚された時限に帰すことを報酬に、勇者として魔王を倒す旅に出されました。
そして、紆余曲折がありつつもようやく魔王の住み処に辿り着き、最終決戦に勝利しました。
まあ、さすがにここまでくると少々は思い入れもあります。
俺は感動を分かち合おうと、仲間達を振り返りました。
「【麻痺】!」
「え?」
え?とは誰の言葉だったのでしょうか。
おそらく俺以外にも誰かが言ったような気がします。
「【硬直】ッ!…今です!」
「おう」
「オーケー!」
今の声は、俺を召喚した国の聖女と騎士と魔術士、初期メンバーだ。
三人は武器を構えている――俺に向けて。
さっぱり訳の解らぬ事態に、俺は呆然と問い掛けた。
「なん…で…?」
返事は、斬撃だった。
俺を斬り裂いた騎士は唇を歪めた。
「悪いな、勇者。実は魔王を倒すのが最終目的じゃねぇんだ。それだけじゃ、災禍は止まらねぇんだよ」
「【炎】!無駄口叩かずさっさと殺りなよ。この後もあるんだからさ」
そんなやり取りの後も、俺は動きを縛られたまま、仲間だと思っていた者達に、刻まれ、焼かれ、殴られ、刺され……もはや痛いのかどうかも分からなくなった頃、ふと、唯一俺を攻撃せず固まっている仲間と目が合った。
彼は息を飲み、俺と同じような混乱しきった様子で武器を握り締め、決意したように、俺を攻撃する奴らを睨んだ。
「…ダメ…だ…」
振り絞った声はあまり大きくはなかったが、彼には届いたようで、彼は何処という目で俺を見つめる。
俺は残りカスの気力を総動員して、安心させるように口元にどうにか笑みを浮かべた。
「…俺は…大丈夫…だか…ら……お前…は…逃げ…ろ……」
言いながら俺は、無詠唱で時限式の転移の術を組み立てた。
よし、誰も気付いていない。
俺は内心でほくそ笑みながら、もう二つ術を組み立て、気付かれないように彼に全て掛けた。
「ごめ…ん…な……」
全て、押し付けて。
彼が悲鳴を上げた瞬間――俺の意識は消えた。
「…ふぅ、やっと死んだな」
「ええ。さすがに魔王を倒すだけあって、勇者ってのはしぶといわね」
やれやれ、と言うように息をついた二人に、聖女は固い声を向ける。
「お二人とも、まだ終わりではありません」
「ああ、分かってる」
「はーい。気を引き締めまーす。これでやっと終わりだもんね!」
騎士は勇者の体を引きずって魔王の体の上に放り捨てた。
魔術士は聖女を守るように隣で杖を構え、聖女は騎士が離れたのを確認してから、術式を組み立て、呪文を唱え始めた。
「〔この世界の幾多の災厄を救いし彼の者と、この世界の数多なる大罪を犯した此の者を融合し、新たなる存在を構築せよ…発動〕ッ!!」
ぼんやりとした光の中で、勇者と魔王の肉体は崩れ、解けていく。
「…いよいよ、か」
「…ええ」
普段なら重い状況ほど軽口を言い合って場を解す騎士も、それに達者な口調で返す魔術士も、今ばかりは言葉少なに頷き合う。
――こうして、勇者と魔王が混ざり合い…
――やがて、
――《彼》が現れる。