《ホワイトカメリア》
鍛冶屋というのは、武器や防具、服飾品などの装備品を強化、もしくは作成してくれる店だ。
商人プレイヤーや、情報屋プレイヤーと同じく、鍛冶スキル(正確には武器強化スキルの一種)を上げて、鍛冶師としてオルを稼いでいる。
もちろんNPCが経営している鍛冶屋もあるが、正直な話、NPCより鍛冶屋プレイヤーのほうが腕はいいの で、それこそプレイし始めの初心者たちならともかく中堅以上のプレイヤーになると、プレイヤーが経営する鍛冶屋を利用するようになる。
ツキノが訪れたのは、そんなプレイヤー経営の鍛冶屋だった。
「こんにちは、おじさん」
「ああ、いらっしゃい。……ええと、ツキノさんだったかな?」
「はい」
カウンターに座っていた中年の、おそらく店主と思われる男性が、ツキノを見てそう声をかけた。
その店主は、ツキノの後ろにいる俺とワタルを見て目を丸くしていた。
「彼らは?」
「あ、こっちはシレンさん。それで、こっちはワタルさんです」
「どうも」
「どもー」
ツキノに紹介されて、俺は頭を軽く下げた。ワタルは手をあげただけだったが。
初対面の人に……と思わないでもないが、店主は気にしていないようなので何も言わないことにする。
「ツキノ、ここにはよく来るのか?」
「そこまで回数は多くないですけどね。ここ、「光聖騎士団」御用達なんです」
「なるほど……」
「光聖騎士団」御用達、となるとおそらくウェリアスの武器もそうなのだろう。
彼の強さはよく知っているし、そんな彼の武器もここで、となると、店主の腕は確かのようだ。
「初めまして、私はこのハシバ鍛冶店の店主、ハシバだ。よろしく」
「こちらこそ」
とりあえずの挨拶を済ませ、ツキノはアイテム欄を開きながら、カウンターに近づいた。
「武器の作成、お願いします」
「はいはい」
アイテム欄から取り出した素材を、ツキノはハシバさんに渡した。
これらを溶かし、混ぜ、鍛えることで、新しい武器ができる。
まあ鍛えるといっても、実際にそうするわけじゃないけど。
「じゃあ、ちょっと待っててくれ」
素材を渡されたハシバさんは、それらの素材を鍛冶用の炉に入れて、溶かした。
そして溶け出た金属を、ハンマーを持って鍛える。
ここで、腕の悪い鍛冶屋だと、作成が上手くいかずに、素材が無駄になってしまうのだが、彼の腕に不安なところは無い。
カーン、カーンと強くハンマーと金属を打ちつける音がする。何度も何度も。
「……毎度思うけど、すごいな」
ぽつり、とそう呟く。
武器が作られていく、この光景は、何度見ても純粋にすごいと思う。
そうして、何度も何度も、もう数えるのが嫌になるくらいに音がして、そして唐突に完成のSEが響いた。
「出来たよ」
腰を上げたハシバさんが、出来た剣をツキノに手渡した。
受け取ったツキノの手元を覗きこむと、真っ白い剣があった。
「名前は……《ホワイトカメリア》。白い椿、ですね」
「いい剣だな」
見ただけでわかる。
この剣は強い。
「ありがとうございます、おじさん。大事に使いますね」
ツキノは大事そうに剣を抱きしめながらそう言って、作成分のオルを支払った。
オルを受け取ったハシバさんは、にこにこ笑いながら言う。
「どういたしまして。……君たちはいいのかい?」
ハシバさんが、俺とワタルを見て言った。
「あー、俺はいいです。素材無いし」
「同じく、ありませんから。それに今の武器が気に入ってますから、しばらくは使います」
右側の腰のホルスターを軽く叩く。
もっとも、街中では武器は持ち歩かないのがマナーなので、今はアイテムストレージに仕舞っているから、ホルスターには何もない状態なんだけど。
「そうか。じゃあ、また用事ができたらここにおいで」
「そうさせてもらいます。……じゃあ、また」
「うん。また」
手を軽く振って、俺は店を出た。それに連なって、ツキノとワタルも出る。
「本当にありがとうござました」
「いえいえ。団長さんによろしく」
「はい。ではまた」
「うん。また」
最後にツキノがそう言って手を振って、店の扉を閉めた。
店から出たワタルは、ツキノのほうを振り返って、口を開いた。
「さて、ツキノちゃん。どうする?」
「何がですか?」
「その剣の試し。やるなら付き合うよ?」
ワタルはそう言う。
まあ、新しい装備になったら、試したくなるよな。
特に、このLWOはVRMMORPGだ。
普通のRPGと違って、自分で使う。
今まで使っていた武器とは勝手が違うだろうし、なるべく使い方はわかっておいたほうがいい。
そう考えると、ワタルの提案は理に適っている。
「俺もそうしたほうがいいと思うぞ、ツキノ」
「……そうですね、使い勝手を知っておきたいですし、付き合っていただけるなら幸いです」
そう言うと、ツキノはちら、とこちらを見た。
「シレンさんも、付き合ってくれますか?」
「構わないぞ。ツキノがいいなら、だけど」
「……じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「ああ」
控えめにそう言ったのを聞いて、俺は笑って頷いた。
そうしたら、ツキノは嬉しそうに笑った。
「……なんか、俺お邪魔?」
「……何の話だよ?」
ワタルの言葉の意味がわからず、思わずそう訊くと、ワタルはぷらぷらと手を振っただけだった。
どうやら話す気はないらしい。
「で、どこ行くよ。ついでに何かクエスト受けるか?」
「別にいいだろ、受けなくて。手頃なのあるかどうかわからないし」
言いながら、街の外へと通じる門に足を向ける。
わざわざワープしなくても、近場で試せる場所があるんだし、そこで試せばいいだろう。
「ツキノも、街のすぐ外でいいよな?」
「あ、はい。いいですよ」
目的地を決めて、俺とツキノ、ワタルは、門へと向かって歩いていく。