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《Last World Online》  作者: 黒藤紫音
2章:仲間・ワタル
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ワタル

 恥ずかしがるツキノを見て、くすくすと笑いながら、俺はウインドウを開いて、アイテムの分配をする。

 ツキノも、顔の赤さは抜け切っていないけど、分配を済ませていった。


「俺のほうが多くていいのか?」

「頼んだのは私ですから。これが妥当だと思います」


 ツキノはそう言う。

 俺としては少々心苦しいというか、居たたまれないような気もするが、彼女が納得しているのなら深くは言うまい。

 そう結論付けて、コーヒーを飲む。


「お、シレン!」


 そうしていると、見知った声が聞こえてきた。


「ん、……ワタルか」


 そちらを見ると、軽薄そうな男がいた。

 奴の名前はワタル。

 俺と同じく、ギルドに入らずソロでプレイしているプレイヤーで、俺のリアルでの友人でもある。


「何してるんだ?」

「見ての通り、コーヒー飲んでる」

「いやそれは見ればわかるよ……って、この子は?」


 ツキノに気付いて、ワタルは俺にそう訊いた。

 俺が口を開くより先に、ツキノが口を開いていた。


「初めまして、ツキノと言います。貴方は、シレンさんのご友人ですか?」

「ああ。俺はワタル。剣士(フェンサー)をやってる」

「そうなんですか? 私も剣士(フェンサー)なんです」

「そうなのか?」


 そう言うと、ワタルはツキノから、俺のほうへ顔を寄せてきた。

 ツキノには聞こえないような声で、ワタルは言った。


「すごい可愛い子じゃんか。どうやってナンパした?」

「おい蜂の巣にするぞ。ナンパしたんじゃない。向こうから声かけてきたんだ」

「逆ナン!?」

「そのうるさい口開け、中に銃口突っ込んで《フル・バースト》撃ってやる」

「いや街中じゃ攻撃できないだろ」


 まあそれは確かに。

 ワタルの言うとおり、街中で攻撃やPK、問題行為はご法度だ。

 攻撃やPKはシステム設定上できなくなっていて、問題行為をすれば、すぐさま運営側が用意した憲兵キャラが飛んできて、逮捕される。

 そこからの処置はケースバイケースだが、あまりにもひどいとプレイヤーのアカウントが抹消される。


「というか、この子「光聖騎士団」だろ。そんな子がなんで逆ナン?」

「逆ナンから離れろ。……ちょっとクエストに付き合っただけだよ」

「……お前が?」


 俺がそう言うと、ワタルにはそれはそれは怪訝な目をされた。

 ……まあ、確かに俺は基本ソロでやってるし、パーティを組むにしても、本当に見知った仲間とだけだから、そんな目をされても仕方ないとは思う。

 とはいえ、何かしら主義があってソロやってるわけじゃないし、今まで機会がなかっただけで、別に仲間以外とパーティを組むことだって抵抗があるわけじゃない。

 まあ、彼女が「光聖騎士団」の一員だったことも、組むことに決めた理由の一つでもあるけど。


「……あの、シレンさん」

「うん?」


 声をひそめてワタルと話していると、ツキノは遠慮がちに声をかけてきた。

 ……この謙虚さを、あいつにも見習ってほしい……。

 と、俺はよくパーティを組む、見知った仲間の一人を思い浮かべて思った。

 いや、あいつとツキノを会わせると危険か?


「どうした?」

「あの、素材も手に入れましたし……私、鍛冶屋に行こうかなって思ってるんです」

「あ、あー……」


 言われて思い出した。

 そういえば、彼女はそもそも武器の新調のためにクエストを受けたのだ。


「あー……」


 分配も終わっているし、俺は今は鍛冶屋に用はない。

 正直に言ってしまえば、単純な威力やパラメ―タだけなら、今の銃より上の武器は、武器屋に行けば手に入る。

 が、買い替えないのは、今の銃が気に入ってるというのもあるし、どうせなら素材を手に入れて鍛冶屋に持っていったほうが、強いしオルが安くて済む。

 そういうわけで、現在鍛冶屋に行く用事もないので、俺はここでツキノとは別れるつもりだったのだが。


「じゃあ、一緒に行っていい?」


 俺が何か言う前に、バカが俺の肩に手をかけながら言った。


「私は全然構いませんけど…お二人も、鍛冶屋に用事が?」

「まあ、チェックしておこうかな、って思ってさ。あとツキノちゃんともっと話したいし」

「……じゃあ、お前とツキノで行けばいいだろ」


 肩にかけられたワタルの手を外しながら、言う。


「俺は今用事ないしな」

「いいじゃん。行こうぜ?」

「なんでだよ……」

「暇だろ?」


 そりゃ確かに暇だが。

 レベル上げする必要もないし、クエストも受注してない。

 ギルドにも入ってないから、ギルド関係の話が入ってくるわけもなし…あれ、俺って実は寂しい奴?

知りたくもなかった事実に俺が若干へこんでいると、そんな俺を見かねたのか、ツキノが声をかけてくれた。


「あの、シレンさんも一緒に行きませんか?」

「……いいのか?」

「はい。シレンさんとはもっと色々お話したいですし、一緒にいたいです」


 にこにこ笑いながらそんなことを言ってくださった。

 今、俺の顔は若干赤くなっていると思う。

 そんなことを言われたら、頷くしか選択肢は残っていない。


「……まあ、ツキノがいいなら、一緒に行くよ」

「はい!」


 俺がそう言うと、ツキノは本当に嬉しそうな笑顔でそう言った。

 そんな眩しい笑顔をまっすぐに見られなくて、思わず視線を逸らすと、ワタルがにやにや笑っているのが見えた。

 今度フィールドに出たら誤射と見せかけて脳天撃ってやる。


「さて、話はまとまったな。行こうかツキノちゃん」

「はい。シレンさんも」

「……ああ、わかった……」


 ツキノが立ち上がって、嬉しそうに駆けて行くのを、歩いて後を追いかけながら見ていると、ワタルが声をひそめて話しかけてきた。


「いい子だなー、ツキノちゃん。可愛いわ」

「……まあ、同感だけどな」

「手、出していい?」

「ふざけんな」


 すぱん、とワタルの後頭部を一発どつく。


「いって。なんだよ、お前のじゃないだろ」

「それはそうだが、だからってお前に手出させるか」


 などと俺とワタルが言い合っていると、先を行っていたツキノが、立ち止まってこちらに手を振っていた。


「シレンさん、ワタルさん。速くー!」

「……行きますか、お姫様のところへ」

「……そうだな」


 ワタルがにやにや笑いながらそう言っているのを聞きながら、俺ははあ、と息を吐いて、足を速めた。




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