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《Last World Online》  作者: 黒藤紫音
1章:出会い
6/45

クエスト

アクション描写ありです。

下手ですが、その辺はご容赦を…

 ワープした俺とツキノが見たのは、城壁だった。

 城フィールドだ。


「じゃあ、行きましょうか。私が前衛で」

「俺が後衛だな。了解」


 男の俺が後衛で、女の子のツキノが前衛だというのも少々情けない話ではあるが、クラス的にそのほうが合っているので、特に異論もなく決定する。

 と、フィールドを前進していると、モンスターが現れた。

 俺が草原フィールドで倒した獣型モンスターとは違い、人形型とも呼ぶべきモンスターだ。

 確か、あれは「マッド・ドール」だ。

 中堅ランクのプレイヤーには、丁度良い相手だ。ほどほどに強く、経験値、ドロップアイテムも充分ある。


「……ふっ!」


 裂帛の気合と共に、ツキノが「マッド・ドール」に向かって、剣を抜き放ち、斬りかかる。

 武器は両刃直剣。いわゆるロングソードで、剣士(フェンサー)としてはスタンダードである。

 彼女は、接近して袈裟斬りをした。


「ヒヒッ!」


 「マッド・ドール」は肩に剣の一撃を受け、後退した。

 そして後退した一瞬の隙をついて、俺は銃のトリガーを引く。


「《クイック・ドロウ》」


 三発の弾丸が銃口から放たれ、「マッド・ドール」に全弾直撃する。

 直撃したうちの一発はクリティカルヒットした。HPゲージが半分以下になる。

 そして、ツキノは畳みかけるようにスキルを叫んだ。


「《ハイ・スラッシュ》!」


 《ハイ・スラッシュ》。

 剣スキルの中で、もっとも基本のスキル《スラッシュ》の発展系。

 ぶっちゃけた話、威力の高いただの斬撃なのだが、基本スキルの発展系だけあって、手堅くダメージを与えられる。

 事実、《ハイ・スラッシュ》が直撃した「マッド・ドール」は、大きく後退していた。

 しかし、奴はすぐに硬直から立ち直り、スキルを発動したせいで一瞬硬直していたツキノに攻撃を加えようとしていた。

 今からでは、防御は間に合わないかもしれない。

 このままでは、ツキノはダメージを受けることになるかもしれない。

 一人なら――――だが。


「俺を忘れるな」


 ドンドン、と弾丸を連射する。

 スキル無しの連射だが、攻撃をしようとしているあの人形をひるませるには充分だ。

 案の定、弾丸を受けた「マッド・ドール」は攻撃を中止した。

 そして、その頃には、ツキノの硬直も解けている。


「はあ!」


 胴を横薙ぎに斬る。

 『クリティカルヒット』の表示が現れ、ただでさえ減少していたHPゲージが減少し、0になる。

 パン、と破裂音が響き、「マッド・ドール」の姿は消えていた。

 代わりに、ウインドウが表示される。

 ツキノは表示されたウインドウを見た後、こちらを振りかえった。


「ふう。……あ、オルとかどうしましょう?」

「戦利品の分配は後でいいだろ」


 俺がそう言うと、彼女はこくんと頷いて、ウインドウを操作し、消した。


「じゃあ、先に進みましょうか」

「オッケー」


 戦闘状態も解け、俺とツキノは、城フィールドを進んでいった。



 LWOのプレイヤーには、五つのパラメータがある。

 まずATK。攻撃力を示すステータスパラメータだ。これが高いほど、攻撃の威力が高くなる。基本的に、武器を装備すると上昇する。

 次にDEF。防御力を示し、受けるダメージを減少させる。これは防具を装備すると上昇する。

 TEC。命中力。攻撃を的確にヒットさせるために重要なパラメータだ。これが低いと、どんなにATKが高くても、敵には当たらない。また、これが高いと、通常攻撃よりダメージの大きい『クリティカルヒット』が出やすくなる。

 AGI。スピード。移動スピードや、相手の攻撃を避ける時に重要だ。これが高いと、相手のTECにも寄るが、たいていの攻撃を避けられる。

 最後にLUCK。運。これが高いと、色々と良いことがある。AGIが低くてもまれに攻撃を避けれたり、はたまたレアアイテムが出やすくなったり。

 TECとAGIは、装飾品で上昇させることができる。

 これらをまとめて、ステータスと呼んでいる。

 もちろん、これらの他にもHPがある。

 このステータスは、基本的にレベルアップで上昇していく。

 装備する武器によって、上昇するパラメータにばらつきが出る。

 剣だと全体的にバランスよく上がり、斧はATK重視、槍はAGIがメインに上がり、拳はバランスよく上がる。銃はTECが上がりやすくなる。

 このステータスによって、戦い方が色々と変わってくるのである。

 そして、ツキノの戦い方は、剣士(フェンサー)の基本とも言える戦い方だった。

 教科書通りというわけではなく、剣士(フェンサー)の戦い方のキモを押さえた、堅実な戦い方だった。

 相手に攻撃を加え、隙を見てスキルを叩き込む。

 無理に攻めることなく戦っていた。

 後衛として見ていた俺からすると、何とも安心できる戦い方である。

 これがどこぞの脳筋なら、自分のダメージを気にせず、必殺の一撃を叩き込む戦法を取るだろう。

 パーティを組んでいる立場から言わせてもらうと、本当に危なっかしいのでやめていただきたい。

 閑話休題。

 とにかく、安定した戦い方を見せるツキノとのダンジョン踏破は、何も不安に思うことなく進めることができた。


「シレンさん?」

「ああ、今行く」


 少々考えていると、少し前を歩くツキノと距離が開いてしまっていた。

 早足になって、彼女との距離を詰める。


「でも本当、シレンさんと一緒だと、戦闘が安定するから助かります」

「むしろ逆だけどな。ツキノが安定した戦い方をしてくれるから、こっちも助かってる。というか、俺必要なかったんじゃないか?」

「そんなことないですよ。やっぱり、一緒に戦ってくれる人がいると、安心して戦えます」


 そう言うツキノは、ニコニコと笑っていた。

 つられて、俺もふっと笑みをこぼす。


「あ、でもちょっと気になることが」

「うん?」


 ツキノは、俺をビッ、と指差し、口を開いた。


「シレンさん、銃士(ガンナー)の割には、一発の威力高くないですか?」

「……あー」


 やっぱり気付くか。


「ひょっとして、高攻撃力補正の服飾品を装備してます?」

「いや、そういうわけじゃないよ」


 一瞬話すか迷ったが、別に隠さないといけないわけでもない。

 口を開こうとして、俺は目前に仰々しい飾りの扉が見えたことに気付いた。

 こちらを見ていたツキノも、一瞬遅れてそれに気付く。


「ここ……」

「クエストモンスターがいるんだな」


 クエストモンスターは、討伐系のクエストにだけ出現するモンスターである。

 当然、ダンジョンをうろついている一般モンスターより強い。

 大がかりな物になると、上級プレイヤーが十数人規模でかからないと討伐できないクエストモンスターもいる。

 まあ、今から戦うクエストモンスターは、そんな化け物ではないが。


「準備は?」

「オッケーです」


 クエストモンスターは、場合にもよるが、基本的にクエストエリアの最奥の部屋にいる。

 この扉は、その部屋と通路をくぎる境界線だ。

 俺はその扉に手をつき、ツキノを見る。


「じゃあ、行くぞ」

「はい!」


 ぐっと力を込めると、扉は簡単に開いた。

 そして、見えた部屋の中心には、大きなモンスターがいた。

 最初に出くわした、人形型モンスター「マッド・ドール」が、そのまま大きくなったようなモンスターだ。

 表示された名前は――――「ビッグ・マッド・ドール」。……そのまんますぎるだろ。


「……来ます!」

「ああ!」


 俺たちが部屋に飛び込むのと同時に、「ビッグ・マッド・ドール」は動き始めた。

 二手に別れた俺たちの、どちらを狙うのか。答えは次の瞬間にわかった。

 狙いは、……俺か!

 ツキノには目もくれず、奴はこっちに突っ込んできた。

 どうせなら前衛狙ってくれ。


「《クイック・ドロウ》!」


 向こうがそう来るならこちらも遠慮無しだ。

 弾丸を撃ち出す。四連射だ。

 図体がでかい分、弾は一発も外れずヒットする。

 だが、流石にクエストモンスター。「マッド・ドール」の時のように、あまりHPゲージは減ってくれない。


「シレンさん!」


 ツキノはそう叫び、剣を抜いて駆け出した。

 そのまま「ビッグ・マッド・ドール」に斬りかかろうとする。

 だが、それはまずい。


「待て、ツキノ!」


 俺はツキノを止めようと声を荒げるが、遅かった。

 「ビッグ・マッド・ドール」は、最初からわかっていたように、一瞬で身体を反転させた。

 背中を斬りつけるつもりだったツキノは、突然人形がこちらを向いたに動揺し、隙が生まれてしまった。

 奴はその隙を見逃してくれるほどのぬるくはなかった。

 人形の手痛い一撃が、ツキノにヒットする。


「っつぅ!」


 横からひっ叩かれたツキノは、吹っ飛ばされて、床を転がった。

 「ビッグ・マッド・ドール」は、そんなツキノに追撃をしかけようとするが、そうは問屋が卸さない。


「こっち向けコラ!」


 《ツイン・バレット》をぶち込む。

 通常の弾丸より強い一撃を受けた人形は、動きを止めて、こちらを見る。

 無機質な大きな瞳でじっと見られると、少々不気味である。


「まあ、そんなこと言ってる場合でもないけど、な!」


 銃を連射し、人形の注意をこちらに向ける。

 そうしているうちに、ツキノは立ち上がっていた。


「一旦距離を取れ!」

「はい!」


 俺の指示に素直に従い、ツキノは「ビッグ・マッド・ドール」から離れた。

 こちらに来るように手招きし、俺もツキノに向かって走る。

 合流した俺とツキノは、慎重に「ビッグ・マッド・ドール」の動きを警戒しながら、言葉を交わす。


「どう攻めますか?」

「基本戦法は、隙を見ての一撃。俺が連射してこまめにダメージを与えて注意を引くから、ツキノは隙を見つけてスキルをぶちこめ」

「はい」

「スキルをぶちこんだら、距離を取れ。その間も俺がサポートする」

「わかりました。でも……」

「うん?」


 言い淀んだツキノに、俺は疑問符を浮かべながら、先を促した。


「何だ?」

「それだと、シレンさんの負担が大きすぎませんか? 私が頼んだことなのに……」

「気にするな」


 ぽん、と空いた片手でツキノの頭を軽く叩いた。


「これが一番確実な戦法だ。まあちょっと時間はかかるかもしれないけどな」

「……そうですか?」

「そうだよ。どうしても気になるなら、早く終わらせて、コーヒーでも後で奢ってくれ」

「……わかりました」


 俺が安心させるように笑いかけながら言うと、ツキノは苦笑しながらそう頷いた。

 それに満足し、俺は「ビッグ・マッド・ドール」に向き直る。

 向こうさんも、そろそろ痺れを切らしてきたらしい。


「行くぞ!」

「はい!」


 そう言って、俺とツキノはまた二手に分かれた。


「《リロード》!」


 走りながら弾を補充し、俺は「ビッグ・マッド・ドール」に弾丸を撃ち込んだ。

 一度に八発しか撃てないこの銃は、威力、連射力ともに、銃の中では安定している。

 その銃から撃ち出される弾丸を連射しつつ、俺は部屋を駆け回った。

 人形を撹乱し、俺に注意を引くためだ。

 そうしているうちに、「ビッグ・マッド・ドール」はこちらに向かって突っ込んできた。

 俺は迎撃しつつ、ツキノに叫ぶ。


「今だ!」

「はい!」


 慎重に距離を取っていたツキノが、「ビッグ・マッド・ドール」に斬りかかる。

 《ハイ・スラッシュ》を叩き込んで、ツキノは「ビッグ・マッド・ドール」から距離を取る。

 「ビッグ・マッド・ドール」は、背中からのツキノの一撃をもろに食らい、動きが止まった。

 これは、俺にとってもチャンスだ。


「《ツイン・バレット》!」


 高威力のスキルをぶち込む。

 「ビッグ・マッド・ドール」は技の威力に、たたらを踏んだ。


「《リロード》、から《クイック・ドロウ》!」


 俺が自分でトリガーを引くのとは、段違いのスピードで弾丸を連射する。

 TECが高い俺が放つ弾丸は、またも全弾命中する。

 「ビッグ・マッド・ドール」は、それらを受けつつも、お構いなしにこちらに突っ込んできた。

 俺は距離を取りつつ、迎撃する。

 そして、生まれた隙を逃さず、ツキノが容赦なくスキルを叩き込んだ。

 「ビッグ・マッド・ドール」のHPゲージは、もう半分近くまで減少していた。



 俺たちは、俺が注意を引き、ツキノが生まれた隙を突く、という戦法を取り続けた。

 しかし、戦闘に限らず、何事も長引いてしまうと、焦りを生んでしまう物だ。

 俺が作った隙を、ツキノがスキルを叩き込んだ。

 その間に俺は《リロード》を済ませた。

 後二、三回これを繰り返せば、「ビッグ・マッド・ドール」は倒せるだろう。

 そう考えながら俺は距離を取ろうとして―――ツキノが未だ奴の懐にいることに気がついた。


「何やって……!」

「ふっ!」


 数度も繰り返しているうち、焦ったのか、はたまた自信がつき、欲張ったのか。

 ツキノはスキルを叩き込んだ後も、「ビッグ・マッド・ドール」に攻撃を続けていた。

 確かにHPも残り二割といったところだ、欲張ってしまう気持ちもわかるが、しかし。

 クエストモンスターは、そこまでぬるくない。

 攻撃を受けながらも、「ビッグ・マッド・ドール」は、反転し、ツキノに向かい合った。

 その頃には、既に腕を上げ終わっており、後は振り下ろすだけだった。

 それを見て、ツキノは自身の失敗を悟ったようだが、今からでは避けられない。

 これは彼女の失敗だ。自業自得。食らったとしてもHPは0になるわけではない。

 しかし、だからと言って、俺は放っておくことはできなかった。

 次の瞬間、俺は一つのスキルを選択する。

 俺は「ビッグ・マッド・ドール」に向かって駆け出し、そして銃口を奴に向けた。


「《フル・バースト》!」


 そう叫んで撃ち出された弾丸は、一直線に「ビッグ・マッド・ドール」に向かい、衝突。

 ドゴン、という轟音が響き、そして、「ビッグ・マッド・ドール」のHPゲージは、0になった。

 腕は既に降り下ろしており、ツキノに当たる寸前だった。

 次の瞬間、バンという破裂音が響き、「ビッグ・マッド・ドール」の姿は消えていた。

 そして、パラララ、とクエストクリアのSEが響いて、ウインドウが表示された。


「……はあ……」


 俺は大きく息を吐き、腰のホルスターに銃を収める。

 そうして、ツキノを見ると、彼女も剣を腰の鞘にしまい、こちらに向かって歩いてきた。


「あの、ありがとうございます。……それと、ごめんなさい」

「……まあ、欲張っちゃうのは俺も経験あるし、でかい顔で注意もできないし。気にしなくていいよ」

「そう、ですか?」

「そう。まあ、さっさと帰って、目当てのアイテム貰おうか」


 俺はそう言って、ウインドウを操作し、閉じた。


「アイテムやオルは、帰ってから分配しよう」

「はい」


 そうして、クエストをクリアした俺とツキノは、街へと凱旋した。



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