ミッション、クリア
シレンが病んでやがる……
シレンさんとヒュアデスさんの戦いは、シレンさん優勢で進んでいる。
もはや、戦いとすら呼べないほど一方的に。
このまま行けばシレンさんが勝つ。そうすれば、この一連の騒動は終わると思う。
けど。
「……ダメ…………」
じくじくと痛む身体を起こす。
止めなくてはいけない、この戦いを。
「……シレン、さん」
貴方は私を護ると約束してくれた。
なら今度は、私が貴方を護る番です。
○
痛覚制限とは、《DIVE》を用いたゲーム全般に施されている安全装置だ。
例えるなら、外科手術において患者に施す麻酔。
痛覚を制限することで、安全にゲームを楽しむための措置。
「《ツイン・バレット》」
「ぐあああ!」
考えてみるといい、化け物の攻撃を食らった時の痛みを。
一部の特殊例を除き、普通の人間がそれに耐えられるわけがない。
だから痛覚制限は必須なのだ。
調子に乗って解除した人間の末路が、これだ。
「うがあああ!」
「うるせえんだよボケが」
腹に銃弾を叩きこむ。ヒュアデスの身体がくの字に曲がった。
頭部がいいところに下がってきたので、全力で蹴り上げた。
「ぐあが!」
顎を蹴り上げられ、身体がくの字から弓なりに反る。
駄賃として銃弾をぶち込んでおく。
「ごぎゅっ!」
ずだん、と礼拝堂の床に転がるヒュアデス。
HPバーは、もう5分の1も残っていない。
「ざまあないな、クソ野郎」
「……あぎゃぐがが!!」
もはや意味のある言葉を発してはいない。
正気を失い――――元々ないようなものだろうが、ヒュアデスは獣のように喚きながら向かってくる。
俺は突撃をかわすと、後頭部に撃ち込んだ。
「ぎい!」
ごん、とその場に倒れ悶えている汚物は、もう戦えるような状態じゃなかった。
いい加減俺も飽きてきたので、とどめを刺すべく《リロード》する。
「じゃあな。消え失せろ」
そして、俺がトリガーを引こうと指をかけた時。
「……シレンさん!」
ツキノの声が聞こえるとともに、背中に柔らかな感触を感じた。
抱きつかれたのだと、一瞬遅れて理解した。
「……どうしたの、ツキノ。ああ、離れてて。すぐに終わるから」
「駄目です!」
駄目?
どうして?
「なんで?」
「このままじゃ……殺してしまいそうだからです」
「殺すって……仮想現実だよ?」
「それでも、です」
……何か問題あるのか?
「仮想現実だから殺していい、なんて言わないでください」
「いけない?」
「駄目です! このままじゃリアルでもショック死しかねませんよ!?」
あー、そういや痛覚制限ってショック死回避とかのための安全装置でもあるんだっけ?
けど。
「だから?」
「…………え?」
「殺しちゃいけない?」
こいつがやったことはそれだけのことだろう。
団員たちをパニックに陥れ、ツキノを嬲った。
殺すことの何がいけない?
「……っ」
ツキノの息を呑む声なき声が聞こえた。
自分でも奇妙な表現だと思うけど、そんな感じだった。
「まあ、とにかく。話は後で聞くから」
そう言って、今度こそトリガーに指をかけた。
「……駄目です!」
そんな俺を、ツキノの強い声が制止する。
「どうして?」
「……どうしてもです。上手く理由は話せませんけど、でも貴方はそれをしてはいけません……!」
ツキノにしては珍しく強情だな、と思って、いや元々そうかと思い直した。
この子は、素直で優しくて天然でドジで、控え目に見えるけど。
その実、すごく強い芯を持っている。
「…………」
ここはツキノの顔を立てて引くべきか。
視界の端ではゴミがいまだに蠢いているが、あそこまでダメージを食らってたらもう動けないだろうし。もちろん警戒は解かないけど。
片方の銃口は汚物に向けたまま、もう片方の銃をホルダーにしまって手を挙げる。降参だ。
「わかった。わかったよ。殺さない」
「……そう、ですか」
ツキノが安心したようにほっとしていた。
そして、どたどたと複数の足音が聞こえてくる。
「シレン、ツキノちゃん! 無事か!?」
「今さっきカノがシステム戻したわ! あとウェリアスたちもすぐ来るって連絡が来た!」
ワタルとスズが荒々しく礼拝堂の扉を開いて入ってきた。
その姿を見て、知らず張っていた肩の力を抜く。
ツキノも二人の姿を見て緊張の糸が切れたのか、その場にへたりこんでいた。
「ちょ、ツキノちゃん!?」
「シレン!」
ばたばたと騒がしく、ワタルとスズが俺たちに駆け寄って来た。
とりあえず、これでミッションはクリアか。
クリア報酬は何なのか知らないけど。
次章で一応、締めですね。




