ツキノ
中央広場。
ここのボードには、クエストが掲載されている。
クエストとは、運営側が用意した、一種のイベントである。
掲載されているクエストをクリアすると、報酬がもらえる。
それはアイテムだったり、オルだったり、はたまたスキルだったりする。
スキルは自分たちで習得していくしかないこのLWOで、それ以外では唯一スキルを手に入れられる方法だ。
クエスト内容は、特定のモンスターを倒せだの、アイテムを集めろだの、結構ユニークだ。
中には、「十人女性をナンパしろ!」なんてクエストもあった。俺はやらなかったが。
さて、何か面白そうなクエストは無いかな……とはいえ、だいたいのクエストはこなしてしまっているし、後は時期限定のクエストくらいか……。
と思いながら見ていると、見覚えのある白い服が見えた。
あれは…「光聖騎士団」の制服である。
「えーと……これ、一人じゃ難しそう……」
「もし」
「きゃあ!」
何やらうんうん悩んでいた少女に声をかけると、驚かれてしまった。
周りのプレイヤーの視線が刺さる。
「あー……驚かせたか。すまん」
「あ、いえ、私が勝手に驚いただけです……!?」
言いながらこちらを見た彼女は、今度は固まってしまった。
なんだ、俺の顔が怖かったのか?
しかし、今までそんなことを言われた経験はない。
……ひょっとして、何かついているのだろうか。
そっと手を頬にやってみる。
何もついている感覚はない。
「あ、貴方は……シレンさん、ですか?」
「……まあ、俺はシレンだけど」
LWOに、同名のプレイヤーがいることはない。
アカウントを作成するとき、名前が既にプレイしているプレイヤーと被ると、その名前は使用できないのだ。
とはいえ、略称でシレン、なんて呼ばれているプレイヤーがいないとも限らないが。
「……ウェリアス団長が、何度も勧誘してる……あの……シレンさんですか?」
「……まあ、たぶん」
どうやら俺は、あの「光聖騎士団」の中で悪い意味で有名らしい。
ここは逃げたほうがいいかもしれない、と頭の片隅で思った。
「あの……私、ツキノと言います」
「ツキノ?」
「はい」
ツキノ、と名乗った彼女は、俺の顔をじっと見ると、突然頭を下げた。
「お願いします、私とパーティを組んでください!」
「はあ!?」
いきなりどういう申し出だ。
突拍子がなさすぎる。
「いきなりなのはわかってます、でも、貴方の腕なら安心なんです!」
「いやいやいや!いきなりすぎてわけわかんないから!!」
それからしばらく、頭を下げた状態で「お願いします!」と叫んでいる白い少女と、それに困惑している蒼い少年が、中央広場の注目を集めていた。