それだけは許せない。
これR-15にしたほうがいいんでしょうか……
「っ!」
攻撃の衝撃を殺し切れず、私は床に転がった。
床に叩きつけられ、確かに感じる痛みに耐える。
「痛……」
しつこいようだけれど、ここは仮想空間。幾重にも安全装置のかけられているこの世界で、痛みを感じることなんて本来はありえない。
けれど実際、そんなありえないことが起きてしまっている。その上、ログアウトもできない。
今の状況がどれほどの異常事態なのか、嫌でもわかってしまう。
「大丈夫かい、ツキノ」
「あ、ぅ!」
私を心配するような言葉をかけながら、彼は私の手を踏みつけた。
ぐりぐりと踏みにじられ、激痛が走る。
「うぁ……」
「……もっと、声をあげなさい」
言いつつ足をあげ、今度は踵で指を踏みつけられた。
めぎ、という音がした。骨が砕けたかのような痛みがした。
「あっ!」
「もっともっと……」
足を離し、今度は私の脇腹を蹴りつけた。
痛みが骨を抜けて内臓に伝わる。
「げほ! うぇ……あ……」
蹴りの衝撃で、私の身体はうつ伏せから仰向けになる。
仰向けになった私を、ヒュアデスさんは見下ろしていた。
「本当に綺麗だね、君は……仮想現実にあっても、そんな風にボロ雑巾のようになっても、美しい」
「えほ……」
彼が何か喋っている気がしたけれど、それを聞き取れる余裕はなかった。
身体の色んなところを苛む痛みがひどくて。
「だと言うのに……」
「げっほ!」
鳩尾にヒュアデスさんの踵が入った。
思わず胃液が逆流してしまうような苦痛が走る。
いっそのこと、本当に逆流して吐き出せてしまったほうがマシなんじゃないかなんて、頭の隅で思う。
本来の身体でないことが、少々恨めしい。
「あんな男と仲良くして……いけない子だね」
あんな男という言葉を聞いて、連想したのはシレンさんだ。
青い銃士の彼。
いじわるなところもあるけれど、とても優しいヒト。
私を護ると、言ってくれたヒト。
「あんなくだらない男と……」
「……訂、正してください……」
余力を振り絞って、声を出す。
じくじくと痛む身体は動くことを拒んでいたけれど、瞳だけはヒュアデスさんを睨んだ。
「くだらなく、ない……シレンさんを、侮辱しないでください……!」
それだけは許せない。
シレンさんも、ワタルさんも、スズさんも、カノさんも、シズさんも。
あの人たちを侮辱することは許せない。
「…………」
ヒュアデスさんの冷たい視線が、私を射抜く。
身体は怯え出し、今すぐ逃げ出したくなる。
けれど、視線だけは退かない。
「……そうか」
言って、ヒュアデスさんは剣を持ち上げた。
切っ先を下にいる私に向ける。
「もっと、痛めつけてほしいんだね」
そう言って、彼が剣を振りおろそうとした。
私は襲いかかってくるだろう激痛に、覚悟を決める。
決して、瞳だけは逸らさずに。
「――――ツキノ!」
振り下ろされる刃を止めたのは。
ただ一つの呼び声だった。
誰よりも待ち望んでいたその声が、私を救ってくれた。
「シレン、さん!」
青い銃士の彼が、安堵した顔になった。
○
蹴破った扉から、ツキノの姿が見えてまず安堵した。
そして次の瞬間に、痛めつけられた彼女の姿とそれをした犯人であろう男の姿を視認して、両手の銃を乱射した。
「ツキノから離れろ、クソ野郎!」
大雑把な狙いしかつけなかった銃弾はほとんどヒットしなかったが、ツキノから引き離すことはできた。
連射しながら走り、奴を少しでも遠くに離す。
ヒュアデスが礼拝堂にある十字架近くまで離れ、俺がツキノの傍に来れたと同時に連射を一度やめる。
「チッ、銃士風情が調子に乗って」
「黙れ三下。すぐにその顔面に銃弾叩きこんでやるから待ってろ」
《リロード》し、空になりかけだった銃弾を補充する。
警戒は解かないまま、ツキノに声をかけた。
「……ツキノ」
「シレンさん……」
仰向けに転がされているツキノの姿に、頭が沸騰しそうになる。
唇を強く噛んで、衝動を抑える。
「助けに来てくれて、ありがとうございます」
「護るって約束しただろ?」
だから待ってて、と言葉をかけると俺は一歩前に出た。
銃のグリップを、そのまま潰してしまいそうなほど強く握りしめる。
そして銃口を、ヒュアデスに向ける。
「……廃棄処分してやるよ、汚物野郎」
「ほざけ、雑魚が」
罵詈雑言をかけ合い、同時に弾かれたように駆け出した。
明確な殺意を持って。
死ね、汚物野郎。




