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《Last World Online》  作者: 黒藤紫音
5章:彼の”秘密”
36/45

『助けて』

更新出来る時にしておくことにしました。

ゴーゴー。


「おのれ…………」


 捨て台詞を吐いて、「ニーズヘッグ」は消えて行った。

 成功SEが鳴り、アイテムがドロップした。


「お、あったあった」


 ドロップアイテムの中から、目当てのアイテムを見つける。

 「王蛇の牙」。銃を強化するのに必要なレアアイテムだ。


「それですか?」

「うん、そうだよ」


 ストレージに放り込む前に、ツキノに見せる。

 白く、巨大な牙だ。


「つーか、なんでそれが銃の素材になるのかわかんねぇわ……」

「知るかよ」


 いや、その疑問は俺も抱いたことはあるが。

 そういうのはゲームシステムに訊いてくれ。


「ほら、さっさと戻りましょ。ここじめじめしてるし」

「…………同感だな」


 スズとカノがそう言う。

 まあ、確かに長居するような場所でもないし、さっさと銃を強化して新武器を作りたい。

 店で売ってる銃じゃどうにもしっくり来なかったし。


「それじゃあ、戻るか」


 シズのその言葉に、全員が頷いた。



「お、戻ってきたな」

「シレンさん」


 いつぞやのカフェ。

 クエスト成功を報告した後、一度皆と別れて、俺はハシバ鍛冶店に向かうことにしたのだが、大人数でぞろぞろ行くのも向こうに迷惑だと思って、ツキノたちにはカフェで待っていてもらうことにした。

 そして武器を新調し、俺はカフェに戻ってきた。


「武器替えられたのー?」

「じゃなきゃ戻ってくるかい」


 ツキノ、ワタル、スズ、カノ、シズの五人が座っているテーブル席。

 その中の空いている一つに座り、ストレージから新調した武器を出した。

 ゴト、という音がする。


「《ファングマグ》。片手銃(ハンドガン)だ」

「おー、ステータスも高そうじゃんか」

「そうじゃないと意味ないっての」


 そんなことを話しつつ、NPCの店員にコーヒーを注文する。

 届くのを待ちながら、雑談に興じた。


「武器ねぇ。私も新調しようかしら」

「…………今のままでも充分じゃないのか?」

「そうだけどさー……。あ、ツキノちゃんはしないの?」

「私ですか? 私はつい最近替えましたから」

「そうなの?」


 そうなんだよ。

 思い返すと、あれがきっかけだったんだよなぁ、ツキノとこうして一緒にいるようになったの。


「武器を新調しようと思って意気揚々とギルドを出たら、素材が足りないことに気付いたんだよな?」

「シ、シレンさん! 言わないでください!」

「ごめんごめん。でもあんなドジは中々忘れられないよ」

「シレンさん!」

「あははは」


 顔を真っ赤にして怒るツキノが可愛い。

 こらえられなくて笑ってしまうと、もっとツキノが顔を赤くする。

 それを見てもっと笑っちゃうんだから、悪循環だよなぁ。


「つーか、なんでシレンがそんなこと知ってるわけ?」

「ツキノとパーティ組むようになったきっかけだし」

「うう、もっと他のきっかけが良かったです……」


 ツキノが俯いて、ミルクティーを飲んでいた。

 ちょっとやりすぎたかな、と思わないでもなかったけど、そうしている間にコーヒーが届いた。


「ごめんね」

「いえ、いいです、もう……」


 謝ると、ツキノは身体を小さくしてしまった。

 うん、やりすぎた。反省。


「腹立つわぁ……」

「まあそれはともかくさ、軽い宴会やらねぇ? 探せば騒げる食い物屋とかあるだろ」

「…………調べておく」

「ツキノはどうするんだ?」

「はい?」


 シズの言葉の意味がわからなかったのか、顔を上げるツキノ。

 コーヒーをすすりつつ、その光景を傍観する。


「宴会に参加するにせよしないにせよ、一度「光聖騎士団」に連絡入れておいたほうがいいんじゃないか?」

「あ、そうですね……」


 また俯くツキノ。

 でも、これはたぶん、さっきのとは意味が違う。

 崩落した地下で聞いたあの話。

 心の中に溜まっていた気持ちを、はっきりと口にしたことで、余計に戻りづらくなっているんじゃないだろうか。


「えー、いいじゃない。あんな男がいるところになんか戻らなくてもさー」

「ヒュアデスか?」

「そうよ。あんな男のところになんか戻らなくていいわ!」

「…………あいつ、一応幹部だぞ?」

「知るか!」


 スズならそう言うと思った。

 というか、ウェリアスもよくあんな男を幹部にしたな……。


「もういっそ脱退して「スリズィエ」に入らない? ツキノちゃんなら大歓迎!」

「引き抜こうとすんなしれっと」

「やめておいたほうがいいぞツキノちゃん。スズに付き合ったら百合の世界にひきずりこまれるから」

「あはは……」


 苦笑して言葉を濁すツキノ。

 シズとスズが舌戦を繰り広げているのを横目に、ツキノがこっちを向いた。


「シレンさんは……やっぱり、ギルドに入るつもりはないんですか?」

「ん、ああ……」


 ツキノに言われて考える。

 あの時、ツキノは俺を抱きしめてくれた。

 そして彼女の言葉で、俺は少しだけ救われた。

 …………変われるのかもしれない。


「そうだな……考えてみるよ。「光聖騎士団」でもいいかもな、ツキノがいるなら」

「シレンさん……」


 俺の言葉に、ツキノは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに柔らかく微笑んだ。

 その笑顔に、俺も笑い返す。


「……シレン」


 ワタルが意外そうな、けれどどこか嬉しそうな顔をしていた。

 シズやスズたちも、似たような表情だった。

 ……その生温かい視線やめろ阿呆。


「ならいっそ、二人でギルド作ったらどうだ?」

「は?」

「え?」


 俺とツキノが、シズのほうを向く。

 シズがにやりと笑っていた。


「ギルドは二人いれば作れたはずだぞ?」

「いや、それは知ってるけど……」


 だからってなんでギルド作るって話になるんだよ。


「えー、何それずるい! 私も入るー!」

「…………お前はもうギルドに入っているだろう。俺たちもそうだ」

「つーかツキノも入ってるだろが」


 ギルドの掛け持ちはシステム上不可能だ。

 だから既にどこかのギルドに入っているのなら、別のギルドには入れない。

 入りたいならそのギルドを脱退するしかない。


「まあ冗談だが」

「おいこらシズ」

「けどよ、シレン。お前がどこかのギルドに入るのはいいことだと思うぜ」


 ワタルの眼が、まっすぐ俺を見る。

 俺は姿勢を正して、その視線を受けた。


「お前の昔は俺も知ってる。「赤の団」に一緒にいたんだしよ。お前がギルドにまた入るのならそれは絶対いいことだ」

「……ああ」

「お前が行くところに俺はついていく。そこが地獄だろうがなんだろうがな」

「……サンキュ」


 こいつなら本当に一緒に地獄に落ちかねないな。

 けど、一緒に来てくれるのはありがたい。


「シレンさんたちと一緒のギルド、ですか……」

「あれ、ツキノちゃん、ひょっとして興味あり?」

「はい」


 頷くツキノ。

 ……喜ぶべきなのか止めるべきなのか。


「正直、今のギルドの空気に着いていけないところはあるんです。脱退とまでは行かなくても、一度少し離れて、色々考えてみたいんです」

「一時脱退ってことか?」

「に、近いものだと思います」


 ふむ、とコーヒーカップを置いて、腕を組む。

 ギルドの空気は明らかに変わっている。それは俺もわかる。けどだからといって安易にやめていいわけがない。だから一度離れて考える。そのための一時脱退か。


「俺がギルド作るかどうかとかはさておき、確かに考え直すのはいいことかもね。ウェリアスなら一時脱退も認めてくれるだろうし」

「まー、あんな男が幹部のギルドにいたくないわよねぇ……」

「それは関係ある……のか?」

「まあ、とりあえず」


 パンパンと手を叩き、シズが話をまとめる。


「ギルドを作る云々は置いておくとして、ツキノは一時脱退しようと思ってるんだな?」

「はい。団長とも一度相談しておきたいです」

「宴会には?」

「参加したいです」

「なら、どちらにしても一度ギルド本部に戻る必要があるな」

「そうですね」


 「光聖騎士団」の本部。

 確か結構な大きさだったよなぁ……。


「…………なら、一度解散するか。俺たちも色々準備が必要だろうしな」

「あー、そうね。ギルドのほうに一度連絡入れておくわ」

「店はカノが探してくれるんだろ?」

「…………今すぐにとはいかない。それも含め、少し時間をくれ」

「了解」

「わかった」


 俺も含め、皆解散には賛成のようだった。

 なら、と俺は皆を見渡して言う。


「ここで一度解散。ギルドに入ってる奴は連絡。カノは店を探しておいてくれ。待ち合わせはこのカフェな」

「はい」

「はいよー」

「了解!」

「…………ああ」

「おう」


 皆頷き、テーブルから立ち上がった。



「……ツキノ遅いな」


 一度解散してから一時間近く。

 集合してからもう30分は経とうとしている。


「何かあったのかしら?」

「ナンパされてるんじゃねぇの?」

「あんたみたいな軽薄な人間にね」


 確かにツキノは可愛いからそういう危険もあるだろうけど……それもどうなんだろうか。


「…………予約なんて必要ないから構わないといえば構わないが、遅いな」

「確かにそうだな……ツキノってルーズなタイプには見えないし」


 それには同感だ。

 クエストとかで待ち合わせしたこともあったけど、たいていツキノのほうが先に着いてるし。


「シレン、連絡は?」

「ないなぁ……」


 メッセージボックスを見るが、新しいメッセージはない。ボックスを閉じる。

 本当に何があったんだ?


「ギルド本部に戻ったんだよな?」

「一時脱退の件で揉めてるとか?」

「それにしたって連絡の一つくらいあるんじゃね?」

「というか、長引くのならまた後日とかになるんじゃないの?」

「あー……」


 ウェリアスの性格考えたらそうなりそうである。

 というか、とりあえずそういう意思があることを伝えるだけで充分だと思う。

 待ち合わせしてるんだからそもそもそんなに長く引き止めないだろうし。


「ちょっとツキノに連絡入れてみる」

「おう」


 そして、改めてメッセージウインドウを呼び出す。

 呼びだしたのと同時に、新着メッセージが届いた。

 差出人はツキノだ。


「ツキノからだ」

「お、ようやく連絡?」

「たぶんな」


 話しながら、メッセージを開く。

 そして、そこに書かれていたメッセージに、俺は思考停止した。

 ツキノのメッセージは、ただ一言だけ。


『助けて』


 ぎし、と何かが軋んだ。


あと一章終わったらひとまず一区切りです。



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