シークレットスキル
秘密。
抱き合ってたまま、ただ無言。
お互いの身体の暖かさを感じ、ただそれに身を任せる、安らかな時間。
その静寂の時間を無粋にも破ったのは、俺だった。
鍛え上げた索敵スキルが反応し、俺はツキノを抱きしめている右腕を彼女の身体から離し、右の腰に収めているホルスターから銃を抜き、振り向いた。
振り向いたそこには、モンスターが出現していた。
「グレイ・ゴーレム」。面倒な相手だ。
「チッ」
思わず舌打ちする。
ツキノもMobの出現に気付き、俺から身体を離し、腰から白剣を抜いた。
もう少し抱きしめていたかった、とまだツキノの暖かさが残る腕の主張は無視する。
「……「グレイ・ゴーレム」……ちょっとまずいですね」
「そうだな」
「グレイ・ゴーレム」など、石や鉄でできているモンスターは、総じてDEFが高く、硬い。半端な攻撃ではガードされる。
ガードを砕き、隙を作るには、ワタルの両手大剣やシズの篭手での重攻撃を叩き込むのがもっとも楽で有効だ。
しかし、ツキノの装備は片手直剣。能力構成のバランスはいいが、言い換えれば決定力に欠ける武器でもあり、ガードを砕くような重攻撃は期待できない。
俺の片手銃は、言うまでもないだろう。いや、砕く方法がないわけではないが、少々面倒くさい。それに少し躊躇う。……が、まあ、別にいいか。
ちら、とツキノを見る。この子なら、大丈夫だろう。
「ツキノ。俺が隙を作る。合図するから、その瞬間に斬り込んで」
「え、でも……」
「大丈夫」
安心させるために、にこ、と笑った顔を見せる。
そして前を向いて、「グレイ・ゴーレム」に突っ込んだ。
「グレイ・ゴーレム」は腕を振り上げ、俺に攻撃しようとする。
その振り上げた一瞬の隙を突く。
俺は一旦止まり、右の《クロス・イーグル》のトリガーを引き、二発の弾丸を「グレイ・ゴーレム」の肩に向かって撃つ。寸分の狂いなく、同じ弾道で。
そして、二発目の銃弾を放つためにトリガーに指をかけた瞬間に、普段は隠している左のホルスターから回転式銃の《ブルーマグナム》を抜く。
二発の銃弾が、モンスターの身体に着弾する前に、《ブルーマグナム》のトリガーを引き、《ツイン・バレット》を放つ。
《クロス・イーグル》で放った二発の弾丸と、《ブルーマグナム》で放った《ツイン・バレット》は、まったく同じ弾道を通って、「グレイ・ゴーレム」の肩に着弾する。
一発目の衝撃が通る前に二発目の弾丸が着弾し、最後に三発目の弾丸が着弾する。
一発目の銃弾と二発目の銃弾の威力が重なり、更にそこを三発目の弾丸が撃ち抜いた。
一点突破。重なり続けた衝撃は、一気に爆発し、「グレイ・ゴーレム」の肩を撃ち抜いた。
《ヘヴィ・ショット》。仕様外スキルであり、本来、大型銃タイプでしかできない重攻撃だ。
威力の重さに、「グレイ・ゴーレム」の攻撃が中断される。それは、完全な隙だった。
「ツキノ!」
右手の人差し指でくい、と合図をする。
俺の合図を見て、ツキノは《ホワイトカメリア》を抜いて、「グレイ・ゴーレム」に斬りかかった。
「《ルーン・フルーレ》!」
片手直剣の上位剣技、《ルーン・フルーレ》が炸裂する。
月光のような美しい光を放ちつつ、剣が水平、斬り上げ、そして斬り下ろしと、三度「グレイ・ゴーレム」を斬る。
すべてクリーンヒットして、「グレイ・ゴーレム」のHPバーが、ぐんと削られる。
「ゴオオオ!!」
石造りの巨大人形が叫ぶ。
ツキノのスキルがヒットしている間に、俺のディレイも回復する。
両手の銃を構えて乱射する。《ヘヴィ・ショット》をぶち込んでもいいのだが、あれはまったく同じ箇所に撃ちこむので、少し集中しなければならない。それは面倒くさい。
なので、被ダメージの大きい、またクリティカルの出やすい顔面を狙って撃ちまくる。
鍛え上げたTECのおかげで、面白いようにヒットする。
と、少し調子に乗っていると、両腕を使ってガードし始めた。
流石にああなると、普通の銃弾では通らない。なら、もう一度。
「ツキノ! もう一回いくよ!」
「はい!」
ディレイから回復したツキノがバックステップで後退したのを目の端で捉えながら、俺はもう一度、《ヘヴィ・ショット》を放つ。
狙いはガードしている腕と腕の間だ。
《クロス・イーグル》の二連射の後、同箇所に《ブルーマグナム》の《ツイン・バレット》を撃ちこむ。
重なった銃弾の衝撃が、ガードを破った。
「――ふっ!」
できた隙に、ツキノがまた斬り込んでいった。
剣技のエフェクト光が、神殿の通路に煌めいた。
○
「――それで、シレンさん」
「うん?」
「グレイ・ゴーレム」が破裂音をたてながら消滅していくのを見届けながら、ツキノは左腰の鞘に剣を戻す。
戻しながらも、視線は俺を見ていた。じとー、とした視線だった。
まるで無言で浮気を責められている旦那のような心境を味わい、俺は早々に両手を上げて降参した。
「……訊きたいことがあるのならどうぞ?」
「では、遠慮なく。……どうして、二つの銃を同時に装備できるんですか?」
うん。やっぱそれか。
まあ見られてる以上、隠すつもりもない。そもそも、別に知られてもいいと思ったから使ったんだし。
「《双銃》。シークレットスキルだよ」
通常、各種スキルというのは、そのスキルを使いこむ――つまりは、使い続けていくことで、発展していく。わかりやすい例を出すと、《スラッシュ》――剣系スキルの初歩の初歩――を一定回数使いこむと、《ハイ・スラッシュ》が使えるようになる。もちろん武器に限った話ではなく、裁縫やら鍛冶やら釣りやら、まああげていけばキリがないが、とにかく、どんなスキルも、使い続けていくことで、強化され、発展していく。
スキルは一定回数使い続けると発展する。これは言い換えると、「一定回数使う」という「条件」を満たすことで、発展したスキルが使えるようになる、ということだ。
その「条件」というのは、正直な話、情報屋プレイヤーたちの調査などで、わかっているものが多い。
このスキルはこの回数使って、ステータスをこう上げればいい、などだ。
発展したスキルを身につけているプレイヤーたちも、感覚的にその「条件」を掴んでいることが多い。
が、このシークレットスキルというのは、秘密の名の通り、「条件」がわかっていないのだ。いや、この言い方では語弊があるか。
使えるようにする「条件」自体は単純だ。シークレットクエストと呼ばれるクエストを受け、クリアすることで使えるようになる。しかし、そのシークレットクエストを発生させるための「条件」がわかっていない、というのが正確だ。
俺も、この《双銃》というシークレットスキルを身につけるためにシークレットクエストを受け、クリアしたのだが、クリアして数年経った今でも、何故クエストを受けられたのか、その「条件」が何だったのか、わかっていない。
「シークレットスキル、ですか。……団長以外で、初めて見ました」
ツキノはほう、と息を吐いて、俺の左右の腰にあるホルスターを見ている。
あまり凝視されると恥ずかしいんだが……まあ、それはともかく。
「まあ、ウェリアスのシークレットスキルは有名だからなぁ。それで「光聖騎士団」は有名になったようなもんだし」
シークレットスキルは、総じて強力なものが多い。
これを身につけているというだけで、人から注目を集め、有名になれる。
が、同時に嫉妬や妬みも受ける。
ネットゲーマーの中には、「見栄を張る」人間も結構いる。
自分がどれだけ高レベルか、どれだけレアアイテムを装備しているか、なんてことに血眼になるのだ。
そしてそういう連中は、総じて嫉妬深い。
自分が持っていないレアスキルやレアアイテムを持っている人間に対して、それはそれは深い嫉妬や妬み嫉みを持つのだ。
そういう連中と関わると非常に疲れるし、たまに実害を被ったりするので、俺は基本的にシークレットスキルを人前では使わない。
今回使ったのは、ツキノを信頼しているからだ。まあ、《双銃》はよく使うスキルでもあるので、今更だというのも理由の一つだが。
「使ってよかったんですか?」
「あの状況だと、使ったほうが楽だったし。片手だけで《ヘヴィ・ショット》は撃てなくもないけど、成功確率下がるし」
集中する時間も長くなるし。あれはしんどい。
「……ま、それはともかく。行こうか」
「あ、はい」
俺が歩き出すと、ツキノもその後を追いかけて歩き始めた。
ここはどこで、どう向かえば目的地に着くのか、そんなことを歩きながら考えた。
あと一話…二話くらいでこの章終わる…かな?




