落ちる
さてはて。
何やら色々あったが、とりあえずティアシティから出た俺たちは、クリスタルにコードを入力し、クロス神殿にワープした。
神殿というだけあって、神聖なものを感じる。石造りで、それっぽい雰囲気が出ている。
「……じゃ、行くか」
「おう」
全員が各々の武器をちゃんと装備しているのを確認して、俺はダンジョンへの扉を開いた。
○
唐突だが、LWOでのワンパーティの上限人数は8人だ。
俺たちはツキノを入れても6人。つまりフルではない。
パーティプレイヤー数=戦闘の強さというわけではないが、それでもやはりパーティを組むのなら人数が多いに越したことはない。人数が多いということはそれだけ全滅しにくいということで、本来ならよほどの理由がない限りはパーティはフルの8人にしておくべきなのだ。
俺たちが今回フルにしていない理由は二つ。
まず単純に、今回のクエストは中級街で受けたことからわかるように中級レベルのクエストだ。
だが俺たちはツキノとスズを除いた全員が160を超えている。スズだって150台だ。これほどのレベルなら中級レベルのクエストは楽……とは言わないが、まず苦もなくこなせる。まだ120台のツキノがいたとしても、だ。
つまり、無理に人数を増やす必要はないのだ。
このクエストで俺が皆に応援を頼んだのは、単に銃士はソロに向かないので色々面倒だからというだけだ。
二つ目の理由は、俺たちが少々異端だからである。
全員同じギルドに入っているならともかく、バラバラのギルドに入っているプレイヤー同士がパーティを組んで活動する、というのはLWO内では珍しいのである。
『ギルドの厄介事には他のギルドは関わらない』。これが暗黙の了解だ。
だというのに、他のプレイヤーなどパーティに誘えるわけもない。
そういうわけで、俺たちは6人でクエストを受けた。さて、俺にとっては久しぶりの大人数パーティ戦だ。
○
「こっち来たぞ!」
「わかってる!」
そう言って、ワタルがスキルを発動する。
単発重両手剣スキル《デストロイ》。
破壊を意味する言葉が表すように、ワタルの放ったその一撃は、出現したモンスター「グレイ・ゴーレム」のHPを一撃で半分以上削り取った。結構硬いはずなんだけどなこいつ。
神殿だからか、石でできたようなモンスターが多く出現している。もちろんそいつらだけじゃないが。
パーティ人数が多いからか、出現するMobの数が、ソロやペアの時より多い。
いつぞやのクエストで出た「マッド・ドール」も出てきている。面倒な。
「――――《クロス・サーキュラー》」
カノの十字槍の攻撃スキル《クロス・サーキュラー》。
自分を中心に、円を描くように槍を振るう。周囲にいるモンスターにヒットした。いわゆる範囲攻撃スキルだ。
Mobが技の威力に吹っ飛ぶ。
「《グランド・ウェイブ》!」
そこをスズの波状攻撃、《グランド・ウェイブ》がなぎ倒していく。
波が襲うような連続攻撃に、Mobたちは次々にHPを0にし消滅していく。
さて、ワタルがさっき攻撃をした《グレイ・ゴーレム》以外に、もう一体がいる。
が、問題ないだろう。その相手をしているのは、シズだ。
「《ダブル・ブロー》!」
まず、左の拳で相手の防御を砕き。右の拳で崩れた防御の隙をついた。
《グレイ・ゴーレム》のHPが、グンと削られる。奴はまだ硬直している。
――――逃がさない。
「《ストーム・バレット》」
俺はトリガーを引き、銃弾を放つ。嵐のように激しく回転している銃弾は、《グレイ・ゴーレム》の身体を撃ち抜いた。クリティカル。
「っふ!」
ツキノの《ツイン・ホリゾンタル》が入る。水平二連斬撃。
攻撃が決まった後、ツキノはシズと交代し、そのまま《ダブル・ブロー》が入る。
HPバーが削られ、0になる。《グレイ・ゴーレム》はパンという破裂音の後消滅した。次はもう一体の《グレイ・ゴーレム》だ。
○
「あー、爽快だわ」
両手大剣をぶん、と振り回して背負い直して、ワタルがそう言った。
「確かにな。このレベル相手ならそこまで苦戦しないし」
シズが笑いながらそう言った。
このクロス神殿のクエストは中級レベルではそれなりの難易度なのだが、流石にアベレージ150を超えている俺たちからすれば楽とまでは言わないが苦戦するほどでもない。
「ツキノのレベルも上がったしな」
「はい。ありがとうございます」
難易度設定もあって、Mobの経験値もそれなりにあるので、ツキノのレベルもさっき一つ上がっていた。
それだけでも、このクエストに参加して良かったと思う。……いや、俺の目的はクエストモンスターなんだけどさ。
「まあ、さくさく進もうか」
「…………ああ。ただ、気をつけろよ」
俺たちは歩きながらカノの言葉に耳を傾ける。
先頭はツキノ。俺はその数歩後ろを歩き、その後ろがワタルやシズ、スズだ。一番後ろがカノ。
「何をだ?」
「…………このダンジョン、トラップがある」
「どんな?」
スズがカノを見ながら訊いた。俺も気になり後ろを振り向く。
「…………崩落するんだと」
「崩落?」
「…………ああ。このダンジョン、地下に進んでいるだろう?」
カノの言うとおり、俺たちは神殿を上に進むのではなく、下に進んでいる。地下神殿というやつだ。
「…………ある意味、ショートカットに近いが、どこまで落ちるかわからないし、どこに落ちるかもわからない。気をつけておいたほうがいいぞ」
確かにあんまりひっかかりたくないトラップだな。
「まあその情報はありがたいけどさ、なんかそれ前フリみたいだぜ?」
「前フリ、か……。もしそうなら、誰が落ちるんだろうな」
ワタルとシズがそう話しているのを聞いて、俺は苦笑した。
「やめてよねー、本当に落ちそうじゃない」
「あははは……」
スズの言葉にツキノも苦笑している。その会話も前フリっぽいからやめてくれ。
――――なんて思っていると、ずごご、という音と振動が俺たちを襲った。
「うお……!?」
思わず体勢を崩しそうになった次の瞬間、ズン、という大きな揺れの後、俺の数歩前の床が崩れた。
俺や皆は崩壊に巻き込まれなかったが、俺の数歩先を歩いていたツキノはそれに巻き込まれてしまった。
「きゃ……!?」
ツキノが落ちる。崩れた床と一緒に。
「――――ツキノ!!」
それを見た瞬間、俺は飛び出していた。必死に手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。けれどその時には、俺の足も崩れた床の上だった。
「シレン!」
ワタルが伸ばした手を掴もうとしたが、ほんの、けれど絶対的な数センチの差で掴めなかった。
落ちていく。
どんどん遠ざかっていくワタルたちの姿を見て、せめてツキノは護ろうと、空中で彼女の身体を抱き寄せた。




