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《Last World Online》  作者: 黒藤紫音
1章:出会い
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「光聖騎士団」

 街中を歩き、俺は行きつけの店についた。

 このLWOでは、モンスターを狩ったりする一般プレイヤーの他にも、商売をする商人プレイヤー、情報を扱う情報屋プレイヤーなども存在する。

が、俺の行きつけの店は、商人プレイヤーが経営する店ではなく、NPCが経営する店だ。

 商人プレイヤー相手だと、下手したら二束三文でアイテムを買い叩かれることもあるので、レアアイテム以外の普通のアイテムは、ここで売るようにしている。


「いらっしゃいませー!」


 俺が店に入ると、NPCがそう言って迎えた。

 NPCは、あらかじめGMに設定された行動しか取らない。

 愛想良く迎えたこの商人NPCも、所詮はデータだと思うと、少々空しくなる。


「御用件は?」

「売りだ」


 そう言って、俺は不要な素材アイテムをアイテムストレージから表示し、NPCに見せる。


「これらだと……12300オルになります。よろしいですか?」

「オッケー。全部売る」

「ありがとうございました!」


 わずか数秒で終わってしまった。

 俺のオル欄の数字が増え、逆にアイテムストレージからは、不要なアイテムが全部無くなっていた。

スッキリした。


「じゃあな」

「またのお越しを!」


 用件も済んだので、長々とは居座らない。さっさと店から出ていく。

 店を出て、街中を見渡す。

 さて、これからどうしようか……と悩んでいると、視界の端に、白い服の集団が見えた。

 ……もう少し、店で時間を潰していた方が良かったかもしれない。

 そう思ったが、後悔先に立たず。

 今更また店に入るのも面倒で、俺は、俺の姿が彼らの目に留まらないことを祈った。


「…………」


 彼らの歩みは、まるで行進だ。

 王が我が道を進むように、先頭にいる人物の歩みには、迷いがない。

 他の一般プレイヤーたちも、歩みを止めて、その集団を見る。

 ザッ、ザッ、ザッ、と集団が規律を守って行進している。

 リアルではまず見られない、しかし、この世界の、この街に限っては、あまり珍しくもない光景だ。

 そしてその白い集団は、迷いなく進み続け、俺の目の前まで来た。

 そのまま通り過ぎてくれれば良かったのだが、俺の祈りは届かなかった。

 今まで、王のごとく歩んでいた先頭の人物は、足を止め、俺をまっすぐに見据えた。


「やあ、シレン君」

「どうも、ウェリアス」


 俺のおざなりな対応が気に食わなかったのか、傍らにいた男は激昂しかけるが、彼は手でそれを制した。

 彼ウェリアスは、この白い集団の団長を務めている。

 このLWOでその名を知らぬ者はないだろうと言われているほどのギルド「光聖騎士団」の団長だ。

 「光聖騎士団」は間違いなく、このLWOの中でも十本の指に入るであろう巨大ギルドであり、ウェリアスは100人を超えるギルドメンバーを束ねている存在だ。

 言ってしまえば超有名人。

 アバターの容姿と落ち着いたその雰囲気から、どう考えても俺より年上だし本来なら敬語とさん付けをするべきなのだが、彼自身にやめてくれと言われた。ならば俺のこともシレンと呼び捨てにしてほしいのだが、それは聞き入られなかった。

 まあとにかく、そんな有名人な彼としがないソロプレイヤーの俺とでは接点などあろうはずもない。

 ……だと言うのに。


「どうかね、シレン君。我が「光聖騎士団」に入る気になってくれたかい?」


 そう。彼は何故か、しがないソロプレイヤーである俺を自分のギルドに誘ってくれている。

 何度か疑い、詐欺ではないのかと本人に言ったこともあるが、苦笑と共に否定された。まあ、事実だったとしても肯定するわけないけど。

 その申し出自体はありがたい、ありがたいのだが……。


「申し訳ありませんが、お断りします」


 俺の意見は、いつもこれだ。

 ギルドには、入らない。


「そうか……」

「申し出自体はありがたいです。でも、俺なんかが入っても、邪魔になるだけでしょう」

「そんなことはない。君のような優秀な銃士(ガンナー)が入ってくれれば、とてもありがたいよ」


 そう言ってくれる、ウェリアスの言葉に嘘はないだろう。

 しかし、ギルドに入るということは、同時に色々な面倒もついてくる。

 ここまで巨大なギルドなど、相当だろう。


「とにかく――――、すみません」

「いや、構わないよ。無理強いさせるつもりもない」


 ウェリアスは、そう言って困ったような顔をしていた。

 ギルドに入ってはいなくても、色々世話になっている彼の頼みを断るのは心苦しい。


「君の気が向いたら、いつでも来たまえ。我が「光聖騎士団」は、君を歓迎しよう」

「ありがとうございます」


 そう言って頭を下げると、ウェリアスは微笑を浮かべ、腕をあげて、自身が率いていた「光聖騎士団」の面々に合図をした。

 それを受け、「光聖騎士団」は行進を再開した。

 ……何人かのメンバーの、責めるような視線が突き刺さる。

 目を逸らすことで、見ないフリをした。

 しばらくすると、彼らの姿は遠ざかり、見えなくなっていった。

 そうなると、立ち止まっていたプレイヤーたちも動き出した。


「……相変わらずすげぇなぁ……」


 プレイヤーの誰かがこぼしたであろう呟きを、耳が拾った。

 確かにその言葉通り、あの行進はすごい。

 「光聖騎士団」などのギルドは、目的の同じプレイヤーたちが集まった集団である。

 だが、目的は同じといっても、ほとんどのプレイヤーたちは各々自由に行動している。

 そんな中、全員ではないにしろ、あそこまで規律を守って行動している姿は、いっそ壮観だ。

 改めて、ウェリアスのカリスマを思い知る。


「さて、この後どうするかな……」


 「光聖騎士団」が行進していた理由は、おそらくクエストか、もしくは何かの作戦だろう。

 「光聖騎士団」は、規律のためのギルドだ。

 恐喝などの犯罪行為や問題行為を防止し、一般プレイヤーが快適にLWOをプレイするための環境を作ることが、彼らの目的である。

 規律を守り、そのために行動する。

 彼らはまさしく、“騎士”だ。


「……クエストにでも行くか」


 「光聖騎士団」の崇高さに感心しながら、俺はクエストが張られている、街の広場に向かって、歩みを進めた。




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