「どういたしまして、お姫様」
二話連続投稿です。
「……んだ、あいつ」
ワタルがぽつりとそう言った。
それを聞いて、カノが口を開く。
「…………ヒュアデス。一年ほど前に、「光聖騎士団」に所属したらしい。ただ素行に問題がある」
「でしょうね。態度も最悪な男だったし」
スズがそう毒づく。
かなり御立腹のようだ。
「…………「光聖騎士団」は、PK防止のためにフィールドを定期的に巡回してるが、その巡回中に発見したPKに対して、奴は過剰な攻撃を行ってる」
「過剰?」
「…………元々、「光聖騎士団」はPK防止のために戦闘を行うことはあるが、それはあくまで「注意」のレベルだ。けど、奴のはもはや「暴行」の域だ。PK以上に凶悪なプレイヤーだ」
カノはそう言い切った。
まあ、確かにあんまりいい印象を抱く奴じゃなかったが。
「……ツキノ、大丈夫か?」
俺の服の裾を掴んみながら、俯いているツキノに、できるだけ優しく声をかける。
ツキノは、こくん、と頷いたが、まだ裾から手は離さない。
「……大丈夫です。……ヒュアデスさんの巡回に一度立ち会ったことがあるんですけど、その時の彼は……カノさんの言うとおり、「暴行」の域でした」
「……だから、怖い?」
「……少しだけ」
ぎゅっ、と俺の服の裾を、強く握りしめる。
「……彼が所属してから――――いえ、ひょっとしたら、その前からかもしれないですけど――――、ギルドの空気が、変わってしまったんです。言葉では上手く言えないですけど…何かが、おかしくなって」
「……うん」
そう頷くことしかできなかった。
どことなく、暗くなりそうな空気が漂う。
「……ツキノちゃん!」
スズが、明るい声で言った。
暗くなりそうだった空気が壊れる。
「ツキノちゃん、あの男に啖呵切った時、すごく格好よかったわよ」
「……そう、ですか?」
「うん!」
スズがそう強く頷き、ワタルも話に入ってくる。
「ホントにな。俺もキレそうだったけど、ツキノちゃんが啖呵切ったから、タイミング逃したし」
ワタルがけらけら笑いながら言う。
……お前もかよ。
「同感だな」
「…………ああ」
シズの言葉に、カノが同意する。
皆の言葉に戸惑ったツキノは、助けを求めるように俺を上目遣いで見た。
俺は、ぽん、とツキノの頭に手を置いて、撫でる。
「怒ってくれて、ありがとうな、ツキノ。嬉しかったよ」
心の底からそう思う。
……あの時、ツキノから出るとは思わなかった声に驚いたのと同時に、怒ってくれたことが嬉しかった。
ツキノは、一瞬ぽかんとして。
「……そうですか。それなら……良かったです」
にこ、と笑った。
……うん。
「やっぱり、ツキノは笑ってるほうが可愛いよ」
「かわ……!?」
あ、赤くなった。
「あんた何口説いてんのよ!」
ゲシィ、とスズの強い蹴りが脇腹に入った。
うぐお……!
「てめ、何しやがる!いくら仮想現実って言っても痛ぇんだぞ!」
いや、ホントに結構痛い。
「あははは。……ま、それはそれとして、クエスト行こうぜ?」
「…………そうだな」
シズの言葉に、目的を思い出した。
そうだよ、クエスト行くんだよ俺たち。
「そういやそうね。あんな胸糞悪い男のことなんて忘れて、行きましょうか」
「だなー」
言いながら、皆止まっていた足を進め始めた。
俺も遅れるわけには行かない、と歩き出そうとして、ツキノが俺の服の裾を握っているのを思い出した。
「ツキノ、手、離してくれるか?」
「あ、はい」
ツキノは素直に手を離した。
「ごめんなさい、掴んじゃって」
「いいよ、それくらい」
ぷらぷらと手を振る。
別に、これくらい何でもない。
「それでツキノが少しでも怖くなくなるなら、いくらでも掴んでて」
「あぅ……」
そう言って、歩き出す。
俺の後ろを、ツキノも歩き出した。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして、お姫様」
俺が笑いながらそう言うと、ツキノもつられて笑った。
次話はアクション入ります。




