この街にいる理由
「……お」
ティアシティ、クエスト掲示板。
そこで、俺はようやく目当てのクエストを見つけた。
いや、見つけたというか、クエストフラグを立てられたというか、まあそれはともかく。
「……一人じゃちょっときつそうだし、あいつら呼ぶか」
言いながら、俺はウインドウを操作し、リストを表示する。
そのリストの中に、ツキノの名前を見つけた。
いや登録したんだから、あって当然なんだけど。
「……ツキノも、呼ぼうかな」
どうしてそう思ったのかわからなかったが、とにもかくにも俺はツキノの名前をクリックし、作成したメッセージを飛ばした。
○
いつぞや、俺とツキノがクエスト帰りに立ち寄ったカフェにて。
俺は、皆を集めていた。
「悪いなお前ら。わざわざ集まってもらって」
「別にいいさ」
「ああ」
俺の言葉に、ワタルが笑いながら言う。
そのワタルの言葉に、シズが同意する。
カノは無言だったが、態度で同意してくれているのがわかる。
「サンキューな。……で、お前は何やってんだァ!」
スズに怒鳴る。
そのスズは、ツキノに抱きついていた。
「ツキノちゃーん! ああもう、ホント可愛いわぁぁぁ!!」
「あ、あの……」
「おい聞いてんのかスズ! ツキノも困ってるだろやめろや!!」
全力ダッシュで二人に近づいて、スズの脳天を叩く。
スパーン、といい音がした。
「いった……何すんのよ!」
「やかましい!」
叫びながらツキノとスズの間に割って入り、無理やり距離を作る。
ホントこいつは……。
「いいじゃないのー、抱きつくくらい」
「はああ……。……せめて今は話聞いてくれ……」
脱力しながらそう言うと、スズはまだ何か言いたげだったが、とりあえずは諦めたらしい。
「ツキノは大丈夫か?」
「は、はい」
後ろにいるツキノにそう訊く。
身長が頭一つ分くらい違うので、どうしても見下ろす形になる。
「まあ、それならいい。……じゃあ、クエストの説明に入っていいか?」
俺が全員を見回しながら言うと、皆頷いた。
後ろにいたツキノは、俺の前に回る。
「クエストは討伐系だ。内容は『クロス神殿に眠る魔獣「ニーズへッグ」を撃破しろ』っての」
「まあ、ソロでやるには面倒なクエストだな」
「だろ?だから手ぇ貸してくれ」
頼む、と頭を下げた。
俺のそんな殊勝な態度に、ワタルたちはけらけらと笑っていた。
「手伝うために来てるんだ、んな畏まるな」
「そうだな。気にするな。持ちつ持たれつ、だ」
なあ、とシズが呼びかけると、スズやカノは無言で頷いていた。
「私は、一度無理を言って、クエストを手伝わせてしまいましたから。私なんかで力になれるのなら、喜んで手伝います」
ツキノは、笑顔でそう言ってくれた。
いい子だなぁ、ホント……。
「……でも、どうしてこのクエストを?」
「ん、ああ。「ニーズへッグ」がドロップするレア素材が目当て。「ニーズへッグ」は、クエストでしか出ないから」
「…………ついでに言うと、そのクエストも掲示板に出ることは少ない。色々面倒なフラグがあるからな」
と、これはカノだ。流石は情報屋。
「この素材が、俺が新調しようと思ってる銃を作るために必要なんだ」
「なるほど……」
「ティアシティに滞在して一ヶ月ちょっと。ようやくだ」
「……そういえば、レベル的に考えて、シレンさんが中級街にいるのはどうしてかな、と思ってたんですが、そういう理由ですか」
「ああ」
ツキノの言葉に、こくんと頷く。
その後、ツキノはワタルたちにも声をかけた。
「皆さんはどうして?」
「俺はシレンに付き合って」
「あたしは女の子目当て。というかツキノちゃん目当て」
「…………ギルドの本部がここにあるんだ」
「俺は純粋に、ティアシティが好きだから」
それぞれの理由を語る。
…他はともかく、スズの理由が阿呆らし過ぎるだろ。いやスズらしいと言えばらしいけど。
「まあ、そういうわけなんだ。だからこのクエスト終わったら、ティアシティからは離れるつもりだ」
「え」
俺が何気なくそう言うと、ツキノはぽかんとしていた。
まるで、言われた言葉が理解できないという風に。
「……ツキノ?」
「あ、いえ。……そうですよね。もう、いる理由が無くなりますもんね…」
言いながら、ツキノは俯いていく。
明らかに暗くなってしまっているツキノに、俺は戸惑ってしまう。
「いや、もう会えなくなるわけじゃないから!」
「わかってます。大丈夫です。……行きましょう」
ツキノはそう言って、歩き始めた。
どんどん前に向かって行く彼女の後ろ姿を見て、俺はどうしたらいいのかわからなかった。
その場に立ちつくしていると、ツキノの後を追いかけて歩き始めたワタルたちが皆、ぽん、と俺の肩を叩いていった。
「ばーか」
スズが言い残していった言葉が、俺の頭にのしかかった。




