「……あの、似合いますか」
ティアシティ、出店街。
件の出店に行って、ツキノは「イビル・バイコーンの両角」を店主に手渡した。
「おお……これは」
「これで、とっておきの品物、見せてくれますか?」
「ああ。もちろん」
店主はそう言うと、自分のアイテムストレージに両角を仕舞った。
「って言っても、今この場で作れるのか?」
「ああ、それは大丈夫さ」
店主はそう言うと、ウインドウを操作して、アイテムストレージからいくつかアイテムを引っ張りだした。
ハンマーやらノミやらetc……が並べられていく。
「武器やら防具作るなら鍛冶の施設がいるけど、装飾品くらいなら道具があれば今この場で作れる」
「準備いいなぁ」
売りのための店開いてるところで作成用の道具用意してるって。アイテムストレージ圧迫するだろうに。
いや、ある意味では商売人として正しいのかもしれないけど。
「さて、じゃあ作るか」
アイテムストレージから今度は素材アイテムを取り出した。
さあ作ろうとハンマーを持った店主の手元を、俺もツキノも、シズもまじまじと見るが、店主はそんな俺たちの様子に、困ったように眉を寄せた。
「一応、企業秘密だから見るのは勘弁してくれないかね?」
「あ、ごめんなさい」
「すみません」
「すみませんでした」
謝りながら、俺たちは視線を逸らした。
相変わらず猥雑としている出店街の様子を眺める。
ガンガン、とおそらく作業の音であろうそれを聞きながら周囲を見ていると、何故か視線が集まっているのを感じた。
少し考えて、その理由に思い至る。
おそらく、ツキノとシズだろう。
ツキノは美少女だし、品の良さが仕草から滲み出ているから、こんな猥雑な空間は似合わない。そうでなくとも彼女は「光聖騎士団」だ。余計に目立つだろうな。
そしてシズの場合は、こいつも美形だからだ。
少なくとも人並み以上に整っていると思う。
美少女と美形の男がいたらそりゃ目立つだろうな。
っつーか、その二人に挟まれてる俺みたいなフツメンはどうすりゃいいんだ。
何あの男、みたいな具合で俺も目立ってないか?
目立つのは嫌いなんだけど……いいことないし。
「できたよ」
なんて考えは、店主の声で途切れた。
声のした方を見る。
「ほら」
そう言う店主の手には、腕輪があった。
店主の「とっておき」という言葉通り、見た目からでも強力そうだ。
ちょっと欲しいかも。
「名前は《ホーンズ・ブレスレット》。お嬢ちゃん、どうぞ」
「あ、はい」
手渡されたブレスレットを、ツキノが受け取る。
ツキノはウインドウを操作し、手にした《ホーンズ・ブレスレット》のパラメータを見る。
「わ、すごいですねこれ……」
パラメータを見て、ツキノは驚いている。
はて、どんな効果があるのやら。
少々気になるが、装備やスキルの詮索はマナー違反である。
代わりに。
「ツキノ、良かったな」
「はい!」
嬉しそうに笑うなぁ、この子。
棚から牡丹餅…はこの場合違うかもしれないけど。
「っつーか、店主さんもいいのか?とっておきなんだろ?」
「構わないさ。わざわざ取ってきてもらったんだしね」
……まあ、本人がそう言うなら何も言うまい。
「ってツキノ。時間は?」
「え? ……あ、そろそろ……」
「じゃあ、この場で解散。それでいいな」
言うが早いか、シズはさっさと歩き始めた。
「少し用事がある。先に行く」
「おう」
「はい。今日はありがとうございました!」
ん、とツキノの言葉に手を振りながら、こちらを見ることもなく、シズの姿は消えて行った。
「じゃあ、シレンさん。私も……」
「ああ、ちょっと待ってくれ、ツキノ」
「はい?」
こちらを見て、きょとんと首を傾げているツキノ。
うん、可愛い、ってそれはもういいから!関係ないから今の状況に!お前頭の中パッパラパーになってないか!?……なんて、自分にツッコミを入れる。
いや、ホント今の状況とは何も関係ないし。
「あの、シレンさん?」
ほらツキノ、なんか困ってるだろ。
向こうは用事もあるんだから、下手に時間取らせるわけにはいかないっての。
「ちょっと、動かないで」
「え?」
アイテムストレージから、あるアイテムを取り出す。
そして、身体を近づけて、手を伸ばすと、ツキノは不安そうに身体をすくめた。
まあそうなるだろうな、と思いながらも、俺は彼女の髪に触れる。
「あの……」
「動かないで。すぐ済むから」
髪に触れて、取りだしたアイテムを付ける。
一歩離れて、彼女の姿を見る。
……うん、やっぱり可愛い。
「シレンさん?」
「ああ、自分じゃ見れないよな」
とはいえ、俺のストレージに手鏡なんて洒落た物はない。必要ないし。
「おお、お嬢ちゃん、可愛いね」
少し悩んでいると、店主がそうツキノに声をかけた。
「可愛い、って」
「ほら、鏡見るかい?」
店主はストレージから手鏡を取り出し、ツキノに手渡した。
受け取ったツキノは、鏡に写った自分の姿を見、そして驚いていた。
「え、これ……」
そう言って、鏡を持った手とは逆の手で、髪に手をやる。
ツキノが手をやったところには、髪飾りがついていた。
リボンをモチーフにしていて、彼女の瞳と同じ碧をしている。
「シレン、さん?」
「ん、さっき買ったんだ。あれ、気に入らなかった?」
「い、いえ!そうじゃなくて……」
顔を赤くして、ツキノは俺を見上げていた。
「ど、どうして……」
「いや、半分乗せられたんだけどな?でも、君に似合いそうだと思ったのも本当」
「……あぅ。いや、でも。その……」
「別に高い物じゃないし、軽い気持ちで受け取って」
「…………」
……。あれ、なんか反応が。
ミスったか?
「いらなかったら捨てても……」
「そうじゃ、ないです」
プレゼント自体は嫌じゃないみたいだ。これはミスじゃなかった。
……じゃあ、何だ?
「シレンさん」
「うん?」
俺が悩んでいると、ツキノが俺の名前を呼んだ。
思わず彼女を見下ろすと、ツキノは顔を赤くしたまま俯いていた。
「……あの、似合いますか、この髪飾り」
「あ、うん。可愛いと思う」
俺が素直な感想を口にすると、ツキノは顔を上げて、にっこりと、すごく幸せそうな笑顔をしていた。
一瞬、見惚れる。
「ありがとうございます」
「あ、ああ。うん。喜んでもらえたのなら何より」
どもった。
見惚れていて、我に返った俺は、顔が熱くなるのを隠すように、ツキノから顔を逸らした。
「それより、ツキノ。ギルドは?」
「あ、そうでした。シレンさん、私もう行きますね」
ぺこ、と頭を下げて、ツキノは歩き始めた。
「それじゃあ、シレンさん。また。髪飾り、ありがとうございました」
「あー……、うん」
手を振るツキノに、俺も振り返しながら、彼女を見送った。
「……青春だね」
店主の言葉に、余計に顔が熱くなった。




